エルフの里の決闘
エルフの里を抜けた奥、そこには森の中に直径五十メートル程の四角い石造りのステージが設けられていた。
俺たちがアルスさんに連れられそこに着いた時には、既に二百人程のニューエルフ達がステージを囲うように待っていて、アルスさんの話だと、里のほぼ全てのニューエルフが集まっていると言う事だった。
どうやら昨日のうちにアルスさんが里中に宣伝しておいてくれたようだ。
「里のみんなに認めさせたいのなら、ちゃんと私に勝った姿をみんなに見せないとね」
そんな事を言っていたが、その表情には全く負けるつもりもないとありありと出ていた。
現に集まってきたニューエルフ達とステージの反対へと向かうアルスさんとの話が聞こえて来たが、最近刺激も少なく暇を持て余していたところに、こんな楽しそうなイベントを開いてくれたアルスさんに感謝の言葉をかける者達ばかりだった。
そう……ようはニューエルフ達は、里で一番強いアルスさんが負けるなど微塵も思っておらず、今回の決闘は、ただ俺が痛ぶられる姿を楽しむだけのイベントでしかないのだ。
それがわかると先程まで落ちていたやる気が沸々と湧き上がってくる。
成り行きでなったとは言え、俺は魔族を統べる魔王だ。
それが、こんなムキムキオカマエルフ達に舐められて言い訳がない。
俺が舐められると言うことは、俺を魔王に推薦してくれた、みんなが……そしてルカが舐められているのと同じ事だ。
それだけは許す事が出来ない。
ならば俺がやる事は一つ。
ルカの顔に泥を塗らない為にも、アルスさんに勝って、この場のニューエルフ達全員に俺が魔王だと認めさせる事だ!!
「さて、それじゃ準備は出来たら両者ステージに上がってね」
いつの間にかステージに上がっていたグラスは、どこかで見た事があるような黒と白の縞縞模様のポロシャツに黒いズボン、黒の蝶ネクタイを付けた格好でステージの中央に立っていた。
いわゆるレフリーの格好である。
いや、ノリノリだなぁ、オイ!
人が化け物相手に決死の覚悟で挑もうとしてるのに、この真態は……。
「よっ、魔王様! 頑張ってこいよ!」
そんな軽いノリの応援が聞こえたので後ろを振り向くと、そこにはいつの間にか敷かれたレジャーシートの上で胡座をかき、ピッチャー片手にこちらに手を振っている酔っ払い……改め、ロザンヌの姿があった。
……コイツらは。
よく見ると周りのニューエルフ達も思い思いに地面や枝に腰掛け、酒盛りを始めている。
その間を売り子らしき特別ケバケバしいニューエルフがミニスカ姿でお酒やおつまみらしき物を売り歩いている
その光景に沸々と湧き上がる怒り。
「クリス……頑張ってね」
その時横にいたルカから心配そうな表情で応援の言葉が送られる。
そうだった。
例え周りが俺を見せ物のように扱おうと、ルカだけは俺の味方でいてくれる。
その事実に気付いた俺は、先程までの怒りがやる気に変わり、先程まで熱くなっていた頭を冷静にする事が出来た。
そして既にステージに上がって仁王立ちして待っているアルスを見つけると、そのままアルスを見つめたまま、そっとルカの頭に手を乗せる。
「必ず勝ってくるよ!」
そう伝えながら軽くルカの頭を撫でると、ステージ上で待つアルスの元へ向かい、ステージに続く階段を上がって行った。
「恋人との今生の別れは済んだかしら?」
ステージに上がりアルスさんと十メートル程の距離で向かい合うと、俺を仁王立ちで待っていたアルスさんからそんな言葉をかけられた。
「そんな物は必要ない。俺はアナタに勝つからな」
アルスさんの言葉に本心で答える。
「あら〜、随分自信満々ねぇ。でも……すぐにその自信はちゃんとお別れ出来なかった事への後悔と絶望に変わるけどね」
その言葉と共に、その見た目から想像が着く通り、何も武器を持たずに構えを取るアルスさん。
