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ボーンライフ  作者: ユキ
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問題発生

 ミルカ様の救出から一週間。

 バランスの良い食事と健康的な生活により、ミルカ様の体力も少しずつ回復していっている。


 ただ、例え丈夫な魔族とはいえ、一ヶ月以上手錠で吊るされ、ほぼ絶食に近い状態と絶え間ない拷問による獄中生活で、栄養失調や体力低下は深刻なものになり、それ以上に精神的なダメージも大きく、完全回復までにはまだ時間がかかりそうだ。


 その精神的ダメージを癒す為に、動けるようにになると本人の希望により、眠りについているルカの世話をする事になった。


「さぁ、ルカレットお姉様、お洋服脱ぎ脱ぎしましょうねぇ……ハァハァ……あ、ちょっと!? お兄様、持ち上げられたらルカレットお姉様のお洋服脱がせられない〜ぃ」


 ただ、ルカを見る目が少しばかり……いや、大分血走っておりヤバく、目を離すとすぐにこう言った奇行に走ろうとするので、常に俺の分体に見張らせている……が、ルカの貞操が心配だ」


 だけど、俺も人の心配ばかりしていられない。


「あっ! 本体のクリスお兄様だ! おかえりー! お兄様、抱っこしてぇ」


 俺が夕飯のマ◯クを買って帰ると、すかさず飛びつき抱っこをせがむミルカ様。


 その後の食事中も俺の膝の上で食べる始末である。


 ミルカ様を救出して以降、俺に気を許したのか、ミルカ様の距離がかなり近いモノになり、俺の事をお兄様と呼ぶ様になり、甘えてくるのはいいのだが、時折俺を見る視線にルカを見る視線と同じものを感じて悪寒が走る事がある。


「お兄様! 私の事は様付けじゃなく親しみを持って呼び捨てで呼んでください!」


「わかった。ミルカ、食べずらいからどいてくれないか?」


「ハァハァ……クリスお兄様が私の事を呼び捨てで……ンッ!?」


 膝の上で悶えるミルカ。


 ミルカは好意を抱いた相手に対して変態性が出るのだろうか……今後の俺の貞操も心配だ。

 骸骨だから大丈夫だけど。


 唯一の救いは、以前までは見た目を幻術で妖艶な大人の女性に変えていたが、ルカを見て興奮で倒れて以降、見た目は本来の少女のまま、ルカと同じ可愛らしい色違いの赤い部屋着を幻術で再現して過ごす様になった事だ。


 ルカレットお姉様と一緒……ハァハァ。とか言ってたが、あの妖艶な姿でくっつかれたら、色々と俺の精神がヤバいことなっているので突っ込まないでおく。


 せっかくなので、街でそのルカとお揃いの赤い部屋着を買ってやったら、飛び跳ねて喜んでくれた。


 「お兄様、これちょっとリメイクしていい?」と聞かれたので承諾すると、次の日にはフード部分に骸骨のウサギの顔が付き、ダークな感じに仕上がっていた。


 「お兄様をイメージしてみたの」と笑顔で笑うミルカはとても可愛く、本性はアレだがそんなミルカとの日々もなかなか和む。


 ただ、以前俺にとルカが買った、お揃いの部屋着を部屋で見つけたらしく、俺に着て欲しいとしつこくお願いされたのには困った。


 懇願に負けて一度着たことがあるが、お姉様とお兄様と一緒ぉぉおお! と叫びながら興奮のあまりそのまま気絶してしまい、その後ロザンヌさんにこっ酷く怒られた。


 ロザンヌさんが怒るとメチャメチャ怖いので、もう二度とやらないと誓いました。


 そんな感じで何だかんだミルカとは上手くやっている。



 その他ミルカ救出から変わった事と言えば、コリア達ローレン上層部の態度だろうか。


 それまではローレンの代表として、簡単に相手に気を許すべきではないと考えてか、今や俺たちルカの部下達魔族に大きな信頼をよせている住民と違い、一定の距離を保って接していたのだが、今回の救出にあたり捕まっていた兵士達を助けてからその距離がなくなり、魔族を信頼し、親しげに話してくるようになった。


