開戦
目の前には一万を超える人族の軍勢。
対してルカの部下は前回の戦いで生き残った約八千の骸骨兵と魔術師様が十九名。
戦力差では負けているが、今回は防衛戦で更にウチの魔術師様達はみんな化け物揃いだ。
それは人族軍がここまで来る三日間の間にまざまざと見せ付けられた。
グラス様が報告の為魔王城へと転移してから、ローレンの住民の避難をどうするかが話し合われた。
人族が攻めてきた場合、裏切り者のローレンの住民達は皆殺しにされるであろうとの見解がローレン側から出されたからだ。
しかし、ローレンの住民約七千人。
年寄りや子供もいる中で徒歩で魔族領に避難されるのでは移動速度が遅すぎて人族軍に追いつかれ虐殺されてしまう事も考えられた。
そこで転移陣を使っての避難が考えられたが、その計画は淡くも崩れ去る。
再び転移陣を起動させようとしたが、全く反応しなくなったのだ。
人族側が何か細工をしたと考えられたが、今はその打開策が見つからず、お手上げ状態になった時、ルカからある提案が出された。
それはルカの部屋の空間転移の扉を使って、あの森に避難すると言うものだった。
幸いな事に、新たに転移を起動する事は出来なかったが、既に起動しているルカの部屋の空間転移の扉は何の問題もなく作動していたのだ。
しかし、あの場所はルカにとって、とても大切な場所なのではと思い聞いてみたが、自分の大切な場所を守るよりも、ローレンの住民の命の方が大事だからと何ともなしに返えされました。
マジでカッコ良すぎて惚れてしまいそうです。
友達だから惚れないけどね!
そしてそこからが凄かった。
方針が決まるとそれじゃ住民が最低限住めるようにしなくちゃのぅ、と一人の老婆魔術師様が言うとそれに続き他の魔術師様も同意し、早速空間転移の扉で森へ行くと魔法であっという間に辺り一帯を切り開き平坦な土地へと変えると、住宅やらインフラ関係やらを作り上げてしまったのだ。
まっ、こんなもんかのぅ。とか言ってたけど、そこには七千人どころか一万人以上でも住めそうな規模の、エレベーター付きのマンションが立ち並び、公園や噴水、道路には街路樹まで出来上がっていて立派な街が出来上がっていたのだ。
こんな大魔法易々とやってのける部下達も化け物だが、この人達を部下に持つルカの凄さを改めて実感させられた出来事である。
そうして開始された住民の避難。
しかし中には住み慣れた故郷からの避難を拒み、このローレンと心中すると言う者も現れた。
そんな住民にはコリアやジンなど兵士、事務官が一人一人に誠心誠意説得に出てくれた為、最終的にはその誠意が伝わり、ローレンの住民全てを避難する事が出来た。
何なら避難先の豪華な部屋を見て感謝している者も多くいたくらいだ。
また冒険者や商人など、この街の住人ではない者は他の街へと避難した者も居たが、これまでの魔王軍の対応に感動を覚えた者達も多く、住民と共に森へ着いていく者も多くいた為、最終的には1万人近い移住となり用意した住宅も殆どが入居済みになった。
その時予想通りじゃのぅと言っていた一人の老婆魔術師の言葉が忘れられない。
マジで有能過ぎて怖いです。
そして現在。
住民の避難を終わらせたローレンには魔王軍の部隊しか残っておらず、各所に設置された骸骨兵が防衛戦に備えて待機している。
対する人族軍は北の丘に本陣を置き、その周りを親衛隊が守り、その前には魔術師と、魔術師を守るように重装備で固めた王国兵と騎馬隊が配列されている。
そして最前線には各々様々な装備をつけている事から、今回市民から募った義勇兵と言う隊列で並んでいる。
そんな人族軍を見下ろす領主城のバルコニーで俺とルカの二人は人族軍の戦力を観察していた。
この場所はローレンの街の中程にあるが、小高い丘の上に立つお城のてっぺん付近に設置されたバルコニーな為、魔法で遠くのモノが見えるようになる【遠視】と言う双眼鏡みたいなモノを使えれば城壁の向こう側に居る相手の姿も丸見えなのだ。
