勇者ユウタ
僕の名前は雄太【ユウタ】、高校2年の男子だ。
世の中で言うと青春真っ盛りの年齢だけど……僕にはそんな事とは一切無縁の、引きこもり生活を送っている。
それもこれも、この人より小さな体のせい。
体が小さいと言うだけで、幼少期より僕より大きな同級生は僕を下に見て、僕をイジるようになった。
特に発育の早い女子はそれが顕著で、イジるだけでなく、僕を男と見ない発言を繰り返し、蔑んだ。
そんなのおかしくないか?
頭が悪い訳でもない、顔だって普通なのに、少し小さいと言うだけでみんなは僕を見下し、笑い者にする……。
だから僕は、そんな奴らに舐められないように……自分を少しでも大きく見せる為に横柄な態度をとるようになった。
呼称を僕から俺に……口調をその当時クラスのみんなから一目置かれていたヤンキーのダイキ君の真似をして、命令口調にした。
その結果……
生意気だと言われ、今度はイジメられ始めた。
何で僕がこんな目に……。
僕は何も悪いことをしてないのに……。
そうだ……僕は何も悪くない。
全部周りの奴らが……世の中が悪いんだ!
僕は……いや、俺は悪くない!!
そうして世界と決別し引きこもるようになった俺。
世界を恨み、周りの全てがどうでも良くなっていたある日、それは突然起きた。
やる事もないので暇つぶしにやり続けたゲーム。
勇者となり、異世界を救う……。
そんな何の捻りもない普通のゲームをやっていると、突然画面が光出し、気が付けば俺はこの世界に召喚されていた。
夢のようだった。
俺を勇者と讃え、ハイハイ言うことを聞く周りの人々。
全てを超越し、全てが思いのままになるチカラ。
ずっとコンプレックスだった身長だって、魔法のチカラでどうとでもなった。
このチカラがあれば、散々俺を見下し馬鹿にした女たちだって、命令すれば簡単に言う事を聞く。
聖女と呼ばれる絶世の美女でお姫様のルナーレだって、俺を勇者様と崇め、俺の命令には逆らわない。
俺のチカラの前では四天王とか言われる魔族でも強い奴らだって、簡単に倒す事が出来た。
全てが思いのままだった……。
俺の為に用意された世界……。
まさにゲームの中の主人公になったような万能感……。
だけど……そんな無敵な俺に、思い通りにならない事が起こり始めた。
きっかけは魔王軍で一人残った四天王ルカレットと呼ばれた、ルナーレにも引けを取らない絶世の美女である吸血鬼と、一体の骸骨兵……そしてあの忌々しいエルフだ。
あの吸血鬼は、俺のチカラを目の当たりにしても俺の女になる事を拒み、更にはその部下である骸骨兵とエルフは俺の邪魔をし、あろう事か骸骨兵は、顔は普通だが、当時何でも言うことを聞いて都合の良かった……名前何だっけ?
……まぁいい、骸骨兵は俺の下僕の魔術師を殺したのだ。
何で俺の邪魔をする?
俺はこの世界の主人公だぞ?
俺の思い通りにならないなら、全て壊してやる。
……そう思った。
まぁ、吸血鬼だけは散々痛ぶって俺無しではいられなくしてから殺してやるつもりだったけど……。
なのにあの忌々しいエルフが邪魔をし、まんまと吸血鬼と骸骨兵には逃げられてしまった……。
今思い出すだけでもはらわたが煮え繰り返る気持ちになる。
その後は気を取り直して魔王を倒すも、途端に仲間のコクーンが突然いなくなり、あんなにも良くしてやったのにルナーレさえもまた、俺の前から姿を消した……。
あの時国王の命令さえなければ……必ずルナーレを見つけ出して、今度は逃げられないように奴隷の首輪を付けてやったのに……。
そうなればあの絶世の美女の全てが、俺の物になっていた……。
魔王を倒した勇者である俺には、例え一国のお姫様でもそれが出来る筈……だった。
アイツの名前さえ出なければ……。
勇者である俺でさえ、初めて会った瞬間本能で危険を感じる程の、聖騎士隊の隊長であるアイツさえいなければ、王の命令だろうと突っぱねてやったのに……。
だけど、それでも諦める事が出来た。
国に戻れば俺は魔王を倒した英雄……。
これから一生周りからチヤホヤされ……敬われ……どんな女も俺の思い通りになるのだから。
だけど戻ってみれば最初こそチヤホヤされたが、それも次第になくなり……その内敬れるどころかまるで邪魔者を扱うように雑に扱われ……女たちも軽蔑したような目で俺から距離をおくようになった。
……まるで前の世界の俺をイジメた女たちのような目……。
何だってんだ!!
俺は魔王を倒し、世界を救った英雄だぞ!!
良い女が居たら例え相手がいようが命令すれば俺の物になるのは当たり前だろう!?
むしろ勇者の俺の物になるんだから光栄だろうが!!
勇者である俺が一人の女で満足する訳ないし、ただの女じゃすぐに壊れてしまうんだから、使えない物は捨てるのは当たり前じゃないか!
それなのにアイツら……!