 なかでもコリアは、俺に対して尊敬している人でも相手にしているような態度になり、上の者として接して貰うのも慣れていないのに、そのような態度で接させても柄ではないので何だがむず痒くなる。


 そんなこんなで慣れないトップとしての振る舞いや、ミルカの回復を待ちながら、振り回される日々を送っていた時、ある問題が起きた。




 領主城の会議室。

 そこには俺達魔族側の代表である俺とロザンヌ、ローレンの代表であるコリアとジン、そして元魔王ミュート様と元魔王軍参謀のリン様が集まっていた。


「奴らの動きはどうですか?」


 心配そうに、尋ねるコリア。


「やはり……この森に近付いているようです」


 リン様は別の場所を見る事が出来る、ビジョンの魔法を使い、森に近づくとある集団を確認し、コリア達へそう伝えた。


「それは、私たちの居場所がバレたって事ですか?」


「それはまだわからない……だが、人族領へと向かっていたのが急にこちらへ方向を変えたのなら、その可能性は高いだろう」


 ミュート様の言葉に神妙な表情で黙る参加者達。


 数日前、魔王城に在留していた勇者含む人族軍が人族領へと帰路につき始めた。


 それは良かったのだが、今朝になり、突然進路をローレンの住民が拠点にしているこの森に変え移動を始めたのだ。


 その報告をミュート様の命令で見張っていたリン様よりなされ、急遽対応を迫られた為、この会議を開いたのだ。



「どうしますか? 打って出るべぎでしょうか」


「そうだね、この街で防衛戦をしても、人族軍には勇者がいるから、攻められたら私ら魔術師の結界など何の意味もなく超えられ、この地は戦場と化すだろうねぇ」


「逃げるにしても、ローレンの住民約一万を抱えた状態でこの魔族領を移動するなど自殺行為でしょ」


 ジンの言う通りだ。

 この魔族領は魔族ならともかく、人族が生きるには厳しすぎる環境で、魔術師達のお陰で安全なこの地を離れれば、次の安住の地を見つけるまでに多くが命を落とすだろう。


 かと言って、打って出た所で向こうには勇者がおり、更には人族軍の精鋭部隊を含む一万の兵もいる。


 対してこちらは、まともに戦えるのは俺と魔術師達とローレン側の兵士四十人、そして人族軍との戦いで一時は俺とここへ来た数体以外全滅したが、こちらに来てから召喚し続けて増えた骸骨兵が三百体のみである。


 勇者のみでも手に負えないのに、この戦力差ではどうしようもない。


「どうしますかな、総大将」


 ッ!? こんな時だけ判断を俺に委ねるのはズルくないですかロザンヌさん!?


 周りを見回すと、みんな俺に期待を寄せた目で待っている。


 おい、ジン。

 お前だけ仲間を見つけたみたいな目で見るんじゃありません!

 そっち側だけは絶対にごめんです!



 クッ……どうすればいい……!


 そこで、この場で一人だけ意見を言っていない者に気付いた。


「リン様はどう思われますか?」


 俺の言葉で、今までビジョンの魔法を使用する事で目を瞑っていたリン様がこちらを見る。

 それに合わせてみんなの視線もリン様へ向かった。


「私は……いえ、私には意見を言う資格がございません」


「そんな事をおっしゃらず、魔王軍の参謀としての知恵を是非お貸し下さい」


「もう私は参謀ではありませんし、魔王軍も既に存在致しません。……すれも全て、私の知略が至らなかったが為に……」


 俯き答えるリン様。

 どうやらこの人は、魔王様が勇者に倒され、魔王軍が解散に追い込まれたのは自分のせいだと今だに引きずっているようだ。


「お前はまだ……。リン! お前は魔王軍参謀として、その知略によりこれまで多くの者を救ってきた。それは近くでお前を見て、そして助けられてきた私が一番良く知っている!」


「魔王様……しかし……」


「過去を振り返り反省する事は大事だ。しかし、いつまでもそれに囚われるのは愚か者のする事だぞ。一度失敗したのなら、それをも糧として己を磨き、今度は全てを救ってみせよ! 上に立つ者は、立ち止まる事こそ罪であると心得よ!!」


