ルカレット・エレンシア
それは突然起こった。
私の六歳の誕生日を祝って城下で開かれているお祭りをグラスと共に楽しんでいると、王城の方から爆発音がし、グラスに庇われながらもそちらを見ると王城の一部が崩れ、煙が上がっていた。
あぁ……またこの夢かぁ……。
幼い私は両親を心配し、グラスに止められるのも聞かずに6歳で既に四天王クラスはあった魔力総量に物を言わせ、王城へと駆けた。
「お母様! お父様!」
「ルカ!? どうしてここに!?」
あぁ……お母様……お父様。
生きていた頃のお母様とお父様に会えるのは嬉しいけど……その分助けられらなかった当時の自分の無力さを突きつけられて……辛い。
驚く両親の姿を見て、幼い私は無事だった事を安堵すると共に、周りで傷だらけで動かない兵士達、両親の傷だらけの姿に不安は更に増した。
そしてその元凶と呼べるであろう白い鎧に白い兜を被った人物の右手には、数々の宝石が散りばめられ至る所に金の装飾が施された、美しい見た目の剣が握られいた。
これだけの人数を殺している筈なのに、鎧や兜に返り血が付いていても、剣には一切の血痕や、それどころか汚れ一つ見られない。
その異様さと、その人物から発せられる強者の圧も加わり、心の底から湧き出すような恐怖心が抱かされた。
私が恐怖で震えていると、白い戦士は何の前触れも見せずに一瞬で私の目の前に移動すると、その恐ろしい剣を振り上げた。
シュッ! 「グッ……」
次の瞬間来るであろう痛みを恐怖で目をギュッと瞑り待っていたが、いつまで経っても体に痛みが無い。
恐る恐る瞳を開けると、目の前には見慣れた大きな背中が丸くなり蹲っている。
「……お父……さま? ……お父様!?」
すぐに自分を庇って怪我をしたのであろう目の前のお父様の前に回り込み状態を確認する。
お父様は白い戦士に斬られたのであろう顔を手で押さえているが、自分の手よりも遥かに大きなその手でも覆いきれない程の大きな傷が顔に出来ており、血が次から次へと流れ落ちていた。
「す、すぐに回復するね!!」
私は両手をお父様の顔に向け、溢れる涙も気にせず、拙いながらもグラス先生に教えてもらった治癒魔法を必死にかけた。
「どうして……どうして治ってくれないの!?」
しかしお父様の傷はいっこうに塞がる気配がない。
「当然だ……俺の剣は全てを斬り……斬ったものの概念すら斬り裂く……最強の剣だ……塞がっていたと言う事実が無くなり、斬られた状態が正常なら……治療など意味がないだろう?」
いつの間にか離れた位置に移動していた白い戦士。
お母様がその間で構えており、きっとお母様が攻撃をして私たちから離したのだろう。
その白い戦士の先程の言葉。
幼い私では全てを理解出来なかったが、治療が意味をなさないと言う事だけは理解出来た。
そして傷口から今も止めどなく溢れ続けるお父様の血に、それがどう言う結果をもたらすかも……。
「そんな……」
膝から崩れ落ちる私。
「ルカ……ありがとう」
その優しい言葉に顔を上げると、お父様は優しく私に笑いかけていた。
「ルカの治癒魔法で大分楽になったよ」
嘘だ。
今ならハッキリわかる。
顔の傷もそうだが、体の傷も白い戦士のその剣でつけられたのだろう、全く治っている様子はなかった。
幼い私もその事実に薄ら気付いていたが、そのいつも見せるお父様の優しい表情に、心が安心感で満たされ、先程まで六歳の少女には重すぎた緊張や恐怖心が抜け、一気に体の力が抜け、地面にへたり込んでしまった。
そんな私の頭をお父様は撫でると、立ち上がり今も白い戦士と睨み合っているお母様の所へ歩き出した。
そこにグラスが追いつき、私を庇うように覆い被さる。
「グラス……ルカを頼む」
「お父様……お母様……」
「ルシエール! 変わるから一旦下がって回復するんだ!」
私が無事だと判断したグラスは、お父様を心配し前にでる。
「残念ながら、私はもう手遅れだ。……ヤツの剣はどんなものでも斬るどころか、斬った対象の概念すら斬り裂く。……ヤツの剣で斬られたら最後……回復どころか、止血すら出来なくなり死を待つだけになる」
お父様の言葉に、衝撃で言葉が出なくなる。
どうして? ……さっきは楽になったって言ったのに……どうして死んじゃうの?
「そんな……ありえない……そんな事が出来るのは、勇者が神よりその力の一部を授かったギフトぐらいなもの……まさか!? その武器がギフトだとでも言うのかい!?」
「……そのまさかだ。……この武器、最強の剣は……俺が勇者として召喚された際、神より授かった……ギフトだ」
勇者? ……お父様とお母様がいつも寝る前に話してくれた……あの、伝説の勇者様? じゃあ、なんでお父様とお母様を攻撃するの? ……お父様達だけじゃなくて、城に勤めるおじさん達も……伝説の勇者様は、私たちを救ってくれるんじゃなかったの?
「なっ!? ……いや、でもそれはおかしい。人族が賢者の石で召喚した偽の勇者ではなく、神より使わされ、神の意思を託された、本物の勇者であるキミが……何故この国を狙うんだ? ……これまでの神はこの世界の人々を一番に思い、人々だけではどうしようもない時、神の使いとして勇者を使わし手助けしてくれていた筈だ」
「そんな事か……そんなのは簡単な話だ……神はお前たち魔族を……害悪とみなしただけの事……だから俺はここにきて……お前達を皆殺しにきた」
……私たちが……害悪? そんなの……そんな筈ないもん!! だってお母様がいつも言ってたもん!
