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ボーンライフ  作者: ユキ
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潜入と報告

 魔王様との謁見後、ローレンの街に戻ってからニヶ月がたった。


 その間ルカの仕事のサポートをしながら身体倍加と新たな魔法の習得に努めている。

 お陰で基本魔法の初級は全て習得出来た。

 だが魔力の関係で中級以上の習得は出来ず、また身体倍加はまだまだ時間がかかりそうだ。


 リン様の話を聞いてから適度に魔法を使うようにし、常に魔素を吸収している状態を維持するようにしているが、進化の兆しは特にない。


 そんな毎日を送っていた時、ある知らせが入った。



「それは本当か!?」


 魔王城から使わされた使いの魔族の言葉に大声で確認するルカ。


「ハッ! ただいまリン様の部下が調査中ですが、未だ王都の四天王ミルカ様及びその配下の方々からの連絡は全て途絶えたままです」


「ミルカに何かあったと言うのか……私達四天王の中で最弱とは言え、ミルカには強力な幻術がある。そう簡単に倒される事はないと思うが……」


「リン様の見解も同じでした。しかし、その幻術が万が一効かない相手が現れた場合を考えると、最悪の結果も考えられますので、他の四天王の方も気をつけるようにとの事でした」


「それは、勇者が現れた……と言うことか?」


 勇者……ミルカ様の調査では賢者の石での召喚はまだ出来ない筈だったが……それは間違いだったのか?


「いえ、そこまではおっしゃっておりませんでしたので、万が一を考えて警戒するようにかと」


「わかった、リン様には警戒を強化すると共にローレンの守備を増強させると伝えてくれ」


 ルカからの返事を聞き退出していく使いの魔族。


「何事もなければ良いけど」


 ルカの独り言は、二週間後の報告で淡くも打ち消される。




 四天王サリー率いる西側の魔王軍、突如現れた人族軍との戦いのすえ、敗退。

 そして、四天王サリー、何者かにより討たれる。


 この知らせは瞬く間に魔王軍内部を駆け巡り、魔王軍の幹部で攻撃力で言ったら魔王軍一のサリー様が討たれた事により、魔王軍に激震が走った。


 それと共に、魔王軍内である噂が広まりだす。


 勇者が召喚された……と。


 サリー様討ち死にの知らせを受けたリン様達魔王軍本部の方々も、すぐに調査に乗り出すが、サリー様は敗北を確信すると部下を逃す為、一人殿を勤め、討たれた所を見た者が居なかった事もあり、勇者が召喚されたと確信を得る事は出来なかった。


 ただ、生き残った者達の話では、人族軍に数人とてつもない強さを持った者がいたそうで、その数人の為に魔王軍は敗退を余儀なくされたそうだ。





「以上がリン様からの報告になります」


「うむ、わかった。下がってよい」


 サリーが討たれた報告から三日後。

 ルカへ新たな情報の報告を終えた本部の使いはルカに礼をすると退出して行った。


「やっぱり……勇者、かな」


 ルカの言葉に答えを持たない俺は答える事が出来ない。


「サリー……あんなに優しくて良い子だったのにね」


 寂しそうに話すルカ。今にも泣き出してしまいそうだ。


 サリーが討たれた後から時々サリーを思い出しこうなってしまう。


 四天王として今までいくつも死線を潜り抜け、同僚や部下の死を何度も経験してきた筈だが、それでも根は優しい子なので、四天王で唯一中の良かったサリーの死に、ふとした時に思い出してしまうようだ。


