四天王
「さて、新しい魔王が決まった事だし、次は四天王だね」
「ふむ、四天王あっての魔王だからな。流石に四天王の居ない状態で魔王だけ名乗りを上げても、民に格好がつかんだろう」
いや、その四天王へのこだわりはなんなの? と思ったが、疑問を持ったのは俺だけだったようで、グラスとミュート様の言葉に皆んながうんうんと頷いていた。
俺がおかしいのか?
「とりあえずルカは候補から除外だね。だって魔王の妻だもん」
「……魔王の……妻……クリスの……妻……キャッ!」
グラスの言葉にルカが横で何やらぶつぶつ言いながら照れている。
そんな所もまた可愛い。
「はいはいはいはい!!! 私がやる!!」
そこに元気よく名乗りを上げたのは、先程も俺が魔王をやるなら四天王をやっても良いと言っていたミルカだ。
「ふむ、ミルカなら元々四天王を務めておったし、サキュンバス族の歴代でも最強と言われるだけあり、実力的にも問題ないだろう」
ミュート様の言葉に自慢げに胸を張るミルカがとても可愛らしかった。
「でもよ……一度勇者に負けた四天王だぜ」
しかし、ジンの言葉に途端に怒り出し頬を膨らませる。
これはこれで可愛いな。
ルカなんてあまりの可愛さに手をワキワキさせて今にも抱きしめそうだ。
「ブーッ! ジンおじさん、何でそんな意地悪な事言うの!」
「お、おじ……さん?」
ミルカの言葉に地味にショックを受けているジン。
まぁ、本人はお兄さんと思っていても、年齢差を考えればおじさんと言われてもしょうがないだろう。
「だけど、確かにジンの言う通り、一度負けたミルカが再び四天王を名乗るのは対外的によくないんじゃないかな」
「グラスお兄ちゃんまでそんな事言うの!?」
「……何百年も生きているグラスさんがお兄ちゃんで……三十代の俺が……おじさん……」
あっ、年齢的に年上のグラスがお兄ちゃん呼ばわりされて、ジンが更にショックを受けてる。
どうやらミルカのおじさん基準は見た目だったみたいだね。ドンマイ。
お兄様呼ばわりの俺が余裕と同情の視線を送っていると、それを察したのかジンが恨めしそうにこちらを睨んできた。
いや、俺のせいじゃないかね?
「ふむ……クリス様やルカは勇者に負けたとは言え、ローレンの民を守り、勇者にも一矢報いており、実績がある。更に世の中的にクリス様はまだ名が知れていないので、勇者に負けたなどと言う印象もないだろう。しかし四天王になって日の浅かったミルカに目立った実績もなく、あるのは勇者に負けたと言うマイナスイメージだけ……クリス様、これをどう思いますかな?」
「えっ? ……あっ、俺ですか? 何と言うか……その前にミュート様にクリス様と呼ばれるのはちょっと……」
「何を言っておられるのですか! 貴方はもう我ら魔族の頂点である魔王様なのですから、私が前魔王だからと言って気にする必要はありません。むしろ私の事はミュートと呼び捨てで呼んで下さい! ……して、どう思いますかな?」
マジかぁ……ミュート様を呼び捨てとか難易度高いって……えぇい! 郷に入っては郷に従えだ!
「え〜と……では、これからはミュートと呼ばせて……呼ぶ。……それでミルカに関しては……俺としては出来れば四天王にはしたくない」
「えぇー!! どうしてお兄様!? 私きっとお兄様の役に立つよ! ……それともやっぱり……勇者に負けたのがダメなの?」
今にも泣き出しそうな表情で落ち込むミルカ。
「ミルカ……俺がミルカを四天王にしたくないのは勇者に負けたからじゃない。ミルカが強いとは言えまだまだ子供だからだ」
俺の言葉に納得がいかないようで、口を尖らせて不満げな表情になる。
「いいかい、ミルカ……本当ならばミルカぐらいの年頃なら、毎日友達と遊び、勉強をしつつ、将来を想像して夢を語り合う頃だと思うんだ……なのに力があるからと言ってこれまで四天王としてそんな事も経験してこなかっただろう?」
図星だったのだろう、下を向き不満げな顔が鳴りを鎮め、暗さが見え隠れするミルカ。
「俺が魔王になったその世界では、子供は子供らしく、毎日を安心して暮らせる幸せな世界にしたいと思ってるんだ。そしてミルカは俺が守るべき……大切な存在でもある。俺はそんな大切なミルカを、出来れば四天王なんて言う危険な立場にしたくない」
「……ありがとう……クリスお兄様……でもね……お兄様が私に幸せになって欲しいと思うように……私もお兄様に幸せになって欲しいと思っているの。……だから私は、クリスお兄様の力になりたい! 私がお兄様の言うように子供としての幸せを経験するのは、お兄様の願う子供が安心してくらせる世界が出来てからで構わないわ!!」
ミルカのその力強い言葉に胸がいっぱいで泣きそうになる。
骸骨だから涙は出ないけど。
それでも、その気持ちは十分俺の心を打った。
これだけ俺の事を心配してくれる優しい子が、戦うなと言って素直に言う事を聞くはずがない。
なら、俺の庇護かでなるべく危険の少なくなるよう俺が守って行く方が良いだろう。
「……ミルカの想いはわかった。それならミルカ、四天王として、これから俺を支えてくれるかな?」
「もちろんだよ!」
俺のそんな考えなど梅雨知らず、四天王として俺の役に立てるのが嬉しいのか、とても良い笑顔で返事をしてくれた。
「ふむ、クリス様がそうおっしゃるのなら、まず一人目の四天王はミルカで決まりだな。勇者に負けた世間体についてはこれからの実績で払拭していけば良いだろう」
「任せて下さいミュート様! 私、頑張ります!」
俺も頑張らないとな!
