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ボーンライフ  作者: ユキ
33/196

獄森

今回の話は少しグロいかもしれません。

苦手な方は流してお読み下さい。

 大木が生い茂る深い森の中。

 そこを十数人で隊を組んだ兵士達が固まって森の中を歩き、茂みや木の幹に出来た人が隠れられそうな穴を見つけると捜索対象が隠れていないか入念に調べてた。


 少し離れた場所にも同じような隊がいくつもいて、今回の捜索には数百の部隊が派遣されている。


 

「決して王女様の痕跡を見逃すな! 必ず俺たちが見つけ出して褒美を頂くぞ!」


「「「ハッ!」」」


 小隊長の言葉に返事をする仲間の兵達。

 しかしその目にどれもやる気は感じられない。


 それもその筈、ウチの隊の小隊長はガメツイ事で有名で、きっと王女様を見つけ出した所で、褒美は自分一人で独り占めするのがわかりきっているからだ。


 そんなやる気の出ない捜索を続ける中、ふと何処かで悲鳴が聞こえた気がした。

 だが、周りの仲間を見るが先程の声に気付いた者はいない様で茂みを掻き分け捜索を続けている。


 気のせいかと思ったが、そこでふと周りを見回すと、いつの間にか周りが鬱蒼と茂った草木に囲まれ視界が遮られてしまい、先程まで周りに見えていた他の隊の姿が、たまに草木の間に少しだけ姿が見えるだけでまともに視認する事は出来なくなっていた。



 いつの間にこんな場所に来ていたのだろう?


 そんな疑問を持ったが、きっと捜索に夢中になり気付かなかったのだろうと結論付け、捜索を続けた。


 しかし、しばらくして再び悲鳴が聞こえた。

 しかも、今度は先程よりも大きくハッキリとだ。


 それは他の者も気付いたようで、途端に捜索を止め警戒体制に入る。


 ここら辺は王国軍でも精鋭を集めた部隊だけあり、先程までのやる気のない態度と打って変わって、迅速に連携を取るなど流石の動きだ。


 剣を抜き、盾を構えて息を潜める兵士達。


 すると、またどこからか、今度は複数の悲鳴が聞こえた。


「……本部に念話で連絡しろ」


 小隊長の命令で念話の使える兵士が本部に確認の連絡を取る。


「小隊長、現在我々の捜索範囲と同じ場所を捜索している筈の複数の部隊と連絡が取れないもようです! 急ぎ原因究明しろとの命令が入りました」


 その間にも悲鳴は至る所で聞こる。


 しかも段々と近づいてきている気がする。


 原因究明ったって、こう至る所で悲鳴が聞こえたらどこへ向かえば良いって言うんだ!


