魔王誕生
「さて……みなの腹も膨れ、この数日でグラスとルカの体調も回復したようだし、せっかくこうして皆集まっているのだから、私たちの目的を済まさせてもよいかな?」
リンの頭の上に飛んで行くと皆に向かい話出すミュート様。
みんなが黙ってミュート様を見つめた事で了承とみなすと、以前俺に話してくれた内容を話し出した。
「何人かには既に話しているが、私たちがこの街に来た目的は、ルカに新たな魔王になってもえるよう打診する為だ。と言っても当初はグラスに魔王になってもらえないかと考えていたので、グラスが生きている今、グラスが魔王を引き受けてくれるのなら私としても助かるのだが……」
「そんな……それではまた人族と戦いの火種が生まれてしまいます。それに……そうなってしまったら今度はルカやグラスさんが次の勇者の標的になってしまうじゃないですか……」
その言葉にミュート様達の目的を知らなかったルナーレが顔を青くして指摘する。
「確かに人族からしたら魔王は人族の平和を脅かし、神より討伐すべしと言われる、天の敵……まさに天敵だ。ルカやグラスが魔王になれば、私を倒した勇者の矛先は新たな魔王に及ぶであろう。……しかし、この荒廃し、人が住むには厳し過ぎる魔族領では、民の命を守る為にも皆を導き先導する者が必要なのだ! ……グラス……ルカ……考えてくれないだろうか」
ミュート様の真摯な表情にルナーレからそれ以上の反論へなかった。
人族からしたら魔王は天敵でも、魔族からしたら心の柱であり、自分達の命を守る英雄なのだ。
「僕はパスかな……あまり魔王みたいな目立つのはやりたくないからね。何より、流石にこの腕じゃ次に勇者とやり合ったらまともに戦えもしないでやられちゃうよ」
そう言って二の腕から先の無くなった左腕を上げるグラス。
そんなグラスを見つめるルカの表情はとても辛そうで……見ていられなくなり横から肩を抱き寄せる。
俺の行動に一瞬驚いた表情になったが、まだ辛そうではあるが、それでも柔らかな笑顔になってくれた。
「そうか……それではルカはどうだろうか?」
ミュート様の問いかけに一瞬迷ったが、意を決して話出すルカ。
「私は……私も、辞退します。私の実力では腕を無くしたグラスにさえ及びませんから」
その言葉に何を言っているのかわからない表情をしているミュート様。
「ルカは気付いていないのかい? クリス君によって長い眠りから目覚めてから、吸血姫【ヴァンパイアプリンセス】だった頃の魔力と比べ格段に上がっている事に。おそらく君の母上や始祖の吸血鬼と同じ吸血鬼の王である吸血女王【ヴァンパイアクイーン】に進化したのだろうが、その魔力総量は魔王時代の私や、腕があった頃のグラスとも引けを取らない程になっているよ」
「「「……え?」」」」
告げられた事実に皆んなの視線がルカへ向かうが、そこには困惑した表情のルカがいた。
「……そ、そんな訳……ッ!? なに……これ……? 魔力が前と比べられない位……溢れてくる」
どうやら今まで本人も気付いていなかったようで、自分の魔核の魔力を意識する事で、初めてその事実に気付き、驚いている。
「でも……なんで……ッ!? もしかして……あの時のリポウズ・ドリーム……?」
「リポウズ・ドリーム……以前ルカのお父上であるルシエールと飲んだ時に聞いた事があるよ。……確か、最上位の吸血鬼のみが使える魔力に自らの魂の一部を載せて相手に渡す魔術だったね。それにより、使った本人は弱体化するけど……魔力を渡された者は魂の核が上がり、より上位の存在へと昇華される秘術だって言っていたよ」
何だそれ……とんでもない魔法じゃないか。
グラスの言葉が本当なら、本来なら途方もない時間努力する事で達する事が出来る進化を、他の者の犠牲がいるとは言え、簡単に行えると言う事だ。
「でも……どうして今になって?」
「それは……きっとルカの体を守る為だね」
「私の体を……?」
ミュート様の言葉に不思議そうな表情で答えルカ。
「本来進化は、何年、何十年と言う期間努力し、少しずつ魔素を蓄え、体に慣らして行く事で初めて達する事が出来る生命の神秘だ。それをリポウズ・ドリームは魔法で無理やり魔素を譲渡し進化させる……成熟した大人ならまだしも、ルカがこの魔法を受けたのは、体もまだ出来上がっていない6歳の子供の頃だ。きっとルカの体の事を考えたご両親の想いが、本来魔法が発動したその瞬間から始まる進化を止め、今まで体の中で残り続けていたのだろう」
「そうだったんだ……うぅ……お母様……お父様……」
両親の想いを知り、感動で泣き出したルカは、俺の胸に顔を埋めて泣き出した。
夢で見てきたが、亡くなってもなおルカを想い続け、守ってきた、本当に素晴らしいご両親だ。
