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ボーンライフ  作者: ユキ
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とある副隊長の話

 俺がこの辺境の街【ローレン】に来たのは20年前になる。


 何もない田舎で育ち、平凡な毎日に飽き飽きしていた俺は、たまに村の依頼で来る冒険者達の話を聞き、その刺激的な生活に憧れ、村を出て冒険者になり、冒険者の最高ランクであるSランクになる事を夢見てこの地にやってきた。


 魔族領と隣接したこの地は冒険者の仕事も沢山あり、また冒険者を優遇した政策をとっている為、何も知らない素人の俺でも何とか生活する事が出来た。


 最初はFランクからのスタートで苦難もあったが仲間にも恵まれBランクのそこそこ名の知れた冒険者まで上がる事が出来た。


 しかし、30を過ぎたあたりから自分の強さに限界を感じるようになり、それに加えてパーティーを組んでた奴らが結婚して嫁の家業を継ぐだの、田舎に帰るだのと抜けていき、遂には俺一人残ってしまった。


 この歳になって今更新しいパーティーを組むなんて事も出来ず、かと言って一人でこなすには冒険者の仕事は危険な為、そろそろ潮時かもしれないと、引退して故郷に帰る事も考えるようになった。


 そんな時、今の状況を知った飲み仲間の兵士から俺の腕前を買って兵士にならないかと誘われた。


 今更故郷に帰って不慣れな農業に勤しむより、この腕っぷしを生かし働いた方が性に合っていると思い、俺は迷わず兵士になる事に決めた。




 兵士の仕事は訓練をしつつ、普段は見回りをしながら酔っぱらいの相手や迷子の案内だけだが、たまに街道や近くの村に出没する魔物の討伐や山賊退治をする事もあり、冒険者時代に得た魔物の知識と鍛えたこの体を活かして活躍し、今では第三部隊の副隊長にまで上がる事が出来た。


 安定した仕事も得て、このまま嫁さんでも見つかれば万々歳なのだが、世の中そう上手くはいかず、今はデスクワークが主となり慣れない書類仕事にゲンナリしながら仕事を終え、仕事後に行きつけの酒場で一杯やってから宿舎に帰り寝るだけの1人寂しい独身ライフを満喫中だ。


 今日も仕事後の酒の事を考えながら書類に目を通していると1人の兵士が詰所に駆け込んできた。


 「大隊長より伝令です!南の草原におよそ20体の魔族が出現し陣を敷いており、被害が出る前にこれを速やかに制圧する為、警備に最低限の人員をおき、残りは全部隊南門近くの第一修練場に集合せよとの事です!」


 伝令を聞いた俺はやっと体を動かせると少し喜びながらも、素早く奥の隊長の部屋へと向かい先程の伝令を報告した後、周りの部下に指示をしながら準備を済ませ隊長に続き隊を引き連れ南門の修練場へと向かった。




 修練場には既に他の部隊が集まっており、どうやら俺達が最後だったようだ。


 「5部隊全て集まったな、これより南の草原に陣を敷いている魔族を制圧する為準備が出来次第出陣する」


 大隊長の発言の後、後ろから煌びやかな鎧を着込んだ肥え太った男ことこの街の領主が前に出て更に付け加えた。


 「今回の出陣の目的はあくまでの魔族の捕縛である!決して殺さぬよう、十分気を付けるのじゃ!

 特にリーダーと思われるメスの魔族は極力傷付けるでないぞ!!