ちなみルカは裸眼で見えるようだ。
流石吸血姫は何でもありである。
今は皆戦争の準備で忙しく、周りに誰も居ない為普通に会話をする
「いよいよだな」
「……うん」
「こっちは防衛戦とは言え、あっちの方が戦力も多いし勇者や勇者の仲間までいるけど、勝てそう?」
「……勝つしかないよ」
ルカの口数は少ない。
ジン達から報告があってからずっとこんな調子だ。
口数が少ないだけなら良い。
毎日作ってくれる料理の味付で塩と砂糖を間違えると言う古典的な間違いをするだけでなく、あれだけ毎日布団で一緒に寝たがっていた上、お風呂も一緒に入ろうとしつこく言ってきたあのルカが、この三日間は一切誘って来なかったのだ。
毎日どう断るか思考覚悟していた日々が嘘のように平和な日々だ。
流石にルカと言えど他の四天王を全て倒した勇者に勝てるか不安なのだろう。
あっ、住民の避難で忘れてたけど、四天王のランド様率いる南東の部隊も二日前に勇者にやられたと早馬で報告が入っている。
しかもランド様はあろう事が、勇者に勝てないと見ると早々に近しい側近だけを連れ、他の部下を見捨てて逃げたそうだ。
相変わらずのゲスぶりである。
お陰で部隊は指揮する者がいなくなった事で混乱し、そこを好奇と捉えた勇者や人族軍に攻めら一方的な虐殺による地獄絵図とかしたそうだ。
そんな事を考え、ルカとの弾まない会話をしていると、ルカが何か決心したような表情になりこちらを見てきた。
しかしその時、眼下の人族軍の隊列が割れ、本陣から一頭の馬に乗った赤い鎧に身を包んだ王国兵が前に出てきた。
「聞けッ! 卑しい魔族達よッ! 我こそは王国軍将軍にして、王国一の兵、《ボルューム』》! これより我ら王国軍は神聖な王国の土地であるこの地を穢したお前たち下等種族を、他の魔王軍と同じく一匹残らず狩り尽くしやるから覚悟するが良いッ!!」
ルカと違って魔法でこちらまで声を届けているのではなく、地声でここまで声を届けているボルューム。
良く喉が潰れないものだと感心する。
するとルカは手すりまで進み、魔法で声を相手に届ける【ボイス】を唱えて自分の喉に付加すると返事を返した。
「我が名はルカレット。四天王ルカレットである。その言葉、出来るものならやってみるが良い。だが、その時は覚悟するが良い。それはお前が死ぬ時だからな」
ルカの言葉を鼻で笑うボルューム。
そのまま腰の剣を引き抜くと上に掲げる。
「全軍、と〜つ〜げ〜きッ!!」
振り下ろされる剣と共に地鳴りのような声と足音が響き、総勢一万の人族軍が突撃してきた。
こうして四天王ルカレット率いる約八千の骸骨兵&魔術師対人族軍約1万プラス勇者パーティーの戦いの火蓋が落とされた。
攻防戦は本来攻める側が守る側の三倍居ないと難しいと言われている。
しかし数は多いとは言え、魔王軍八千とルカレット含めた魔術師二十人に対して向こうは勇者含めた一万人とそれほど戦力差があるわけではない。
なのに突撃してくる人族軍に戦術などは感じられず、その瞳に映るのは、ただ自分達の軍が強く、負けないと言う自信
だけだった。
そしてその自信は現実のものになる。
突然人族から一人飛び出した黒髪の青年が、走りながらその剣を縦に振り下ろす。
するとその斬撃の跡が前へと飛び出し巨大な斬撃となり、ローレンの街の城壁を切り裂くとそのまま数百メートル先の民家までその斬撃で切り裂いたのだ。
「あれが……勇者か……」
ルカの呟きには畏怖の念がのっている。
やはり勇者はルカでも厳しい相手のようだ。
そのまま突撃してくる勇者に城壁の一人の魔術師様が魔法を放つが、あの化け物級の威力を持つ魔術師様の魔法をあろう事か、勇者は糸も容易く裏拳で弾いてしまった。
弾かれた魔法はそのまま魔法を打った魔術師様へと向かい、大爆発を起こす。
「くッ!? ロザンヌッ!」
あの魔術師様そんな可愛い名前だったのねと頭の片隅で思ったが今はそれどころではない。
