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ボーンライフ  作者: ユキ
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ルナーレ・ヤマト

 私の名前はルナーレ・ヤマト。

 ヤマト王国の第二王女で、今はあてもなく何もないこの広い荒野を逃げるように走っています。


 ローレンでの戦いで意思のある魔物である骸骨兵のクリス十六世に魔法使いのポリーを殺されてから、それまで以上に勇者のスキンシップがこちらに向くようになりました。


 更に、勇者が魔王を倒した後、一緒にパーティーを組んでいた武道家のコクーンが「あの時の骸骨兵を探す」と言って突然いなくなって以降、それはより酷くなりました。


 本来なら私を守ってくれる筈の部下達も、魔王を倒し英雄となった勇者を優先するようになり、私はどんどん孤立していきました。


 そして勇者の誘惑をはぐらかすのにも限界を感じ、身の危険を感じた私はそこから逃げ出し、今に至ります。




 兵士の大半が寝静まる真っ暗な夜中、逃げる方向にいる警備兵を魔法で眠らせ、行くあてもなく、ただ逃げるようにキャンプ地から走って脱出しました。


 逃げると言ってもここは荒れ果て、周りに何もない魔族領です。

 月明かりの中、凍えるような寒さに耐え、走れど走れど景色は変わらず、逃げる為に最低限の荷物しか持たなかった私はただ死を待つだけでしょう。


 それでも好きでもない、むしろ嫌悪すら抱きつつある相手の伴侶にされる位なら、このまま野垂れ死んだ方がマシでした。


 そんなどこまでも続く荒野を悲壮の気持ちで走っていると、遠くの方に何かの影が見えました。


 この魔族領では、人族領とは比較にならない頻度で魔物が至る所で湧いて出てきます。


 そのどれもが強力で、中には山と変わらない程巨大なものもいて、戦闘職ではないとはいえ、勇者のパーティーに入っていた私でも手こずる程です。

 

 もしかしたらそれが魔物の影かもしれませんでしたが、行く宛のない私の目的地として定めるには十分でした。


 影に近づくにつれ、それは魔物ではなく森である事がわかり安堵しました。

 それと共に自分の幸運にも感謝しました。



 魔族領に入り魔王城までの道のり、土地は荒れ果て、森どころか木すら見ませんでした。


 あったのはサボテンと、各街周辺で食用として育てられていた、名前も知らない芋のような野菜位でした。


 夜は極寒の寒さですが、昼間はうだるような暑さになります。

 かと思えば、一度雨が降り出せば豪雨と共に一気に気温が下がり、夜と変わらず昼間でも極寒の寒さになります。

 そうした過酷な環境とこの荒れた土地ではまともな植物など育たないのでしょう。


 なので、このタイミングで森を見つける事が出来たのは非常に幸運でした。


 森の中なら寒暖差も和らぎ、食料確保も出来るでしょう。



 自らの幸運にそれまで駆けていた足を止め、喜びに打ちひしがれていると、突然地面が大きく揺れました。


 その現象を感じとると、考えるよりも早く横に跳びながら腰に差した先端に蒼い宝石がはまったロットを取り出し、自らに防御魔法を展開しました。


 ドッゴォォオ!!


 すると私が今まで居た場所、その地面が大きく盛り上がると、大きな壁が飛び出してきました。


 飛び散る土砂が私の防御魔法に勢いよくぶつかり、その勢いで私は吹き飛ばされました。


 そのまま数十メートル飛ばされましたが、防御魔法で無傷だった私は、空中で体勢を立て直し上手く着地すると、そのまま森へ向け走り出しました。


 途中足がもつれ転びそうになりましたが、何とか立て直しました。

 その際靴が片方脱げましたが、そんな事に構っている余裕はありません。


 この壁のような物は確かサンドワーム。

 ミミズのような見た目でサイズは大木程の筈ですが、横幅だけでも二十メートルはあるこの壁のような大きさは、人族領で見るものより数段大きく、上位種だと思われます。


 砂漠に生息する魔物で、普段は土の中で生活し、獲物が近付くと地面を揺らし、揺れで動きが悪くなった獲物を地面から飛び出してそのまま丸呑みにして食べる。


 そして、もう一つ……。


 最初の飛び出しで獲物を取り逃した場合、地面から飛び出した体をそのまま獲物に向け倒し、獲物を下敷きにするのです。


 人族領のサンドワームののしかかり攻撃でさえ、その重量も合わさり脅威なのに、このそそり立つ巨大な壁と見間違える程のサイズでは、こんな防御魔法などなんの意味もなく押し潰されるでしょう。


