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ボーンライフ  作者: ユキ
132/196

グロービル

「どうだ新たな魔王よ。……ワシと取引しないか?」


 グロービルからの突然の提案に困惑し、直前まで玉砕覚悟の突撃を仕掛けようと覚悟した気持ちが萎んで行く。



 魔王の俺と、国家宗教になっているグリル教教皇が……取引?


「……何が、目的だ?」


 あり得ない提案に、思わず考えがそのまま口に出てしまう。



「何、単純な事だ。我らの目的は魔族や魔物を殲滅する事……お前にはその手伝いをしてもらいたい」


「なっ!? ふざけているのか!! 魔族の王、魔王である俺が何故そんな馬鹿げた要望を飲むと言うのだ!」


 コイツは俺がその殲滅しようとしている魔物だと忘れているのか?



 ……いや、こんな明らかに魔物の姿をしたヤツを目の前にして、そんな訳はないだろう。


 だとしたら、それがわかった上での提案……。


 俺がその提案に乗ると思う何かがあるのか?



「まぁ落ち着け……その答えを出すのは、どうして我らが崇める主が魔族の殲滅を望み、我らがここまで人族以外を軽蔑しているのかを知ってからでも遅くわないだろう?


 特に……後ろの吸血鬼の魔族は、それが為に同族を虐殺させられた訳だしな」


「ッ!?」


 グロービルの言葉で分体を通しルカが一瞬ピクリと反応したのが伝わる。



 ……今のルカの表情は見なくてもわかる。


 その心情は想像しただけで心をざわつき、原因となったグロービルに深い殺意を覚える。


 コイツ……人のトラウマを逆撫でするような事を言いやがって!



「……どうして私の家族は……国のみんなは……殺されなくちゃいけなかったの?」


 無神経な発言に怒り、飛び掛かろうとした俺だったが、ルカの消え入りそうな声によって踏み止まる。


 まさかルカから同族が虐殺された理由を聞くとは思わなかったので、思わず分体を通して俯くルカの表情を伺う。


 そこには……唇を噛み締めながら今にも泣きそうな表情で俯くルカの顔があった。


 それを知った所で今更どうする事も出来ない過去の事だとしても……目の前で無慈悲に殺された両親や、その両親が治めた国の民が虐殺された原因を知りたい……その気持ちが、同族を虐殺した首謀者かもしれない敵に教えをこうと言う屈辱に勝ったのだろう……。



 ただ、その理由はあまりにも残酷な事だった……。



「それはな魔族よ……



 お前たち魔族は存在するだけで


 生き物から……


 我々が住むこの大地に至るまで……



 ()()()()()()()だからだよ」



「私たちの存在が……全てを……穢す……?」



 思いもよらない言葉に、俯く顔を上げ、怪訝な表情でグロービルに聞き返すルカ。


 そりゃそうだ、そんな事唐突に言われても信じられる訳がない。



「どう言う事ですか、グロービル?」


 ルナーレも初めて聞く話なのだろう、先程までの変態は鳴りを顰め、真剣な眼差しに戻り聞き返す。



「信じられないかもしれませんが……この話は事実なのです、ルナーレ姫……。


 なぜなら魔族や魔物と言った穢れた魔素……瘴気によって侵されたモノはまた、新たな()()()()()()()()()となるのですから」


「ッ!? ……私たちが……瘴気を生み出す……媒体?」


 驚愕の表情で噛み締めるように呟くルカ。



「そんなバカな話ッ!! 信じられる訳がありません!! 瘴気は人族には猛毒! そんなモノをルカたちが発しているのなら、聖なる力で護られている私はともかく……ボーンシティに住む一般市民はとっくに瘴気に侵されて体に異常をきたしている筈です!!」


 そんなルカを庇うように、ルナーレはその前に進み出るとグロービルの言葉を否定した。



 ……でも。


「おや? その理由は……私よりもルナーレ姫のご主人様が知っているんじゃないかな?」


「なっ!? そんな訳……」


 ビクッ!?



「……どう言う事ですか、ご主人様?」


 グロービルの言葉に最初は否定しようとしたルナーレだったが、その言葉に反応した目の前の俺を見て、恐る恐ると言った感じで理由を聞いて来た。




「……そいつの言っている事は本当だ」


「「ッ!?!?」」


 まさかの俺の肯定の言葉に、驚愕の表情で固まる二人。


 これは勇者の秘密をグラスから聞いた時、ついでとばかりに聞かされた瘴気に侵された者たちの真実だ。


 ついでに話す話ではないのは勿論ツッコんだが、グラスなので流されて終わったのは言うまでもない。



 そしてこの話は代々魔王となった者にのみ聞かされる話なんだとか。


 その後、他の者に話すかどうかは魔王の采配に任されているので、こうして話した所で問題はないが……。



 内容が内容なので、俺もこの話を聞いてみんなに話すべきか悩んだ……。



 だけど、俺がやろうとしている事を考えたら、いずれは話さなくちゃいけない内容だ……。


 この戦いが終われば話そう……そう心に決めていたのに……。


 まさか敵の口から聞く事になるとはなぁ……。



 こんな形で話したくなかった……。



 だけど、こうなったら覚悟を決めて話すしかない!


