最高のセカンドキス
その後は何とかルカの可愛らしさと言う誘惑にも耐えながら、アルスの準備した『ドキドキ、遊園地デート大作戦』なるプランをこなしていった。
初めは緊張でぎこちない二人の距離をメリーゴーランドでゆったりとした時間を過ごして縮め、距離の近くなったら所をコーヒーカップで二人の楽しい時間を過ごし、ジェットコースターで大声を出して更に近く、そして開放的になる……。
簡単に言うとそんな内容なのだが……他にもいろんな指示が組み込まれているこのプラン、書いた本人の願望が多いに含まれているようで、注釈で細かい動きの注文やこんな言葉を掛けられたら嬉しいなど書いてあり、終いには次は私も連れてってね(ハート)など余計な事も書いてあり、正直大丈夫かと思う代物だった。
しかし、意外にもルカの反応は良く、最初は慣れない服装で恥ずかしいのと、ファーストキスを引きずっているのもあって強張った暗い顔のルカだったが。
他にお客もいない完全貸切だったのもあり、周りの視線を気にしなくなり、メリーゴーランドを乗った後には表情は柔らかいものになって、ジェットコースターを乗り終わった今ではとても楽しそうにしている。
結果的には遊園地をとても満喫してくれたようだった。
流石見た目は化け物みたいなオッサンでも、中身は自称乙女なだけはある。
ここまではアルスのお膳立てのお陰で成功と言っても過言ではないだろう。
だが、ここからは……俺の番だ。
それはアルスも同じ考えのようで、『最後は魔王様がルカレット様を思って自分で考えなくちゃダメよ』っと、渡されたプランの最後に書かれていた。
ルカの……いや、二人の最高のセカンドキスの思い出を作る為にも、ここからは自分が最高だと思う事を考え実行しなくちゃいけない。
その為に用意した場所……。
それはこの観覧車だ!
……いやぁ、まぁ……デートの締めと言ったらこれだと言う位、完全にベタな場所です……はい。
だって前世の記憶もない俺にとって、ルカは生まれて初めて出来た恋人……いや、それも飛び越え、奥さんなんだもの!
なんならデートも生まれて初めての俺には、ベタな場所以外に最適な場所は思い付かないから!!
……そ、その代わり、準備したのはこれだけじゃない。
そう自分に言い訳しつつ、ルカを連れて最後の場所、観覧車へと向かう。
これまでの乗り物で遊園地を満喫したルカは、途中でやった的当ての景品である俺をデフォルメした魔王人形を嬉しそうに抱きしめ横を歩いている。
空は既に暗く、綺麗に飾り付けられたイルミネーションがとても綺麗だ。
贅沢な事に、俺たちの為に作られた遊園地なので、当然の事ながらスタッフとして働く骸骨兵以外誰もいない貸切……いや、まだルナーレとミルカがソフトクリーム片手に何やら頭に遊園地に良くあるキャラ物のカチューシャを付けた満喫した格好でコチラを覗いているな……。
ま、まぁ、変なのもいるが殆どお客もいないので、観覧車も並ぶ事なくすんなり乗る事が出来た。
そうしてゆっくりと動く俺とルカを乗せたゴンドラ。
横に並ぶのが恥ずかしかったのか、顔が見えるからと理由を付けて目の前に座ったルカ。
その横に置かれた魔王人形がどこかドヤ顔をしているように見える。
ただ、俺の足には暖かな温もりを感じる。
俺がデカいのもあるが、ルカもモデルのようにスラッと伸びた長い足により、普通の人なら余裕のある室内でも、足同士が当たるのだ。
……いや、これは、避けられるけどあえてルカが俺に触れるようにしてるんだな……。
その証拠に少し足をズラすとそれに合わせてルカの足が付いてくる。
そんかルカの可愛らしい所に思わずニヤケそうになる。
骸骨なので顔が変わる事はないが。
ルカの可愛さにホッコリしながらも、だんだんと俺たちの乗ったゴンドラは上へ上へと上がって行く。
「綺麗……」
窓に手を付き外を眺めるルカは、遊園地に施されたイルミネーションやライトアップなどの光の美しさに思わず目を奪われ、そんな言葉が漏れ出た。
ルカの方が綺麗だよ……。
そんな言葉が出そうになるが、この後の事を思い緊張してきた俺は結局言葉が出ずに口を噤む。
「……今日は、ありがとう。私が落ち込んでいたから、わざわざこんな場所に連れて来てくれたんだよね?」
外を見たまま突然そんな事を言い出すルカ。
どうやら元気付けようとしているのは気付いていたようだ。
俺が頷くと、横目で見ていたルカは少し顔を俯かせる。
「……私ね、ニューエルフの里での事、凄く悔やんでたの。……クリスとのファーストキスがあんな結果で終わってしまって……本当はもっとロマンチックな……それこそこんな素敵な場所で出来たらって考えてたから……ショックで」
その表情はとても辛そうで、目には今にも溢れ落ちそうな程涙が溜まっている。
「でも……今日一日クリスと遊園地デートをして気付いたの。これから二人で経験していく初めての事は、まだまだ沢山あるんだって。そんな沢山の初めてを、これから二人で素敵な思い出にすれば良いんだって。……クリスはそう伝えたくて、今日私をここへ連れて来てくれたんだよね?」
そう言ってコチラを振り返ったルカの表情に先程までの暗さはなく、スッキリした晴れやかな笑顔だった。
ガタンッ!