『私たち魔族は、最初の勇者様であるスズキ様の意思を継ぎ、この荒れた大地を少しずつ人の住める状態に戻すのが使命なの。だから人族に裏切られても、私たちはこの大地を元の綺麗な大地に戻す事を諦めちゃいけないの』って!!
なのに……なのに、害悪だなんておかしいよ!!
するとグラスに向かい突撃してきた勇者にお母様とお父様の魔法が連続で放たれ大爆発を起こす。
「グラス様、お願いです。ルカを連れて逃げて下さい!」
「なっ!? それなら勇者の足止めは僕がするから、ルカの両親であるキミ達がルカを連れて逃げるべきだ!」
「……グラス様、私たちの怪我はもう治す手立てがありません。……ですので、そう長く保たずに二人とも生き絶えるでしょう」
そんな! お父様だけじゃなくてお母様まで!? そんなの絶対いや!!
「ッ!? いや……お母様!! 死なないで!!」
力の抜けた体に必死に力を入れ立ち上がると、お母様に抱き付き懇願する。
するとお母様は私を優しく抱き締め、微笑みかけてくれた。
その笑顔に安心し、さっきの言葉はきっと嘘なのだと思ったが、その後のお母様の言葉は更に追い打ちをかけるものだった。
「ルカ……ごめんなさい。……でも、もうどうしようもない事なの……だから、どうか私たちの分も生きてね」
「いやいやッ!……お母様と、お父様と一緒にいるの!!」
「心配しなくても、私たちはずっとルカの側で見守っているよ。私たち吸血鬼は、魔力に想いをのせて、永遠に一緒にいる事が出来るのだから……」
お父様は魔法を放っている手とは反対側の手をこちらへ向け、魔力の玉を飛ばして来た。
【リポーズ・ドリーム】
この技は吸血鬼でも最上位の吸血鬼にしか使えない技で、魔力に自らの魂の一部を載せて相手に渡すものだ。
それにより、使った本人は弱体化するが、魔力を渡された者は魂の核が上がり、より上位の存在へと昇華される。
この技はその特性上、吸血鬼と言う不死にも近い存在が、自らの命が危ぶまれた時にしか使われる事がない為、この技を編み出されて以降、これまでに使われたと言う前例は無い。
お父様がこの技を使った事で、それまで心の中で何とか否定し信じきれなかった事が、現実のものとして突きつけられ、心の中に絶望が溢れてきた。
しかし、その魔力の玉が私の胸の中に入ってくると、絶望に支配されかけた私の心の中に、とても暖かな感情が湧き上がってくる。
「さようなら、ルカ……私たちの最愛の娘……アナタをいつまでも、愛しているわ」
お母様も同じように魔力の玉を作り出すと、その玉が胸の中に入ってくる。
二人の想いが魔力と共に体の中に入ってきた事で、二人がどれだけ自分を愛しているのか……その想いを心の底から理解することが出来た。
その暖かさに、嬉しい気持ちと、それまでの絶望感が混ざり合い、幼い私の心の中はぐちゃぐちゃになってしまい、私は何も考えられなくなってしまった。
「うぅ……おとうさまぁぁ……おかあさまぁ……」
その後の事は気絶してしまい、どうなったかわからない。
目覚めた時には、あの森の家のベットで寝ており、エレンシア王国が勇者に攻撃されてから既に二年が経過した後だった。
お母様やお父様、そして国民やエレンシア王国があの後どうなったのかグラスに聞いてもはぐらかされるばかりでなかなか教えてもらえなかったが、何度も何度もお願いし、何とか真実を教えてもらう事が出来た。
……お父様、お母様……そしてエレンシア王国の国民達は……あの後、勇者と後から来た人族軍により……皆殺しに……されてしまったらしい。
いまいち信じきれなかった私はグラスに懇願し、体が動くようになってから滅亡したエレンシア王国に連れて行ってもらったが、そこには荒廃した大地をお母様達と国民で一生懸命復活させ作り上げたあの綺麗なエレンシア王国は既になく……残ったのはボロボロに崩れ落ちた廃墟群と……元の荒廃した土地に戻ってしまった大地だけだった。
その変わり果てた光景を見て涙した。
どうして私だけ生き残ってしまったのだろう……。
『……アナタのせいよ』
すると、目の前に幼かった私がこちらを見ながら私を責めてくる。
いつの間にか周りには何もなくなり深い深い闇の中に二人浮いているような状態で向かい合っている。
『……アナタがいなければ……お父様もあの剣で斬られる事もなかった』
そうだ……私にせいでお父様は……。
『グラスだってそう……私を庇わなければ腕を斬られる事もなかった』
すると目の前に勇者が現れ、あの時のように斬りかかってきた所をグラスが庇い左腕を切り落とされる。
「グラス……ぁぁ……あぁ」
その光景を見た私は、私を庇って斬られたお父様とグラスが重なり、絶望感で心の中が侵食されて行った。
『キミのせいだ』
するとそんな私に追い打ちをかけるように、ボロボロの状態のグラスが目の前に現れ、私を責めてくる。
『アナタのせいよ』
『お前ののせいだ』
・・・・・
お父様、お母様、お城の兵士、それはどんどん増え、皆が同じように私を責めてきた。
「私さえ……いなければ」
自分で発したその言葉に、心を締め付けられるような痛みが走る。
「それは違う!!」
その時、どこか懐かしい……優しくも力強い声が、そんなら私の言葉を否定した。