 しかし、彼女も四天王としての立場があるので部下の前では毅然とした態度を取らなくては行けない。


 俺とグラス様の前くらいしか本音を出せないので、出来るだけルカの力になれるよう、今は気持ちを落ち着かせる為そっと頭を撫でてやる。


 俺に頭を撫でられて気持ち良いのかルカの表情が柔らかいものに変わる。


「えへへ、ありがとうクリス。クリスに撫でられると凄く落ち着くの。何でだろ?」


「気の知れた友達同士だからじゃないか?」


「そっか! ふふ、クリスと出会えて良かったよ。あの時声をかけた私、グッジョブだね」


 嬉しそうに話すルカ

 どうやら気も紛れたようだ。


「でもまさか私にこんな素敵なお友達が出来るとはなぁ……いつも通りくーちゃんの中に入ってくれる子を見つけて新しいくーちゃんとして私の……ッ!?」


 ん? どうしたのだろう? 急に何かに気付いた表情で固まるルカに疑問をもってどうしたのか聞こうとした時、扉をノックする音がし、訪問者を告げる声がした。


「コリア・シュー並びにジン・ウォレットです。ご報告があり伺いました」


 先程まで固まっていたが、その声にすぐに気持ちを切り替え忽然とした態度で俺に頷くルカ。

 ここら辺の切り替えは流石だと思う。


 俺は入り口へと向かい、扉を開ける。

 すると扉の目の前にはボロボロのマントを羽織、汚れた服を着て顔も汚れ、疲れ切った表情のコリアとジンが立っていた。


「入れ」


 ルカの許可が降りたので中へと入りルカの前まで来ると片足で跪く二人。


「突然の訪問及び、このような無礼な格好申し訳ありません。しかし早急に報告したい案件がありますので急ぎ参上致しました」


「許す。話せ」


 コリアの言葉から上位の者との面会の為の身支度も後回しにするぐらいの緊急の案件なのだろう。

 ルカが許可を出すと今度はジンが話始めた。


「先に、私はあまりまともな教育を受けてないので、言葉遣いや失言については勘弁して下さい」


 頷くルカに安心した表情をしたジンはそのまま続きを話し出した。


「私は今まで閣下より命令されていた勇者についての調査の為、王都へとおもむき調査を行ってまいりました」


 前にジン達に協力してほしいと言っていたのはこの事か。

 ミルカ様達魔族による調査だけでなく、警戒されにくい同族であるジン達を使って調査を進めていたとは流石だ。


「いろいろありましたが、先に結果から報告します。……勇者が、召喚されました」


 ガタッ!


 ジンの言葉に驚き立ち上がるルカ。


「それは……本当か?」


「はい、鑑定を使い直接確認しましたので間違いありません」


 鑑定とは相手のステータスを簡単に確認する事が出来る魔法だ。


「……詳しく話せ」



  *****



 ルカレットとの謁見の後、副官のグラスとの話し合いの結果、俺たちローレンの街は魔王軍と協力体制をとっていく事になった。


 その中で人族から王国にスパイとして潜伏し、王国の同行や賢者の石並びに豊作のクワの所在の調査の依頼が出された。


 そこで、事務官から数名と兵士からも数名が選出されたのだが、魔王軍四天王からの直接の依頼と言う事で、兵士の大隊長と事務官代表の俺とコリアも強制的に選ばれ王国へ潜入する事になってしまった。


 仮にも大隊長の俺が街から離れるのはダメだろうと反論してみたが、骸骨兵が街の見回りをしてくれるようになってからは街は平和そのもので、兵士はむしろ暇になり住民からタダ飯食いと罵られている状態なので、こんな時こそ上の者が活躍してこいと有無も言わさず駆り出されてしまった。


 上司の扱いが小間使いみたいで辛いです。




 王都までは三百キロ強、馬車で一週間程の道のりで、今は王国は既に目と鼻の先まできた所にある森の中にいる。


「いいですね皆さん。くれぐれも私達がローレンから来たと言う事はバレないよう行動して下さい。今ではローレンの住民は、王国で魔族に寝返った裏切り者扱いですので、バレた場合は捕まった上、尋問をされて殺されてしまいますからね」


 体のラインがわかる程タイトなスパッツとシャツを着てその上に胸当てとミニスカートをつけた軽装備にマントを羽織った、黒髪に黒縁メガネが似合う事務官代表のコリアが改めてそう注意すると皆、険しい顔で頷く。


 王国にとって魔族は自分達より下の存在で、経緯はどうあれ、そんな者達に従っているローレンの街の人々が許せないのだ。


 その為、ローレンの街が投降して魔族の手に落ちた時点で、街の住民にはローレンを捨て戸籍を偽って生きるか、魔族に味方する他選択肢はない。


 そして、最後の確認が行われたのち、万が一でも一人が捕まった場合他が生き延びられるよう、ここからは兵士と事務官の二人一組で別々に行動する事になり、皆別れを告げると各々王都へと歩いて行った。


「それじゃ私達も行きましょうか!」


 そう、俺の相方のコリアが言う。


 コリアは事務官代表なのだが、24歳と一番年下で同僚達から妹のように可愛がられている為、一番腕の立つ俺が相方にされてしまった。


 その際くれぐれも俺たちの妹分に手を出したら殺すとしっかり釘を打たれている。

 兵士を脅す事務官っておかしくねぇ?