「キャッ!?」
その時俺たちを乗せたゴンドラがちょうどテッペンに来た所で、突然観覧車が停止してゴンドラが揺れる。
ブツ………。
それと共に園内の照明が切れ、その日は新月と言う事もあり、辺り一面が真っ暗な闇に支配された。
「……どうしたんだろう……魔力切れかな?」
少し怖くなったのか、そう弱々しく言いながら少し前屈みになり俺の手を掴むルカ。
俺はそんなルカの手を掴み、両手で優しく包み込む。
「大丈夫」
「……うん!」
俺の行動と言葉に安心したのか、明るい声で返事をするルカ。
その時外から何かの甲高く長い音が響いた。
ヒューーーー………ドーン!!
それは暗い夜空に突然現れた巨大な花火だった。
ドンドンドドドドンドドドドン!!
それは一発だけではなく、次々と色鮮やかな花火が上がっては消えて行く。
「すごい……」
その光景を見つめるルカは、いつかのあの日に俺の打ち上げた魔法の花火を一緒に見た時のように、驚いているけど感動したどこか子供のような表情で……そんなルカを見つめる俺の先程までの緊張を溶かして、代わりに暖かい気持ちで満たしてくれた。
「これってもしかして……」
「うん……前に二人で見に行こうって約束したから、今日の為に準備したんだ」
「覚えていてくれたんだ……嬉しい」
先程の涙と違い、今度は嬉しさでその目に涙を浮かべるルカ。
だが、次の瞬間その瞳は驚愕に変わる。
俺の突然のキスによって。
ただ、その驚愕も一瞬で、自分がキスをされたのだと気付くと、ゆっくりと体の力を抜き、俺を受け入れるようにそっとその瞳は閉じられ、腰に腕が回された。
その間も俺たちを祝福するように花火が何十発と上がり続ける。
十秒にも満たない時間なのに永遠にも思える時間が過ぎて行く。
そして離れる唇……。
そっと開けられたルカの瞳は涙で潤み、今も打ち上がる花火が写り色鮮やかで……とても、綺麗だった。
そのきめ細やかな頬は、熱でほんのりと赤みを帯びている。
先程まで触れていた柔らかな唇は、シットリと湿っていて、少し呼吸が荒い。
それら全てのルカの反応が俺の鼓動を早くさせ……俺はその柔らかな唇を求めるように魔性の魅力に吸い込まれ、再びキスをした。
しばらくそうしていると、いつの間にか花火が終わり、周囲に静けさと闇が戻っていた。
その事に気付いた俺たちはそっと唇を離す。
すると園内の照明がつき、観覧車も動き出した。
「……」
「……」
お互い照れて無言になるが、そんな時間もまた幸せだと感じるのは心が満たされているからだろう。
するとルカは立ち上がり俺の隣に座り肩に頭を乗せてしなだれてきた。
先程よりも近くなった距離。
呼吸の音さえ聞こえる距離なのに、先程までのドキドキが嘘のようにおさまり、むしろルカの存在に安心感を感じ、落ち着いてすらいる。
「クリス……ありがとう。……ファーストキスの事なんてどうでもよくなる位、素敵なキスのお陰で……私いま、凄く幸せ」
「実は……こんな素敵な演出を出来たのは俺だけのお陰じゃないんだ……」
ルカのその言葉と温もりを感じていると、どうも今回の事を自分だけの手柄にするのが居た堪れなくなり、俺は懺悔するように話出す。
「ファーストキスを忘れる位素敵なセカンドキスにすれば良いって案を出してくれたのも……その為に、こんな大掛かりな施設を作ってくれたのも全部アルスや魔術師たちがやってくれた事で……花火の案は俺だけど……打ち上げるのにジンやリン達に手伝ってもらって……ルカを連れて来てもらうのだって俺じゃ難しくて、ルナーレやミルカに手伝ってもらったし……みんなに手伝ってもらえて初めて、出来た事なんだ」
「……そうなんだ……それなら、みんなにもあとでお礼を言わないとね。……でも……それでも私に、こんなにも素敵なセカンドキスをプレゼントしてくれたのは、他の誰でもなく……クリス……アナタだよ」
あぁ……どうしてこんなにもルカの言葉は俺の心にすんなり入ってくるのだろう……。
「そんなクリスを私は……
世界で一番、愛しています」
そう言って俺の首に腕を絡めると、今度はルカの方からキスをしてくれた。
その瞬間俺の体が突然光出す。
「これは……?」
驚きキスを中断する俺たち。
やがて光が止むと、俺はそれがなんだったのか理解した。
「クリス……大丈夫?」
「あぁ……大丈夫。むしろルカのお陰で俺は、更に強くなれたみたいだ」
その事実に喜び思わず再びルカへキスをする。
参った……ルカに最高のセカンドキスを送るはずが、逆に俺が最高のキスと共に最高のプレゼントを送られたようだ……。
スキルの進化と言う。
そんな事を思いながら、既に先程の光など忘れ幸せそうに俺に身を任せるルカの腰に腕を回し、そっと抱き寄せ、その温もりをより確かめる。
「ゴホンッ……」
その時入り口から誰かの咳払いが聞こえた。
「お楽しみの所悪いけど……もう終点ですよ」
その言葉におそろおそるそちらを振り返ると、そこにはリンを始め、アルスやルナーレたち、今回の作戦を手伝ってくれたいつもの面々が立っていた。
いつの間にかゴンドラは一周して、地上へ戻って来ていたようだ。
そんなみんなを見たあと、俺たちは互いに顔を見合せる。
するとルカは俺の顔を見てニッコリと笑った事で、ルカがこれから何を言おうとしているのかが伝わって来た。
「「もう一周お願いします」」
夜はまだまだ長いのだから。




