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ボーンライフ  作者: ユキ
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勇者の秘密

 木々が生い茂る獄森の奥深く。


「ハァハァ……凄い……凄いよクリス!! とても硬くて……なんて、立派なの」


「ホント凄いわね……この私が足腰立たない程メチャクチャにされるなんて……なんて……逞しいのかしら」


「……」



 ダッチたち反魔王派との戦後処理と、人族との戦争の準備に追われる日々。


 そんな中、少しでも時間を見つけるとダッチより譲り受けた魔力の掌握と更なるレベルアップの為、ルカやアルスに相手をお願いし、鍛錬に明け暮れていた。


 ただ、鍛錬に付き合ってくれるのはありがたいが、ことあるごとに卑猥に聞こえる言葉を言うのは止めて欲しい……。


 しかもルカは素でこれなのだから、俺の精神が持ちそうにないです。


 いや、むしろ精神の修行にはなっていいのか?



 ……どちらにせよ、決して二人にいかがわしい事をしている訳じゃないからね?



「ふむ、確かに私の魔王時代をも凌駕する、凄まじい逞し……ごほん、強さですな。この短期間でここまで強くなられるとは、いやはや魔王様には驚かされてばかりです」


 ミュートが珍しくアルスのノリに乗ろうとしたが、恥ずかしくなったのか途中で言い直した……カワイイ。


 ……じゃなかった。

 あのミュートが俺の成長に驚き、高く評価してくれるのは正直とても嬉しい。



 でも……


「……確かに俺は強くなった。これも俺を導き、付き合ってくれたみんなのお陰だ。そして、これなら勇者にも遅れを取らないだろう。


 ……だが、今のままでは何故か……勇者に勝てる自分の姿が、想像出来ないんだ……」


「……クリス」


「……魔王様」


 心配そうにこちらを見つめるルカとアルスには悪いが、もう時期勇者との戦いだと言うのにこんな状態なのだ……安心させる為のカラ元気も出ない。



 勇者を倒す為、思いつく限りの鍛錬をつんで来た……。


 自分でもかなり強くなった自負がある……。


 なのに今だに勇者の強さに底を感じれないのは何故なのだろう……?



 何かが足りない……。


 勇者を倒し切る為の何かが……。



 純粋な力?


 いや……そうじゃない。


 先程も言ったが、今の俺の強さなら勇者とも互角に戦える筈だ。



 なら、何が……。



 そんな俺の考えを読んだのか、ミュートがボソッと言葉を漏らす。


「流石……死を経験した者……危険を感じる本能、と言ったところかな……」


 ……ん? どう言う意味だ?



「おっと、申し訳ありません……つい声に出てましたな。


 ……ただ、魔王様にはいつか話そうと思っていた事なのです。



 魔王様のその、漠然とした不安……それは正しい事ですから」



「……おじ様、何か心当たりがあるの?」


 意味深なミュートの言葉に俺に変わってルカが質問を返してくれた。



 やはり勇者には、俺の知らない何か秘密がある……のか?


 半信半疑だった俺の疑問。


 それは、次のミュートの言葉により裏付けられる。



「あぁ、心当たりも何も私は実際に勇者と戦ったからね。


 魔王様……簡潔に説明しますと……



 勇者は、複数のスキルを所持しております」


「なっ!? 複数だと!?」


 確かローレンの街を人族軍が攻撃した際、勇者はスキルと思われる飛ぶ斬撃を使っていた。


 あんなモノを……他にも?



「はい……魔王様が直感で勇者に勝てないと感じているのも、その未確定な力が原因かと」


「おじ様、ちょっとまって! そもそもスキルを複数持つなんて可能なの!? スキルに目醒める事自体レアな事でしょ!?」


 以前ルカからはスキル所持者は少ないと聞いていた。


 それなのに複数のスキルを所持する者がいるなんて、ルカ自身も知らなかったようだ。



「この世界の人間には無理だね」


 そう横槍を入れたのは、それまで俺たちの鍛錬を木の上の枝で寝転がって見ていたグラスだった。


 キリ・キリマイとの戦闘でやられた傷を癒す為現在療養中のグラスは、暇だからと俺が鍛錬をする時は毎回こうして眺めてアドバイスなどをくれるのだ。


 アドバイスだけなら良いのだが、アルスたちに乗っかって下品なヤジを飛ばしてくるから正直迷惑な方が大きいが……。



 ん? この世界の人間?