「ふむ、さて、残り三人だが……誰か他に立候補する者はいるかな?」
ミュートのその言葉に他の者もそれぞれ思案するような表情になった。
「私はご主人様の愛人……いえ、従者ですので、遠慮しておきます」
愛人じゃないからね!?
もう、相変わらず変な事を言っているルナーレの事はスルーしておこう。
「俺らはこうして魔族の陣営に入れたもらってはいるが、流石に人族が魔族の四天王をやるのは、魔族達に受け入れられないだろう。だから遠慮させてもらうよ。……実力的にも力不足だしな」
ジンの言葉に後ろでコリアも頷いている。
確かにジンの言う通り、魔族の敵である人族が魔族を纏める四天王になるのは、余程の実績と信頼を得ないと難しいだろう。
「それなら私も、策略は練れても実力的には前四天王に遠く及びませんので、役不足かと」
リンが前魔王軍では実際に戦場に出た事が無かったと聞いている。
それは戦闘を得意としていなかったからなのか……でも。
「リンには出来たら、以前と同じく参謀として、今度は俺の元で働いてもらいたいんだが……どうだろうか?」
前回の人族軍侵攻の際、人族軍の動きや情報から、こちらの存在がバレたのではなく、何かを探している可能性があると導き出したのもリンであり、こちらの存在を知られる事なく、被害も出さずに人族軍を撤退させる事が出来たのも、全てリンの作戦のお陰だ。
そんな当代随一の知略の持ち主であるリンは、新しい魔王軍にも是非欲しい存在だ。
「……私もミルカさんと同じく前魔王軍で勇者に負けた参謀です。ですが……それでもよろしければ、是非、新たな魔王様の元でこの知略を役立てたいと思っております!」
「助かる! これからよろしく頼むよ……親友!」
「承りました……親友」
俺の言葉にニヤリと笑って答えるリン。
つくづく俺は良い友を持ったな。
すると俺たちの話が終わったのを見計らってロザンヌさんが話し始めた。
「私は今も昔もルカレット様だけの部下だからね、遠慮させてもらうよ」
ロザンヌさんは実力的にも四天王として申し分ないので、この中でも四天王になってくれればと一番期待してただけに、断られるのは痛い。
「僕も魔王を断った理由と同じでパスで。その代わり……四天王になれそうなあてがあるから紹介するよ」
グラス様は最初から無理だろうと考えていたので、案の定と言った感じだが、その後の提案にこの場のミルカ以外の全員に断られた俺は藁をもすがる思いで質問した。
「あて……それは一体……?」
「その人物は、僕たちの故郷であるエルフの里に住んでいるあるエルフだよ」
「……ん? 僕たち?」
「あれ? もしかしてまだ言ってなかったの?
ロザンヌ」
その言葉に皆んなの視線がロザンヌさんへと向かう。
すると皆んなの視線を受け、ロザンヌさんは皺くちゃのその顔をニヤリとさせると、突然全身が光出し見えなくなった。
そして一瞬のうちに光がおさまると、そこには先程までの老婆の姿はなく。
そこに居たのは、モデルのようにスラっとした長い手足に全体的に引き締まった体、金色の髪を後ろで縛り、顔の横には長く尖った耳が飛び出て、色白で美形な顔立ちに切れ長な目が特徴の、女性エルフの姿があった。
「面白いから黙ってたのに、バラすなよグラス」
その女性エルフからは喋り方や切れ長な目もあり勝気な印象を受けた。
「ごめんごめん、もう言ってるものかと思って」
「まぁ、こうして皆んなの驚く顔をおがめたし良いけどよ」
そう言って皆んなを見回した後イタズラげな表情でニヤリと笑った。
そう、グラス様といいまんまと騙された訳だ。
ん? まてよ……グラス様といい、ロザンヌさんといい、魔術師二人がエルフが変身していた姿だったと言う事は……。
「もしかして……他の魔術師たちも……?」
「おっ、さすが新しい魔王様。御名答だよ。アタシらグラスに誘われた魔術師は、みんなエルフの里の掟に馴染めず里を出たエルフたちさ」




