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ボーンライフ  作者: ユキ
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ノルビちゃんとパパ

 体から……力が……抜けていく……。


 まるで常に全力疾走しながら魔力を全開で開放し続けているような……そんな倦怠感と苦しみが体を襲っている。



 どうしちゃったんだろう……わたし……。



 どうして、こんな所で床に転がっているんだろう……?



 うぅ……苦しくってうまく思い出せない……。



 確か私は……いつも通り、人族の街にコッソリ忍び込んで、本屋でまだ見ぬ勇者の遺産(漫画)を探しに行った筈……。


 そこでかなりのレア物と出会って調子に乗っていた私は、思わず気が緩み変装が解けて……。



 そうだ……その後は周りに正体がバレてたまたまその場に居合わせたアイツら……聖騎士隊とか言う人族に捕まっちゃったんだ。



 その後は……そう、あの勇者に私は……度重なる拷問を受けた……。



 身も心もいたぶられ……まるでオモチャで遊ぶように扱われる日々……。



 尊厳を踏み躙るような行為の数々……。



 まるで……以前読んだ、くっ殺の女騎士のように、身も心も壊され……落ちて行く……。



 ……ジュルり。


 おっといけない、ヨダレが。


 まさか好きなキャラと同じ体験が出来るなんて思ってもいなかったから、思わずそのシュチュエーションに興奮していたなんて……恥ずかしくてパパには言えないよ。



 あのキャラもこんな気持ちで快楽に負けて落ちていったんだろう……とか。


 この服の乱れ具合はまさにあのシーンみたい! ……とか、時間を忘れて楽しんでしまったのはここだけの秘密にしなくちゃ!



 だって、あの勇者様の子悪党ぶりったらもう……漫画に出てくる悪党のまんまで最高なんだもん!!

 


 ……じゃなかった!? 今はそんな事より、どうして体に力が入らなくなったのかだよ!


 えーと……あれは確か、勇者様に連れられて魔王様の住む魔族の街に潜入した後の事……。


 そこで再会したルカレットさんがコスプレに興味があると言うから……それがあまりにも嬉しくて、同類を見つけた喜びで舞い上がってた時だった。



 ……ッ!? そうだ!! あの時確か頭の中に勇者様の声がしたんだ!


『お前の力を俺に寄越せ』って……。



 何その激アツ展開ッ!! 流石子悪党! ……じゃなかった勇者様! わかってるぅ!!


 あの時はつい興奮してOKしちゃったけど……その後突然体から力が抜けていって……。



 あちゃー……あれが原因かぁ……。


 やっちゃったよぉ……完全に自業自得じゃない。


 今更やっぱ無理ですって言っても、あの子悪党の勇者様じゃ止めてくれないよねぇ?


 

どうしよう……このままだと冗談抜きでヤバい感じがする。


 何かいけないモノまで体から抜けていってるみたいで私……ジュルり。


 おっといけない。また、変なスイッチが入ってしまう所だった。




『全く……お前って奴はこんな時まで……』


「……ん? この声は……パパ?」


『そうだよ、ノルビちゃん』


 聞き慣れた、まるで耳に馴染むようなイケボイスはやっぱり私の大事なパパだった。



「やっぱり! でも、どうしてパパの声が? ……ッ!? もしかして今までの私の醜態を見てたの!?」


『……今気にするのがそれか……全く我が娘ながら、どうしてこんなに……ユニークで可愛いんだろう!!』


 うん、きっとそんな所が似たんだろうね。



『おっといけない、今はノルビちゃんの可愛さについて話してる時間はなかった。……大変残念だが心して聞くんだノルビちゃん。パパはもう……この世にいないんだ』


「えっ……でも、こうして話してるじゃない?」


 全く、いつも私の前ではバカな事ばかり言ってるけど、こんな時まで何を言ってるんだこの人は。



『これはある物に宿ったパパの最後の思念だよ。そしてすまないが……パパが死んでいるのは本当の事なんだ……ノルビちゃんを一人残して死ぬのは非常に心配だったが……だって、ノルビちゃん凄く可愛いから、悪い虫がつかないか心配だし、それにそれに……』


「パパ!」


『おっといけない、ノルビちゃんが可愛いからつい……』


 危ない危ない、またいつものバカ長い私の話になる所だった。


 そんな事よりも今はパパの事の方が大事だって言うのに……。



『話を戻そう。こうして話せているのも、あるお方にある物……私のツノを託したからからだ」


「えっ!? 鬼族の力の源であるツノを渡したの!?」


 あれは魔核と同じような物……鬼族だけが持つ特殊な第二の魔力貯蔵器官だ。


 そんな大事な器官が外部に露出しているのも、そんじょそこらの攻撃ではビクともしない特別頑丈な作りをしているから。


 鬼族のツノが破壊されたなんて今まで聞いた事もないし、これからもないと自身を持って言える。



 でも……何事にも例外はある。



 唯一、そんな頑丈なツノを取る方法があるのだ。



 それは、自分の死期を悟った鬼族が、大切な誰かに魔力を譲渡する為、自らの意思でツノを取る事……。



 だが……それは、自らの魔核を抉り取って渡すのと同じ……。



 だからこそ『自分の死期を悟った鬼族が』なのだ。



 つまりは……



「パパは本当に……死んじゃったんだね……」



 親の死。


 誰もが通る道だが、幼少より母親のいないノルビにとっては一気に二人の親を亡くしたのと同じ事。



 それはかなりの衝撃の事実だろう。




 ……パパ。


 こんな変わった私だけど、否定する事なく優しく見守ってくれた……。


 ママはいなかったけれど、ママの分も私を大切に……それこそ二人分以上愛情を込めて育ててくれて……そのせいか、過保護過ぎる所もあったけれど、それだけ私を愛してくれた……大好きなパパ……。