 グラスの言葉で俺はある事に気付く。


「もしかして……異世界の住人……だから?」


「気付いたみたいだね、流石師匠! ……そう、勇者はこの世界の人間じゃない。


 ……この世界より()()()()()である異世界から召喚された、文字通り()()()()()()()だよ」


 上位の……世界……。



「だから、この世界の人間には無理でも、勇者ならスキルを複数持つ事が可能なんだ。


 現に、過去の勇者たちも数は違えどスキルを複数所持していたしね」


 驚愕の事実だ……。


 「たまったもんじゃないよねぇ」と呟きながら、枝に座るとやれやれと両手を掲げるグラス。


 しかしその目の奥に妙に真剣な光が見える事から、それが真実なのだと理解させられた。



「でも……どうしてそんな重要な事を私たちは知らなかったの?」


「それはだな、ルカレットよ……」


 グラスに代わり再び話を引き継ぐミュート。


「400と数十年前に人族が勇者を召喚して以降、勇者は我ら魔族にとって敵となった……


 もし、我ら魔族が勇者と出会えば、それは即戦闘となり……その圧倒的力を前に、勇者と戦って生きて帰った魔族は殆どいなかったからなんだよ」


「……」


 何て重い理由ざんしょ……。


 魔・即・斬とか勇者さんマジ鬼畜。


 ……と、頭の中でふざけてみたものの、そんな相手とこれから戦わないといけないのだと言う現実が俺を緊張させ、生唾を呑み込みそうになる感覚を襲う。


 骸骨だから唾は出ないけど……。



「でも、それならおじ様達がみんなに教えてあげればいいのに……」


 ルカの不満もごもっともだ。


 だけど、そんなルカの不満はグラスの返答によって打ち砕かれる。



「教える? 僕たち魔族の最大の敵である勇者は、その身体能力だけでも脅威なのに、本当はスキルを複数有する魔王でも手も足も出ない化け物だって?


 ルカみたいな強力な力を持つ魔族ならまだしも、それを一般の魔族が知って……この地獄のような魔族領で生きて行く希望を持てると思う?」


「ッ!?」


 グラスの言葉は真意をついていた。


 ボーンシティに住んでいると忘れてしまうが、この魔族領は強力な肉体を持っている魔族でさえ生きて行くのにやっとの環境なのだ。



 ルカの意見は所詮は力ある者の考え。


 ミュートたちの行いは、例えそれが周りを欺く事だとしても、結果的には力無き者……魔族たちみんなを守る為の行為だった。


 その事に気付いたルカは、自分の軽率な発言を後悔し、俯く。



「ルカレット……世の中には知らない方が良い事もあるんだよ」


「そう……だね……ごめんなさい」


 優しく論するように語りかけるミュートの言葉が胸に刺さったようで、俯きながらもその事実を認めるルカ。



 自分の間違いを認め、反省する……ルカは本当に素直で良い子だ。


 その素直なルカの反応に、ミュートとグラスもまた、子供の成長を見守る親のように、優しくほほえんでいる。



「この事を知っているのは私やグラスのような長く生きている魔族だけです。


 皆若い魔族たちの未来を考え、口をつぐんでいるからですな。



 しかし、私がこうして魔王様に話しました……


 それは、魔王様なら……勇者にも勝てると思ったからです」



 ミュートからの信頼の言葉。


 その想いが伝わり何だかこそばゆい気持ちとなる。


 だが、それと同時に心は誇らしさに満ち、身の引き締まる思いになった。



 これまで人生の先輩方が、俺たちの事を想いひた隠しにして来た真実。


 それを俺に話すと言う事は……魔族の未来を俺に託したと言う事。


 これは何が何でも勇者を倒さなくちゃいけないな!