 てか、流石に一回り以上も離れた子に手なんか出さねーし!



 無事王都への潜入に成功した俺たちは、宿屋で部屋をとり拠点を確保すると街の西側の塀の近くへと向かった。


 ちなみに部屋が一部屋しか空いてない……何て事は全くなく、もちろんニ部屋取りましたよ! 


 そして、途中裏路地へ入り、周りに誰もいない事を確認すると着ているマントや服を汚し、フードを目深に被りそのまま奥へと進む。


 奥に進むにつれて建物はボロボロになって行き、道端にはそこら中にゴミが落ち、なんなら誰かがそこでしたのか糞まで転がっており、住んでいる住民もボロボロの布切れを着た何ヶ月も風呂に入ってないような連中ばかりでとてもひどい臭いの漂うスラム街が広がっていた。


「……鼻が曲がりそうです」


 そう言って鼻を摘んで眉間に皺を寄せ話すコリア。

 流石に平民出とは言え、裕福な商人の子だけあって、こう言った環境は辛いようだ。


 俺はと言うと、村では畑に糞で出来た堆肥を撒いたりしてたのでそこまで拒否反応はない。


「これからしばらくはここで調査するんだから今の内に慣れとけ」


 俺の言葉に鼻を摘んだまま嫌そうな表情になるコリア。


 面倒なのでそのままにし、予め調べて置いた周りより幾分マシな造りのお目当ての建物を探しだすと、その中へ入る。


 中は薄暗く、奥にはカウンター、横には酒場を併設した造りになっており、酒場には真昼間だと言うのに飲んだくれ共で溢れ繁盛していた。


 俺はそんな酒場のカウンターへと向かい座ると、俺についてきたコリアと横に座った。


 店員にビールとつまみ、それとコリアの分のリンゴジュースを頼む。

「ちょっと、何で私はジュースなんですか! 私だって大人なんですからお酒くらい飲めますよ! 店員さんジュースはキャンセルで私もビールとおつまみ下さい!」


 そういって頼んだビールを受け取りを飲み出すコリア。


 少し心配になっだが、まぁ、本人がそう言うなら大丈夫だろう。

 それよりも今はやる事がある。

 そう思い直しビールを飲みながら周りの話に耳を傾ける。

 

 ここはスラム街にある冒険者ギルドで、場所の関係もあり、その依頼内容はあまり表に出せないようなものも多く取り扱っている。

 その為、そこに集まる連中もまた表立って働けないものばかりで、その者達の会話もまたそう言った裏の情報が多く話されているのだ。


 冒険者上がりの俺はこう言った場所にも慣れていると言う事で、コリアの事は心配だったが、表の情報収集は部下や他の事務官に任せ、裏の情報を集める為ここへ来た。


 すると早速気になる会話が耳に入ってきた。




「聞いたか? またスラムの住民がいなくなったらしいぜ」


「ぁあ? スラムのヤツがいなくなるのなんて今に始まった事じゃねぇだろ? どうせそこら辺でのたれ死んでるんだろ」


「それがそうでもないらしいんだよ。ここだけの話……どうも、王国が裏で手を引いていて、身寄りの無い子供や年寄り、犯罪者を集めてるらしいぜ」


「王国が? ……そういや、ちょっと前までは国中の魔族奴隷を王命で献上させてたな。お陰で労働奴隷が減ってどこも大変だって話だけど……種族問わずそんなに集めて何やろうってんだ?」