やはり肉体が武器と言うわけか。
俺もそれに答えるように無手のまま構えを取る。
「あら? 別に武器を使っても良いのよ? 何なら準備出来るまで待ってるわ」
俺が何も武器を出さない事が意外だったようで、構えを解いてそんな気遣いをしてくれるアルスさん。
出来る事なら俺も愛剣の魔剣クレットで戦いたい。
でも……。
「これから部下になる者を今後戦えないような状態にする訳には行かないからな」
その答えに一瞬驚きの表情をしたアルスさんだが、その後は獰猛な野生動物のような本能剥き出しの表情へと変わる。
「……ふふふ、私も随分舐められたものね」
元々他人に畏怖されるような見た目のアルスさんが更に恐ろしい表情へと変わると共に、身体倍加の為その身体から凄まじい魔力を放出する事で、目に見えない魔力が濁流のごとく周りに押し寄せ、威圧するように圧力として襲いかかる。
その様は俺なんかよりよっぽど魔王と呼ぶべき姿だった。
その圧力に周りで観戦しているニューエルフ達も畏怖表情に……いや、なんか光悦とした表情をしてました。
ニューエルフ達も見た目もそうだが、中身も変態の集まりのようです。
こんな圧力を至近距離で受けているのに涼しい顔をしている審判役のグラスを見る。
うん、ニューエルフって言うか、エルフ種はみんな変態なのかもしれない……。
こうなると人族から戻らない女性エルフ達も……ジンの反応が変だったあたり、怪しいな。
ん? そういえばジンはどうしたんだ? この場には里のエルフが全員集合しているのだから居てもおかしくない筈だが……どこにも見当たらない。
……もしや……殺された……?
いやいやいや、流石に好きにしろとロザンヌに言われたとは言え、客人だ。
殺される事はないかと思うが、それにしてもこの場に居ないのは流石におかしい……。
あの場では、まぁジンなら大丈夫だろうとそのままにしたが、すぐに助け出しに行くべきか?
アルスさんと言う化け物と相対しているのに、そんな関係ない事を考える余裕があるのも、先程の覚悟のお陰だろう。
「私がこんなにもアナタだけの事考えているのに、当の本人はうわの空だなんて、妬けちゃうわねぇ……こうなったら実力行使で私だけを見てもらうしかないわね」
ただ、それがアルスさんのプライドを傷付けすたようで、更に体外に放出する魔力を増やし、完全に臨戦体制に入ると再び構えをとった。
普段ならこんな圧力かけられたら速攻逃げてるな……。
どこか他人事のような気持ちでそんなアルスさんを見ながらも、俺も体から魔力を放出し、身体倍加で肉体を強化する。
「さて、両者準備も出来たみたいだし、そろそろ始めようか。お互い悔いのない戦いをね……始め!!」
そして二人の決闘が始まった。
始まりの合図と共に巨大からは想像出来ないようなスピードでこちらへ駆けてくるアルスさん。
更に体から放出される魔力もあり、こちらへ近づく事でその体は何倍にも大きく見える。
ただ……そう見えるだけで大きくなった訳ではないし、スピードも速いが、以前戦った元四天王ランドの部下で獣人のポルカや、元勇者パーティーの武道家コクーンと比べれば大した事はない。
俺は慌てずに右手をアルスさんに向けると、予め準備しておいた魔法を発動する。
その瞬間右手から人の倍ほどある炎弾が飛び出し、こちらへ向かってきていたアルスさんへと凄まじい速さで飛んで行く。
それまでの挑発の効果もあり、完全に突撃体制に入っていたアルスさんは、避けることも出来ずにまともに炎弾が直撃した。
凄まじい爆発音と衝撃と共に伝わる熱風。
骸骨将軍に進化したうえ、日々の修練で強化された魔法の威力は相当なものだ。
そこらの魔なら、この炎弾で消し炭になっているのだが……。
ボフッ!!
