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ボーンライフ  作者: ユキ
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訪問者

 魔族領の東側、そこには草木も生えない荒廃した魔族領には珍しく広大な森林が広がっている。


 しかし、この場所も他の魔族領と同じく、とても人が住めるような場所ではない。


 それはこの場所に瘴気が溜まりやすく、その影響で強力な魔物が多数出現する為だ。


 その強さは戦闘能力に優れる魔族でさえ恐れて近付かない程だ。



 そんな大木が生い茂った深い深い森の中、その中心部は突然開けると、そこにはさまざまな野菜が実る広大な農地が広がり、柵に囲まれた草原には、穏やかに過ごす家畜達が居た。


 そしてその奥にはそんな穏やかな光景とは不釣り合いな程、巨大な建物が立ち並ぶ街が広がっており、その街には強力な魔物が住むはずのこの森林に、一万人近い人族と二十人の魔族、そして日に日に召喚され増え続ける骸骨兵達が暮らしていた。


 その骸骨兵の内の一体……いや、進化した事で()()()()()()()()()()()())と言う新たな種族を得た、二メートルを超える巨漢と額に黒いツノが生えた、唯一意思を宿し、生前の異世界の知識を有するのが、俺こと、クリス十六世である。


 そんな俺は街の中央にある、他と違い土地を贅沢に使った三階建ての豪華な建物へと向かっている。


 この街は、四天王ルカレットの部下の魔術師達が、ローレンの街の人族の住民の避難場所として半日で作り上げた街だが、歩きながら見上げた住宅はどれも立派で、元の世界のように上下水完備は当然でエレベーターやインターホンなどもある広々とした高級マンションと言った感じの作りになっている。


 また街道は綺麗に整備され、公園や病院、デパートなども設置され、元のローレンの街よりよっぽど近代的で巨大な街になっており、魔術師達の化け物じみた実力がわかる。


 何よりゴミどころか汚れ一つない街並みは本当に人が住んでいるのかと疑う程だが、それは日々街を見回っている骸骨兵達が警備だけではなく、清掃や街の修繕などもしてくれているお陰であり、更に困っている住民の手助けなどもしている事から、この街での魔族や骸骨兵の人気はかなりのものになっている。


 そんな綺麗に整えられた街路樹生える街道を進み、目的の場所である、領主城へと着いた俺は、色鮮やかな花々が咲く庭園を整備する骸骨兵達を横目に抜け、領主城内へ続く大きく立派な扉の前まで到着した。


 すると扉の前で警備していた骸骨兵達が俺を確認すると恭しく礼をして扉を開けてくれたので、扉を潜り領主城へと入る。



 目的の場所は三階にある会議室なので、入った横の通路に設置されているエレベーターへと向かう。


「クリス様、おはようございます」


 そう声を掛けて来たのは人族の女性でタイトスーツスカートにシャツ、黒縁メガネにアップにまとめた黒髪のクール美人であるローレンの事務官代表のコリア・シューだ。


 またその後ろにはボサボサの髪に無精髭、やる気の無い顔、使い古された軽装の装備を着込んだその見た目は山賊と言われても納得してしまう人物、ローレン軍の大隊長であるジン・ウォレットもおり、会釈で挨拶をされた。



 普通に挨拶されている事からわかる通り、俺の正体だが、人族の代表であるコリアとジンの二人には既に話してある。


 進化した事と身体倍加を習得した事により、四天王と同等の力を有するようになったので自衛の為に隠す必要もないだろう、とロザンヌさんに言われたからだ。


 話をした時、コリアはとても驚いていたが、何故かジンは納得したような表情をしていた。

 まさかバレていたのだろうか?



「コリア、ジン、おはよう。今日はよろしく頼む」


 偉そうな口振りで話しているのは何故か俺が魔族側のトップに据え置かれているからだ。


 絶対にロザンヌさん達の方が実力が上なのだから、ロザンヌさんか他の魔術師の方がやるべきですと反対したが、老い先短い年寄りに責任ある仕事は出来ないと、断固として受け入れてくれなかった。


 アレだけ化け物じみた力をヒョイヒョイ使って今も活発に動き回っているのに何言ってるんだと思ったが、そんな事は口が裂けても言えません。


 何故かって? そんなの怖いからに決まってるじゃないか! 断る時の表情は笑っていたけど有無を言わさぬ圧力があった! 絶対反論してたら碌な事になってなかったよ、アレ! だから魔法の実験台は勘弁して下さい!



