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ボーンライフ  作者: ユキ
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勇者との決着

「クリスッ! 上手く行ったよ!!」


 ルカの言葉に意識を後方に向ければ、そこにはルカに支えられながらも起き上がっているノルビの姿。


 どうやら先程ルカに投げ渡したダッチのツノのお陰で、勇者との繋がりを断ち切る事に成功したようだ。


 その証拠にノルビの首には赤い炎が揺らめき、その足元には溶けて外れた奴隷の首輪が落ちていた。




 俺の思い付いた賭け……それはダッチより託されたダッチの魔力が詰まったであろうツノを、ノルビに吸収させる事だった。


 ただ魔力が吸収されるだけなら、吸収した分の魔力も勇者のスキルによって奪われるだけだっただろう。


 しかし、あのダッチが最後に娘に託した物だ……何だが、それだけじゃない気がした。


 俺はその何か……ダッチの娘を思う『想い』に賭けたのだ。


 今は綺麗さっぱり消えてしまったが、先程のノルビの首にあった炎……。


 きっと親としての想いが生前のスキルであった炎鎧となり、ノルビを守りつつ、娘の勇者との悪い繋がりを断ち切ったのだろう。




「グアあぁァァぁああアアアアァァぁぁ!!!」


 ノルビからの魔力や体力の供給が断たれた事で、苦しみ出す勇者。


 チカラの供給が断たれただけで、ここまで苦しむものか?


 一体何が……。



「返せェェェェエエッ!! お、オレのキズナをカエセェェエエエ!!」


 明らかに先程よりもおかしくなった口調……。


 これは……それまで体を満たしていたノルビのチカラが、崩壊しかけた勇者の精神をギリギリ保つ役割をしていて、それが途絶えた事で精神の崩壊が進行が進んでいる……のか?



 本当に……どれだけ身勝手なヤツなんだ……。


 奴隷の首輪で無理やり言う事を聞かせて、更にスキルで一方的に奪ったチカラを『キズナ』と呼ぶなんて!



 だが……裏を返せば、そうでもしないと他人を信用出来ない……哀れなヤツ、なのかもしれない……。



 だからと言って、コイツがやってきた事を許す訳じゃないけどな!


 勇者にはキッチリ償ってもらわなくちゃいけない!


 この先の人生をかけてな!




 途絶えたチカラを取り戻すべく、再びその姿をレーシングスーツへと変え、ノルビに向かい駆け出す勇者。


 しかし、ノルビから奪い残った僅かなチカラを無理やりかき集めて使っているのだろう……そのスピードに先程までの桁違いの速さはなく、視認出来る所か、ノルビとの間に入りその行く手を阻む事が可能な程度にそのスピードは落ちていた。