 そして、その壁は案の定こちらに向けゆっくりと倒れてきました。


 数百メートルはある高さの為、倒れる速度はゆっくりですが、確実に狙いをこちらに向け、横に移動しても獲物を追いそちらへ倒れる向きを変えてきます。



 そして地面へと激突する巨大サンドワーム。


 ズッドーーーーン!!


 しかし、サンドワームの下に私はいません。

 サンドワーム出現と同時に、常人よりも鍛えられた身体能力を活かし、ギリギリでサンドワームの倒れる範囲から逃れる事が出来たのです。


 そしてそのまま森へと駆け込むと、ここまでの全力疾走で体力の限界に達した私は、木に隠れて息を整えつつ後ろのサンドワームの様子を伺います。

 地上での行動が苦手なサンドワームは、それでも必死に私を追うようにくねくねと体をくねらせていましたが、私が森へ入ると何故か追いかけるのを止めたからです。


 立ち止まったサンドワームはしばらくこちらを見ているようでしたが、恨めしそうに巨大な鳴き声で一鳴きすると、そのまま地面に潜って行きました。


 不思議に思いましたが、今は自分の命が助かった事に感謝する事にしました。


 それに、それよりも今は一刻も早く森の奥に逃げなくては。

 人族軍がキャンプを張った場所からはだいぶ離れてはいますが、先程の爆音で気付いて探しにくるかもしれません。

 まだ息は切れていますが、それは歩きながら整えれば良いでしょう。


 私はそれまで見ていた荒野から森へ向き直り、ロットを腰に差すと歩みを進めました。




 森の中は平和そのものでした。


 木の葉の擦れる音や小鳥のさえずりが聞こえ、先程までの猛烈な暑さもだいぶ和らぎ、時より吹く風のお陰で涼しささえ感じます。


 また、何度か食べられそうな果物も見つけたので取っておきましたが、この分なら食料に困る事もないでしょう。


 ……このままここで一人暮らすのも良いかもしれません。



 安住の地を見つけたとも思いましたが、世の中そんなに甘くはありませんでした。


 突然小鳥たちの鳴き声が止んだと思ったら、ソイツが現れました。


 真っ赤な体毛に太く頑丈そうな牙、そして家程はある巨大な体のイノシシの魔物です。

 横にはこの魔物の子供でしょう、馬程の大きさのウリボウが四体いました。


 魔物達は私を見つけると、観察するようにジッとこちらを見つめて来ました。


 私は目を離さないようにしながら距離を取る為、少しずつ後退りで下がって行きます。


 パキッ


「グモォォォオオ!!」


 後ろに下がる際、下に落ちていた枝を誤って踏み、小さな音が鳴ってしまいました。

 その音に反応するように親イノシシが大きな鳴き声と共にこちらに向かい突進を仕掛けて来ました。


 その突進はそれほどスピードはありませんが、私とイノシシの魔物との直線上にある大木を木っ端微塵に吹き飛ばしている事から、相当な威力である事がわかります。


 私は腰のロットを出すと、防御魔法を発動しつつ、横へ向け走り出しました。


 そして私が先程でいた場所を轟音と共に走り抜けるイノシシの魔物。

 どうやら突進は強力ですが、方向転換は苦手なようです。


 しかしその時私の背中に強烈な衝撃が走り、そのまま前方へ吹き飛ばされました。


 幸い防御魔法のお陰でそれほどダメージはなく、受け身を取って着地しました。


 その際後方の、先程まで私が居た場所が見えましたが、そこには一体のウリボウの魔物が立っていました。

 この子の突進をまともに背中に受けた為、吹き飛ばされたのでしょう。


 その時、視界の端に何かが写り、咄嗟に後ろに下がる。


 すると私の前を別のウリボウが凄い速さで通過していって、その先の大木にぶつかり停止すると、こちらに向き直り前足で地面を蹴りながら威嚇をしてきました。


 そのウリボウが再び突進をしてくると、他の三体のウリボウも加り、四体による連続での突進が始まりました。


 親のイノシシはスピードはありませんが、その巨体を活かしたとんでもない威力の突進なら、子供のウリボウは威力はそれ程でもありませんが、素早い突進とその数を活かし、連続での攻撃を仕掛けてきます。