 ……ゴホン、つい心の中で取り乱してしまった。



 そんな事を考えている内に目的の会議室へ到着すると、既に魔術師代表として選ばれたロザンヌさんが席に着いていた。


「おはようございます、ロザンヌ様。お早いですね」


「早く目覚めちゃったからね。やる事もなくて暇だがら早く来ちゃったのさ」


 やる事もないと言っても、骸骨兵が居るとはいえこの街を維持するのも相当な労力が必要な筈だが……流石化け物筆頭は違うな。

 そして早く目覚めたのは歳だから……いえ、何も考えてないです!! すいません!


 一瞬こちらを笑顔で睨まれたので思わず心の中で謝ってしまった。



「それじゃ、揃ったようだしちゃっちゃと会議を始めちゃおうか」


 そうロザンヌさんが切り出したので、各々席へつくと会議が始まった。



「では先ずは我々人族から報告ですが、ロザンヌ様達の協力もあり避難による住民の混乱もようやく収まりました。しかし魔王様が勇者に討たれた件もあり、我々がローレンの街へ戻る事は絶望的になり、更に今後魔王軍からの支援も期待出来ない状態で、住民の間では不安が募っております。ですので今後の我々の対応についてこの街を収める魔族側のお考えをお聞かせ頂ければ幸いです」


 数日前に魔王様が倒された事で、人族の戦いで魔族側へ保護を求めて避難したローレンの住民達は人族から魔族側とみなされ、もし戻ったなら非道な扱いを受ける事は明白な為、人族領へ戻る事は出来ない。


 しかし、魔王様が討たれた事により魔王軍は解体され、魔王軍からの庇護も当てに出来なくなってしまったローレンの住民は、今この地を実質的に収めているロザンヌさん達魔術師達に引き続き自分達の庇護を求め、今回の会議を開く事になったのだ。


「そうだね、私らとしてはこれからもアンタ達ローレンの住民の庇護をするのはやぶさかじゃ無いよ」


「それは大変ありがたい申し出です……それで我々はどのような対価を支払えばよろしいでしょうか?」


 救済の手を差し伸べられたのに、簡単にその手を取るのではなくその言葉の裏を読む。

 流石若くして事務官の代表としてこの場に居るだけの事はある。


 心なしか優秀な人材を目の前にして、ロザンヌさんも嬉しそうである。


「対価は……我々魔族を受け入れる事……かね」


「なっ!? それは流石に我々に得過ぎませんか!? そもそも既にローレンの住民はあなた方魔族を受け入れているどころか、数々の善行により崇拝している者さえいるくらいですよ」


「そうだね……でもそれが、ルカレット様のご意志だからね」


「ぁ……」


 その言葉を聞き、黙り込むコリア。

 すると横で話の流れを静観していたジンがそっとコリアの肩に手を乗せコリアを宥める。


「俺らとしては、願ってもない提案でしょ? 有り難く受け入れよう」


「……そう、ですね。取り乱してすみませんでした。その提案でよろしくお願い致します」


「良いってことよ! それもまた若さだからねぇ。まっ、大船に乗ったつもりで任しときな」


 ロザンヌの言葉に声を荒げた事を恥ずかしくなったのか顔を赤くして俯くコリア。

 こう言う素直な反応は交渉人としてはまだまだだが、人としてはとても好感を持てる。


 きっと彼女が周りから慕われる理由の一つなのだろう。



 そんな感じで和やかに会議は進んで行った。


 ただその中で俺は特に発言する事もなく座っているだけで、トップと言っても名ばかりで、この世界の事情に疎い俺は蚊帳の外で殆どはロザンヌさんが進行してくれている。


 マジで俺いらないじゃん。

 ロザンヌさんがトップになるべきだよなぁ……。


 あっ、冗談です。

 お願いだからこちらを笑顔で見つめるのはやめて下さい。


 しばらくするとコリア達の方を見て会議を再開するロザンヌさん。


 ……この人は人の心の中を読めるのか? 俺は骸骨兵だけど。

 とりあえず、今後は余計な事考えないようしよう。



 そんなこんなで俺は置物となり進められた会議の結果、ローレンの住民は倒された魔王軍に代わり、今後は俺をトップとした魔術師達の庇護に入る事。


 今後もこの森を拠点として生活して行き、ゆくゆくはここを新たなローレンの街として復興させていく事が決まった。


 ただ、まだ魔王様が倒されてそんなに経っていない為、安全を考えしばらくは外界との交流はもたずにこの中で暮らし、ほとぼりが冷めた頃に森の外の魔族と交易を行った行く事になった。


