魔剣クレット
これは……俺の相棒、魔剣クレット!!
勇者に刃を砕かれ、俺も瀕死の重症を負った後どこかに無くなってしまい、てっきり勇者の一撃で粉々になったと思っていたが、どうやら進化の際周りの骨と一緒に俺の体に吸収されていたようだ。
魔剣クレットはルカの歯を精製の時に混ぜて出来た剣である。
抜群の斬れ味もさることながら、ルカの歯の影響もあり、斬った相手の魔力を吸収する効果があり、その特殊効果から俺は勝手に魔剣と呼んでいた。
……ん? もしかして、骸骨兵を吸収して魔力を回復出来たのもこの魔剣の効果の影響じゃ……。
何となくだが、魔剣クレットがそうだと言ってる気がする。
それまで俺の体の一部だった影響だろうか?
でも……うん、そうだ! 今回だって、剣を求めたら出て来てくれたし、きっとルカの想いが宿っていて俺を守ってくれてたんだ!
俺は勝手にそう結論付け、一人テンションが上がっていく。
よーし! これで百人力だ! 全員斬りふしてくれよう!!
変なテンションになり、そのまま周りでこちらを伺っていた聖騎士達の中にいるケルンへと飛びかかる。
振り上げる魔剣クレット。
骸骨将軍に進化して強くなり、更に身体倍加を行っているのでかなりスピードだ。
普通の聖騎士では反応も出来ずに斬られているであろう。
しかし、突然の突撃にも関わらず冷静に受け止めようと聖剣と呼んでいた剣を構えるケルン。
行動や見た目はアレだが流石聖騎士隊の副隊長を務めるだけあり、凄まじい反応速度だ。
「なっ!?」
しかし案の定、俺のクレットは聖剣などと言う障害物など初めから無いように、殆ど抵抗もなく聖剣を半分に斬り、驚愕の表情のその先のケルンも斬り裂いた。
流石の斬れ味である。
勇者みたいな化け物でもない限り当然の結果であろう。
と言うより、剣の刃に対して正面から拳で砕くって何なの? 化け物なの? チートなの? マジで人外過ぎるんで勘弁して下さい。
……話がズレたが、なんなら前よりも斬れ味が増している気がする。
もしかしたら俺の進化の影響もあるのかもしれない。
更にそれだけでは済まず、斬った対象の魔力を吸収する魔剣クレット。
以前なら斬った対象の魔力を少し奪う程度だったが、今はケルン程度の魔力保有量なら根こそぎ奪えてしまう。
やはりこれも進化の影響だろう。
周りの聖騎士達も、援護の為斬りかかってきたが、その全てを避けつつ隙の出来た者を斬り倒し魔力を吸収して行く。
魔力を吸われた者達は、魔力が無くなり回復魔法を使う事ができず、それ以上復活してくる事はなかった。
その異変に気付いた残りの聖騎士達は明らかに動揺し、動きが悪くなる。
だが、今更気付いた所でもう遅い。
その隙を逃す筈もなく、一人ずつ斬り倒していき、数分で全ての聖騎士を倒し終えた。
こちらは終わったが、ミルカ様は……。
そう思いミルカの方を確認してみる。
そこには何故か筋肉モリモリのオッサン達がパンツ一丁で人間ピラミッドを作っている姿があった。
そしてミルカ様はその一番上で脚を組み笑っている。
きっとピラミッドを作っているのは先程まで戦っていた聖騎士達で、幻術で操っているのだろう。
よく見ると先程のメガネの細い聖騎士が何故か人間ピラミッドの一番下の段の真ん中にいる。
一番辛い場所である……ますます鬼畜だ。
出来ればその光景を見なかった事にしてコリア達を追いかけたかったが、今回の救出目標なのでそんな事も出来ずミルカ様の元へ向かう。
「……ミルカ様、満足しましたか?」
「うん! 大満足!」
満面の笑みで答えるミルカ様。
どうやらテンションが上がると素の子供っぽさが出てくるようだ。
そして人間ピラミッドから飛び降りると俺の隣に飛んできて着地した。
その衝撃で人間ピラミッドは崩れ、体力が尽きたようで起き上がって来ない聖騎士達。
当然メガネの聖騎士はその筋肉ダルマムキムキのオッサン達の下敷きだ。
……マジで哀れだ。
「ん? あぁ、あのメガネ。アイツ「女はこの世から全ていなくなれ!」とか言って一番陰湿に拷問してきてさぁ。いい気味よ」
おう……そっちの趣味の方でしたかぁ。
それなら自業自得だし、むしろこの状況はご褒美だろう。
「そ、それでは、そろそろ先に行った者達を追いかけま……!?」
気を取り直し、コリア達を追いかけようと提案しようとした所で、急にこの場を押し潰されそうな圧力が支配する。
その圧力の出どころである来た道の向こう側……そこには一人の白い鎧に身を包み、黒い長髪を無造作に後ろで束ねて光の無い瞳が特徴のイケメンの男が歩いていた。
