ニューエルフの里・完
パチパチパチ。
「いやぁ、二人共良くやった! 特にジンくんのスキル、あれは凄いね!」
俺たちがそれぞれ決着をつけると、ステージの外で隠れて戦いの行く末を見守っていたそいつらは先頭で拍手をしている人物と共にステージ上に上がってきた。
「グラス……終わったのか?」
「あぁ、ちゃんと転移陣の設置はロザンヌと一緒に完了させたよ」
そう、今まで姿の見えなかった二人はこのニューエルフの里と、俺たちの街とを転移陣で繋ぐ為に、アルスの許可を貰ってこちら側の転移陣の作製をしてくれていたのだ。
と言うのも、前回の人族との戦いの際、突然転移が使えなくなった。
タイミング的にもおそらく人族の仕業だろうが、俺たちの場合そのせいで魔王城へ報告に行っていたグラスは帰ることが出来なくなった。
幸い常時起動タイプの転移陣は問題なく使用出来たので、何とかなったが、そのままグラスの帰還が間に合わなければルカは勇者にやられ無理やり連れて行かれたか……下手をしたら殺されていただろう。
その時魔王領内であれば問題なく転移出来たが、また人族と戦になった時、それも出来なくなるかもしれない。
そこでリンの提案で予め主要な場所に常時起動タイプの転移陣を設置する事になったのだ。
もちろん転移陣を起動させておくには膨大な魔力を必要とし、そこらの魔術師では半刻も持たない程だ。
以前のルカでさえ常に半分の魔力を持って行かれていた事からその膨大な量が伺える。
そこでルカの部下であるエルフの魔術師たちが魔力供給を担ってくれる事になった。
ルカと違い、一人で必要な魔力量を担う事は出来ないそうだが、それでも一箇所につき二人いれば問題ないとの事なので、やはり彼等が相当な実力者の集まりだとわかる。
てか、彼等の誰かが四天王やってくれればこんな大変な思いをする事もなかったのに……。
そんな文句もあるが、とりあえずは転移陣の維持と言う事で助けたくれるので、これ以上は止めておこう。
「しかし……ジンちゃんアナタ……本当に凄いわね。以前攻めてきた人族軍でさえ、この子達にたいしたダメージを与えられなかったのに……もう私と戦ったSランク冒険者より強いんじゃない?」
そう言ってやってきたのは一瞬誰かわからなかったが、全身黒焦げになっているアルスだった。
自慢のリーゼントもアフロになっている。
最後に見た時はルカを抑えてくれていたから、おそらくルカがやったんだろうけど……あのアルスがここまでなるとか、さすが全盛期の魔王様と同等程度の力を持っているだけあるな……。
うん……これから怒らせないように気をつけよう。
「ハァハァ……俺も驚いている……まさか俺にこんな力があるなんて……ただ早く動けるだけのスキルだと思っていたのに……」
スキルの多用でかなり疲労しているジンだが、自分の新たな力に自らの手を見つめながらも嬉しそうにしている。
「さっきも言ったが、速さ=力だ。速くなれば速くなるだけ、そこから生み出される力は強くなる。通常は自分への反動もその分強くなるんだが……スキル使用中の話を聞く限り、使用者はその影響を受けないようだな」
俺の言葉に先程の説明の時と違い、実際に結果としてあの頑丈なニューエルフたちを倒しているので深く頷くジン。
さっきは説明中、終始疑いの目で見てきて全然信用してなかったもんな。
「話を聞く限りチート能力だね。こんな見た目冴えないオッサンなのに物語の主人公みたいだよ」
コラ、思っててもそんな事本人の前で言わないの! せっかく自分の新たな力に心躍らせる少年のような目をしていたのに、いつもの死んだ目に戻っちゃったじゃないか。
「いやぁ、凄い凄い。ところでこれ、死んでないよな?」
そう言って目の前で地面に転がるニューエルフを蹴飛ばすロザンヌ。
ジンへの称賛が適当なのはいつもの事として、元は同じエルフの仲間なのにその扱いは酷くない?
「大丈夫みたいよ。みんなジンちゃんに一撃入れられて幸せそうな表情で意識を失っているわ」
その事実に心底嫌そうな顔のジン。
流石、ジン大好きオカマエルフたち。
気絶させる程の攻撃もご褒美だったようです。
「ルカも幸せそうな表情で眠っているね」
グラスが俺の腕の中で眠るルカの顔を覗き込みそう話す。
「まさかルカレット様にあんな積極的な一面があったとは……」
「それはこの子の為にも弁解しとくけど、スッポンポン鍋に入っている精力増強効果のせいよ。しかもこの子、美味しい美味しいって結構な量食べてたし……むしろあれだけ食べて意識があって喋れてる事に驚きよ。……ハッ!? もしかして急に眠ったのはその反動かしら!? この子だけ体が大きくなってなかったし、何かスッポンポン鍋のエキスで反応する特殊な体質……とか?」
急に真剣な表情でルカを心配し出すアルス。
ただ、心配してくれるのは有難いが、俺の腕の中で眠るルカを覗き込もうとすると、そのチリチリのアフロが顔に当たって鬱陶しいのでやめて欲しいです。
「か、体が大きくならない理由はわからないが、急に眠ったのは俺の魔法によるものだから心配しないで大丈夫だ。だから離れてくれ」
「あらそうなの? でも、それならわざわざあんな情熱的なキスしないでさっさと眠らせちゃえば良いのに……魔王様も好き者ねぇ」
と言いつつ更に距離を詰めて、肩をチョンチョンしてくるアルス。
「……勘違いしているようだが、あのキスはルカを眠らせる為に必要な事だったんだ」
コラ! お前ら全員、『えっ?』て顔しない!