魔術師の容態も心配だが、この場所は見晴らしは良いが遠視の魔法を使ったりルカのように裸眼でも見える者がいれば敵からも丸見えなのだ。
なので城壁を越えられ街に敵が侵入して来た今、勇者くらすの化け物なら魔法でここを狙ってきてもおかしくない。
ましてや始まる前にアレだけ目立った返事をしているのだ。
相手にこの場所がバレていると考えた方が良いだろう。
ルカもそれをわかっているようで直ぐに移動を開始した。
勇者と戦うなら、肉弾戦だけで戦うより周りの被害を気にせず魔法も気兼ねなく使える広い場所、ダンジョンの最下層が良いだろうと予め打ち合わせで決めてある。
俺も最初はそちらへ向かうものだと思っていたが、ルカの走る先は違う所へと向かって行く。
「ルカッ! どうしたんだ!? 打ち合わせ通り白髭危機一髪の最下層に向かうんじゃなかったのか!?」
前を走るルカに聞いても返事は帰って来ない。
とりあえず、今はルカに着いていくしかないのでひたすら進む。
すると進み続け着いた先はルカの仕事部屋の前だった。
疑問に思いながらも中に入るルカに続き俺も中へと向かう。
すると空間転移の扉の前で止まったルカは、俺に向き直り、何かを迷った感じで話し出した。
「あ……あの……ね。その……」
しかし上手く言葉が見つからないようで、どもってしまう。
今は一刻を争う状況だが、ルカを急がせるような事はしない。
それは今の状況をルカが一番良くわかっている事なので、きっと今のこの時はルカにとって何か大切な事なのだろうから。
「私たち、出会ってからもう四ヶ月になるね……」
遠くの方で何が爆発する音が聞こえる。
「……そうだな。一緒に魔法の練習をしたり、魔王軍幹部会議に出席してポルカと戦ったり、あっという間の四ヶ月たった」
「ふふふ、そうだね。でも、普段の魔法の練習や、隠れて近接戦の練習をしているのも知ってるから絶対にクリアが勝つと思ってたよ」
おぅ、寝る事が必要無いこの体なので夜中抜け出して人知れず練習してたのバレてたのか。
なんか恥ずかしいな。
「……それでもね。今回の相手は絶対に戦っちゃダメ」
先程までの柔らかい笑顔はどこへ行ったのか、急に真剣な表情で言ってくるルカ。
きっとそれだけ俺の事を心配してくれてるんだろう。
「ルカでも、勇者には敵わない?」
また一際大きな爆発音がした。
先ほどより前戦場が近付いているようだ。
「敵う敵わないの話じゃないよ。……ジンの話を聞いてたから単純な戦闘能力ならわかってる。1万程度の戦闘能力なら私とグラス、それと魔術師達が協力すれば余裕で倒せるし、グラスが居ない今でもギリギリ倒せたと思う。……でも本物の勇者をこの目で見て……勇者からは、そんな戦闘能力じゃ測れない……何か、次元の近いと言うものが伝わってきたの。……アレは……絶対に戦っちゃダメな、人とは違う、人の皮を被った全く別の生き物だよ」
ルカがこんなにも敵に対して怯えるなんて、これまで想像もつかなかった。
「だけど……それなら尚更俺がルカの盾になる!」
幸いこの体なら弱点を突かれなければ多少は戦える筈だ。
「どうして、そこまで……うんん……違う。私がそうさせているんだね」
? 私がそうさせている?
「クリスは覚えてるかな? 初めて私の部屋に着た時の事?」
初めてルカの部屋に着た時?
「確か……グラス様に魔術の実験台にされそうだった所をルカに助けられて、小間使いとして連れて来られたけど、本当はクマの人形のくーちゃんの中に入ってくれる体格の合う骸骨兵を探してたんだよね?」
「そう……そして私はクリスにあるお願いをした……その時はただの骸骨兵だと思ってたから、お願いに魔力を乗せ、命令として」
「それってまさか」
再度響く爆発音。
今回はかなり近い所に着弾したようで建物が揺れ、埃が落ちる。
「クリスが私とお友達になってくれたのは、私の命令に従ってなんだよ」




