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ボーンライフ  作者: ユキ
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ルカレット・エレンシア②

「それは違う!!」


 私の言葉を否定した声の主を確認すべく、後ろを振り返る。


 そこには頭に黒いツノを生やした大柄な骸骨兵が立っていた。


「……クリス」


 その骸骨兵……いやクリスは、私に初めて出来たお友達……。


 大きな体だけど、とても優しい人……。


 骸骨兵として交わされた契約が切れてもなお、こんな私のお友達と言ってくれた大切な存在……。


 例え他の骸骨兵と全く同じ姿で沢山の骸骨兵の中に紛れ込んでいても、私は彼を見間違う事はないだろう。


 だって、この魔力を見る事が出来る私の瞳には、彼から発せられる優しい魔力がとても輝いて見えるから。



「ルカのせいでみんなが死んだんじゃない!! 悪いのは全て自分勝手に他人を傷付けている勇者たちだ!!」


 そんな彼が私は悪くないと言ってくれている。


 でも……。


「それでも……私がいなければ……お父様の顔を斬られる事も……グラスの腕が斬り落とされる事も無かった……それが原因で……死ぬ事も……。二人とも、きっと私を……恨んでいるに……違いないわ」


「……ルカは勘違いをしているよ。ルカのお父さんやグラスが、その身をていしてルカを守ったのはルカのせいじゃなく……大切なルカを守りたいと、自らの強い意志で、ルカの為にした事だ。ルカを守った事を誇りに思う事があっても、恨む事なんて、決してない!」


 そんな事! ……いや……きっと彼の言っている事は正しいと思う……。


 誰よりも優しかったお父様や、本当の子供のように私を育て、身を案じてくれていたグラスが……私を……恨むはずがない……。


 それでも……。


「だとしても!! お父様も……お母様も……グラスも……私たちを慕ってくれた、エレンシア王国の国民だって……みんな……みんな、私を残して死んでしまった。……私は……私には……もう、家族と呼べる人が……誰も……居なくなって、しまった」


