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ボーンライフ  作者: ユキ
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服従の契約

「どうやら上手くいったようですね」


 ビジョンの魔法で人族軍の様子を見ていたリン様はそう言うと魔法を解除した。


 その言葉を聞いた会議室の面々は皆一様に喜び、安堵した。


「流石リン様です。お陰で我々は命拾いしました」


「いえいえ、クリス様の骸骨兵による情報や、魔術師様達の魔法による陽動あっての事です」


 リン様は謙遜しているが、やはりリン様の作戦のお陰だろう。



 リン様の考えた作戦は、俺たちが立案した森を出てうって出るでも、街での防衛戦でもなく、森に人族軍を迎え入れたうえで、森に住む強力な魔物達と戦わせる事だった。


 人族軍の強みは洗練された連携と、その数を生かして絶え間ない攻撃をしてくる事だ。


 その為、森を出て打って出た場合、必然的に戦場は荒野になり、そのような場所では人族軍が有利に戦う事が出来てしまう。


 対して、森では周りの木が邪魔をして小隊単位でしか連携が取れず、更に足場の悪さもあり、人族軍は思うように戦う事も出来ない。


 そこに人族領では見ないような、強力で、知識が高く、狡猾なこの森の魔物達と戦う事になれば、ひとたまりも無いだろうとの事だった。


 唯一の懸念事項は勇者の存在だ。


 アレは単体で軍とも戦える化け物だから、どんな作戦を立てた所で勇者には無意味だろう。


 ただ、どう言う訳か今回はその勇者が本部のテントから出てくる気配がなかった。

 

 それもあり、勇者が油断している隙に人族軍に多大な被害をおわせる事で、勇者出陣を待たずに撤退させる作戦だった。



 こうしてこの作戦を実行するにあたり、魔術師達の魔法で人族軍の周辺の草木を操ったり、霧を出したりして人族を魔物のテリトリーに誘導して戦わせる方法や、俺の分体である骸骨兵を使い、逆に魔物を人族軍におびき寄せる方法がとられた。


 その結果、こちらは直接の戦闘を避けられ被害はゼロとなり、たいした労力を使う事なく人族軍に甚大なダメージを負わせる事に成功した。


 また、森の魔物が戦う事で、こちらの存在が人族軍にバレる事なく森の強力な魔物にやられたと印象付け、追い返す目的も果たせた。


 と言うのも、その後のビジョンでの観察の結果、どうやら人族軍は何かを探しながら森へ進行していると言う事がわかったからだ。


 なら、敵はまだこちらの存在に気付いていない可能性が考えられた。


 ビジョンの魔法では遠くの景色を見る事が出来ても、音を聞く事は出来なかった。


 そこで、森へ侵入してきた人族軍の進行方向の地面に俺の操る骸骨兵を埋めて偵察させた所、兵士達の会話から人族軍が探しているのはローレンの住民や俺たち生き残りの魔族ではなく、王国の王女様を探していると言う事がわかった。


 以前コリア達の潜入で報告のあった、勇者の仲間の僧侶が確か王女だった筈だ。


 あの勇者パーティーで唯一のまともな人物が逃げ出すとか……知ってはいたが、やっぱり勇者は相当ヤバい奴だと言う事だろう。



 話はそれたが、そうとわかれば尚のことこちらに魔族がいる事を悟らせずに人族軍を撤退させる今回の作戦こそベストとなり、作戦は実行された。


 結果は冒頭の通りこちらの大勝利だ。



「……ん、んん〜ん」


 その時、会議室の横に設けられた簡易ベットに今まで寝ていた人物が起き出す声が聞こえた。


 周りで喜び合っていた者達もその声に気付き、その者へと視線が集まる。


「……ここは? ……ッ!? だ、誰!? きゃっ!?」


 その人物は眠そうに目をこすし、ボーっとしていたが、しばらくして頭がハッキリしてくると、最初見慣れない場所に不思議そうに小首を傾け、次に周りで自分を見る人達がいる事に気付くとビックリして後ろに後退り、そのままベットから落ちた。