「俺の部下……アルスにとってはこれから一緒に四天王としてやっていく仲間になるが、サキュンバス族のミルカと言う者がいて、今回の魔法はその子の種族が得意とする魔法をいくつか教わった中の一つなんだ」
「確か、サキュンバス族は催眠や幻覚に関する魔法のエキスパートよね。その中にキスをして眠らせる魔法があったの?」
「い、いや……本来ならある程度離れていても使えるのだが、……の場合はどうやら単純に自らの体から魔力を排出する魔法は得意でも、今回の魔法のように相手の魔力を操作する魔法はどうも苦手なようで……そのせいで、相手の体の中に直接自分の魔力を流さないと使用出来ないんだ」
「なるほどねぇ。それでルカレットちゃんの口から直接魔力を流す為にキスをしたと……理由は何であれ、羨ましいわぁ〜。私も魔王様の口付けで眠らせてほ〜し〜い」
そう言いながら頬に手を当て体をクネクネと動かすアルス。
ははは……本当に眠らせてやろうか……永遠に。
そう思ったが、面倒な事になりそうなので心の中に留めておく。
「ん、ん〜ん」
「あら、そろそろみんな目覚めそうね」
「なっ!? 早くないか!? 結構良い一撃を入れたし、気絶させてからまだそんな経ってないぞ」
「ふふ、それは私たちは頑丈なだけじゃなくて、自然治癒力も高いからよ。擦り傷程度なら数分で治るし、内臓へのダメージだってあっという間よ」
その言葉に顔を引き攣らせて後退りするジン。
アルス程ではないが、それでも十分強力な攻撃力を有し、殆どの攻撃を無効化するその強靭な防御力に、ダメージを入れた所ですぐに回復する自然治癒力。
更にその凶悪な見た目だけでも相手の戦意を損失させる……。
あれ……何この最強種族? 何かのバグかな?
もうニューエルフだけでも人族倒せそうな気がしてきた。
……いや、無理か。
あちらにはチート神態勇者だけでなく、アレンとか言う底知れない強さを持つ聖騎士隊の隊長がいるからなぁ……。
聖騎士隊と言えば、あの連中はゾンビみたいに倒しても倒してもすぐ復活してくるし……
何だこの世界……変態と化け物だらけじゃないか!
そんな余計な事を考えている内にモゾモゾと動き出すニューエルフたちが増えてくる。
そろそろ覚醒も近いようだ。
「も、もう話は終わったよな! 流石にさっきの戦闘でスキルを多用し過ぎでもうこれ以上スキルの使用は無理なんだ! 転移陣も設置し終わったのなら早く街に戻ろう!」
その姿を見たジンが耐えきれなくなり俺に縋り付くように言ってきた。
「あら、そんな事言わずにもっとゆっくりしていって良いのよ。この子達ももうスッポンポン鍋の効果が切れる頃だし、起きてもジンちゃんの事襲ったりしないわよ……多分」
確証はないんですね。
と言うかアルスに言われるまで気付かなかったが、いつの間にか辺りは薄らと明るくなっており、もうすぐ朝を迎えるようだった。
ニューエルフたちから必死に逃げて、その後も息を潜めて隠れてたからな、時間が経つのも忘れる訳だ。
この里は精神的疲労がたえないので早く帰りたい。
それとなく理由をつけて早く帰ろう。
「大丈夫だとは思うが、ルカに使った魔法は人に初めて使ったもので、その影響も心配なので早めに専門家のミルカに見せたい。だから今回はもう帰らせてもらおうと思う」
「あら、それは残念ね。……でも、転移陣も出来たならこれからいつでも会いに行けるし、まぁいいわ。」
その言葉に衝撃を受ける俺とジン。
いつでも行けると言う事は、毎日アルスやニューエルフが街に来ると言う事で……何その罰ゲーム。
「いや、さすがに常時転移陣を繋げるだけでも結構な魔力を使うのに、そんなしょっちゅう転移されちゃ、ウチの魔術師たちの魔力が持たねぇよ」
ロザンヌの言葉に心底安心する俺とジン。
誰も見ていなければ骸骨とオッサンで抱き合って喜んでいた事だろう。
「それは残念ね」
「ははは、まっまく残念だ……四天王として今後の話もあるから、今後は呼んだ時だけ、来てくれ」
「何よそれ……」
クッ……やはりダメか。
「それじゃまるで魔王様の都合のいい女みたいで……興奮するじゃない!」
うん、この人も変態で良かった。
安堵していると俺の腕を掴む震えた手があった。
……まぁ、ジンなのだが……その顔がヤバい。
マジでこの世の終わりみたいな顔してる。
そろそろ限界だな。
「そ、それでは名残惜しいがそろそろおいとましよう」
その言葉にパァーととても良い笑顔になる三十七歳の中年。
これがルカならトキメクが、相手がジンじゃなぁ……。
「えぇ、またいつでも来てちょうだい! 里をあげて歓迎するわ! もちろんジンちゃんもね」
アルスの言葉にいっきに怒りの表情になり、俺の言葉を代弁するようにジンが叫んだ。
「二度と来るか!!!」
その大声でノソノソと起き出したニューエルフたちをみて、すぐさま転移陣が設置された場所へと駆け出す、オッサンだった。