 心の中で悪態をついていると、一人の兵士が声を上げた。


「ッ!? 上だ!!」


 その兵士の声で咄嗟に木の上を見上げる。


 そこには、一匹の茶色い猿が居た。


 しかし、その猿のただの猿ではない。

 目測で体長ニメートルをゆうに超える大きさだ。


 おそらくはコイツは魔物だろうが……こんなバカデカい猿の魔物など人族領で見た事も聞いた事もないぞ。


「こっちにもいるぞ!」


 仲間の言葉でそちらを見ると、同じように二メートルを超える巨大な猿の魔物が枝の上でこちらを睨み付けている。


 よく見るとその猿の魔物達は至る所におり、こちらを睨み付ける者、他の猿と会話をしているのかキーキー鳴き合う者などさまざまな行動をとっている。


「……囲まれてるな」


 私の言葉で隣で唾を飲み込む音が聞こえる。


 緊張するのも仕方がない。

 こんな沢山の巨大な猿の魔物達に襲われたら、いくら王国の精鋭部隊と言え、とてもじゃないが対処しきれないだろう。


「て、撤退だ……奴らを刺激しないようにこの場を離れるぞ」


 性格はアレだが、精鋭部隊の小隊長だけあり、相手の力量を瞬時に判断した小隊長の言葉に異論を唱える者はおらず、速やかに行動に移された。


 が……その時、横から何かが砕かれる鈍い音が聞こえた。


 バキボキ。


 すかさずそちらを見るが、私の隣の隊列の端に居た筈の仲間の兵士がいなくなっており、地面にはその兵士の物と思われる剣と盾が落ちていた。


 静止する部隊。


「う、うわぁぁああ」


 そのうめき声にも似た声は自分達の上から聞こえてきた。


 一斉にそちらを見上げる兵士達。


 自分達より十メートル程上の木の枝。

 そこには今まで自分達と行動を共にしていた筈の兵士が居た。


 猿の魔物に右足を片手で持ち上げられた姿で。


 しかも、よく見ると掴まれている兵士の両腕があらぬ方向に曲がっており、折れて動かせない事がわかる。



 あの一瞬で兵士の両腕を折り、あんな高い場所まで持ったまま上がるなんて……どんなパワーとスピードだよ……。


 唖然とした表情で見上げる兵士達。


 すると木の上で兵士を掴んでいた猿の魔物は、おもむろにもう片方の手で兵士の胴体を持つと、頭上に掲げる。


 上を向きながら口を開ける猿の魔物。


 おいおい、何しようってんだ……


 私の困惑など知った事かと、猿の魔物はそのまま両腕に力を入れる。


 ミシミシ


 嫌な音が周りに広がる。


「ぁ……ガ……ぅ」


 あまりの激痛で白目を剥きながら呻き声を上げる仲間の兵士。


 そして、そのまま糸も容易く兵士の体を引きちぎれた。


 勢いよく噴出する兵士の血。


 それは血の雨となり下の兵士達へ降り注ぐ。


 今しがた兵士を引きちぎった猿の魔物は、その血をゴクゴクと喉を鳴らして飲み出す。



 その光景は、精鋭と呼ばれ、屈強な戦士である兵士達の心を糸も容易く折り、自分についた血を必死に拭く者や、腰が抜けてへたり込む者、嘔吐する者までいた。


 そして我慢出来なくなった一人の兵士が逃げ出すと、それに釣られて周りの兵士も我先にその場を離れようと駆け出す。


 なんと、その中には自分達の小隊長の姿もあった。


「待てッ! 隊列を崩したら奴らの餌食になるだけだ!!」


 隊列に残った冷静な隊員の声で数人が我に戻り立ち止まる。


 が、既に遅かった。


 隊列を離れ逃げ出した者達の元へ、頭上の猿の魔物達がわれ先にと殺到し、兵士達の必死の抵抗も虚しく、猿達に引っ張られ身体をバラバラにされる者や、数十メートル上のまで連れられそのまま落とされて殺される者など、皆無惨に殺されていく。


「コイツら……遊んでやがる……」


 その兵士の言う通り、食べるでもなく逃げ出す兵士達をただ虐殺する猿の魔物達のその行為は、獲物を弄び、その反応を楽しむ行為そのものだった。


 そして逃げ出した全ての兵士を一人残して皆殺しにしたあと、一部の猿の魔物達が地面に降り立った。


「たす……助けて……くれ」


 中央の猿の魔物の手には、一人だけ殺されずに残され、見るも無惨な姿で首を掴まれた、小隊長の姿があった。


 先程までのこちらの対応から、小隊長が俺たちのボスだと理解しているのだろう。


 そのまま小隊長ごと腕を上げ、わざとこちらに見えるような状態にすると、少しずつ首を持つ指に力が入っていく。


「や……め……クワァ……」


 そのまま握力だけで小隊長の首を握り潰し、胴体と頭が別々に地面に落ちる。


 その光景を目の当たりにし、絶望と恐怖で言葉を失う兵士達。


「「「キー! キー! キー!」」」


 すると、そんな兵士達の反応を笑う様に、周りの猿の魔物達が甲高い鳴き声で一斉に鳴きだした。


「俺たちは……ここで死ぬのか?」


 一人の兵士が絶望の籠った質問をするが、誰も答える者はいない。


 そして恐怖を煽るように、ゆっくりと近づく猿の魔物達。


 堪らず一人の兵士が自らの剣を逆さに持ち、自分の首目掛けて振り下ろす。


 しかし、どこからか飛んできた石によりその剣は弾かれ、自害する事は叶わなかった。


 そして嘲笑うように再び鳴き出す猿の魔物達。


 それを見た他の兵士達は、この後自らが迎える運命に対して、少しでも苦しまずに死を迎えられる事を祈るしか出来なかった。



 *****



「第百二十五番小隊からの連絡はどうなった!?」


「何度も念話を試みていますが、以前として返事はなく、報告にあった魔物にやられたものと思われます! また、周辺二十小隊とも以前連絡は途絶えたままです!」


「クソッ! その場所に配置したのは精鋭部隊ではなかったのか!?」


 森から少し離れ、魔王討伐の遠征軍の司令室が置かれたテント内。

 そこでは王女捜索の為、森に捜索に出た各部隊から、尋常ではない量の緊急の連絡や、既に百近い連絡の途絶えた部隊の消息究明で大騒ぎになっていた。


 その光景を椅子に座って眺める勇者はイライラを隠そうともせず、貧乏ゆすりを続けている。



 捜索は直ぐに終わると思っていた。


 戦闘職ではない僧侶のルナーレでは魔物とまともに戦う事も出来ず、その上、森の奥に行けば行くほど強力な魔物が住んでいるであろうこの森では、隠れながらの移動では移動距離などたかがしれているからだ。