「邪魔ダァぁああァァアア!!」


 最早限界なのだろう……なりふり構わず突っ込んでくる勇者。


 その手に持つ最強の剣の刃の向きさえメチャクチャで、ただ闇雲に振るう姿は理性のかけらさえ感じられないものだった。



 この状態にした本人が言うのもアレだが……何とも哀れな姿だ。



 ……いい加減、俺の手で引導を渡してやろう。



 俺は勇者と違い、魔王剣クレットを自らの意思で持ち替え刃を逆にすると、突っ込んでくる勇者の溝に横薙ぎに振り抜いた。


「グハッ!?」


 峰打ちとは言え肋骨が何本か折れ、内臓に深いダメージを負う程の衝撃をくらい、振り上げた剣が手から溢れ落ち、膝を付いた勇者はそのまま地面に倒れ伏す。


 流石の勇者も身体強化もしていない無防備な所にまとまに強烈な一撃を喰らった事で、遂に意識を手放すだろう。


 これでようやく……。



「クリス! まだだよ!!」


 ルカの言葉で油断しかけた意識を戻し、いつの間にか俯きながら立ち上がっている勇者へと視線を戻す。



「ハァハァ……僕は……まだ負けて……ない」


 本当にしぶとい……。


 先程の衝撃で逆に正気に戻ったのか、まともになった口調で呟く勇者。


 しかしその瞳は揺れ、焦点があっておらず、今にも意識が落ちる寸前なのは明白だった。



 流石、と言うか……その性格さえまともなら、勇者として歴史に名を残す程の英雄となっていただろう。



 その性格さえまともなら……。



 本当に残念な男だ。



 半ば呆れ、半ば感心しながら、勇者に再度トドメを刺すべく歩き出そうとしたその時……それは起こった。



「……僕は……俺はッ!! ガッ!?」


 突然勇者のお腹を突き抜け、血飛沫を飛ばしながら剣の切先が現れる。


「かはっ……なんで……お前……が……」



 勇者のお腹を貫通した剣は音もなく引き抜かれ、支えを無くした勇者はそのまま地面に倒れる。



 勇者の周りに広がる血溜まり……。



 明らかに致命傷……更には勇者を刺した()()()()()により、アレではもう助からないだろう……。


 あれだけ苦労して、ようやくあと一撃で倒せるという所まで来たのに……


 敗北した勇者を連れて行き、勇者の敗北という事実をつきつける事で人族の士気を下げる、最大の切り札を失い恨めしい気持ちを込めて、血溜まりに立つ人物に視線を向ける。



 その人物……白い鎧に身を包み、手には勇者を刺した事で血の滴る最強の剣を持ち、黒い長髪を無造作に後ろで束ねた、光の無い瞳が特徴のイケメン……。



 初めて会った時、勇者と並ぶ程の規格外の強さを感じた、そこ知らぬ力を持った男……。



 聖騎士隊隊長、アレンの姿があった。



 警戒する俺たちを他所に、アレンは地面に倒れ呻く勇者の横へ進むと、手に持つ最強の剣を逆手に持って掲げ、次の瞬間何の躊躇もなく瀕死の勇者に再び突き立てた。



 その衝撃で一瞬跳ねた勇者。



 だが、それ以降はピクリとも動かなくなった。



 勇者の死……。


 あれだけ憎んだ相手だが……こうも無惨な殺され方を目にすると来るものがある……。




 そして、弱った勇者を不意打ちで殺したアレンと言う男。



 勇者と同じ次元に足を踏み入れた今の俺だからわかる。



 この男は勇者よりも更に……強い。




「全く……魔王に負ける勇者など、前代未聞だぞ。やはり精神の未熟な者は扱いは楽だが、いざとなったらダメだな」


 アレンの放つ強者の圧力に気を取られていて気付かなかったが、アレンの後ろにはもう一人、人族が立っていた。


 気を利かせたのか、アレンが横に移動する事で全身を表す男。



 その者は、豪華な金の刺繍が施された白い法衣に身を包み、服の上からでもわかる程の鍛え抜かれた筋肉と鋭い眼光が特徴の、白い短髪をオールバックにした見慣れない老人だった。



 アルスが見たらウホウホ言いそうなおじちゃんだな……。


 そんなふざけた事を考えて見たが、内心は穏やかではない。


 何故なら今まで気付かなかったのが嘘のように、この老人からもアルス程ではないが、勇者と同等の強者の圧力を感じるからだ。



 人族にまだこんな隠し球が居たとは……この男は一体……。



「まさか……グロービル様?」


 老人の姿を見たルナーレが、怪訝な表情でそう呟く。



 グロービル……確かグリル教の教皇の名だった筈……。


 宗教の教皇なんて勤める位だから、見た目はThe善人みたいな、人の良さそうな恰幅のいい老人をイメージしていたが……実際はゴリゴリの武闘派って感じのゴリマッチョじゃねぇか!


 力でその地位まで上り詰めたと言われても信じる見た目と強者の圧力だぞ!



「ムッ……これはこれはルナーレ姫、まさか生きておられたとは驚きですな」


 ルナーレの声に今気付いたと言わんばかりのオーバーリアクションで反応するグロービル。


 随分胡散臭いオッサンだ。



「……世迷言を……あなたの事です、私が生きていた事も知っていたのでしょう」


 おぉ、相手がお姫様時代の知り合いだからか、最近はアレだったルナーレが珍しくまともな態度で話している!


