進化
突然俺の体が光出すと、それまでナメクジが這う程度のスピードで近づいていた周りの骨達は浮き上がり、凄いスピードで飛んでくると一気に俺の体を元に戻して行った。
その際、明らかに壊れた骨の量よりかなり多い量が飛んできていた筈だが、体が大きくなるとかは無かった。
ただ頭の辺りが少し重くなった気がする。
そして光が止むとそこには完全に元通り……ではないな。
体は元通りだが、額の部分から何か全体的に黒いツノのようなモノが一本生えているのが視界に入る。
触ってみるが少し上に反った、硬く尖った、紛う事なきツノである。
ただ、体の変化も気になるが、それよりも勇者だ。
幸い突然光出した俺のお陰でその歩みを止め、光が止んだ後に変なツノの生えた俺の変化に警戒してこちらを観察していた。
俺はそれを好奇と捉え、早速体の変化、きっと進化だろうにより使えるようになったあるスキルを試す事にする。
使い方は既に頭の中に突然閃いた時に一緒に全て入ってきたから大丈夫だ。
スキル発動『骸骨将軍の号令』
周りで転がっていた骸骨兵の破片が寄り集まり、再び骸骨の姿へと変化した。
それが一体や二体の話ではない。
変化してから感覚で分かるようになったが、この部屋に居たであろう五十一体、厳密に言えば俺の体を治すのに十体分骨を消費しているから六十一体だが、五十一体全ての骸骨兵がその姿を元に戻した。
スキルとは、種族・職種など、特定の条件を満たした者のみが使う事が出来る、奥義のようなモノで、普通は発動すると魔法と違い魔力ではなく体力を消費すると以前ルカが教えてくれた。
でも俺の場合体力はなく、体を動かすのに魔力を消費しているので、魔法と同じく魔力を使うようだ。
と言うのもスキルを発動して骸骨兵が出来上がるまで俺の中の魔力をかなり持って行かれたからだ。
あれ? 俺ってさっき既に魔法三発打ってるよね?
これ、スキル発動するだけで魔力空になって死ねるんじゃね? と発動中は思ったが、よくよく体内の魔力を探ってみると何故かいつもよりかなり多い量を感じた。
これは進化で魔力総量も増えたのか?
でも、それにしても回復しているのは何故だ?
そんな事を考えている間に出来上がった骸骨兵の数で答えがわかった。
俺のスキルで魔核が壊れてようが粉々に粉砕されてようが、関係なしに元に戻った筈の骸骨兵達。
なのに俺の体を治すのに十体もの骸骨兵を消費したのは何故か?
答えは簡単だ。
魔力に変換したのだ。
これは……魔力総量が増えただけでなく、安易に魔力のストックが出来るようになったと言う事か?
しかし、流石に同じ骸骨兵仲間を魔力ストック呼ばわりは気が引けるなぁ。
ただ、いつも食べている料理も元は同じ生き物を殺して出来た食材を元に作っているじゃないか! それと同じだと思えば……。
これまで骸骨兵として過ごした期間や、今日だけでも多くの情報が頭の中に入ってきた影響もあり、若干歪んでいるがそれで納得出来てしまった自分がいた。
そんな自分の変化に少し恐ろしくも感じたが、今は目の前の事に集中だ!
俺の変化に続き突然復活した骸骨兵達に戸惑いの表情をしていた勇者もそろそろ行動を開始しそうだ。
「ハッ! 突然骸骨兵が光って俺の聖なる魔力により復活不能にした筈なのに治ってるは、他の骸骨兵達まで復活するはと驚きはしたが、所詮は骸骨兵だろ? 今度は二度と復活出来ないくらいの粉末状にしてやればいいだけの話じゃん。まぁ、俺に嘘の情報を教えた教会のクソジジイはあとで殴り殺さないとな。」
そう言うと再び拳を振りかぶり勇者のすぐ横に立っていた骸骨兵に殴りかかる。
しかしその拳は込めた魔力は凶悪で威力は高いのだろうが避ける事のない普通の骸骨兵だと舐めている為スピードは遅く……俺なら躱せるモノだった。
ならば躱わせる。
そして当然のように骸骨兵とは思えない滑らかな動きでその拳を躱わすその骸骨兵。
驚愕の表情をする勇者。
本来ならそのまま反撃すれば良いのだが、こちらの攻撃は勇者に効かない。
俺が今すべきは勇者を倒す事ではなく、無駄だと勇者に言われても、今も治癒魔法を使い続けているグラスを信じて、時間を稼ぐ事だ!
何たってあの人は、ルカの師匠で、魔王様の古い友人で、賢者に冷蔵庫を貰うような仲なんだから。
その時、グラスがチラッとコチラを見て笑ったように見えた。
やっぱりそうだ! グラスには何かルカを治癒する手立てがある。
今はただ、そんなグラスを信じて、この新たに得たスキルと進化して得た魔力ストックを使い少しでも時間稼ぐだけだ!
「ヘぇ〜、ただの骸骨兵かと思ってたけど、攻撃を避けるなんてねぇ。それに魔法を打ってきたり、突然光ったり、治らない筈の体を治したり、もしかしてそこのツノのお前ってただの骸骨兵じゃなくて、進化した骸骨兵だったりする? 確かそんな事もジジイが言って気がするし」
速攻バレている。
どうやら勇者にこの世界の情報を教えた教会の一番偉いジジイと言うのは相当な情報通らしい。
さっき殴り殺すとか言ってたから、そんな人が居なくなってくれるなら魔王軍としては是非そうして欲しい。
「まっ、そんなの関係ないけどね。避けられるようになっただけなら避けられないスピードで攻撃すれば良いだけだし。さて、何%のスピードまで避けられるかな?」
そう言うと周りの骸骨兵に向かい先程より早いスピードで殴りかかる勇者。
この程度ならまだまだ躱わす事は容易だ。
だが、その攻撃は止むことがなく、徐々にスピードが上がって来る。
「やるねぇ、ならまだまだ上げるよ!」
そう言ってまた一段と早くなったスピードは側から見ても早く、変身後のポルカと変わらない程になる。
しかしあれから修行をし、進化もした俺にはまだ余裕で躱せるスピードだ。
ならば俺の骸骨兵も躱せる!
