魔王
ボゴッ!
「クソッ! あの役立たずがぁ!!」
自分の部下が決闘で負けた事で、初めて勝負に負けたランドは怒声と共に目の前の椅子を蹴り壊した。
そしてその決闘に負けた部下は丸薬の効果が切れた為その姿を元に戻し、舞台上で駆けつけた治療班により必至の治療を受けている。
「あのクズがたかだか骸骨兵如きとの決闘で負けたせいだ……」
椅子を壊しても治らない怒りを、元凶となった部下にぶつける為、一瞬で治療されている部下の元へ移動すると、目の前の部下の頭目掛けて拳を振り下ろす。
バシッ!
振り下ろされ部下の頭を潰す筈だった拳は、いつの間にか横に現れたルカレットによって受け止められた。
「お前……何をするつもりだった」
ルカレットの言葉を鼻で笑ったランドは、さも当然のように答える。
「ハッ、そんなもん使えないゴミクズを処理しようとしたに決まってるだろう」
「お前は、部下を何だと思っているんだッ!」
「ああ? さっきも言ったが部下なんて変えの効く道具でしかないんだよ。役に立たない道具は処分するのは当たり前だろ?」
コイツは何を当たり前の事を聞いてくるんだ? 何より俺様の行動を邪魔するなんて俺様を喜ばせる存在でしかない女のクセに何様のつもりだコイツは。
そもそもが、コイツが大人しく俺様の女になってればわざわざ賭けだなんて面倒な事する必要もなかったし、無能な部下が負けて俺様が賭けに負ける事もなかった。何より賭けに負けた原因の骸骨兵はコイツの部下だ。
そんな事を考え出したらルカレットにも怒りが湧いてきた。
そうだ、よく考えれば俺様の思い通りにならないコイツが全て悪いんじゃないか。
いくら顔が良かろうが、俺様の言う事を聞かない女など処分してしまえいい。
ランドはルカレット目掛け拳を振りかぶる。
ハハハ、俺様の本気の拳ならこんなヒョロ女、殴った瞬間爆散する筈だ。
そんな事を考えていたランドだが、先程自分の拳を受け止められた事など怒りで頭に血が上がっていてすっかり忘れているようだ。
その為、愚かな事にルカレット目掛け殴りかかったランドだが、当然のように振り抜かれた拳は再びルカレットの細腕に受け止められたのだった。
「バッ、バカな!? 何故魔法しか脳の無いヤツに俺の最強の拳が受け止められるんだ!」
「お前は本当に人の話を聞いていないんだな……先程説明しただろう。私は魔法も戦闘も超一流、だとッ!」
「グハッ!?」
その瞬間、素早くランドの懐に潜り込んだルカレットは鳩尾に強烈な突きを叩きつけた。
そのたった一発の突きで膝をついたランドはそのまま倒れ込み意識を失った。
「ふぅ、まったく、これだからコイツは嫌なんだ」
一撃でランドを倒したルカレットはランドをいちべつすると今回の戦いの勝者の元へと向かった。
*****
戦闘が終わり勝利した俺は、駆けつけた治療班により治療されているポルカの姿を少し離れた場所で眺めていた。
ポルカは戦闘が終わると淡い光を発したあと元の姿に戻ったが、戦闘では殆ど傷を負っていない筈なのに全身裂傷だらけで時折咳き込み血を吐いていた。きっと薬の後遺症で体の中もボロボロなのだろう。
すると突然現れたランドがポルカに殴りかかろうとしたが、これまた突然現れたルカがその細腕で受け止め、その後のいざこざの後たった一発でランドを鎮めてしまったのだ。
えっ、さっきの説明の戦闘も超一流ってマジだったの?