「……アレン……隊長」
地面に倒れながらもその男の姿を見たケルンは、男の名ををそう呼んだ。
どうやらこの男は聖騎士隊の隊長のようだが、こんなに離れた距離でこれほどの圧力を与える程だ、かなりの強者である事が伺える。
『ミルカ様、奴はヤバいです。距離があるうちに急いでこの場を離れましょう』
俺の念話に頷くミルカ様は、何やら魔法を発動した。
その魔法が発動した瞬間、俺たちとアレンと呼ばれた男との間の道や建物が歪むと、何と一気に距離が伸び更に曲がりくねると枝分かれしたちまちアレンの姿が見えなくなった。
凄い幻術である。
これならばヤツも直ぐには追ってこれないだろう。
「今のうちに逃げるわよぉ」
その言葉と共に走り出すミルカ様に続き、俺も走り出す……が、その時、巨大なガラスが割れるような音が響き渡る。
音の発生源である後ろを振り返ると、そこには視界に映る世界にヒビが入り、ヒビの中心には世界が割れ落ち出来た穴に剣を振り抜いた状態のアレンが立って居た。
あっ、これアカンヤツだ。
振り抜いた剣を鞘に戻すと、何事もなかったように歩き出すアレン。
近づくにつれ強まる圧力。
『ミルカ様……ヤツに、勝てそうですか?』
その強者の纏う圧力に耐えかね隣のミルカ様に念話で確認する。
そして横のミルカを見るが、その顔を見れば返事を聞かなくてもその答えはわかった。
ミルカ様の額には汗が浮かび、顔は強張り、こちらを振り向くと頭を左右に振った。
どうする……逃げられれば一番良いが、そんな簡単ではないだろう。
最悪俺がここで倒されようが、何とかミルカ様だけでも逃さなくては……でも、ミルカ様が逃げ切るまで、俺にコイツを止められるか? ……いや、正直コイツは魔王様や勇者のような規格外の力を感じる。
それこそ、俺とは強さの格が違うと言うヤツだ。
ならば逃げるしかないのだが、どうすれば……。
すがるような気持ちで周りを確認する。
地面には俺とミルカ様によって倒された聖騎士達。
横にはアレンが近付いた事で先程より汗を浮かべて神妙な表情のミルカ様。
幻覚なのによく出来ているなぁ……なんて考えている場合ではない! 他には何の変哲もない広く舗装された通路と、周りに並ぶお店等の建物達。
ん? あの建物は確か……。
俺たちからそれ程離れていない場所、そこにはビールの絵が看板に描かれた、酒場と思われる建物があった。
何を隠そう、その建物はただの酒場ではなく、異世界でよくある酒場と併設された施設、冒険者ギルドである。
本来なら異世界に転生したのだから、冒険者ギルドに初めて訪れた時に初心者相手に絡んでくるチンピラを倒したり、綺麗な受付嬢がいて心トキメイたり、能力測定でとんでもない数値を叩き出し、周りにざわつかれたりと、いろいろ楽しいイベントがおこる場所だ。
ただ、こんな見た目な上、召喚された当初はまともに体を動かす事も出来ず、せいぜい戦闘技術が異常に高いくらいでチート能力の無かった俺には、まったく関係ない……いや、逆に骸骨兵なので討伐対象として避けなくてはいけない場所なのだが……今の俺には希望の光に見える。
何故ならあの場所が冒険者ギルドなら、アレが必ずある筈だからだ。
今の俺は聖騎士から魔力を奪い、魔力も完全に回復している。
なので何の問題もなく発動出来るだろう。
心配なのは、実験で行った時と違い、対象がどんなモノかわからない上に多岐にわたり、ちゃんと発動するかの心配と、多岐にわたるので当たり外れがあり、当たりを引けるかどうかだ。
ただ、迷っていてもしょうがない。
敵はその間もこちらへゆっくりと近付いているのだ。
俺は覚悟を決めてそれを発動する。
スキル『骸骨将軍の号令』
その瞬間、俺の魔力は今までのスキル発動と比べものにならない量がゴッソリと抜け落ちる。
ヤバい……魔力が……枯渇する。
こんな事今までなかったが、明らかに魔力が抜ける速さが俺の魔力総量を超える勢いなのだ。
その勢いに、思わず立ち眩みに似た感覚が襲うが、その時魔剣クレットから魔力が俺へと流れ込んでくる感覚があった。
そうか、よく考えれば聖騎士達から奪った魔力量に対して、俺の魔力容量では少な過ぎだ。
余った分は魔剣クレットが蓄えてくれていたようだ。
そのお陰で無事スキルを完全に発動する事が出来た。
スキルの発動によりそれまで使徒していたゾンビ達は元の動かぬ屍に戻り、俺のゾンビをコピーしていのだろうミルカ様の幻術により生み出されたゾンビ達も消えていなくなった。
街に訪れる静寂。
しかし、その代わりに冒険者ギルドの裏手が騒がしくなった。
