顔合わせ
ルカとグラスの生還パーティーを行ったその夜。
夜も遅くなり、ルカとグラスもまだ本調子ではないだろうとの事で早々にお開きとなり、皆が帰った後……この家には俺とルカ、ミルカとルナーレの四人が残った。
てっきりグラス様もこの家で暮らすものだと思っていたし、本人もその気だったが……そこはルカが断固拒否した為、グラス様も最後まで抵抗していたが、結局領主城に準備された客室へと泣きながら向かって行った。
感動の再会の後なのに……過去にどんだけ嫌がられる事したんだ、あの真態は……。
そして今は、本来の姿では初顔合わせとなるミルカと、過去に因縁のある元勇者パーティーメンバーのルナーレを紹介するべく、ダイニングテーブルに四人が腰掛けている。
ちなみに俺が椅子に腰掛けると、その隣に素早く座ろうとしたルナーレよりも早く、そのありえない身体能力をフルに使い、俺でも見えない程のスピードでいつの間にかルカが腰掛けていた。
俺もあれから大分強くなったと思っていたが、まさか見ることすら出来ないとは……。
もっと鍛錬をしなくちゃと強く決意した。
その後、俺の目の前に若干残念そうな表情で腰掛けたが、目の前の俺を見て満更でもない表情に変わったルナーレと、その隣に、ルカを見てハァハァ言っているミルカが座っている。
いやミルカ、その姿では初対面なんだがら自重しろ!
いくら久しぶりに起きているルカレットを見たからって……見たからって……ヤバい……嬉しさで涙が出そう。
骸骨だから出ないけど。
「初めまして……いえ、挨拶はしませんでしたがお会いするのは二回目ですのでお久しぶりです、と言っておきましゃう。私はヤマト王国が第二王女……ルナーレ・ヤマトと申します」
そんな俺の状況を察してか、本来は俺が紹介すべき所をルナーレ自ら自己紹介してくれた。
さすが家事以外は出来る女性だ。
「お久しぶり……やっぱりアナタはあの時の勇「アイツの話題は止めましょう!」……」
ルカが勇者の事を話そうとした瞬間、食い気味にそれを制するルナーレ。
どんだけ勇者の事嫌いなんだよ……わからなくもないが。
「そ、そっか……えぇと……とりあえず、ルナーレさんがここに居ると言う事は、私たちの味方と言う事で良いのかな?」
少し困惑気味にしているが、そこは空気を読み、勇者の話題を避けるルカ。
さすが、家事も何でも出来る女性だ。
……うん、何でもないです……だから、ルナーレ……睨むの辞めた下さい。
「ゴホン……失礼しました。ルカレット様の言う通りです。今は人族軍に追われる身の私を匿ってくれている、この地の方々の仲間であり……クリス様……いえ、“ご主人様“の“下僕“です」
オイィィッ! いきなり爆弾ぶち込んできたよコイツ!!
しかもしっかりご主人様と下僕って所、強調してるし!!
「……ご主人様……?」
錆びた機械でも動いているように、ギギギと音でもしそうな程ぎこちない動きでコチラを振り向くルカ。
その顔は笑顔だが……目が笑ってないです……。
「勘違いしないでくれッ!! 人族側の王女であるルナーレを信用する為に、“ルナーレから“服従の契約を提案されて、“周りの指示で“俺が契約をする事になったんだッ!! だがら、あくまでも契約上の主従関係であり、対等な立場だし、やましい事は一切してないからッ!!」
何とか誤解を解こうと必死に弁明したが、わかってくれただろうか……。
「ふーん……そうなんだ……クリスはそう言ってるけど?」
「確かに私たちは契約上の関係かもしれませんが……私は契約など関係なく、私のご主人様はご主人様だけだと心から思っています」
やめてェェェェ!! これ以上爆弾をぶち込まないでェェェェ!!
「そうなんだね……二人の関係はわかったよ。それならこれから一緒に住むんだし私とも仲良くしてね。だって……私とクリスは“家族“だもん」
ルカもいったぁぁぁぁああ!!
俺の目の前では、笑っているが目が笑っていないルカとルナーレが、静かに睨み合っていた。
ちょっ! まっ! ……おかしいだろう!! 何でこんな骨しかない、男だか女だかわからない奴のマウントを、こんな絶世の美女二人が取り合ってるんだよ!
悪かったな骨しかなくて!! ……じゃなかった。
あまりに混乱し過ぎて、自分の言葉にキレてしまった。
だあぁぁもう、わからん! 誰か助けてくれぇぇぇ!!