 どちらも厄介ですし、親イノシシが戻って来てこの攻撃に加わったら目も当てられません。


 この状態を一刻も早く解消すべく、ウリボウによる連続での攻撃を避けつつ、一体のウリボウが突撃してきたタイミングに合わせて横に避け、手に持つロットを上から振り下ろしました。


 ロットには重量変化と硬化の術式が組み込まれていて、更に可変式となっています。


 重量変化で数倍の重さにしたうえ、振り下ろされると共に三十センチ程の長さから一メートルまで伸びてその遠心力も加わり、威力の増した一撃が突進してきたウリボウのこめかみ目掛けて振り下ろされます。


「ブヒィ!?」


 その一撃で突進の勢いのまま地面に顔面からダイブするウリボウ。

 そのままピクピク痙攣し、起き上がって来なくなりました。


「グモォォォオオ!!」


 その鳴き声で後ろを振り返ると、血走った目で木々を木っ端微塵にしながら突進をしてくる親イノシシの姿がありました。


 子供をやられて怒っているのでしょう。

 その勢いは先程よりも凄まじく、スピードも上がっていて、当たればひとたまりもありません。


 そこに先程まで兄弟をやられて警戒していた残りのウリボウ達が再び連続で突進を仕掛けてきました。


 その突進はやはり兄弟をやられた怒りからか、先程よりも素早く、一体減ったのに逆に避け続けるのが厳しくなって来ました。


 このままでは親イノシシの突進を避けられずまともに受けてしまうでしょう。


 私はそこで覚悟を決めると、前方に防御結界を貼りウリボウ達の突進を受けました。


 一体目の突進で結界にヒビが入り、二体目の突進で結界は壊れ、三体目の突進を防御魔法を施した体で受ける。


 今回は不意打ちではないので、三体目の攻撃を正面から受け止め吹き飛ばされずにその場に止まる事ができました。


「ゴボッ」


 しかしその攻撃は先程よりも強烈で、防御魔法を超え、体の内側の骨や内臓にダメージを受け、思わず吐血してしまいました。


『……対象を束縛しろ……ホーリーチェーン』


「ブヒィ!?」


 吐血した事など気にせず唱えた呪文で、三体のウリボウに光の鎖が絡みつきその場に固定しました。


 三体は必死に足掻き鎖から逃れようとしますが、争えば争うだけ鎖は強く締まり、むしろ最初よりも身動きがとれなくなっています。


「グモォォォオオ……グモッ!?」


 自分の突進する直線上に子供達が捕えられ、身動きがとれなくなっている事に気付いた親イノシシは、走る足を止め、地面を踏ん張りブリーキをかけようとしています。


 しかし怒りのままに勢い付いたスピードは、その巨体もありなかなか止まる事が出来ず、そのまま子供目掛けて突き進みます。


「グゥゥ……モォォオオ!!


 必死の踏ん張りで何とか子供達の直前で止まる事が出来た親イノシシは、安堵のため息を吐いていますが、私がいない事に気付くと周りをキョロキョロと探しています。


 ただ、私は既に地上にはいません。


 親イノシシが止まる直前で跳躍した私は、周りの木を蹴り親イノシシの頭上高くまで上がり、空中で親イノシシ達を見下ろしている状態です。


 そして落下しながら親イノシシ目掛け魔法を発動する為、呪文を唱えます。


『聖なる光よ、全ての悪しき者を焼き尽くせ……ホーリーシャイン』


 私のロットは眩い光を放つと、先端から光の柱が親イノシシとウリボウ達目掛けて降り注ぎました。


 柱の中にいる魔物達は降り注ぐ光に体を焼かれ、その痛みから必死に逃れようと暴れていますが、次から次へと降り注ぐ光が濁流となり、魔物を地面に抑え付けて、その場から動く事が出来ないでいます。