 そう、落ちたのだ。


 しかも落ちた場所がベットと壁の間で、お尻が抜けずにあられもない姿でジタバタしている。



 そのベットと壁に挟まれジタバタしている人物こそ、勇者達の探していた僧侶の王女様、ルナーレ・ヤマトだ。


 しばらく見ていたがどうも一人で抜け出せそうになかったので、そのままの姿では流石に女性として可哀想だろうと思い助け出してやった。


 ようやく抜け出す事が出来たルナーレは、息も絶え絶えになりながら、恥ずかしかったのだろう、耳まで真っ赤になり、助け出した俺にお礼を言おうとして再びビックリした顔になった。


「あ、ありが……!? アナタはあの時の骸骨兵!?」


「あぁ、久しぶりだな。勇者の仲間、僧侶ルナーレ」


「ッ!? 私はもう勇者の仲間ではありません!!」


 おっと、これは禁句だったか。

 そりゃ命賭けで逃げ出すような奴の仲間なんて言われたくないよな。


「あっ……。し、失礼しました」


「構わない、むしろ気に触る事を言ってしまい失礼した」


「いえ、骸骨兵様は何も悪くありません、私の問題ですので……それよりもそちらの方々には挨拶がまだでしたね。改めまして、ヤマト王国第二王女、ルナーレ・ヤマトと申します。骸骨兵様、先程は助け起こした頂きありがとうございます」


 無理やり話を変えたので、それ以上突っ込まないでおく。

 アレだけ感情をあらわにしてしまうのだ、きっと触れられたくない話題なのだろう。


「所でここは何処でしょうか? 私は確か森の中で強力な魔物に遭遇し、何とか倒す事が出来たものの、そのまま魔力欠如で意識を失った筈ですが……まさか、アナタが助けて下さったのですか?」


 先程までの醜態や激昂もなかったように優雅な挨拶をするルナーレ。

 流石王女だけあり、教養はしっかり学んでいるようだ。

 だが耳はまだ真っ赤だ。


「この場所は……秘密だ。敵の王女であるお前に話す事は出来ない。ここで寝ていたのは森で傷だらけで行き倒れになっていたのを俺が見つけてここへ連れてきたからだ。怪我の治療は部下の魔術師であるこちらのロザンヌさんがやってくれた」


 実際には、魔物の誘導に派遣した俺の分体である骸骨兵が見つけたのだが、そちらの意識も元は俺なので俺が助けたと言っても同じだろう。


 見つけた時のルナーレの姿は、相当無理をして森の奥まで来たのであろう、かなりボロボロで、一瞬死んでいるのかとも思ったが、何とか虫の息で生きており、ウチの有能なロザンヌさんの魔法で今では外傷はスッカリ綺麗になっている。


 ただ、魔力が殆ど残っておらず、体力もかなり消耗していて目覚めるまでしばらくかかるだろうと言う事で、とりあえずは敵である事も考慮して、直ぐに対応出来るよう、この街でも最強の戦力であるロザンヌさんのいる、この領主城の会議室で寝かせていたのだ。



「そうでしたか……一度ならず、二度までも、この命を救って頂き感謝致します。ロザンヌ様も危ない所を治療して頂きありがとうございます」


 流石勇者パーティーでも唯一の常識人。

 例え差別の対象で敵の魔族でも、助けて貰った相手にお礼を言えるとはたいしたものだ。


「ところで骸骨兵様のお名前は、クリス十六世様で宜しかったですよね?」


「あぁ、そうだ」


「では、クリス様、助けていただき、こんな事を言うのは図々しいかと思いますが……是非、私をこの場に置いて下さい!」


 この場、即ちローレンの街に住まわせて欲しいと言う事か……確かに勇者に追われている状態ではその見た目もあり自然と人の目が集まってしまい人族の街に隠れ住む事は難しく、かと言って森など人目につかない場所で一人で住処を作り住むには、この世界は厳しすぎる。その点、勇者の敵である魔族の元なら勇者の魔の手も届きにくく、今のルナーレにとっては絶好の場となるだろう。


 ……だが。


「断る」


「……それは、私が王国の王女で信頼出来ないからですか?」


「そうだな。お前がスパイではないと言う保証もない状態で、守るべき民のいるこの地に住まわせる事は出来ない」


「わかりました。……では、信用してもらうために、私に服従の契約をかけて下さい!」


「……服従の契約?」


 俺が疑問に思っていると、隣のロザンヌさんが服従の契約について教えてくれた。


「服従の契約っていうのは、魔法による契約で、名前の通り、魔法をかけられた者が指定の相手を主人とし、主人にとって不利益な行動を制限するうえ、どんな命令も聞くようになる魔法さ。普通は奴隷なんかにかける魔法だけど……まぁ、骸骨兵を召喚する時に行う契約と似たようなもんかね」