「今は魔族が攻めてきてるし、肉壁にでもするつもりなんじゃねぇか?」


「ハハハ、確かに魔族やクソみたいな奴ら、死に損ないのガキやジジイなんて肉壁くらいにしかならねぇわな」


「違いねぇ」


「……」



 どうやら王国は王国にとって必要ない人々を手当たり次第に集めてるみたいだな。

 でも、こいつらの言うように、肉壁じゃないとしても戦争にそいつらが動員されてるなんて情報は聞かされてなかった筈だが。


「おい、コリ……ア?」


 コリアに話を聞こうと横を見ると、そこにはビールが半分程減ったジャッキを持った状態でカウンターに倒れ込みイビキをかいているコリアがいた。


 弱いなら最初から飲むなよ……。


 頭を抱え込みたくなる気持ちを抑えて、自分のビールを飲み干した俺は、今日の調査を早々に切り上げ、横のコリアの腕を首に回して支えると宿へと帰る事にした。


 その時コリアのその豊かな胸が俺の体に押し当てられ何とも言えない心地よい柔らかさが伝わってきたが、ここくらいは役得と言う事で許して欲しい。


 宿へ着くとフロントで部屋の鍵を受け取りに行ったが、俺たちの汚れた格好と、俺に支えられグッタリしているコリアを見てとても心配されてしまった。


 何とか適当に言い訳を言って鍵を受け取った俺は、そのまま二階の部屋へと向かう。


 二階に上がって左手の突き当たりがコリア、その手前が俺の部屋で、俺の部屋を過ぎ、コリアの部屋へと向かうとフロントで預かった鍵で部屋の鍵を開け扉を開いた。


 扉を開けた瞬間驚愕する。


 先程部屋に着いたばかりで、荷物を置いて直ぐにスラムに向かった筈なのに、コリアの部屋の中は服やバックなどで散らかり、足の踏み場が無くなっていたのだ


「どうやったらあの短時間でここまで散らかせるんだよ……」


 普段のキリッとした印象とかけ離れたコリアの部屋の惨状に呆れながらも、とりあえずベットの上の服をどかしてコリアを寝かせる。

 その際下着なども目に入ったが、正直この惨状と今のコリアを見た後ではそう言う感情は湧かなかった。


 そのまま部屋を出て鍵を掛けると部屋に戻り、部屋のシャワーで体を洗うと旅の疲れもあり直ぐにベットで眠りについた。




「うぅ……頭痛いです……」


 宿の一階にある食堂で朝食を取っていると頭を抑えフラフラした足取りのコリアがそう言いながら向かいの席に座った。


「ビール半分で酔うようなら次からはジュースにしておけ」


「うぅ……二十五にもなってお酒も嗜まないんじゃ周りに舐められるじゃないですかぁ。それに飲むのは好きなんで久しぶりにお酒が飲めると思ったら……。あっ、すみません店員さん。お水下さい」


「そう言うのは仕事以外の時にやれ、お陰で情報収集も途中で切り上げなくちゃいかなくなったじゃないか。それと昨日はあの汚れた状態で帰ってきて宿屋の女将さんに心配されてたから、あとでお礼言っとけよ」


「はぃ、すいませんでした」


 落ち込みながらお水を飲むコリアにもう一つ忠告しておく。


「それと、……年頃の女の子があの部屋はないと思うぞ」


「なっ!? あっ、あれはジンさんが急がすから、必要な物探すのに、カバンの中ひっくり返したりしててああなっただけで、いつもはもっとマシです!」


「それは悪かったけど、せめて下着くらいはしまっとけ」


「ぐぬぬ……」


 顔を真っ赤にして何とも言えない声を出すコリア。

 てか、スルーしたけど、さっきいつもはマシって言ってたよな。

 普段から散らかってるのは普通なんですね。

 何でも出来るクール美人なイメージだが、以外な一面もあるようだ。


 まっ、普通ギャップ萌えとか言ったりするけど、流石に汚部屋は好感度下がるだけだがら、おじさんは君の将来が心配だよ。




 朝食を済ませた俺たちは一旦俺の部屋に集まり昨日得た情報をコリアに話した。


「それは……妙ですね。こちらにくる前に集めた情報で魔族奴隷や人の子供とお年寄りが戦争に駆り出されているなんて話は聞いた事がありません。……かと言って王国中から魔族奴隷を集めたとしたならそれだけでも何千人にもなる筈なのに、その行方はわからないのはおかしいですね……もしかしたら何か企んでいるかもしれないのでもう少し詳しく調べた方がいいかもしれません」


