ニューエルフ襲来
ニューエルフの里帰還から数日。
「では、この街の名称はボーンシティでよろしいですか?」
ローレンの避難地、そこにある仮の領主城の会議室に集まった面々に向かい、進行を務めるリンの言葉に誰も反論する者はいなかった。
どうして急に街の名前? と思うかもしれないが、それには訳がある。
俺が新たな魔王となり、当初は魔王なのだから今の魔王城がある場所へ行くものだと思っていた。
しかしミュートから『魔王がいる場所こそ魔王城です』と言うアドバイスを貰い、それなら慣れない土地に住むより、住み慣れたルカの家こそ魔王である俺の住処として相応しいのではないかと考えた。
流石にどこにでもあるような平屋の可愛らしいルカの家を魔王城とするのは魔族領を統べる魔王として対外的によろしくないだろうとの周りの意見で、現在会議室が行われているこの領主城を今後は魔王城とする事になった。
そして、そうなると必然的にこの避難地は魔王城の城下町になる。
もともとはローレンの住民の一時的な仮の住まいとして用意したこの場所だが、ルカの部下である魔術師たちがその高い魔法技術により生み出したこの街は、前世の日本の住宅にも劣らないハイテク技術の数々や、優れた利便性によりむしろ前の街よりも住みやすくて良いと大人気で、あれだけ嫌がり避難の説得に苦労したお年寄り達も今ではみんな笑顔で暮らしている。
それらの経緯もあり、この場所を避難地ではなくちゃんとした街として運用していく事となった。
そうなると街には名称が必要だ! と言う話になり、住民達に意見を募い今回の議題となったのだ。
そしてこの『ボーンシティ』、住民達の圧倒的過半数がこの名前を推している。
この街では多くの骸骨兵が街の維持管理から清掃、人助けにいたるまでこなしており、黙々と仕事をする骸骨兵たちは、日々その恩恵を受けている住民から絶大な信頼と人気を得ていた事と、この街を治めるのが骸骨兵の親玉である骸骨将軍の俺である事で、住民達の間で既にこの街をそう呼んでいたそうだ。
骸骨兵達が住民に絶大な信頼と人気を得ていると聞き、俺の分体もその骸骨兵達のウチの百体だと思うと、照れ臭さと共に誇らしく思う。
ただ、その名前はちょっと……。
「ジェネラルボーンである魔王クリス十六世か治める、魔族と人、そしてボーンソルジャー達の暮らす街、ボーンシティ……何だかいかにもって感じの名前だね」
「ホントホント! お兄様の街みたいでカッコいい!」
グラスがそんな余計な事を言うもんだから、それにミルカが乗っかり、他のみんなもそれぞれ称賛の声を上げる。
「それでは先の議題の通り、人族領でこの森が畏敬の念を込めて呼ばれている獄森【ゴクシン】と言う名を正式なこの森の名称とした上で、この街の名称はこれから『ボーンシティ』とする事にします」
パチパチパチ。
会議室に響く大きな拍手。
俺が反対する前にあっという間に満場一致で決まってしまった。
マジで恥ずかしいからやめて欲しいが……まだ自分の名前が街の名称じゃないだけましか……。
「ところで……ジンの様子はどうだ?」
もうこの話は終わりだろうと思い、これ以上この話をしたくない俺は話を逸らしにかかる。
避難地が正式な魔王の統治下となり、そこに住む元ローレンの住民達が魔王の民となった事で、ジンやコリアもまた俺の正式な部下となった。
その部下の心配をするのも上司の役目だろう。
「……」
だが、その質問に答えようとする者は誰もおらず、皆俯くか、グラスのように我関せずと言った感じでいる。
ジンはニューエルフの里から帰ってきてから数日は、やっと帰ってこれた安全な場所に喜び、別人のようにハキハキと仕事をしていた。
しかし、本日来る来客の事を知ると一転……その表情はみるみる青ざめ、目は死んだ魚の目に戻りそのまま自分の家に帰ると部屋から出てこなくなってしまったのだ。
正直本日の来客を思うと俺も引き篭もりたいのでジンの気持ちは良くわかる。
なので無理に出さないようにとは言っている。
一応心配してコリアが様子を見に行っているみたいなので任せておけば大丈夫だろう。
ガチャ。
「あら〜、お通夜みたいな雰囲気出してどうしたのよぉ? せっかく私が来たんだからもっと元気いっぱいで歓迎してちょうだい」
この特徴的な喋り方なら誰と説明する必要ないだろう。
俺が引き篭もりたい原因であるアルスが扉を開け、そんな事を言いながらお供のニューエルフ二人と入ってきた。
「……あぁ、わざわざご苦労だった。歓迎する」
だから早く帰って下さい。
「ふふふ、魔王様に会いたくて来ちゃった」
そんな俺の気持ちなど察する事もなく、そんな事をのたまいながら俺へウインクと共に投げキッスをしてくる。
ご丁寧に魔法でハートの形を作り、飛ばしてくるオマケ付きで……。
しかし、すかさず俺の後ろに控えていたメイド服姿のルナーレが俺の目の前に来ると、フワフワと飛んできたハートをどこから出したのかハエ叩きで叩き落とした。
「あら……私の愛の投げキッスを邪魔するなんて……誰かしらアナタ」
「私はご主人様の愛じ……いえ、従者のルナーレと申します」
毎回言い間違えるのはわざとなのかなルナーレさん?