「……俺も最近知った事なんだ……話せなくてすまない……」


「そんな……」「……」


 頭を下げる俺にルナーレは口元に手をやり信じられない物を見るように目を見開き、ルカはただ黙ってこちらを見つめるだけだった。



「俺たち魔物や魔族は、体から常にごく少量の瘴気を発している……それはある程度鍛えた人族なら問題ないレベルだが、普通の人族が長時間に渡って吸収すれば、体に支障をきたし……いずれは命を落とす事になるだろう……」


 俺の話に固唾を飲んで聞き入る二人。



「それがボーンシティで問題にならないのは……グラスや魔術師たちが張っているボーンシティを覆う結界に、瘴気を浄化する作用があるからだ」


「まさか……そんな高位の魔法を、しかも街全体を覆うほどの大規模で張っていたなんて……


 聖魔法にある浄化の魔法は大司祭でも扱う事が難しい高難易度の魔法の筈……


 そのレベルのものを常に発動し続けるなんて……とても……



 それこそ……最初の勇者、スズキ様の残したギフト……


 ヤマト王国の国宝『豊作のクワ』でもなければそんな事……」



「まぁ……ヤツなら可能、であろうな」


 ルナーレの呟きにグロービルが心底嫌そうな顔で答えた。



「かつて賢者サイトウと共にパーティーを組み、災厄と呼ばれた魔物の王を倒した男……



 精霊王グラス・ポロリエールならばな」



 えっ? 何それ? 俺も初耳何ですけど!?


 精霊王が呼称なのか文字通り精霊の王なのか知らないが……あの真態にそんな大層な呼び名がある事に驚きだ。


 しかも賢者とパーティーを組んで魔物の王を倒した……?


 只者ではないとは思っていたし、以前知り合いだと言っていたから不思議ではないが……実際に過去の実績を聞くと、そのスケールの大きさと事実に驚きを隠しえない。


 流石1000年は生きている長寿のエルフと言った所なのだろうか。



「グラスさんがそんな凄い方だったなんて……」


「……」


 ルカは相変わらずジッとこちらを見ていて何の反応もないが、ルナーレもその事実に驚き信じられないと言った顔をしている。


 そりゃ、美人を見つければ誰から構わずナンパしている普段のグラスを見ていたらね……。




「どうやらこの話は魔王も知らなかったようだな……


 ならば、もっと驚くべき事実を教えてやろう……



 グラスを始め、複数のエルフはお前たち魔族と共にしているようだが……



 グラスたちエルフの先祖はお前たちのように瘴気で変異した穢れた魔族ではない……




 10万年も昔から人々を見守り、神に仕える為に存在した……



 神の眷属たちだ」



「「ハッ……?」」


 立て続けに明かされる衝撃の事実に最早ルナーレの驚愕の表情がデフォになりつつあり、理解できない言葉に思わず俺と一緒に変な声を上げる。



 あの変態エルフたちが神の眷属とか何の冗談だよ……


 って話だが……この状況で敵がわざわざ嘘をつく必要もない事から、おそらくは……事実、なのだろう……。


 てか、話から察するにグラスの年齢って1000歳どころの話じゃないんじゃないか……?


 エルフの寿命は知らないが……下手をしたら万……



 グロービルの話を聞き、俄かに信じられないと思いで関係ない考えに現実逃避しかける俺。



 しかし、そんな事は許さないと現実が、俺の意識を往復ビンタしてくる。



「だからこそ、絶滅に瀕した愚かなエルフたちをワシが保護させ、人族至上主義の中、例外的に人権が認めさせたのだ……


 それもこれも、同じ主を崇め、その手足となり人々を導く上位の存在である……



 ()()()()()()()の慈悲でな」


 その言葉と共に突然その身が眩い光を放ったかと思うと、光の中のグロービルのシルエットに翼の様なモノが生える。


 頭の上には輪っかのようなモノが現れ、頭と一定の間隔で浮いている。


 そして光が止んで現れた者……。


 この世界に来て、様々なファンタジーの種族と出会ってきたが、その中でも別格……。


 神の眷属として、神にも等しく人々から崇められる存在……。


 その姿は、先程までのゴリゴリマッチョなお爺ちゃんから、スラッと伸びた手足とサラサラの長い金髪をなびかせ、中世的ながら男性とわかる20代前半の美青年へと変わり……特徴的な背中の純白の翼と頭上の金色の輪が、着ている金の刺繍が施された純白の服と合わさり、まさしく……



 天使……だった。

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