蹂躙
ルカレットの命令で目の前の敵を蹂躙すべく進軍を開始した骸骨兵達。
先頭の骸骨兵達が敵とぶつかり徐々に戦闘が広まって行く。
前の骸骨兵がやられようがお構いなしに進軍する骸骨兵達。
骸骨兵はただ敵に向かって剣を振り回すだけの人形のような魔物。
対して兵士達は常に鍛錬を積んできた猛者達だ、数が倍程度なら兵士達が負ける事はありえない。
しかし、骸骨兵達の戦力は兵士達の10倍近い。
最初こそ連携のとれた動きに拮抗を保っていたが、それも物量の差で絶え間なく襲い続けられる事で、兵士達も疲れ、一瞬連携が途絶えた所から徐々に崩れ、あとはなすすべなく蹂躙されていく。
俺の体は今まさに目の前で他の骸骨兵に気を取られ隙を見せている兵士の背後から歩み寄り、振り上げた剣で右肩から左脇に斬り裂いた。
斬られて怯んだ兵士に周りの骸骨兵が群がり、数秒後には兵士の見るも無惨な亡骸がそこに残る。
周りには既にそんな無惨な亡骸がいくつも転がっている。
俺は隊列の後方だった事もあり、ここまでは既にトドメを刺された亡骸がほとんどで、たまに生きている兵士が居ても既に満身創痍の状態で、先程のように対して苦労する事もなく倒す事が出来た。
順調に進軍を進めながら周りの流れにのり前へ前へと進軍していく、そんな時ある兵士を見つけた。
そいつは他の兵士と違い動きやすさを重視しているのか軽装備の鎧を纏い、足元には今まで見てきた他の兵士達よりも明らかに多い数の骸骨兵の壊された残骸が転がっている。
それなのにたいした怪我をしているわけでもなく、どこかまだ余裕のある感じで周りの骸骨兵と相対していた。
明らかに今までの奴らとは違い強いであろうこの軽装の兵士を次のターゲットにした俺はゆっくりと近付いて行くと、向こうも俺に気付いたのか直ぐに剣をこちらに向ける。
しかし、剣をこちらに向けると先程までの余裕のある戦闘の様子と雰囲気が代わり、鋭い殺気と共に剣を横に構えて何か溜めるような感じが見てとれた。
何かわからないけどヤバいと思った瞬間、軽装の兵士は常人ではあり得ない速度でこちらへ接近してくる。
その時横から吹っ飛ばされてきた兵士が軽装の兵士とぶつかりそうになり、そいつを避ける為軽装の兵士は軌道をズラし横を通り過ぎて行った。
たまたま吹っ飛ばされてきた兵士を避ける為軌道をズラしてくれたからよかったが、本当ならあのまま間合いを詰められ反応も出来ずに俺は斬り捨てられていただろう。
あんなのこの体の素人丸出しの剣技じゃ叶うはずがない。
その証拠に通り過ぎた先でそこに居た他の数体の骸骨兵が斬りかかって行くが、意図も容易く両断され動かなくなった。
そして体勢を整えた軽装の兵士はこちらに向き直り、再び構えの体勢に入る。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!何とか体を動かして避けないと殺される!
必死に体を動かそうとするがやはり言う事を聞かない
動け!動け!!動いてくれっ!!!
また軽装の兵士が何かを溜めているのを感じる。
何で動かないんだよ!俺の体だろ、言う事聞いてくれ!
心の中で叫んでいる間にも何かを溜める気配が強くなっていき、次の瞬間、とてつもない速さでこちらに斬りかかってきた。
クソッタレがぁーー!!うごけえぇぇーーーーっ!!!!
軽装の兵士が剣を横から振り抜こうと迫る。
とてつもない速さの筈なのにスローモーションに見える動き
そして俺の体がギリギリで斬られるその時
必死の思いが通じたのか、今まで全く言う事を聞かなかった体が遂に動きだし、後ろに下がる事でギリギリの所で斬撃をかわす事が出来た。
まさかただ目的の為向かってくる事しかしない骸骨兵がかわすとは思わなかったのだろう、目の前で驚いた表情で固まる軽装の兵士。
その時少し離れた所で大きな爆発が発生し、俺達を爆風が襲った。
爆風で周りの砂が舞い上がり視界を砂煙で塞がれた軽装の兵士は、目を腕で守りながらしゃがんでいる。
この爆風と先程の事で頭は混乱しているが、俺の体はそんな事は関係無いと言わんばかりに再び勝手に動き出し、体勢を立て直すと軽装の兵士目掛けて剣を振り上げ、そのまま振り下ろした。
キンッ!
ギリギリの所でその斬撃を防いだ軽装の兵士だったが、体勢が崩れた状態で微かな気配に反応して咄嗟に防いだ為、まともに受ける事も出来ずにこちらの剣圧に負けて持っていた剣は弾け飛び、そのまま倒れ込んだ。
追撃をする為すかさず近づき剣を切り上げる俺の体。
「骸骨兵よ、攻撃をやめなさい!」
振り下ろされ、軽装の兵士を切り裂く直前、ルカレット様の命令を聞き俺の体は停止した。
周りの戦闘音も一斉に止み、今までの騒音が嘘のように戦場に静けさが戻る。
先程の爆風で上がった砂煙が徐々に収まり、爆発のあった少し高い丘の上に二人のシルエットが浮かび上がる。
最後に風が吹き完全に砂煙が消えると、そこにはルカレット様が堂々と仁王立ちをし、その横に戦闘前に喚いていた男と指揮をとっていた男の頭から下の無い生首を掲げる副官のグラス様がいた。
「人間達よ、お前達の領主、並びに大隊長は私が討ち取った。武器を捨て降伏するのなら、命は助けてやろう。直ちに降伏するがよい」
この言葉に反論する者は誰もおらず、戦場に残った僅かな生き残りの兵士達は武器を捨て降伏をした。
項垂れる者、悔しがり泣き崩れる者、生き残った事を素直に喜ぶ者と多様な反応をしていた。
また、ローレンの街でも防衛の為に残った僅かばかりの兵士や、戦闘に参加する為武器を持って集まった街の人達も城壁からこの戦いを見ており、魔族との圧倒的な戦力差に絶望し、素直に門を開け降伏した。
その日、ローレンの街は魔王軍四天王が一人ルカレットの支配下に入るのだった。