 無傷で捕まえ、必ずワシの前に連れてくるのじゃ!」


 どうやら今回の女魔族はかなりの上玉らしい。

 現に普段はあまり屋敷から出てこないデブ症の領主自らが、魔族が出現した程度で最前線に鎧まで着込んで出張ってきているのだから。


 おおかた捕まえた魔族を自分の奴隷にするか、王都のお偉いさんに高く売り付けるのが目的だろう。




 この国は人族至上主義だ。


 人族を奴隷にすれば売った者も買った者も重罪になる。


 しかし言葉が話せようが人族以外の全ての種族、魔族や獣人と言った種族はこの国では人と認められず、人権などない。


 すなわち、人族以外の種族なら奴隷にしようがなんの問題もないのだ。


 逆に野蛮で無知で危険な多種族を奴隷として調教し、人族の役に立たせる事こそがこの世の為になると国のお偉いさんがたが推奨している位だ。


 その思考は王都などの大きな街になる程強くなる。


 なので俺みたいな小さな村育ちはそこまで他種族に偏見などはないし、奴隷の姿を見ると嫌悪感すらある。


 まぁ、特に俺の育った村は秘密裏にとある種族と取引していたから、知り合いもいて特別抵抗が強いってのもあるけどな。




 「斥候部隊からの報告によりますと、今回の魔族は魔術師19体とリーダーと思われる吸血鬼1体の計20体です。南側の草原の高台に陣を敷き終えた後は動きがないようです。」


 補佐官からの報告で、内心面倒だと思った。


 吸血鬼は人よりも優れた身体能力を有し、並の兵士なら吸血鬼一体に対して五人がかりでやらないと厳しい相手だが、そこに後方支援で魔術師が加わるとなかなか厄介だ。

 更にリーダーの吸血鬼は無傷で捕獲となると更に面倒になる。


 ただ、それも見越してのこの人数なのだろう。


 今いるのは防衛に必要な人員を除いた全部隊の隊員で計200人だ。


 面倒ではあるが、苦戦する事はあり得ない戦力差である。



 なのにである、どうも胸騒ぎがする。


 冒険者時代はこの直感で何度も命を繋ぎ止める事が出来た。


 だから、この直感は馬鹿に出来ない。


 だが今は冒険者の時と違って自分の意思で勝手に行動出来ない立場である。


 こりゃ、いざとなったら逃げられる準備はしといた方が良いかもしれないな……。




 そして情報の共有と部隊の準備が整い出陣してから数分たつころ、前方に例の魔族の集団が見えてきた。


 すると俺達を待っていたのか、集団から一体の魔族が前に出ると魔法で拡張したのだろう遠くまで届く声で話始めた。


 「妾は魔王軍四天王が一人、ルカレットだ。


 お前達には二つの選択肢がある。


 一つは降伏し、私の支配下に入るか。


 もう一つは死ぬかだ。


 好きな方を選べ」



 すると後ろに控えていた領主が前に出ると喚き散らした。


 「下等種族の分際でふざけた事を! お前達は人間様の奴隷になる事しか生きる事を許されていないのだからわきまえて物を言わんか! お前達こそとっとと降伏して奴隷になるといい! そおすれば、王都の貴族達がこき使ってくれるからのぉ。ただ、そこのお前、お前だけはワシの奴隷として、生意気を言った分痛ぶって、可愛がってやるからのぉ、光栄に思うが良いぞ」


 「フッ、どうやら死にたがりの豚がいるようだな


 ならここで死ぬがよい」


「誰が豚だ!ええぃ、とっととこの生意気な連中を捕獲しろ!」


 領主の言葉で大隊長が突撃の命令をだし、突撃を仕掛けだしたその時、それは起こった。


 突然地面に魔法陣が浮かび上がると光だしたのだ。


 よく見ると敵の魔術師が何か呪文を唱えている。


 そしてすぐに光が止むとそこには数えきれない程の骸骨達が隊列を組んで並んでいた。


 突然の光景に唖然としていると次に骸骨達の前に小さな魔法陣が浮かび上がりそこから剣が出現した。


 「勇敢なる骸骨兵達よ!武器を取り目の前の人間共を蹂躙するのだ」


 敵の魔族の合図で数えきれない程の骸骨達は剣を持ちゆっくりと前進してきた。




 バカな!骸骨兵を召喚しただと!


 本来、召喚をするにはそれなりの時間と魔力が必要な筈だ!


 それをこの一瞬で、しかもこんなに大量に召喚するなんてありえない……、いや……今のは、召喚ではなく転送か!?