『クリス! 大丈夫?』
そのまま何事も無かったようにこちらへ小走りでくると心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
先程の戦闘でついた顔の傷を心配しているようだ。
『あ、ああ、生身だったら失明してたかもしれないけど、骸骨だから痛みも無いし大丈夫だよ。心配してくれてありがとう』
先程の、一発でランドを鎮めたのを目の当たりにしたので少しキョどってしまったが、俺の念話に安堵するルカを見て、俺も安堵する。
『それなら良かった。それにしてもさっきの戦闘凄かったね! 相手の攻撃にちゃんと反応して避けてたから安心して見てられたよ。一瞬気の抜けた時に攻撃が当たった時はドキッとしたけど、その後はちゃんと対応出来てたし、最後の相手の攻撃を見極めた上で軌道を変えて受け流したのなんて、流れるような綺麗な重心移動と動作で思わず見惚れちゃったよ』
ぉおう、なんか自分の戦闘を評価されて褒められるって嬉しいけどむず痒いな。
しかし、やっぱり戦闘も超一流と言うのは本当のようだ。
一個一個の動作に対する評価が達人のそれだ。
しかも傷を負った理由が気を抜いた所為だと見抜かれている。
これは今後ルカの前で下手な戦闘は出来ないな。
「体内の治癒魔法急いで! 身体中の臓器がボロボロでこのままじゃ持たないわ!」
ルカと念話をしているとポルカを治療している治療班のそんな切羽詰まる声が聞こえてきた。
頑張って治療してくれているが、かなり危ない状態らしい。
「ちょっと通してくれるかな」
二人心配して近くで治療を見守っていると、後ろから誰かに声をかけられた。
後ろを振り返るとそこには異様な雰囲気漂う黒いマントに黒い甲冑、黒い髪とそこから覗かせる角、そして黒い肌と言った全身黒ずくめで瞳が金の爬虫類の顔の獣人? が立っていた。
「ッ!? こ、これは失礼致しました!!」
ルカの驚きの声がしたのでそちらを見るとルカが深々と頭を下げた状態で道を開けていた。
『この方は魔王様だよ! 早く道を開けて!』
いつもより強めの念話と焦った声のルカに少しビックリしつつ、その内容に更に驚愕する。
この方が、魔王様……漂う雰囲気が異様で只者ではないと思っていたが、 まさかの魔王様降臨にしばし固まるが、直ぐに我に帰ると道を開ける。
そんな俺をしばらく見つめていた魔王様だが、治療班の切羽詰まった声で目的を思い出したのか、俺たちの前を通りポルカの元へと向かった。
「ふむ、かなり危ない状態だね。私に任せなさい」
そう言うとポルカに手のひらを向けた魔王様は呪文を唱えた。
「このモノに全ての傷を癒す恵みの光を。エクストラヒール」
その呪文を唱えると手のひらから優しい光が溢れ出しポルカを包み込む。
すると治療班の治療では徐々にしか治らなかった身体中の傷は瞬く間に塞がっていった。
先程までの苦しそうな表情も安らかなものになり、身体の中の傷も治ったようだ。
「これでもう大丈夫だ。あとは目覚めるまで医務室で休ませてあげなさい」
「「「はい!」」」
その治療を見た治療班の面々は憧れの眼差しで魔王様を見つめており、その魔法がどれほど凄いのかが伺える。
そして魔王様の言葉で元気良く返事をした治療班の方々はタンカでポルカを運んで行った。
「さて、そこの骸骨兵はルカレットの部下か?」
いつの間にか観客席から降りてきていた四天王と参謀の皆さんは床で伸びているランドを残し俺の前に整列して片膝で跨いて頭を下げており、魔王様の言葉でルカが一歩前に出て返事をした。
「ハッ! 先日よりその巨体をかって小間使いとして採用した部下の骸骨兵です!」
「ふむ、そうか。先程の戦い見事であった。流石ルカレットの部下だな。いい戦いを見せて貰った礼に何か私から褒美を出そう。何が良い?」
「ハッ! 有り難きお言葉、感動の極みです! であれば、後程ご相談したい事がありますので、お時間を頂けないでしょうか?」
おぉ、コレはラッキーかもしれない。
これで賢者の石の件をお願い出来る。
「わかった。この後少しランドにお灸を据えて、リンと今後の確認を行ってからで良ければ時間を取ろう」
「お忙しい中ありがとうございます! それで構いません」
「ふむ、終わったら使いを出す。その時は私からも話があるので、その骸骨兵も連れてきなさい。」
えっ? 魔王様が俺に話? いや、正体がバレてる訳じゃないから俺に関する話か。それでもメッチャ怖いんだけど……。
了承の返事をしたルカに満足したのか、魔王様は床に伸びているランドを何かの魔法で浮かせるとそのままその場を後にする。
他の四天王の方々と参謀も魔王様が出て行くのを確認してからルカに賞賛の言葉を送り各々去っていった。
『やったねクリス! これで賢者の石を手に入れた時に使わせてもらえる許可を貰えれば、クリスの体も元通りになるよ!』