その原因をスキルの効果の情報共有で知っている俺は、思わず心の中でガッツポーズをとった。
そして吹き飛ぶ冒険者ギルド。
その吹き飛ばされ、ホコリたちこめる冒険者ギルドの残骸の中、その者達は飛び出して来た。
リン様で見慣れたゴブリンや二足歩行の豚のオーク、ライオン程の狼や大蛇、馬程もある大型の鳥、その他多種多様な魔物達
そのどれもが身体中に大きな怪我を負っていて、とても生きているとは思えない。
そこから出て来たのは、冒険者により討伐され、素材として持ち込まれた、さまざまな種類の魔物の死骸……そう、魔物ゾンビ達だったのだ。
そして中でも目を引くのは、トラック程の大きさはあり、四足歩行で背中に大きな翼のある、黄色いドラゴン。
コイツのせいでこんなにもスキル発動に魔力を消費したのだ。
見た目はそれ程目立った傷はないが、情報共有の効果で身体を操作している分体の感じからして、内部の、特に胃に深刻なダメージがあるようだ。
おそらく毒物を混ぜた餌か何かで殺されたのだろう。
賢い筈のドラゴンなのに何故? とも思ったが、今はこの状況で願ってもない存在なので感謝だ。
その間にも今目の前で起きた事などお構いなしに歩いてくるアレンに、今出現したドラゴンと数体の魔物達以外を突撃させる。
するとおもむろに剣を抜いたアレンはまだ魔物達と距離があるのに、その剣を振りかぶるとそのまま振り下ろした。
「……スキル『飛斬』」
その言葉と共に振り下ろされた剣の剣筋が大きな斬撃となりそのまま魔物に向かい飛んで来た。
この攻撃は勇者が以前開戦の際、城壁を破壊する為に放った一撃に似ていた。
咄嗟に突撃していた魔物達はその斬撃を躱わすが、人型の魔物ならまだしも、四足歩行の魔物はその動かし方にまだ慣れていなかった為、避けきれずに何体かはやられてしまった。
その斬撃はこちらまで届くかと思われたが、地面に倒れている聖騎士達の直前で消えてなくなる。
そこら辺の繊細な操作も出来るのか……スキル一つとってもかなりの使い手だ。
残された魔物ゾンビ達はその間もアレンへと向かい、一番早いオオカミに似た魔物がアレンに向け飛び掛かる。
しかし、アレンの剣の間合いに入った瞬間そのオオカミは左右に両断された。
全く剣筋が見えなかった……。
その間も次々とアレンへと突撃する魔物ゾンビ達。
そのどれもがアレンの剣の間合いに入った瞬間、相手の攻撃すら視認出来ずに両断されていく。
その時突撃させていた魔物達とは別の魔物の攻撃の準備が出来た。
俺たちとアレンの間の上空数十メートル。
そこに浮かぶ巨大な図体の持ち主は、肺に溜めた空気と魔力とを練り合わせ、アレンに向け一気に吐き出す。
ドラゴンによるブレス弾だ。
炎が球体になったその攻撃は、凄まじい熱量と威力を秘めており、そのままアレンの元へと飛んでいく。
「……スキル『飛斬』」
しかし、案の定アレンから数メートル離れた位置で、アレンのスキルである飛ぶ斬撃によりブレス弾は両断され、アレンの両側、道路を挟んだ向かい合わせの建物に着弾し大爆発を起こした。
飛び散る破片に燃え上がる建物、更に爆風でたちこめる煙で視界が悪くなる。
しかし、やはりコイツは規格外だな。
あの威力のドラゴンブレス弾をアッサリ両断するのもそうだが、普通ならかなりの体力を消耗する筈のスキルを、ああも連続で使用して疲れている様子もない。
そんな事を思いながら、俺は地上から数十メートル離れた空を、馬程はある大型の鳥型魔物に乗って眺めている。
そう、今までの攻撃はあくまでも俺たちが逃げる為の囮。
こうして魔物ゾンビの特攻や、ドラゴンゾンビにより特大の攻撃で意識を攻撃に向け、視界を阻んだ隙に待機させていた鳥型の魔物に乗って脱出を計ったのだ。
その時煙が割れ、そこからアレンの飛ぶ斬撃が飛んでくる。
飛ぶ事自体初めてで、まだそんなに早く飛べないこの鳥型魔物に意識を写した俺の分体では、この攻撃を躱わす事は出来ないだろ。
その時横から飛んで来た炎弾がその斬撃に当たり軌道を変えた。
万が一の為に、先程のドラゴンブレス弾を放った直後に再度準備していたドラゴンブレス弾だ。
そのお陰で軌道がズレた斬撃は、俺たちの斜め上へと飛んで行った。
眼下のアレンを見る。
斬撃により晴れた地面に立つアレンは、それ以上の追撃を諦めたようにただ光のない瞳でこちらを見つめて立っており、とても不気味だ。
出来れば今後コイツとは関わりたくないなぁ。
そう願い、俺たちを乗せた鳥型魔物とドラゴンゾンビは王都から離れ、魔族領へ向け飛んでいくのだった。