 転送は生きた生物を送る事は出来ないが少ない魔力で大量の物を離れた場所に送ったり、離れた場所からこちらに送る魔法だ。


 骸骨兵は契約の元に命令で操り、生きているように動かす事は出来るが元は骸骨なので生物ではない。


 なので予め時間をかけて骸骨兵を召喚しておけば、転送なら瞬時に少ない魔力で大量の骸骨兵を出現させる事も出来る。



 方法はわかったが、それよりも大変な事に気付く。


 コイツらは少なく見積もっても一万はいるのだ。


 骸骨兵は術者の命令で動くだけの人形だ。


 だから難しい動きは出来ないし、一体二体ならたいして強くはない……が、腕を斬ろうが足を切ろうが、頭が無くなろうが、お構いなしに動き続ける不死者だ。


 その上取れた部分も近付ければまたくっつく。


 コイツらを倒すには聖なる力で浄化するか、再生出来ない位粉々にするか、ムネのコアを壊すしかない。


 そんな奴らが一万も居て、更に魔族までいる。


 対してこちらは二百人の兵士と足手纏いな領主が一人……、どう考えてもこちらに勝ち目などない。


 本来なら直ぐに撤退して街に立て篭もるべきなんだが、さっきから後ろで戦況も考えず領主が突撃しろだの、あの魔族の女を捕まえるだの喚いてやがる。


 そんな中撤退もしくは逃げたならば戦犯として罪に問われて最悪は死刑にされてしまう。


 嫌な胸騒ぎの正体はこれのせいだったか!



 その間にも骸骨兵は前者しており直ぐに最前列の兵士と戦闘が始まった。


 仕方がない、戦っても逃げても死ぬなら、華々しく死んでやらぁぁ!!



 そうして覚悟を決め迫る骸骨兵と迎え討つ。


 骸骨兵の斬撃は遅く一体一体はやはり弱い。


 しかし、こちらが斬りかかってもコイツらは避けるどころか、お構いなしに斬り返してくる。


 何とか一体倒した所で、次から次へと迫る無数の骸骨兵にこちらはどんどん押されていく。


 そして数の差は歴然で、最初は何とか陣形を組み応戦していたが次第に陣形は崩れバラバラになり、今では周りを骸骨兵に囲まれ仲間の生死は離れた所からする戦闘音でしか分からなくなってしまった。


 何とか仲間と合流して立て直さなくてはと隙を探していた、その時……そいつは現れた。



 他の骸骨よりも明らかに大きく2mは超えるような身長だか、他は周りの骸骨兵と変わった所は無い。


 それなのにそいつを見た瞬間に俺の感がコイツはヤバいと告げた。


 俺はその感覚を疑問に思う事も無く、自らの感に従い速やかにコイツを仕留めるべく、奥の手を使用する準備に入る。


 スキル発動「縮地」


 この技は単純だ、足に溜めた気を瞬時に解放し、常人ではあり得ないスピードで移動する。


 ただ、単純だからこそ強い。


 気を溜めれば溜めただけそのスピードは上がり、俺の今のマックスならAランクでも初見でかわすのは困難な程だ。


 ただ、体への負担も威力を上げた分だけ大きくなる事から、そんなに多様する事は出来ない。


 最悪の場合、この場所から逃げ選択肢を残す為にも残しておいた俺の奥の手だ。


 だが、コイツはヤバいと直感で感じた俺は迷う事なくこの奥の手を使う事にした。


 しかし、瞬時に技の準備が終わりヤツのコア目掛けて技を発動した時、突然横から吹っ飛んできた隊員が斬り込もうとした奴と俺との間に入ってしまった。


 既に発動してしまった技を途中で止める事が出来ず、すんでの所で無理やり横に軌道をズラす事で回避する事に成功した。


 すぐに吹っ飛んできた隊員を横目で確認するが、頭部が斬り取られていて既に死んでいる事がわかった為、直ぐに意識を戦闘に切り替え、再び技を発動し斬りかかった。



 しかしその斬撃を、ヤツはすんでの所で()()()()


 他の骸骨兵は自分が壊されようがお構いなしに主人の命令に忠実に、ただ相手を蹂躙する事だけを考えて動いているのに、ヤツはかわしたのだ。



 まるでそこに意志があるかのように。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 近衛兵はRoyal Guards、つまりロイヤル=王族を守ることを主とした人たちなので、領主が王族でもなければ違うんじゃないかな。
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