嬉しそうに念話で話してくるルカだが、俺はそれよりも俺に関する話が魔王様からあると言う事が気になって喜べないです。
『そう……だね』
『……もしかして魔王様の話が心配? 大丈夫だよ! 魔王様はああ見えて凄く優しい方だから! きっとクリスの正体を話しても協力してくれる筈だよ』
慰めてくれるルカに少し元気が出てくる。
しかし、あの魔王様が優しい……顔が爬虫類だから表情も読めないし、ちょっと想像つかないな。
とにかく今は何を言われるかわからない魔王様の話よりも、どうやって賢者の石の使用許可をもらえかだ。
『ありがとう! ルカが居てくれて良かったよ。でも心配だがら魔王様にどうやって協力してもらうか一緒に考えてもらえるかな?』
『任せて!』
この後ルカとどうやって説得するか冗談も交えながら話、ひと時の癒しの時間を味わった。
*****
あの後しばらく二人で念話をしていると使いの者が来たので、今は魔王様の部屋へと向かっている。
ちなみに魔王様は爬虫類の獣人ではなく、龍人と呼ばれる獣人とは別の種の、いわゆるドラゴンが元になっている魔族だそうだ。
なのでその力は他のどんな魔族をも凌駕し、思慮深く、聡明で、更に長命と言う生まれながらの王者であった。
ただその数は少なく、皆険しい山などに隠れ住みあまり人里に降りてこない事から、魔王様でさえ仲間の数を把握出来ていないようだ。
魔王様もまた争いを好まない性格で、元々は人里離れた山奥で魔法の研究などをしていたそうだが、近年の人族の度重なる侵略や魔族への迫害を重く見た彼は、十年前に召喚された勇者によって殺された当時の魔王に変わり新たな魔王になった。
そして勇者によって荒れ果てた魔王軍を十年の歳月で立て直したどころか、より強力な軍に作り直した上で、虐げられる魔族の為に今回の侵攻を決行したそうだ。
マジで聞けば聞くだけ凄い方である。
そんな事を考えていると魔王様の扉の前に到着したようで、前を歩くルカが衛兵の守る一つの重厚な扉の前で立ち止まりこちらを見てきた。
『ここが魔王様の部屋だよ。心の準備は良い?』
『大丈夫!』
俺の返事でルカは衛兵に声をかけた。
「四天王ルカレット、魔王様とのお約束通り参上致した」
「少々お待ちください」
ルカに話しかけられた衛兵はすぐに横の小さな小窓から中の衛兵とやり取りをすると、確認がとれたのだろう、思い扉を開けて中へと誘ってくれた。
「失礼します」
ルカに続き中に入ると、そこはいわゆる王の間といった感じで、真っ直ぐ伸びた赤い絨毯の両脇には立派な柱が何本も続いており、絨毯の先には数段の階段と、その上に黒く立派な王座に、これまた全身黒ずくめの魔王様が座っていた。
部屋は相変わらず無骨な感じなのだが、よく見ると絨毯には細かな刺繍が施されており、柱や壁のちょっとした所には見事な彫刻も彫られていた。
きっとわかる人が見ればとんでもない価値のある代物なのだろう。
するとルカはそんな高そうな絨毯の上をそのまま進み、階段の数歩前まで来ると片膝て跪いたので、俺もその後ろで同じように片膝で跪く。
「来たか」
「本日はお時間をとって頂きありがどうございます!」
「ふむ、ここでは話しづらかろう。奥へ行くぞ」
そう言って立ち上がった魔王様は王座の裏へと回って消えた。
ルカも立ち上がると歩き出したので俺も着いて行くが、そこって魔王様の私室じゃないの? いくら四天王でも入って良い場所じゃないと思うんだけど……。
そんな疑問を持ったが、素直に着いていく。
王座の裏には隠れた扉があり、その扉の先には通路となっていていくつかの扉があった。
そのまま通路を進んだルカと俺は一番奥の扉を開けて入って行く。
そこには広い部屋があり、案の定ベットなどの魔王様の私室だとわかるモノが置かれていた。
「そちらにかけなさい」
そう言われて指差された場所は丸い机とオシャレな椅子で、これまたよく見ると細かな彫刻が彫られている。
俺たちに座るよう言った本人は何と備え付けの食器棚からマグカップなどを出しており、魔王様自らお茶を準備してくれているようだった。
ルカレットは言われるがままその高そうな椅子に座ったので、とりあえず俺は後ろに立って控えておく。
「骸骨兵君も座って飲みなさい」
そう言ってお茶を持ってきた魔王様は、驚く事に俺に指定した席にもお茶を準備してくれた。
骸骨兵が飲み食いした物を魔力に変換出来ると知っているのだろうか。
とりあえず少し迷ったが言われたまま席に着くと、魔王様は俺が座るのを待ってから自分の席にもお茶を置き、お茶菓子を真ん中に置いてから席に着いて話を始めた。
「さて、それで私に話とは、ルカレットの骸骨兵君に意思がある事についてかな?」
えっ!? 何でバレた!? ……もしかしてルカで同じく魔力を見えるのか?