そんなご両親にルカを託されたのだから、自分の腕の中で泣いている彼女を、これからは更にしっかりと守っていかなくちゃいけない。
これから魔王として魔族を導いていかなくちゃいけない彼女の負担を少しでも和らげる為に。
*****
「落ち着いたかな?」
ルカが泣き出してしまったので、一旦話し合いは中止され、落ち着くまで休憩となった。
そしてしばらくしてルカも落ち着いたのを見計らい、ミュート様がルカに声をかけた。
「……はい。……申し訳ありませんでした」
「構わないさ。むしろ我ら龍人は魔法の研究に熱心な者が多く、かく言う私も貴重な魔法には目がなくてね。吸血鬼の秘術などと言う貴重な魔法を受けた唯一の人物を、こんなにも間近で観察する事が出来て、本当に興奮……ゴホン……嬉しく思うよ」
あっ、この人も変態の人だ。
まともだと思っていたミュート様の本性が貴重な魔法に興奮する変態だと知り、その衝撃で思考停止する俺を他所に話は進んでいく。
「話を戻そう。先程感じてもらった通り、リポウズ・ドリームにより進化したルカには、魔王をやる実力が十分にある。なので、よければ魔王をやってはくれないかな?」
「……やっぱり……私には出来ません」
「それは、どうしてかな?」
「確かに以前の吸血姫から新たに吸血女王へと進化した今の私なら魔王としての強さは十分かもしれません……ですが、魔王には私よりも相応しい人物がいるからです」
「相応しい人物……それは誰かな?」
「ふふ、実はおじ様もわかっているんでしょ?」
「ふむ、そうだね……確かに彼ならルカが認めるのもわかる。実力的にはまだまだだが……その分その人柄でこんなにも人脈に恵まれているのだから、きっと魔王として上に立ったとしても、民にも慕われ、良い魔王になるだろう」
ん? 俺がフリーズしている間に話が進んでいたようだが、何の話だ?
「はい、ですから私は彼を魔王に推薦します。骸骨将軍クリス十六世に」
「へ……?」
どう言う事だ? どこをどうやったらそうな結論になる?
「そうか……どうやら他の皆の意見も同じようだな」
ミュート様の言葉に混乱しつつも周りを見ると、皆んなの視線が俺へと向いており、目が合うと皆んなから頷かれた。
いやいやいやいや、おかしいでしょ! 骸骨将軍なんて大層な種族になったけど結局生身のない骨だよ? 魔物だよ? そんな奴が魔王? 無理無理無理。
「僕も師匠が魔王なら文句はないよ」
文句しかないよ! 民が可哀想でしょ! 今なら遅くないから考え直そう。
「俺たちは人族だけど、この街を保護してもらっている立場からしたら、クリス……様が魔王なら、面白そ……ゴホン、安心して暮らせると思うので賛成だ」
ジンの言葉に参戦するように頷くコリア。
いや、今面白そうって言おうとしたよね! 完全に友達が困る姿みて面白がってるだけだよね! 絶対ダメでしょ! 自分達の未来がかかっているようなものだからね!
「私もお兄様が魔王になるなら大賛成だよ! 何なら新しい四天王もなってあげる!」
その言葉は嬉しいけど、今は嬉しくない。
「私も愛人……ゴホン、従者として微力ながらご主人様のお力になります」
ルナーレの最近の発言が完全にアレなんだが……これは変態どもの影響だろうか……。
「私はルカレット様が決めた事に従うだけだけど、クリスが魔王になればきっとルカレット様を守って幸せにしてくれるんだろうね」
……ロザンヌさんのその言葉にハッとする。
確かに俺が魔王になれば、ルカが因縁のある勇者に狙われる心配もなくなり、守る事が出来る。
だからむしろこの提案は渡に船なのではないか……。
「クリス、別に魔王になったからと言って人族と戦う必要はありません。方法は何であれ、民をまとめ、守り、皆が笑顔になれれば良いのです。そして皆が笑顔になると言う事は、ルカレット様もまた笑顔にする事と同じではないでしょうか?」
確かにそうだ。
ルカは優しい子だ。
きっとルカが魔王になれば皆を幸せにしたいと願い、自分を犠牲にしてでも成し遂げようとするだろう。
それはルカが魔王にならなかったとしても、同じことだ。
きっとこの話を断ったとしても、今後何か悪い事があれば自分が断ったせいだと自分を攻め、落ち込んでしまう。
それならば……。
「どうだろうクリス君……魔王に……なってくれるかな?」
「……わかりました! 俺が魔王になります! 魔王になって、ルカも……魔族や、俺やリンのように意志のある魔物達も……皆んな笑顔で幸せでいられるようにしてみせます!!」
ルカの為、俺が頑張るしかない!
「ふむ! よく決断してくれた! 私も微力ながら前魔王として協力させて頂きますぞ! 魔王様!」