案の定、立ち込める爆炎の中から無傷のアルスさんが飛び出してくると、そのままこちらへと駆けてくる。
「痛いわ、ねぇ!!」
その言葉と共に繰り出される右の拳。
その攻撃は格闘技と呼ぶには技術の拙いただの素人のパンチと言った物だったが、その拳は唸りを上げ、盛り上がる筋肉は尋常ではなく、純粋なパワーのみで打ち出された一撃は、見るからに危険だとわかる。
俺はその攻撃から逃げるのではなく、むしろアルスさんに向かいながら左前方に体をずらし、その拳にそっと左手を添えて軌道を変える事で攻撃を躱わしつつ、その威力を利用して自らの体を回転させ、何倍にも威力が増した一撃をそのままのアルスさんの後頭部に裏拳として喰らわした。
突撃の勢いのまま前方に倒れ、転がっていくアルスさん。
「「「あはぁ〜〜〜」」」
宙を舞うオカマたち。
俺がアルスさんの攻撃を逸らした事で繰り出された拳から生まれた拳圧は、以前森で見た物より強力で、数十メートル先で観覧していたニューエルフ達へと向かうと大勢のニューエルフ達が宙を舞う結果となったのだ。
なかなかの地獄絵図だが、当の吹き飛ばされている本人達は光悦の表情だから更にタチが悪い。
そんな中、ルカの前ではロザンヌが魔力障壁を張っていた為、アルスさんの拳圧や、空から落ちてくるオカマたちなどものともせず、何事もなく俺たちの戦いを見守っている。
その事にホッとしていると、目の前で倒れていたアルスさんがゆっくり立ち上がってきた。
「ビックリしたわぁ、確実に殺ったと思ったのに、次の瞬間後頭部に衝撃が走って倒されてるんだもの、凄いわねアナタ。流石魔王様ってだけあるわ」
今の一撃をビックリしただけで済ませるアナタの方が大概ですけどね。
せっかく相手を煽って出来た隙に、様子見の為多少手加減したとは言え、特大の魔法や、意識外からノーガードの後頭部に強烈な一撃を喰らわしたと言うのに、相変わらずの無傷と言う……呆れるほどの頑丈さだ。
これなら本気で魔法や打撃を喰らわしても、かすり傷程度のダメージしか見込めないだろう。
こんな化け物みたいな防御力を持った相手を倒そうと思ったら、その防御力を凌駕するほどの一撃……それこそ魔剣クレットぐらいの斬れ味でもないと無理だ。
ただ……俺と共に成長している今の魔剣クレットなら確実にアルスさんの防御力を超えて斬ることが出来るだろうか、あのアルスさんじゃ、ちょっとやそっとの斬り傷ぐらいじゃ降参してくれないと思う。
それこそ腕の一本や二本くらい斬らないと……。
グラスやロザンヌならそのくらいの傷治せそうだが……グラスの腕の事もあるし、ルカの見ている前で下手げにトラウマを呼び覚ますような真似はしたくない。
また、魔剣クレットにはルカの歯が打ち込まれているので、吸血鬼の力である相手の魔力を奪う能力がある。
しかし、それでアルスの魔力を空にして勝った所で、果たしてニューエルフたちが、俺を認めてくれるだろうか……うん、ないな。
見るからに力こそ全てみたいな人種だ。
そんな方法でアルスさんに勝った所で、卑怯だと思われても、俺が認められる事はないだろう。
……なら、やっぱりどうにかしてこのアルスさんに力で勝つしかない。
「ふふ、私を倒す考えはまとまったかしら? でも、さっきの一撃でだいぶ頭も冷えたから、もう簡単にはやられてあげないわよ」
これで相手の油断も無くなった、と……。
何この無理ゲー。