 仕事となると先程までの二日酔いで今にも倒れそうだった

姿は消え、キリッとしたいつものコリアに戻っていた。

 それに流石事務官のエースを務めているだけあって、事前にある程度の情報は調べてあったようだ。


 昨日は長旅でしばらく飲めなかったお酒を前に欲求が止められなかったのだろう。 


 俺たちはその後、数日間に渡り魔族奴隷とスラムで行方不明になっている人々の行方を調査した。


 しかし、流石に国が主導しているだけあり、なかなか情報は集まらず、行方どころか死体すら見つからなかった。


 また他の仲間との定期連絡でも調査はあまり進展しておらず、賢者の石や豊作のクワの情報も全く手に入らなかった。



 そんな状態が続いたある時、突然事件が起きた。



 街中で魔族達が暴れていて、街に被害が出たと言うのだ。


 急いで現場に向かったが、既に現場一帯は兵により封鎖されてしまっていたので、住民に聞き取り調査を行った所、どうやら、複数の女魔族と一人の若い青年の戦闘があり、青年がその魔族達を傷も負わずに倒し捕まえたらしいとわかった。


 青年が誰かまではわからなかったが、黒目黒髪と言う特徴だけはわかった。


 また複数の魔族相手に人族が一人で戦い無傷で勝つと言う事は、冒険者でも最高ランクのSランク相当の手練れでないと無理だ。


 この王都にはSランク冒険者は現在五人在籍しているが、若い青年で黒目黒髪と言う特徴を持つ人物はいないとコリアが言っていた。


 そうなると、王国軍に在籍しているSランク並の強さを持つ誰かか、他からたまたまこの王都へ来ていたSランク冒険者になる。


 魔族奴隷達の調査と共に今回の事件も調査する事にしたが、流石に王国軍ともなると在籍している兵士の身分などを調査する事は難しく、また他からきたSランク冒険者が他国から来ていた場合、情報も少ないのでこれまた調査に難航している。



 それから三日後、国からある重大発表がされた。


 これから一週間後、南西の魔王軍を壊滅させる為王国軍を出兵される事。

 そしてそれに伴い義勇兵を募ると言う物だった。


 王都での調査に行き詰まり感を感じていた俺たちは、より近い者から情報を得るチャンスだと感じ、数名がその義勇兵へと志願し潜入する事になった。


 一番腕の立つ俺が参加するのは当然として、何故か事務官のコリアまで参加を志願してきた。


 本人曰く、魔法にある程度心得があり、俺たち先陣で戦うメンバーは兵士からの調査がメインになるが、自分のような後方支援部隊での方が、より上の人と繋がるチャンスがあり調査には最適だからだそうだ。


 事務官連中が止めたがコリアの決意はかたく、しょうがなく諦めた連中にくれぐれもよろしく頼むと血涙が出そうな程の目力で迫られたのはここだけの話にしておこう。

 だってアイツら、俺が足手纏いだと止めなかったらコリアの肉壁役でも喜んで参加しそうなんだもん。



 こうして義勇兵に志願した俺たちは、一週間後の出兵と共に戦地へと向かった。


 そしてあと戦地まで半日と言う場所で、最後の野営で軍からご馳走と一杯の酒が配られると、俺たち義勇兵に対し驚くべき発表がなされた。


 今回の戦いの為、王国は勇者を召喚し、一緒に戦うと言うのだ。


 そうして壇上に出てきた一人の若い青年。


 黒目黒髪のイケメンで、仲間であろうか、その横には若く美しい女性達が三人並んでいた。


 よく見ると青年以外は全員名の知れた人物で、若くして全ての魔法を習得し、魔法の天才と言われている大魔術師ポリーや、あらゆる武道大会に出場し、その全てで優勝してきた武の申し子コクーン、王国一の美貌と聖魔法の使い手で、更に分け隔てなく人々に尽くすその姿から聖女と呼ばれている第二王女のルナーレ・ヤマトまでいた。