 そんなパパが……死んだ……。



 そのあまりに衝撃的な事実に目の前が真っ白になる。



『ノルビちゃん……すまない……』


 いつもの困った時に出すパパの声……。


 声しか聞こえないけど、目の前にはそんな困った顔のパパの顔が思い浮かぶ。



『だが、安心してくれ! ノルビちゃんの事は、信頼出来る方に頼んであるから、きっと大丈夫だ!』


「……信頼出来る……方?」


 鬼族の族長として、誰にも頼らず毅然とみんなを纏めていたパパが……信頼する人?



『ああ! その方は魔族でも屈指の強さを持つパパを倒す程の強さを持ち……それでいて心の広い、優しい方……



 魔王クリス十六世様だ!』


「……パパよりも強い……魔王様」


 パパよりも強い……そんな人がこの世にいるの?



『そうだよ。こうして話せているのも、魔王様が私の願いを聞き入れてくれて、ノルビちゃんに私のツノを届けてくれたお陰なんだ』


 そんな方がパパの為に……でも。



「……でも……私みたいな変わった魔族……パパじやなきゃ、きっとすぐに呆れられて嫌になるに決まってるよ……」


『呆れられる? いや、大丈夫! 何せその方は勇者と同じ異世界から転生されたそうだから、きっとノルビちゃんの趣味も理解して下さる筈だ!』


「勇者様と同じ……異世界……」


 異世界から転生とか漫画で何回か読んだな……



 ……ッ!?!?


 その瞬間、真っ白になった私の視界が急に色づく。



「い、異世界!? それって本当!?!?」


『あ、あぁ……このツノに宿っている時に本人たちが話しているのを聞いたから、確かだよ」


 私のあまりの食いつきように若干引き気味のパパ。



「それを早く言ってよパパ!! わかった!! 私その魔王様の()()()()()なるッ!!」


『うんうんお嫁さん……えっ!? ちょっ!? ノルビちゃん!? 別にノルビちゃんを魔王様に頼んだのは、お嫁さんにして欲しいって意味で言った訳じゃなくて……』



「はぁ〜楽しみだなぁ〜、勇者様はあまり漫画に詳しくなかったからアレだったけど、魔王様は詳しいかなぁ〜……いや! きっと詳しい筈!! だってあのルカレット様の上司をしていらっしゃる方だもの!!」


『おーい、ノルビちゃん。パパの声が聞こえてるか〜ぃ?』


 何やら後ろで私を呼ぶ声が聞こえるが、今の私にはそんなの些細な事だ。



「あぁ〜、一体どんな私の知らないエロいお洋服を知っているのかなぁ〜、もう考えるだけでドキドキが止まらないよぉ!! そして……そんなエロい衣装を着た私に魔王様は思わず……きゃっ! もう! 魔王様ったらぁ、気が早すぎますぅ〜」


『ノルビちゃん……』


 残念な妄想に走るノルビを呼ぶダッチの声は、とても悲壮感に包まれていた。



「でも……魔王様なら私の全てを見せて、あ・げ・る……キャーーッ!! なんちゃってなんちゃって!!」



『……こうやって、子供は親の元を巣立って行くんだな……何とも複雑なものだ……』


 自分の世界に入り込むノルビに会話を諦め、寂しい気持ちを思わず独り言のように呟いくダッチ。



「えっ? 何言ってるのパパ。これからもこうしてお話出来るんだから……いつも、一緒でしょ?」


『えっ!? いや……そんなしょっちゅう話せる訳じゃ……』


 まさか反応が返ってくるとは思わなかったダッチは思わず反論しようとするが、途中で考えを改める。



『まぁ……そうだな! これからもずっと、パパとノルビちゃんは一緒だ!』


 娘の言葉で自分がどれだけ幸せな状況なのか、気付いたから。



「うん! そこで幸せになる私の姿を見守ってて!!」


『うぅ……それはそれで複雑な……まあいい! 


 ……さて、そろそろ起きなさい。外でノルビちゃんを待ってる人たちがいるんだから』



「私を待っている人……未来の旦那様だね!」


『ぐぬぬ……オレは認めてないからな……』


 早くも不穏な気配はしているようだが。



「ふふ……パパ!」



『ん……?』



「大好き!!」


 あまりに真っ直ぐな娘の笑顔と言葉……。



『ッ!?』


 ダッチは思わずその笑顔に息を呑む。


 その笑顔があまりにもノルビの母親に似ていたから……。



 気を取り直してダッチは言う。


『……あぁ……パパも、大好きだよ』


 娘の成長と、懐かしい……愛した人と瓜二つの笑顔に心を満たされて……。



「うん! 知ってる! パパ……またね」


 そうしてノルビの意識は光に包まれていった。

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