世界を救った勇者には、全てが手に入り、全てが思い通りになるんじゃないのかよ!?
ドワーフの国を攻めるのを断ったのがいけないのか?
アレだって、グロービルのジジィから聞いてた話がガセだったんだからしょうがないんだ。
ドワーフたちに可愛らしい双子の女が居るって最初から知ってれば……断る理由なんて無かった!!
クソッ……足りないって言うのか……?
英雄としての実績が……。
そんな時だ、魔族たちの間で新たな魔王が誕生した事を知ったのは。
しかもそいつは、上玉の女魔族を何人もはべらせていると言う……。
俺が出来なかった事をしている魔王……。
コイツだ……。
コイツさえ倒せば、俺は本当の英雄となり、周りから認められる。
ついでに魔王がはべらせている女魔族たちは俺の奴隷にすれば良い。
人族と違って魔族なら簡単には壊れないしな!
……完璧だ。
アイツらのせいで狂い出した俺の完璧な人生は、新たな魔王を倒せば再び正常に動き出す。
そう思い、急ぎグロービルの所に向かえば……今は無理だと適当に鬼の女魔族をあてがわれ流されてしまった。
……まぁ、コイツはコイツで見た目も良く、魔法で大きくなった俺よりも更に大きな女と言う事で、俺を散々イジめたあの女たちを思い出し痛ぶっているようでなかなか楽しめたんだが。
魔族なので多少無理をしても壊れる事もないし。
……唯一の残念な点は、胸が絶壁な事位か?
そんなこんなで、今までの鬱憤を晴らすように楽しんでいると、遂に俺の出番がやってきた。
何でも新たな魔王が兵を挙げ、今までにない規模で進軍し、前回の魔王軍進軍以降より強固にした筈のローレンの街を簡単に制圧されてしまったそうだ。
その後いろいろ小難しい事を説明されたが……要はその圧倒的な兵力に怖気付いた王は他の街の守備を捨て、王都で魔王軍を抑えているので、勇者である俺に元凶の魔王を倒せって事らしい。
ハッ! だから俺が言った通りとっとと魔王を倒しとけば良かったんだよ!
……だが、まぁ良い。
お陰で俺の出番がやってきた。
そろそろこの鬼の女魔族で遊ぶのも飽きて来た所だったんだ。
そうして俺は意気揚々と魔王討伐に出発する事にした。
流石に勇者である俺が一人で旅立ちなど格好が付かないので、鬼の女魔族にマントを被せて連れて行く事にした。
コイツは散々痛ぶったお陰で今では俺に従順に従うし、何より今回は奴隷の首輪もあるので絶対に逆らえないし逃げられる心配もない。
ハハ、ルナーレも最初からこうしておけば良かったんだ。
王女だからって優しくしてやったのが間違いだった。
もし、今度見つけたら……必ず俺の奴隷にしてやろう。
そうして予め情報で得ていた魔王の根城であるボーンシティと言う場所を目指して旅立つ俺たち。
順調に旅は続き、その上魔族領に入ると驚くべき事にあのコクーンが俺の前に現れ、また仲間にして欲しいと言ってきた。
何を都合の良い事を……。
腹立たしい思いを顕に、奴隷の首輪をするなら着いてきて良いと無茶振りをするが、更に驚くべき事にコクーンはすんなり承諾しやがった。
何考えてるんだコイツ……?
……まぁ良い。
俺は寛大だから許してやろう。
しかし、幸先が良いな……。
この分ならあのルナーレも見つかるかもしれない。
そう思っていたら、何と到着したボーンシティで標的である魔王の横に居るではないか。
本当についている。
やはりこの魔王を倒す事で、俺の人生は最高だったあの時にに戻ろうとしているんだ。
そう……思っていたのに……。
蓋を開けてみれば何だこれは。
ルナーレは目の前の魔王をご主人様と呼び、その魔王は俺と同郷の転生者で、あの時の骸骨兵だって?
更にはルカレットと言う俺が目をつけていた四天王の吸血鬼もまた、この魔王の妻だと言う……。
唯一気が晴れたのは、あのエルフが死んでいると言う事ぐらいだが……コイツは……骸骨のくせに俺が望んだ物を全て手に入れやがってッ!!
やっぱり、コイツが俺を不幸にした元凶なんだ。
コイツを倒しさえすれば、俺は再びこの世界の主人公として全てを手に入れられる。
コイツさえ……。
なのに……何故倒せない……。
何で俺の最強の剣が効かない……。
何で俺が床を這いずっている……?
ただの骸骨兵なのに、その巨体で俺を見下ろし、見下してくる魔王。
いやだ……。
怖い……。
死にたくない……。
俺の全てを使っても通じない相手。
そいつは俺を殺すと良い、迫ってくる。
怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……。
俺はまだ死にたくない。
助けてくれ。
そうだ! こんな時、勇者を助けるのが仲間の役目な筈。
世界を救うには勇者が必要なのだから、その仲間は勇者を必ず守らなくちゃいけない。
そうだ……そうだよ! それこそがモバキャラの役目!
俺を助けろ!! 俺の為に死ね!!
その全てをかけてでも……。