「ッ!? ……わかりました! 私は、今後は更なる研鑽を積み、今度こそ、今度こそ皆を守ってみせます!!」


「うむ! 良く言った! 期待しているぞ、リン」


 気合いに満ちたリン様の表情に、満足そうに頷くミュート様。

 その光景はまさに理想の上司と部下像だ。


「皆さん、失礼致しました。遅らせながら、私の方からも意見を言わせてもらっても構いませんか?」


「はい! お願い致します!」


 みんなを代表して答える。


「それでは、まず皆さんの言う様に、この場から逃げると言う意見ですが、私も同意しかねます」


「……では、打って出ると言うことか?」


「いいえ、ジン様。打って出た所でこの戦力差では我らが負けるのは確実。それは、人族軍が攻めてくるのをただ待つのと同じ事です」


「ならどうするって言うんだい?」


「我らは、地の利を生かします」



 *****



「……見つかったか?」


「いいえ、全兵を使い捜索させていますが、未だその行方はわかっておりません」


「この役立たず共がッ!!」


 俺は苛立ちを紛らわすように、目の前の机を蹴り壊す。


 それなりに大きな木製の頑丈な机だが、俺の力によって吹っ飛ぶのではなく、粉々になり破片を撒き散らした。


 それにより目の前で報告をしていた兵士は破片が身体中に刺さり絶命する。


「勇者様、落ち着いて下さい」


 死体が他の兵に運ばれる中、俺の横に立っていた副隊長……いや、この前隊長が死んだから今は隊長だったか。

 とにかく、横に立っていた事すら忘れていた陰の薄いそいつの存在に驚いた事で、少し冷静になった俺は、頭の中を整理する為、どうしてこうなったのか良く考えてみる事にした。



 始まりはあのクソエルフとの戦闘での事だ。


 クソエルフと戦闘という名のお遊びに興じていた時、何の変哲もないただの骸骨兵が突然魔法で俺の女達を攻撃し、その攻撃で魔導士のポリーが死んだ。


 まぁ、アイツは魔法はそれなりだが顔は普通で、何でも言う事を聞く都合のいい女程度だった。だからポリーが死のうが変えも効くし、別にどうでも良いのだが……。


 次に魔王を倒した後、武道家のコクーンが突然いなくなった。


 アイツは性格はアレだがスタイルも良く、顔も美人だったから失くすのは惜しく、兵士を使い何とか探し出そうとした。


 しかし、そんな時王都で魔物騒ぎがあり、王より帰還の命が降りた為、なくなく諦めるしかなかったのだ。



 そして極め付けが、僧侶ルナーレだ。

 

 王国一の美女と謳われる彼女は、僧侶としての実力も確かで、その見た目と実力、そしてどんな相手にも優しいその博愛精神から聖女とも呼ばれている。

 更に王国の第二王女と言う肩書きまであり、魔王を倒した後の俺の第一夫人として迎えるに相応しい女だった。


 なのに……その彼女も昨晩突然居なくなった。


「クソッ!! 何が不満だって言うんだッ!! 世界を救った俺様の女になれるなら光栄の極みだろうがッ!!」


 ダメだ、思い出してもイライラする。


 幸いここは周りに何もない荒廃した土地だ。


 どこかに行くにしてもすぐに見つかるだろう。


「勇者様! 捜索隊から、東の森近くに王女様の物と思われる靴を見つけたと報告がありました!」


 その時伝令がテント内に入ってきて予想通りの報告をもたらした。


「よし、なら全軍で東の森をしらみつぶしに探せ!! 必ず俺の元へ連れ戻すんだ!!」


 クックック、待っていろルナーレ、もう優しくお前から俺を求めるなど回りくどい事などしない。

 見つけ出したら今度は、二度と逃げ出そうなど思えないように、その身体に思い知らせてやるからな。


 お前は俺の運命の相手なのだから……。


 舌舐めずりしながら笑う勇者。


 しかし、この後もたらされる報告はどれも彼の予想に反するものになるのだった。

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