 しかし、現実はいつになってもルナーレの発見の報告は無く、それどころか捜索に向かった兵士達からの連絡は次々と途絶えている。


 狼の魔物に猿の魔物、蛾の魔物など多岐に渡る魔物の目撃情報があり、報告にあった魔物はそのどれもが巨大で、人族領で見られる似た個体とは明らかに別種、または上位種だとわかる。


 更に鍛えられた兵士の部隊が次々と消息をたっている事から、その強さも比例して強力なのだろう。


 すると報告を受けていた上級兵士が俺の元へやってきた。


「勇者様、既に森に派遣した部隊の一割以上が連絡が取れなくなっております。……流石にこれ以上の捜索は人的被害が大きすぎて、中断せざるおえません。」


「ふざけるなッ!! こんな所で諦められる訳がないだろうッ!! 兵士などいくらでも代えが効くのだがら、続行しろッ!!」


「しかし……このような状況ですと、ルナーレ様の生存も絶望的……ガハッ!?」


 それでも反論しようとする兵士の首を鷲掴みにし持ち上げる勇者。


「……俺の命令が、聞けないのか?」


「ガッ……ゴボッ……ヴッ」


 勇者の問いに必死に答えようとするが、喉が締められてまともに喋る事も出来ず、言葉にならない声が漏れ出る。


「ルナーレは戦闘職ではないとはいえ、俺と共にパーティーを組んだ僧侶だ。腕っぷしならそこらの兵士よりよっぽど強いし、回復魔法で多少の傷なら回復するんだ、そう簡単に死ぬ訳ないだろう」


 勇者の話の間に兵士の顔は青ざめ、口からは唾液と泡が漏れ出てくる。


「勇者様、そこまででお願い致します」


 すると今まで存在を忘れていた、隣の隊長が俺に声をかけてきた。


「……お前も俺に意見するのか?」


 兵士を持ち上げながら、隣の隊長を見て威圧する。


 俺の威圧で隊長は冷や汗をかきながらも、更に話を続けた。


「王国より念話が入りました。王の命令です。王女の捜索は諦め、速やかに帰還せよとの事です」


「ぁあ!? 王の命令がなんだって言うんだ! 俺は魔王を倒した英雄だぞ!?」


「例え魔王を倒した英雄でも、王命は絶対です。もし逆らう様なら例え勇者様でも反逆者として処罰されるでしょう」


 隊長の言葉に花で笑った勇者は、未だに持ち上げていた兵士を投げ捨てると隊長に向き直った。


「ハッ! 俺を処罰? 面白い冗談だな。魔王を倒したこの俺様を、誰が捕まえられるって言うんだ?」


 勇者の言葉に目を瞑りしばらく黙る隊長、どうやら念話で会話をしているようだ。


「……わかりました。王様より、その場合は教会に依頼し、聖騎士隊の隊長、アレン殿を向かわせるそうです」


「ッ!? ……わかった……従おう」


 アレンの名を聞いた瞬間から急に大人しくなる勇者。

 それだけアレンと言う人物が勇者も恐れる実力者と言う事なのだろう。


 悔しそうに俯く勇者をそのままに部下達に司令を出す。


「全軍に通達! 王女様捜索を打切り、速やかに帰還せよ!」


 隊長の言葉に一斉に念話で派遣された部隊に通達する兵士達。


 こうして王女捜索は打切られ、数刻の後、派遣された部隊が戻ってきた。


 しかし、今回の捜索にあたったおよそ一万の兵の内、無事戻ったのは八千以下で、二千人強もの兵士がたった数刻の捜索で死亡、もしくは行方不明となったのだった。


 その事から、帰ってきた兵士達はこの森を恐れ、地獄のような場所と言う事で、獄森【ゴクシン】と呼ぶようになるのだった。

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