 そう……皆の死を自分のせいにしたり……恨まれているなどと思い込んでいたのは、この事を考えたくなかったからだ……。


 結局私は体が成長し強くなろうと……中身は親しい人たちを全て亡くしたあの、6歳の少女のまま……。


 心は何も成長していないし……子供のままで、寂しいのだ。


 何度も何度も同じ夢を繰り返し、目覚める事が出来ないのも……目覚める事でその事実と向き合う事を恐れていたから。


 何より……例え悪夢だとしても……大切な家族と過ごす時間を……また……過ごしたかった。


「それなら……それなら俺が! ルカの家族になる!!」


「ふえ……?」


 彼のその突然の告白に、それまでの考えも吹き飛び、思わず変な声が漏れてしまった。


「ルカの家族になって……これからは、俺がルカをずっと支えて行くよ!!」


 その力強い言葉と、表情がない筈の彼の顔から、真剣さが伝わってきて……彼が本気で言っている事が理解出来た。


 それと共に、それまでの優しい彼の魔力にも力強さが加わり、そのまま私を包み込んでいく。


 すらとその魔力から、私を守ろうとしてくれている彼の真剣な気持ちが、肌を通して暖かさと共に伝わってきた。



「あぁ……」


 涙が瞳から溢れてくる。


 それを抑えようともせず、これまで溜め込んでいた想いと共に次から次へと流れ落ちてくる。


「ルカ……俺と……家族になってくれない……かな」


 そっと私の頬を流れる涙を拭う彼の手は……硬く、冷たい筈なのに……優しく頬を撫でられると……その場所が途端に熱を持ち暖かくなる。


 ぁあ……彼なら……。


 私の寂しさを全て包み込み……その優しさで満たしてくれる……。


 ……彼となら。


「……はい……よらしく……お願いします」


 そう思った私は自然と口から返事を返していた。


 でも……その言葉は私の本心から来るもの……。


 その証拠に、私の答えを聞いた彼が思わず私を抱き締めると……冷たいはずの彼の体の温もりで、私の心の隙間は満たされていった。


 これほど満たされた気持ちになるのは……お母様とお父様に抱き締められたあの時以来だ。


 私はその気持ちを確かめるように、私を強く抱き締める彼を抱きしめ返した。



 ふと彼を抱き締めながら前を向く。


 するとそこには……お母様とお父様が肩を並べて、微笑みながらコチラを見ていた。


 まるで私の幸せを祝福しているようなその姿に、彼に抱き締められ止まっていた涙が再び溢れてくる。


「お母様……お父様……ありがとうございます」


 私のその呟きに頷く二人。


 私の呟きに気付いたクリスは、抱き締める力を緩めると私の目線の先を振り返った。


「私の代わりに……娘を守ってやってくれ」


「クリスさん……娘を……どうか、よろしくお願い致します」


 お父様とお母様の言葉に深く頷くクリス。


「お二人共……ルカ……いえ、ルカレットさんはこれから私が絶対に守りますので……どうか見守っていて下さい」


 クリスの言葉に満足そうに微笑んだ二人は、徐々に光の粒子に変わっていくと、私の胸の中に吸い込まれて行った。


「お母様……お父様……ずっと……一緒にいてくれたんだね」


 瞳を閉じて、そっと両手で二人が消えた自分の胸を抑えながら、その暖かさを実感する。



 しばらくそうしてから瞳を開け、静かに私を見守っていてくれている彼を見た。


「私の中にはお母様もお父様もいる。……そして私の横にはクリスが……だからもう……大丈夫!」


 その言葉に、クリスはそっと私を抱き締めてくれた。


「俺だけじゃない……現実にはルカを待ってくれている人が他にもいるよ」


 彼の言葉に、これまでグラスと共に私を支えてくれていたロザンヌをはじめとした魔術師たちや、私を慕ってくれていたローレンの住民たちの顔が思い出される。


「だから……行こう!」


 私から離れると手を差し伸べるクリス。


 その手を掴んだ私は彼を見て、力強く返事をした。


「うん!!」


 その言葉と共に、今まで闇に包まれていた世界が光に包まれ、何も見えなくなった。



 *****



 目覚めるとそこは見慣れたベットの天蓋だった。


 そして私を心配そうに見つめるロザンヌにリンにコリアにジン。

 それと見慣れない可愛らしい黒いベビードラゴンもいる。


 この人たちが私を待ってくれていた人たち……。


 そう思うと私の胸がジンワリと暖かくなるのを感じる。


「ルカレット様、大丈夫かい?」


「うん! ……あっ! ごほっん……あぁ、大丈夫。……心配をかけた」


 心配そうに聞くロザンヌに、体を起こしながら答えたが、久しぶりなので思わず素の自分で答えてしまった。


「ハハハ、もう演技する必要はないですよ。みんなルカレット様が本当は可愛らしい方だって知ってますから」


 ロザンヌのその言葉に目を見開き周りを見ると私を見ていたみんなも、うんうんと頷いていた。


「こんな可愛らしい部屋で、そんな可愛い部屋着を着ていたらね……」


 ジンの言葉に自分がいつものお気に入りの部屋着を着ている事に気付く。

 途端に顔が熱くなるのを感じた。


 穴があったら入りたいとはこの事を言うのだろう。


 とりあえずガバッと布団を被り顔を隠すが、それでも周りからの視線を感じ、いっこうに顔の火照りが取れない。


「大丈夫です! 例えルカレット様か可愛い物が大好きな、可愛らしい女性だとしても、私たちはみんなルカレット様をお慕いしていますから!」


 その言葉に、恐る恐る布団をズラして目だけを出して見ると、そこには真剣な表情のコリアがいた。


 そうだ……クリスも以前、見た目や仕草を無理して変えなくても、私が今までやって来た事で、評価としてみんなに伝わっているし、認められているって言っていた。


 あの時の私は、自分のやって来た事に自信を待てなかったけど……今のコリアを見れば、今までやってきた事は間違ってなかったと、自信を持って言える。


 なら、今までのように無理をして自分を偽る必要もないだろう。

 そう考える事で自信を持てた私は、被っていた布団をはがす。


「コリア……ありがとう」


「いえ、それよりも……無事に起きてくれて……良かったです」


「本当だよ! ……目覚めてくれて……良かったよ」


 涙ながらに言うコリアとロザンヌにつられて、私の頬にも涙が伝う。


「ありがとう」


 思わず出た感謝の言葉に、二人は涙ながらにニッコリと微笑んだ。


 そして、周りを見渡し、ニッコリ微笑んでいるリンとベビードラゴン、いつも気怠げな表情だか、今回はそこに少し笑った表情のジンを見て言った。


「皆も……ありがとう」


 ガバッ!


 その言葉に歓喜したコリアが思わず私に抱きついて来た。


「ルカレットさまぁぁ、ほんとうにぃぃ、よがぁっだぁあ」


 いつものクールなコリアはそこになく、子供のように泣きじゃくる。


 それだけ心配させてしまっていたのだろう。


 その事に再び胸が熱くなるのを感じながら、あやすようにそっと彼女の背中をさする。


「ぁあ……ありがとう」



 そこでふと気付く。


 先程まで夢の中で一緒だったが……彼はどこに居るのだろう?