 更に驚くべき発表は続く。

 以前王都に突然現れた魔族達を倒した謎の若い青年の正体はこの勇者で。その魔族とは、王都に潜伏していた四天王ミルカとその部下達だと言うのだ。

 この勇者は召喚されると直ぐに怪しい気配に気付き、四天王ミルカを見つけだした上、一人で倒してしまい捕まえたらしい。


 それが本当だとした、噂通り勇者はとんでもない化け物だ。


 四天王と言えばローレンの街での戦いで化け物並みの強さを見せたルカレットと同程度の強さを持つ人物である。


 そんな化け物をただの人族が討ち取ったなど想像もつかなかった。


 例え王都のSランク冒険者五人がかりでかかっても勝てるか怪しいと思っている。


 そんな化け物を他の魔族もいるのに一人で……。


 俺は遠目から今回の調査の為にグラスに教わり習得していた鑑定を使用する。


 そして先程の説明に納得する


 そこには全ての数値が1万を超える人外としか言えないステータスが書いてあったのだ。


 また職業欄にはしっかりと勇者の二文字が刻まれている。

 

 隣に居たコリアを見る。

 良かった、流石にこの前の事もありお酒は飲んでなかったようだ。

 コリアも俺の目線に気付き額に汗を滲ませながらうなづく。

 どうやらコリアも鑑定で奴のステータスを確認したようだ。


 そして周りの仲間にも合図を送り、宴を抜け出すべくバレないようにそっと下がりその場を離れる。


 ある程度人の集まる場所から離れてから少し緊張が取れる。


「この事を急ぎルカレットへ知らせなくちゃいけないわ」


 コリアの言葉に皆が頷くが、そこへ兵士の一団が近付いてくるのが見えた。

 再び走る緊張。


「お前達、こんな所で何をしている?」


 現れた兵士の一団の一人を見て、俺は思わず生唾を飲み干す。


 そいつは俺を大隊長にした上ローレンから逃げた、俺の同僚で、元ローレン兵士の隊長だったのだ。


 いつか会ったら殺してやるとは思ってたが、今会うこたねぇだろぉ……。


 咄嗟に顔を下げわからないようにするが、俺たちに気付いたそいつは大声で叫び出した。


「……ッ!? コイツらローレンの兵士共だ! ローレンのスパイが混ざってるぞぉ!!」


 そいつの声で周りの兵士に動揺が走り、遠くから騒ぎを聞きつけた兵士達が走ってくるのが見えた。


 このヤロウ!

 溢れる怒りを抑えつつ冷静になるようつとめ打開策を考える。


どうする! とりあえずコイツらを倒すか? でもそんな事してる間に向こうの兵士が来ちまうし……逃げるにしても目の前の兵士がそれを許してくれる訳がない。


 その時部下達が突然俺とコリアの前へやってきて叫んだ。


「ここは俺たちに任せてコリアさんと一緒に行ってください!」


「なっ!? バカなこと言うな! お前たちも逃げるんだよ!」


 その間にも目の前の兵士との戦闘が始まり、俺も参戦しようとするが、一人の部下が俺の目の前にきてそれを阻止する。


「早く行ってください!! 誰かが伝えないとローレンの住民達が、ひいては俺たちの家族が危険な目に遭うんです! 誰かが行くなら、この中で一番強くより生き残る可能性がある大隊長しかいないでしょう!! 何より、コリア事務官代表とジン大隊長はローレンにとって必要な存在です!! どうか俺たちの為にも、行ってくださいッ!!!」