 こうやって真面目に話してる姿を見るとお姫様と言われても納得出来るけど……普段の変態の姿を見てるから違和感しかないな。



 ……と思ったけど、俺の心の声を読んだのか、途端に何やら内股になってモジモジし出し、既にボロが出始めているのでいつものルナーレだった。


 極め付けが真面目な顔をしながら口元からヨダレを垂らしているもんだから、全てが台無しだ。


 流石ルナーレ、安定の変態だ。



「ははは、流石聡明なルナーレ姫。その通り……アナタが生きていた事も、魔王にかどわかされてその下にいる事もワシは既に知っておりました」


 そんなルナーレの反応に気にしたそぶりも見せずに話を続けるグロービル。


 だけど人聞きの悪い言い方はやめて下さい。



「ハァハァ……ご主人様にかどわかされる私……いい」


 ほら、遂に唯一残った真面目な表情すら消え去り、だらしない顔で変態が本性を表したじゃないか。


 こうなると使い物にならないので、変態は放っておいて話を進めよう。


 後ろで『何て辛辣なお言葉……ありがとうございますッ!!』とか言ってるけど俺には聞こえないし見たくもない。



「グリル教教皇のグロービル殿とお見受けする……アナタのような地位にいる者がこのような場にわざわざご自身自ら出向くとは……どのような要件かな?」


「あぁ、これは失礼……お初にお目にかかる新たな魔王よ。ご存知のようなので自己紹介は省こう。ワシ自らがここに来た目的は見ての通りここにいる使えない勇者の処分と、人類に仇なす新たな魔王を……つまり、其方を殺す為だ」


 その瞬間、これまで以上に目の前の二人から放たれる圧力が強まり、一斉に臨戦態勢に入る俺たち。



「ははは、流石勇者を倒しただけはあり、なかなかなんと……良い反応をする。これは先程の言葉を撤回すべきかな」


 しかし、一向に攻めて来ないどころか俺たちの反応を見てこんな事を言い出すグロービル。


 まるでその言葉は俺たちなどいつでも殺せると言っているようだった。



 実際、今のこちらの戦力差ではそう思われても仕方ないだろう……。


 これは俺も覚悟を決めなくちゃいけないな……。



『……二人とも、奴らはヤバい。今の俺たちでは奴ら二人相手に勝つ事は難しいだろう……俺が時間を稼ぐ……だから、二人はノルビを連れて転移陣の下へ退避してくれ』


 敵に気付かれないよう、念話を二人に送る。


 二人が助かってくれるなら、俺の命位かける位安いものだ。



 ……何て思って言ってはみたものの、二人の答えなど聞くまでもなく、最初からわかりきっていた。



『クリスをおいて逃げる訳ないよ!!』


『ルカの言う通りですご主人様! 死ぬ時は一緒です!!』



 全く……つくづく俺は妻と仲間に恵まれてるな……。


『仲間よりも愛人の方が……』


 変態も寄ってくるのが難点だが。



『そんな褒められましても……既に身も心もご主人様のモノなので、これ以上あげられるものがありませんよ?』


 ……不本意だが、服従の契約を結んでいるから、あながち嘘じゃないのでタチが悪い。


『ふふ、そうだね! 私たちみんな家族だもん! 身も心も……死ぬ時だって一緒だよ!』


 ルカがルナーレの言葉を盛大に勘違いしているのが唯一の救いだ。



 しかし……そうだな。


 俺たちは家族……死ぬ時は一緒だ!



 だけど……死ぬからにはせめて残された家族の為に、敵の主力であろうコイツらも道連れにしてやる!!



 俺たちが死ぬ覚悟を決め、戦闘を仕掛けようとしたその時……



「どうだ新たな魔王よ。……ワシと取引しないか?」


 思いもよらないグロービルの提案に完全に虚をつかれてしまった。

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