意表をつかれて真実を当てられた俺は、お茶を飲もうと伸ばした手を止めフリーズした。
「凄い! 流石おじ様だね! 何でわかったの!?」
ルカも疑問に思ったようで魔王様に尋ねている。
……ん? おじ様? 喋り方もさっきまでの王の間と違って凄くフレンドリーじゃない?
「ハハハ、やはりか。最初に違和感を覚えたのは先程初めて会った時だよ。私が誰かもわからないのに通してくれと言ったら少し間を開けてからどいてくれたろう? 普通ならルカレットが指示をしてから動くか、予めある程度の命令を出していたならば間を開かずに直ぐに退いた筈だ。しかし骸骨兵君の場合動き出すまでに少しの間があり、私を観察するような気配も感じたからね。ただ、念話で命令を出している可能性も考えられたので、こうして私以外魔法が使えないよう施してあるこの部屋で今し方座るよう言って再度試してみたけど、結果はやはり動き出しまでに少しラグがあり、それで確信したんだよ」
有能過ぎてヤベー。
まさか初っ端から疑われてるとは思わなかった。さすが聡明な龍人だ。
「もうバレてるならわざわざ説明する必要無いね。おじ様の言う通りこの子、骸骨兵のクリスには生前の魂が残ってて意思があるの」
ルカが簡単に暴露したので、もはや隠す必要もなくなり自己紹介する事にした。
「閣下のご考察、とても勉強になりました。改めましてルカレット様の配下で骸骨兵のクリス十六世と申します。以後よろしくお願い致します」
「ふむ、そんな畏まなくて良い。ここはプライベートな場だがらな。ルカレットも先程から素で話しているであろう?」
そう言われても、流石に魔王様にタメ口と言う訳にはいかないので、少し砕けた敬語ぐらいで勘弁して下さい。
「わかりました。改めてよろしくお願いします。ところで失礼ながら質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ふむ、何でも言いなさい」
「予想がついていたとは言えあまり私の事について驚かれていないようですが、どうしてでしゃうか。それと……ルカレット様とはどう言ったご関係なのでしょうか?」
「ルカレットとか? ルカレットとは魔王になるより遥か前からの付き合いになるな。ワシの古い友人であるルカレットの副官グラスがワシのところに会いに来た時に、当時まだ小さかったルカレットも一緒に来て交流を持つようになったのだ。だから、こうして私的な場所ではお互い素で話すようにしているのだよ」
またグラス様か。賢者様といい、魔王様といい、あの方の交友関係はどうなっているのだろう……。
「それとクリス君の事で私が驚いていない理由だけど、それは私が君をここに呼んだ事と関係している……ちょうど来たようだね」
コンコン
話の途中、何かに気付いたのだろう。魔王様が入り口の扉を見るとちょうど扉をノックする音がした。
「入りたまえ」
「失礼致します」
作ったような声で答え、扉を開け入ってきた人物はローブを頭まで被り白い仮面で顔を隠したザ・胡散臭い人物事、参謀のリン様だった。
そのまま入室したリン様は魔王様の近くまでいくと魔王様と小声で何かを話し合った後、こちらを向いて佇んだ。
「知っていると思うが、改めて紹介しよう。彼は参謀のリン。そして君と同じく元異世界の住人で、転生者だよ」
「「なっ!?」」
突然の魔王様の告白にビックリする俺とルカ。
しかしその紹介でおもむろに顔を隠している仮面を外したリン様を見て更に驚く事になる。
仮面を取り、フードを外したそこには……。
知名度なら一二を争う有名な魔物、ゴブリンの姿がそこにあったのだ。