シュッ!
離れている俺から見ても惚れ惚れする綺麗な動きだ。
うん! 躱わしてる俺、グッジョブッ!!
だが、勇者の動きは更に上がり、それは最早方向転換の為にスピードが緩んだ時しか姿が見えなくなった頃、骸骨兵達は少しずつ攻撃を掠るようになる。
流石に動き出しから動作を予想するにも速すぎる。
そして遂に一体の骸骨兵が勇者の放った拳を胸に受け、勇者の言う通り打たれた胸は粉末になり飛び散る。
「ハハハ、なかなかやるねぇ、まさか四十%のスピードじゃないと当たらないなんて」
ハハハ、笑いたいのはこっちだよ。
あれで四割とかどんだけ人外だ。
さっきキレた時は今も動きが速すぎて捉えられないので比較も出来ないが、怒りで予備動作が雑で無駄に大きくなり、そのお陰で今より格段に早かったであろう攻撃も先を読む事が出来たからギリ間に合った。
それでも魔剣クレットを拳との間に滑り込ませるのでさえ精一杯だったが。
今じゃ精神状態も普通に戻り、予備動作も小さいから全くわからん。
一通り喜んだ後再び攻撃を再開する勇者。
その攻撃は既に魔力強化した俺の目でも追えるものではなく、やられた骸骨兵の位置で一瞬前に居た位置がわかるだけだった。
しかもご丁寧にやられた骸骨兵は全身に連打を喰らったようで体全てを粉末にされている。
俺が進化した骸骨兵だとわかっているのに攻撃してこないのは、勇者が遊んでいるからだろう。
そして骸骨兵が三十体やられた時、俺は決断する。
そろそろかな。
スキル発動『骸骨将軍の号令』
すると粉末にされ周りに飛び散った骸骨兵の骨粉末がより集まり出す。
その光景を目撃した勇者は一旦距離を置き、その成り行きを観察している。
そして、集まった粉末は骸骨の形を形作ると固まり、再び骸骨兵として動き出したのだ。
実は俺のスキル『将軍の号令』には二つの効果がある。
一つ目は、骸骨を合計百体まで自分の意思を百%乗せて操る事が出来、またその情報を共有出来る。
これが今まで勇者の攻撃を躱わす事が出来た理由で、操っている骸骨兵にも俺と全く同じ思考を植え付けられる……要は俺が百人に増え、しかもその全てと情報をリアルタイムで共有出来るのだ。
そして二つ目の効果は、周りの骸骨がどんなに破壊されていようが、俺がいる限りその体力(俺の場合は魔力)を糧に修復し復活出来る
これにより粉状にすれば修復出来ないと勘違いして頑張っていた勇者を横目に余裕をこいていられたのだ。
「ハッ、何だよそりゃ……そう言う事されると正直冷めるんだけど……」
ヤバい、あまりの理不尽に俺つえー勇者がキレ出した。
確かに例え弱くても、倒した敵が何度も復活するゲームとかコントローラー投げたくなるよな。
……でも、俺のスキルはそこまで万能じゃない。
「……ん? あれれ、何かお前ら、最初より数が減ったよな?」
それに気付いた勇者はニヤニヤ顔に戻り嫌味ったらしく指摘してくる。
そう、俺のスキルは発動に必要な魔力の消費量が多いのだ。
発動してしまえば微量の魔力で運用出来るのだが、発動には今の魔力総量の八割強消費する。
なので、スキルを使うのに紛れて骸骨兵を十体取り込み魔力を補充している。
この力がなかったらとても戦闘では乱用出来ない能力だ。
つまり今は最初の五十一と俺の、合わせて五十二体ではなく、四十二体しか居ない。
「そっか、そっかぁ。反応なしかぁ。骸骨兵だしなぁ、気のせいかもしれないし、試しにもう一度破壊してこう!」
攻略法を見つけた子供のように笑顔で攻撃を再開する勇者。
どうやらこの勇者は大分精神が幼いようだ。
そんな子供が全人類最強の力を持ってるなんてなんて恐ろしい事だと思うと共に、簡単にこちらの思惑にハマってくるので、ありがたいとも感謝した。
そしてまた骸骨兵がある程度減らされたのでスキルを発動し、その時に骸骨兵を取り込み魔力を回復させる。
「ハハハ、やっぱり! 大分減ってきたね! これじゃあと四回もやれば終わりかな?」
そして再度始まる一方的な破壊。
側から見たら骸骨兵が突然粉末で飛び散るのだがら、自爆しているようだ。
そして再度のスキル発動。
それと共に骸骨兵を取り込り、残り二十一体となった時遂にその時が訪れた。
ニヤニヤ顔で俺のスキル発動をわざわざ待っている勇者に向かい、後ろから特大の魔法が飛ぶ。
しかし、さすが勇者。
その攻撃を素早く察知すると、飛んで来る魔法に向かい手をかざし、その先に突然出現した結界のようなモノで防いでしまった。
「なっ!?」
しかし、衝突により発生した爆煙が晴れた時、その先にいる魔法を放った人物は予想していなかったようで、驚きの表情になる。
そこには体は傷だらけだが、しっかりと自分の足で立つ四天王ルカレットの姿があったのだ。