 周りをもう一度見回すと、今まさに隣のベットから起き上がってきたクリスを見つけた。

 

 そしてコチラを振り向き、目と目が合うと、コリアに抱き付かれている私を見て、ニッコリ微笑む。


 実際はクリスに目はないし、表情も変わらないので気のせいかもしれないが……何故か、そうだと言える。


 不思議な感覚だが……きっと、家族として心が繋がっているからだろう。


 その思うととても嬉しい気持ちになり、自然と笑みが溢れてくる。



「いやぁ〜良かった良かった」


 その時ここに居るはずのない人物の声がした。


 クリスもどうやら驚いているようで、二人で声のした方を振り向いた。



 振り向いた先。


 そこにはソファに座りながら優雅に紅茶を飲む、美青年エルフ姿のグラスの姿があった。


「グラスッ!? 生きていたの!?」


 グラスは手に持つティーカップをテーブルに置くと、コチラを見て腕のない方の手を持ち上げ振った。


「この通り、左手は無くなっちゃったけど、ピンピンしているよ」


「でも、どうやって? あの時自らの魔法で大怪我を負ったうえ、動けない体で地下深くに生き埋めになった筈です……」


 クリスの疑問に不敵に笑うグラス。


「アレは……勇者を油断させる為の演技さ。実際は薄皮一枚残して体の内側を回復させていたから、見た目ほど重症でもなかったんだ」


「なっ!? ……それならもっと早く戻って来て下さいよ!」


「いやいや、無茶言わないでよ。地上じゃ人族軍が占領しているから大きな音も立てられないし、なるべく気付かれないように回り道をしながら少しずつ穴を掘るのは大変だったんだから」


「そうだったんですか……それは事情も知らずに申し訳ありませんでした」


 そうだったのね。

 何はともあれ……生きていてくれて、良かった。


 その時、申し訳なさそうに謝るクリスの頭の上にベビードラゴンが飛んで来て乗っかった。


「よっと。クリス君、お疲れ様。ルカもグラスも無事に戻って来て何よりだ」


「……師匠、この偉そうなベビードラゴンは誰?」


 どうやらグラスもベビードラゴンが誰なのか知らなかったようだ。

 でも……この子の発する魔力……どこかで見た気がするんだよね……。


「何だグラス、私の事を忘れたのか? 私だ私……元魔王、ドラミュートだ」


「「えっ!?」」


 その自己紹介にグラスと共に驚き、思わず二人して声が出てしまった。


「魔王様! どうしてそのようなお姿に!?」


「それがな……まぁ、簡単に言うと、一度勇者に殺されたら、この姿に生まれ変わったのだ」


「ぷくぅ……あはははは! 何それ!! 傑作だね!」


「笑い事ではないわ! この脆弱な力じゃ魔王として今の混乱する魔族領をおさめることもできぬし、大変なんだぞ!」


「ははは、ごめんごめん。でもあのドラミュートが随分可愛らしい姿になってたから、ついね」


 確かに……可愛い。


 人形みたいな二頭身の体に、クリッとした愛くるしい瞳。


 ドラゴンと言えば硬い鱗に覆われている筈だが、動く度に変形する鱗にその硬さは感じられず、むしろ柔らかそうだ。


 何より、呼吸と共に上下する他よりも明らかに柔らかそうなプニプニのお腹……。


 ちょっとだけ、触らせてもらえないだろうか……。


「こら、ルカ! そのにょきにょきさせて近付いてくる手はなんだ」


 おっと、無意識のウチに手が魔王様のお腹に向かっていた。


「申し訳ありません、魔王様」


「今はもう魔王ではないゆえ、気軽にミュートと呼びなさい」


「えっ……そ、それではミュート様。ミュート様は何故こちらに?」


「その話はまた今度にしよう。今は私の事より、二人の無事の生還を祝おうではないか」


「そうだね! これでルカレット様率いる私らは全員あの戦いを生き延びれた事になるんだ。めでたい事だよ!」


 魔王様とロザンヌの言葉で、あの戦いで誰もかける事なく生き残った事を知り、今更ながら喜びが心の底から溢れてきた。


「それじゃ、今夜はパーティーですね! 腕によりをかけて作りますよ!」


「「それは止めてくれ!!」止めて!!」


 クリスの横に居たメイド服姿の見覚えのある女性がそう言うと、クリスと、初めて見るが、体から発せられる魔力に見覚えのある可愛らしい少女が声を揃えて止めていた。


 はて? あの人たちは?


 どちらも見覚えのある女性に引っ掛かるものがあったけど、みんなが楽しそうに笑い話しているので、それよりも今は、この幸せな皆との時間を楽しむ事にしよう。

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