「クッ……!」


 部下の心からの願いに俺はそれ以上反論する事が出来ず、意を消して横で不安そうにしているコリアの腕を掴むと引っ張るように駆け出した。


「ま、待ってください! まだ彼らが……このままじゃ彼らが死んでしまいます!!」


「その彼らの願いだッ! 俺たちは何としても勇者の事をルカレット様に伝えて、彼らの家族を守らないといけない!」


「ッ!?」


 泣き出しそうになるコリアだが、俺の言葉で覚悟を決めた顔になると、後ろを振り返るのを止め必死に駆け出した。



  *****


「その場は何とか逃げ切る事に成功したが、部下達がどうなったかはわからず、それでももし生きていればローレンの街へ向かうだろうと、俺たちもこの街へ向かいました。

 ただ、顔がバレている可能性も考えられ、人気のない所を選びながら進んできたので、時間がかかり先程この街に到着した次第であります」


「それはご苦労であった。勇者の召喚については早急に対応しよう! また残された兵士や事務官達の捜索も依頼するので、ジンとコリア、今は一旦休め!」


「私たちも協力します!」


 ルカの言葉にすかさず協力を申し込んだコリア。

 自分達を命を賭けて行かせてくれた兵士達に申し訳がたたないのだろう。

 しかし……。


「それは了承しかねる」


「何故ですか!?」


「……それは、自分達の姿を鏡で見ればわかる。この街に来るまで相当無理をしたのだろう?」


 そう、コリアとジンは汚れている為わかりずらいが、目の下には濃いクマが出来、頬はこけ、睡眠どころか、食事もろくに取らずにここまできた事がわかるのだ。


「しかし、それでは残してきた仲間達に申し訳がたちません! 何か私たちにも協力させて下さい」


 彼女の強い思いが伝わってきて辛そうな表情をするルカだったが、それは一瞬で、直ぐにいつもの厳しくも頼もしい表情へと変わった。


「大丈夫! 私たちに任せて安心して今は休みなさい。そして体力が戻ったなら君達にもやってもらいたい重要な仕事がある。その為にも今は少しでも体を休め栄養を摂ることが君達に今出来る最善の事だよ」


「……」


 きっとコリアも今の自分達では足手纏いだと頭ではわかっているのだろう。

 しかし、頭でわかっていても感情がそれを許さないのだ。


「コリア」


 すると後ろのジンがそっとコリアの肩に手を乗せる。


「俺の部下達はあんな所でやられるような連中じゃねぇ。だがらきっと戻ってくる筈だ。その時こんなボロボロの格好の俺らを見てアイツらに心配されないように、今はしっかり英気を養うべきじゃないか?」


「……そう……ですね。わかりました! ルカレット様、申し訳ありませんが、我々はしばらく休ませて頂きます。なので……あとはよろしくお願い致します!!」


 いいコンビだな。

 ルカが頷くと素直に部屋を出て行った二人を見て、俺はそう思った。


「さて、彼らの頑張りを無駄にしない為にも、私も頑張らなくちゃね!」


 そう言うと目を閉じ喋らなくなったルカ。

 きっと念話で誰かに指示を送っているのだろう。


 案の定しばらくするとグラス様や部下の魔術師様達が集まってきた。


 その者達に勇者召喚が確認された事を話す。


「おそらくですが……その集められた人々の命を使い賢者の石の魔力を補充したのでしょう」


 グラス様の見解に驚愕の表情をするルカ。


 かく言う俺も骸骨兵だから表情には出なかったが、驚愕と共に強い怒りを覚えた。


「ヤツらは……人の命を何だと思っているんだッ!!!」


 それはルカも同じだったようで、怒りを露わにする。


 そして今後の対応について指示を出すと、この事を自ら魔王様に報告すべく立ち上がった。


「お待ちくだされ。この状況でこの地の大将自らここを離れられては皆の士気に関わります」


「しかし、事は火急を要する。私自ら魔王様の元へ行った方が直ぐに謁見も出来るであろう」


「それならば……私が行って参ります。魔王様とは知らない中てはありませんので、直ぐに謁見の許可もおりましょう」


 確かに魔王様もグラス様を古い友人だと言っていた。

 グラス様ならこの任に適任だろう。


 ルカも納得したようで、その許可を出すと、グラス様と転移陣を軌道する為に数人の魔術師達は足早に部屋を出て行った。


「転移陣は既に前回私が転移する為に準備してある。あとは起動されるのに半日。そこから報告してまた向こうの転移陣で帰ってくるので、明日には戻ってくるだろう」


 しかし、ルカのその呟きは叶わなかった。



 次の日になってもグラス様が帰って来ないどころか、グラス様が魔王城に転送されて以降、転移陣か反応しなくなってしまったのだ。


 そして、勇者召喚の報告を受けて三日後、遂にこの地にも人族軍が現れた。

 その中にとてつもなく強い気配を漂わせた者を引き連れて。

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