 アレかぁ! アレはかなり強力な魔法じゃないか! 何てったって命令された本人は命令された事を疑問にも思わない、一種の洗脳状態になるんだから。


 確かにそれなら主人の不利益な行動と言う理由で、王国に連絡を取ろうとしないだろうし、信頼出来るだろうが……。


「本当にそんな魔法をかけられて良いのか?」


 そう、大事な事はそれだ。

 例え相手を信頼させる為とはいえ、一度魔法をかけられてしまえば、それがどんなに酷い命令でも疑問に思う事もなく言う事を聞くことになる。


 それは自らの尊厳を捨てるようなものだ。


「もちろん、本来ならこのような事は例え自らの命がかかっているとしても、提案などしません……ですがクリス様、アナタは見返りもないのに私を二度も救ってくれました。それに、こんな提案をする私にわざわざ本当に良いのか確認までしてくれて……そんなお優しいアナタなら、例え服従の契約をかけられたとしても、私に酷い命令をしない、と感じたからです」


 ッ!? それは、卑怯じゃないか?

 しかもそんなにも俺を信じきった、綺麗な笑顔で言われてしまったら、酷い命令は愚か、この提案を断る事も出来ないじゃないか……。


「……わかった。その提案を飲もう」


 俺の言葉に花が咲いたように笑うルナーレ。

 不本意ながらその美しさに一瞬見惚れてしまった。


 いかんいかん! ルカを守ると決めた以上、他の女性にうつつを抜かしている余裕などない筈だ! しっかりしろ!


「それじゃ、服従の契約は私がかけてあげるよ」


 ロザンヌさんの提案にありがたく頷く俺とルナーレ。



 そしてロザンヌさんの指示で、ルナーレと向かい合う形で椅子に座る。


「それじゃ、魔法を使うよ。この魔法は二人の同意がないと発動しないから、私が呪文を唱え終わったら二人とも返事をするように」


「はい」「わかった」


 そして唱えられる呪文。


 その間ルナーレと向かい合っているので、目が合ったままで何だが気恥ずかしい。


 しかもルナーレは、その誰もが一瞬で虜になるような美貌で薄っすら笑顔を浮かべて、ジッと目を離さずこちらを見てくるのだ。


 うわぁ……マジで整った顔だな……目もおっきいし、まつ毛も長い……その瞳に吸い込まれそうだ。

 ほんのり赤い頬はふっくら弾力があり、唇は潤い、プリンとして柔らかそうだ……。


「……クリス十六世。お前はルナーレ・ヤマトの主人となる事を了承するか?」


 おっと、俺か! 危ない危ない、危うく彼女の美貌に取り込ませそうになって聞き逃す所だった。


「……了承する」


「ルナーレ・ヤマト。お前はクリス十六世を主人とする事を了承するか?」


「はい、了承します」


 ルナーレが返事をした瞬間、ルナーレの胸元が突然輝き出し、何か複雑な模様が浮かび上がってきた。


「これで契約は完了だよ」


「以外と簡単なんだな。これなら悪用もされるんじゃないか?」


「それはお互いに心から承諾している状態だからだよ。無理やり魔法をかけた所で、本人にその意思が無ければ契約は成立しないように出来てるから安心しな。……だからこそ、ルナーレちゃんがそれだけ覚悟を決めているって事なんだから、アンタが主人としてしゃんとしないとダメだからね!」


 お、おう。ロザンヌさんに喝を入れられてしまった。


 しかし、何だが契約の流れと良い、今の言葉と良い、結婚式みたいだな……いや! 何でもない! 今のは無しで!


「あの……」


 自分で考えた事に、自分で焦る俺に、ルナーレが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「あ、あぁ、すまない。これからよろしく頼む。ルナーレ」


 俺の言葉にまた満面の笑顔になると、予期せぬ爆弾発言をされてしまった。


「はい! これからよろしくお願いしますね。()()()()

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