「次は私の番だね! この姿だと初めましてだからわからないと思うけど、私は元四天王のミルカです! ルカレットお姉様! よろしくお願いします!!」
笑顔で睨み合う二人の空気など読む事もなく、自己紹介をするミルカ。
今はこの子が、その可愛らしい見た目の通り天使に見える。
「……えっ!? 四天王のミルカ!? どうしてミルカがここに? それにその姿は……?」
「ミルカは、ルカを目覚まされる為にその特殊な力が必要で、ヤマト王国の王都で捕まっていたのを助け出して来たんだ。それで何だかんだで今は俺が面倒を見ている」
「そうそう! その時のクリスお兄様が、颯爽と現れ、囚われの身の王女を救う王子様みたいで、とってもカッコよかったんだよぉ! あっ、前までの姿は私が幻術で作り出した姿で、この姿が本当の私の姿です」
「そうだったんだ……ミルカ……さん? ありがとう。お陰でまた皆んなと一緒に居られるようになったわ」
「えへへ……どういたしまして。それと私は呼び捨てで大丈夫だよ、お姉様」
「う、うん……所で、その……お姉様って呼び方なんだけど……」
「それは私がお姉様を敬愛している現れです!!」
「そ、そう……なんだ?」
ミルカのとても力強い言葉に、その後の言葉を呑み込み若干引き気味のルカ。
「あっ……もしかしてこの呼び方は……いや……だった?」
「そんな事ないよ!! いきなりだったからちょっとビックリしたけど……妹……が出来たみたいで……凄く嬉しい」
その言葉を聞き、俯き震えだしたミルカ。
「ハァハァ……お……お姉様ぁぁああ!」
「キャッ!?」
どうやらルカのその可愛らしい反応に自らの変態性を我慢出来なくなったようで、ミルカは机を乗り越えルカに飛びついた。
ルカも驚きはしていたが、そのずば抜けた身体能力で何なく受け止めて、胸に顔を擦り付けているミルカに苦笑いしながらも満更でもなさそうに頭を撫でている。
ミルカの言動が変態なのはあれだが……和む光景である。
「と言う訳で、この家の主であるルカの許可もなく勝手に二人を住まわせてしまってる訳だけど……このまま二人を住まわせても……良いかな?」
「うん、クリスが決めた事なら構わないよ。……だって私たち……家族……だもんね! クリスにとって大切な人たちなら、私にとっても大切な人たちだよ!」
……久々のルカとの会話だが……やはりルカは女神である。
俺の理性が少しでも弱ければ、ミルカのように飛びついていただろう……。
そしてそのミルカはと言うと、ルカの大切な人と言う言葉に感動して、既にルカの胸の中で昇天している。
「でしたら……これから一緒に住むのですから、私たちもルカレット様の家族のようなものですね!」
するとルナーレが間伐入れずにそんな事を言ってきた。
確かに……ルカはもちろん、ミルカやルナーレとはそれなりに一緒に暮らしているし、俺にとってはそう言っても過言じゃないけど……いきなり一緒に暮らす事になったルカは……。
「家族……」
……うん、流石に、寝ている間に勝手に住まわれて、その上そんな図々しい事言われたら怒るよね。
「……嬉しい!! 本当に私の家族になってくれるの!?」
と思ったらその逆でした。
「もちろんです! これから共にご主人様の“家族“として仲良くしましょう」
いや、ルナーレは俺の家族になりたかっただけだろ!
「凄いよクリス!! クリスが家族になってくれたら更に二人も家族が増えちゃった!!」
「う、うん……良かったね」
「うん!! こんな幸せな事ないよ……全部クリスのお陰だね。私……クリスと出会えて、本当に良かった」
まぁ……何にしても、ルカのこんな嬉しそうな顔を見れたのなら良かったか。
そんな感じでみんなの顔合わせが終わり、そろそろお風呂に入ろうかとなったが、そこで一つの懸念事項がある。
そう……お風呂だ。
人族軍との戦いの前は命令で友達になったのだと気付いたルカが後ろめたさで誘わなくなっていたが……それまではお風呂と言うと毎回ルカに一緒に入ろうと誘われ、その度にいろいろ理由を付けて何とか断っていたのだ。
あの戦いでその命令から解放された俺は、それでもルカの友達である事を選んだ。
それはすなわち……またルカに一緒に入ろうと誘われる誘惑の日々が始まると言う事だ。
最近はルナーレの手前、ミルカのお風呂も断っていたので、今日もそれを理由に断るか、と思案していたが、意外なことに最初にルナーレにお風呂を進められたルカは、そのまま俺を誘うことなく一人でお風呂に入ってしまった。
これは……どうした事だ? ……また何か悩み事でもあるのだろうか……もしや! グラスのようにルカに嫌がられる事を何かしてしまったとか!?
そうやって俺が一人悩んでいると、しばらくしてお風呂から戻ってきたルカ。
その後は今だに気絶しているミルカを起こしたルナーレが一緒に入り、最後に俺もお風呂へと向かう。
しかし、その間も思い悩んでいた為、全く安らぐ事が出来なかった。
だが、懸念事項はお風呂だけじゃない!
そう! この後は就寝の時間だ。
きっとお風呂は久しぶりだったから、一人でゆっくり入りたかっただけだ。
寝る時になれば、いつものルカなら、一緒に寝ようとせがんでくる筈!
そう自分に言い聞かせ、寝る準備を始めるルカを見るが、いつまで経っても俺を誘ってくる気配がない。
そして交わされる、おやすみの挨拶。
各々自分のベットへと横になり、消される電気。
立ったまま固まる俺。
その後、衝撃で意識が飛び、気がつくと外は既に明るくなり出した頃だった。
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どうしよう……家族になったんだって自覚してきたら……一緒にお風呂に入ろうも……一緒に寝ようでさえ……急に恥ずかしくなって、言えなくなっちゃった!
そんなの友達でも普通だし、家族なら当たり前の事なのに……私、どうしちゃったんだろう……?
あぁ〜! 明日からどんな顔して顔合わせれば良いかわからなくなってきちゃったぁ!!
グラスによる偏った教育により、ルカは自分に芽生えたその感情を理解する事も出来なかった。
こうしてクリスとルカの新たな悩める日々が始まったのだった。