 そして私が魔法を止め、地面に着地した時には炭とかした四体の魔物の死体が残るのみとなりました。



「はぁ……はぁ……なんとか、倒せました」


 魔力の使い過ぎで、流れ出る汗を拭う事すら億劫な程疲れきった私は、力が抜けそうになる足に何とか力を入れ立っています。


 ふと左腕に痛みが走りそちらを確認すると、左腕はあらぬ方向を向いていました。

 先程のウリボウの突進を咄嗟に左腕で塞いだ時に折れてしまったのでしょう。


「ゴホッ! ゴボッ! ゲホッ!」


 急にむせ返し咳をすると肺から血が溢れ、口から吐き出してしまいました。

 どうやら肺に折れた肋骨が刺さっているようです。


 急いで回復しないといけませんが、先程の戦闘で魔力を使い果たし、回復魔法を使う事が出来ません。


 背中のポーチに魔力回復薬があるので取ろうとしますが、今まで何とか踏ん張っていた足から力が抜け、そのまま倒れてしまいました。


 どうやら魔力欠如による極度の脱力感と体におった傷のせいで、まともに体に力が入らなくなっているようで、今では指先すらまともに動かせません。



 あぁ……どうやら私はここまでのようです。


 このままでは肺に刺さった肋骨のせいで肺に血が溜まり、魔力の回復を待たずにじきに死ぬでしょう。


 ……どうしてこうなってしまったのか。


 薄れゆく意識の中、これまでの事を思い出します。


 私はただ……国の為……民の為に、人族の脅威である魔王を倒し、平和を守りたかっただけなのに。


 その為なら勇者の伴侶となる事もいとわなかったし、それが王女の責務なので当然だと思っていました。

 むしろ、私の見た目にしか興味がなく、私利私欲しか考えていない貴族達と政略結婚するしか無かった私が、世界を救う英雄である勇者の伴侶になれる事に喜びすら感じていました……。


 でも……実際、召喚された勇者は、物語に出てくるような我が身を犠牲にしてでも人々を守り、無償の救いをもたらす高貴な方ではなく……女性を都合の良い物としてしか考えておらず、自らの欲望の為、他者をおとしいれ……他者の犠牲すらいとわない……私の嫌悪している貴族達と変わらない最低な方でした。


 こんな方と……私は一生を添い遂げなくてはいけないの?



 そんな時、戦いの中でとある魔物と出会いました。


 彼は自分の主人を守る為、その前に戦っていたエルフと違い、はるか格上である勇者に果敢に戦いを挑み続けました。


 彼は骸骨兵だった為、それはただ命令に従っているだけだとわかっていましたし、仲間を殺された仇だった為、怒りすら感じていましたが、それでも何度も戦い続けるその姿に心打たれるものがありました。


 戦っているのは操っているであろう骸骨兵達でしたが、何故かその一体一体に彼の存在を感じ……コクーンの回復をしながら戦いを見ているうちに、何故かそれが命令ではなく、彼の意思で戦っていると思うようになっていました。


 そしてそれは、彼に意思がある事を知り確信しました。


 ……魔物でさえ、誰かの為に命をかけて戦えるのに……あの勇者は……。


 私はその事実に愕然としました。


 しかも、その戦いの後、彼は消失するダンジョンからわざわざ敵である私とコクーンを助け出してくれたのです。


 魔物や魔族は卑怯で残虐で、人族が手綱を握らなければ世界を滅ぼす存在だと教わりました。


 しかし、この骸骨兵といい、エルフといい、誰かの為に戦い傷付くその姿に、人族で言われているような姿はありませんでした。


 我が身を犠牲にしてでも人々を守り……無償の救いをもたらす者……。


 そこには、人族の敵である残虐な魔物の姿は無く……見た目は骸骨兵ですが、意思があり、誰かの為にその身を犠牲にし、人々を救う……勇者の姿がありました。



 あぁ……彼は今頃、何をしているのでしょう。


 そこで私の目の前は真っ暗になり、意識を失いました。

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