 と言うのも、厳しい環境の魔族領で人族が暮らしていく事は不可能なので、魔王様を倒す目的を果たした勇者達人族軍も、しばらくすれば人族領に戻るだろうとの事だからだ。



 本来なら魔族領にあるこの森林も、とても強力な魔物が多数生息していて、魔族でさえ暮らすのは難しい場所だが、そこはウチの化け物魔術師達の力で隠蔽魔法やら識別式の結界やらで仮設住宅周辺の安全は守られている。

 この場所にこれだけの規模の街を築けたのはそのお陰だ。


 オマケに広大な収穫間近の農地や仮設住宅地を通る綺麗な川なども整備され、衣食住全てが揃った安全な環境にローレンの住民達は何の問題も無く平和に暮らしていける。


 『ワシらの本来の目的はこの魔族領を人の暮らせる環境に変えてく事じゃから、このくらい出来て当然じゃ』

 とか言ってたけど、果たして本当にこれが普通の魔族に出来る事なのか疑問に思うが、普通の魔族のレベルを知らない俺がおかしいのだろうか……。




 そうして順調に進んだ会議を終えた俺は、街の外れにある小高い丘にある、昔ルカとグラスが暮らしていたあの平屋の家へと向かった。


 魔術師達が街を開拓した時もこの場所はそのまま残してくれているので、周りの森やルカと一緒に魔法の練習をした広場もそのままだ。


 そんな変わらない風景の家の扉を開けて中へと入る。


「ただいまぁ」


「お帰り」


 俺の言葉に()()()返事が返ってくる。


 家の中には一体の骸骨兵がおり、先程返事をしたのはこの骸骨兵だった。


 この骸骨兵は俺の持つスキル『将軍の号令』の効果により使徒した百体の骸骨兵の内の一体で、俺の意思が宿り、情報もリアルタイムで共有出来る事で、俺の代わりに留守を任せていた。


 俺が帰って来た事で、他の骸骨兵と同じく街の見回りに戻って行く分体を見送ると部屋へ向き直る。


 この部屋は壁紙や家具などはピンクで統一され、至る所に可愛らしい人形が飾ってある。


 中央にはシャンデリア、奥には人よりも大きなクマのぬいぐるみが座っている三人掛けのソファと、キングサイズはある天蓋付きの大きなベット。


 備え付けのキッチンや、ダイニングテーブルなどもある、全てが可愛いで統一されたファンシーな女の子の部屋だ。



 そんな部屋の天蓋付きの大きなベットへと向かう。


 そのベットの上には、お気に入りのフワフワのウサギのパーカーの部屋着を来て安らかに眠りについている四天王ルカレット・エレンシアがいた。


 「ルカ、ただいま」


 そう声を掛けるが、眠っているルカに目覚める気配はない。



 あの勇者達との戦いで気絶したルカは、この家に戻ってから数週間経った今も、未だに目覚める事なくずっと眠りについている。


 ルカを見てくれたロザンヌさんの話によると、目覚めないのは肉体的ではなく精神的な事が原因で、自ら目覚める事を拒否しているのでは無いかと言われた。


 と言うのも、ルカはあの戦いで、過去のトラウマを呼び覚まされた挙句、そのトラウマの原因となった勇者の()()()()で、自分を庇ったグラスの左腕を切断される所を目の前で見せられたのだ。


 その後自ら必死に治療するが、一行に治る気配のない傷を見て、きっと過去に殺された両親や国民と重ね、深い絶望に打ちのめされたに違いない……。


 幸いルカは魔族でも頑丈な吸血鬼なので、数年程度飲み食いしなくても死ぬ事はなく、体の心配をする必要は無いので自然に目覚めるのを待てば良いが……それがいつになるのかは分からないし、本当に目覚めるのかも不明だ。


 だがら今はルカを見守りつつ、目覚めた時にローレンの現状を見てガッカリさせない為にも、ルカに代わりみんなを守りながら街を発展させ、そして、どうにかしてルカが目覚める方法を探すしかない。


 何か……何か、ルカを目覚めさせる方法はないか……。



 トントン


 すると家の扉をノックする音がした。


 返事をして扉へと向かい扉を開ける。


 すると扉の向こうには、ロザンヌさんともう一人、ロザンヌさんの後ろで誰かが待っていた。


「クリスに用みたいだったから連れて来たよ」


 そう言うと後ろの人物が前へと出てくる。



「お久しぶりです、クリスさん」


「リン様!? 生きていらしたんですね!」


 その人物は白い仮面で顔を隠し、黒いマントを頭まで被った、ゴブリンに転生した元魔王軍参謀のリン様だった。

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