 しかし、通りでルカは驚いているのに、アルスは『あぁ、あれね』みたいななんて事ない顔で聞いてる訳だ。


 アルスも長寿であるエルフだもの、見た目に反してかなりの年齢なのだろう。



 ……そういや、アルスっていくつなんだ?


 見た目だけならおじさんである筈のグラスより遥かに年上に見えるが、……まさかグラスと同じくらいなんて事は……



 あっ、いや、何でもないのでお願いだから笑顔で凄むのをやめて下さい。



 勇者と戦う前にピンチになりそうな俺を助けるように、ミュートが話の続きを語り出した。



「私が魔王として直接対決した際に、勇者が実際に目の前で発現したスキルは二つ……


 強力な斬撃を飛ばす『飛斬』。


 そしてジン殿が以前使われていた『縮地』の二つでした」


 助かったよミュート……じゃなかった。


 『飛斬』に『縮地』……どちらも単純だか強力なスキルだ。


 特に勇者はチート武器、最強の剣を持っている。


 もし『飛斬』にその効果を上乗せ出来るのなら、最強の遠距離攻撃になる。


 ……むしろ、出来ないと考えない方が良いだろう。



 そして『縮地』……。


 ただでさえとんでもない速さなのに……勇者が使ったら回避出来ずに木っ端微塵に斬り刻まれるだろう……。



 どちらも強力で、最強の剣と合わされば一撃必殺の極悪な攻撃になる。


 例え俺の新たな力で斬られた所を直せても、所詮は直しているように見せかけるだけの紛い物……。


 斬られ続ければ、いずれは組み換える事も出来なくなり……負ける事になるだろう。



「過去の勇者は最大五つのスキルを所持していたからね。その二つだけとは限らないよ」


 ダメ押しのグラスの言葉に更に気持ちが憂鬱になる。



 世界最強の身体能力に、斬られたら終わりのチート武器。


 そこに少なくとも二つ以上のスキルを使うと来たもんだ……。


 マジで勇者、チート過ぎるだろ。



「……諦めるかい?」


 あまりの理不尽な現実に、先程の決意は早くも揺らぎだす俺に、グラスの非情な言葉が投げかけられる。



「……」


「別に無理して勇者を相手にする必要はないんじゃないかな? 勇者を偽ボーンシティに誘い出すならそのまま閉じ込めるなりして、その隙にヤマト王国に攻め込むとかでも良いと思うし」


 何とも魅力的な誘いだろう……。


 確かに、誘き寄せられるのなら閉じ込めるのも、わざわざ相手をせず放っておくのも良いかもしれない。



 だが……。


「あの勇者を野放しにしておけば、必ず魔族にとって最悪の結果になる」


 主に女性魔族だが……見た目が好みの女性なら、全てあの神態の毒牙にかかってもおかしくない。


 特にルカは一度狙われた身……勇者の事だ、一度失敗したから逆恨みしていてもおかしくない。


 そうじゃなくても、必ずルカはまた狙われるだろう……。



「魔王としての責任……もあるが……大切な者を守る男として、勇者は必ず倒さなくちゃいけない!」


「いやぁ〜ん、そんな頼もしい事言ってもらえるなんて、アルス、う・れ・し・い〜」


 いや、アルスには言ってないからね!?


 ……と言うか、アルスなら下手したら勇者でも倒しちゃいそうじゃないか?



 ……なんて事は思って無いので、お願いだからハグのポーズで近づいてくるのをやめて下さい!!



「ふふ、流石師匠! それでこそ僕が認めた男だね!


 まっ、どっちみち勇者のあの武器の前じゃ閉じ込める事も出来ないし、転移も使えるだろうから放っておく事も出来ないからね」


 クッ……コイツ計ったな!!



「ふふふ、そんな睨まないでよぉ。謝罪の気持ちを込めて、僕もとっておきの情報を教えてあげるから。


 あのね……」


 そうして語られたグラスの話。


 それは、それまで語られた勇者の真実以上に驚愕の内容だった。


 しかし、同時に俺にとっての希望とも呼べる情報になる。

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