「ふーん、愛人……通りでそんな恥ずかしい格好しているのね。魔王様の趣味かしら?」
愛人の方拾っちゃった! ルナーレもルナーレで自分でその格好してるんだから服を指摘されたからって恥ずかしがらないで俺の趣味じゃないって否定してくれ。
「まぁこの世の魔族を統べる魔王様なら愛人の一人や二人いてもおかしくないものね。かく言う私もその一人だし」
いや、違うから! 何言いだしてるのコイツ!?
「……そうですね。魔王様に愛人が何人いようと問題無いと思います……でも、愛人で一番は私ですけどね」
ちょっ、もはや言い間違いすらせず直で言っちゃってますよ。
「あら……」
「ふふふ……」
笑いながらも睨み合う二人。
両者の間には火花が散り、背後にそれぞれ緑色のオカマみたいなゴリラと金の不死鳥が威嚇し合っているのが見える。
とても割って入れる雰囲気ではない。
とある理由でルカがこの場に居なくて良かった。
と言うか……勝手に話進めてるけど、どちらも愛人にしたつもりはないから! 俺はルカ一筋だ!!
「お兄様の一番の愛人は私だよね」
そこへ俺に飛び付きながら話に割って入るミルカ。
背後には何故かツギハギのディフォルトウサギが見える。
……うん、ミルカのは幻覚で自分で作ったものだな。
にしても良く出来た幻覚だ。
自分で考えたであろうその見た目はとても可愛らしく、試しに手を伸ばして触れてみるとフワフワとした細かな毛の一本一本まで再現されている。
……なんて、現実逃避の為にミルカの幻覚を観察し続けるのだった。
*****
「と言う事で、アルスさんには今後魔王様の元、四天王として協力してもらいます」
「ええ、わかったわ。これからよろしくね」
リンによる一通りの説明を聞き承諾の返事をするアルス。
これでアルスは正式に俺の部下としてこれから四天王を務めてもらう事になる。
「所でさっきの説明だと四天王がまだ私含めて二人しか集まってないみたいだけど、他に誰か当てはあるのかしら?」
「残念ながら探してはいるが、今のところ当てはない……アルスは誰か四天王に良い人材を知らないか?」
「それならジンちゃんなら私の里の子達を倒しちゃう位強いんだから良いんじゃない?」
「確かにジンの実力なら四天王としても問題ないでしょうが……彼は人族ですからね。四天王として魔族の上に立つ者が戦うべき相手である敵と同じ種族と言うのは、下の者たちがなかなか納得してくれないでしょう」
リンの説明に理解出来ないような顔をするアルス。
「あら? それはおかしくないかしら? 私たち魔族は弱肉強食……すなわち強さこそが全て。例え上に立つ者が敵と同じ種族でも、自分よりも強い者の言う事なら素直に聞く筈よ? じゃないとこの厳しい魔族領では生きていけないもの。その考えは一部の平和主義の魔族や人族の考えなんじゃない?」
その言葉に一同衝撃を受ける。
言われてみればここにいる魔族のメンバーはアルスの言う平和主義のミュートやルカ、そしてその部下であるリンにグラス、ロザンヌだ。
そこに加えてここにいない人族のコリアとジン、そして元は人の俺には、多くの魔族の考えである弱肉強食と言うものを真に理解している者はいなかったのだ。
「アルスの話が本当なら、人族のジンでも四天王として認められると言う事か?」
「えぇ、その通りよ。もちろん、強さを証明する為にも、みんなが納得する実績は必要だけどね」
実績……戦争でもあれば手っ取り早いが、俺の魔王就任は四天王を揃えてから大々的に発表する話になっているので、今は下手に俺たちが戦いを起こすのは得策ではない。
ならニューエルフたちのように実際にその強さを体感させて納得させるか?
「……あら? そう言えばここに来てからまだそのジンちゃんを見てないわね? この子達もジンちゃんに会う人を選ぶ為にわざわざ格闘大会まで開いたのに、どうしたの?」
それは、後ろでジンの名前を聞いただけで涎を垂らしている、アナタが連れてきたそのお仲間のオカマたちのせいですよ……とは流石に言えず、とりあえず誤魔化す。
「ジンはどうも調子が悪いらしく、今日は家で休んでいる」
「「それなら私が介抱しなくちゃ!」」
俺の話を聞くと全く同じ事を言って部屋を飛び出すオカマたち。
悪いジン……これから化け物が二人そちらに行くかもしれない……。
ただ、ジンの家も聞かずに飛び出して行ったのは不幸中の幸いかな。
どうかジンの家に辿り着かない事を祈るとしよう……。
「と、とりあえずジンの四天王入りは実績の件もそうだが、本人の意思もあるので一旦保留としよう」
俺の言葉には反論の声はなく、保留となった。
「そう言えば、四天王になれそうな人材がいそうな場所に一つ心当たりがあるわよ」
思い出したように告げられたアルスの言葉にみんなの視線が集まる。
「ドワーフの国よ」




