鬼骨王【キコツオウ】
「お前ら、いい加減にしろォォオオ!!」
ルカとルナーレに散々煽られ怒り狂った勇者が、ルカへと斬りかかる。
その手に持つのは斬った対象の概念すら斬り裂く勇者の武器『最強の剣』。
アレで斬られたら元の状態が無かった事になり、回復する事も出来なくなる。
防御不能のチート武器。
だが、そんな武器にも対象方はある。
概念を斬り裂く能力は剣の刃に付与されている。
つまりは……。
「俺が相手だ……勇者!!」
ガッ!!
勇者とルカの間に入り、剣を振りかぶる勇者の腕を抑える。
刃に触れなければ効果はない。
「邪魔だぁぁあああ!!!」
力任せに捕まれた俺の手を振り解き、今度は俺へと斬りかかる勇者。
ピタッ。
振りかぶる最強の剣の刃に合わせて、差し出した愛剣クレットの刃の先を当て、その動きを止めた。
以前グラスがやったように、能力が発動するのは剣を振り抜いた場合のみなので、振り抜かせなければこの通り……直接刃を受け止める事も可能なのだ。
まぁ、ミクロン程の剣の刃に、こちらの刃先を当てる芸道など普通出来ないんだけどね。
この体が記憶する達人とも呼べる技術に感謝だが……今更だけど前世の俺って何者……?
「クッ……魔物の癖に小細工ばっかりしやがってぇ!!」
その後も繰り出されようとする攻撃を振り抜く前に止め、間に合わなければ剣の腹を弾き受け流す……そうして勇者の猛攻をしのぎ続ける。
あの次元の違う強さを持つ勇者と互角の戦いが出来ている。
前世に培った神業技術もあるが、俺がそれ程の境地に至る事が出来たのも、ダッチより引き継いだ膨大な魔力とアレのお陰だな。
ダッチのお陰で、遂に俺は自らの進化したスキルを100%使いこなす事が出来るようになったのだから。
ザンッ!!
「ははは!! やっと斬れた!!」
っと、いつもの悪い癖で自分の世界に入り込んでしまい、注意力散漫となった俺の顔を勇者の剣が捉えた。
顔と言うか、頭蓋骨の目から頬に斜めに入った斬れ跡。
試しに修復を試みるが、最強の剣の能力で案の定、斬られた部分を修復する事は出来ない。
骸骨兵なので痛みも無いし、特に戦闘に支障は無いので別にこのままでも良いんだけど……。
「ちょこまか動きやがって……でも、所詮お前は魔物だ! 魔王だからって調子に乗っててもその程度なんだよ! 勇者である俺に、敵うわけないだ……ろ? ……なっ!?!?」
勇者が調子に乗ってウザいので、元通りにした。
「お、お前! 何だそれはッ!?」
「何とは? ただ元通りにしただけだが?」
狼狽える勇者になんて事なく答える。
「ふざけるなッ!! 俺の剣は斬った相手の概念すら斬り裂く最強の剣だ!! 俺の剣に斬られた対象は理を斬られ、治療する事なんて出来ない筈だぞッ!!」
その結果、キレたように怒鳴り出す勇者。
本当に扱い易い奴だ。
「そんな事か……そんなのは簡単な話しだ。
お前のなんちゃって最強の剣では、魔王である俺の概念を斬り裂く事は出来なかった……と言う事だろう」
実際はちゃんと斬られているけどね。
「なん……だと」
愕然とした表情で固まる勇者。
動揺してる動揺してる。予想通りだ。
ここだけの話、タネを明かすと斬られる前の元の姿に見えるのは、俺のスキルの効果にある。
現在俺は、個であって多の存在だ。
と言うのも、スキルによって使役する連絡用に必要な最低限の分体を除いた約1万の骸骨兵……。
その全ての骸骨兵と、融合している状態なのだ。
ダッチとの戦闘時の俺では全ての骸骨兵と融合する事が出来ず、3000程の骸骨兵と融合するのが限界だった。
進化してもなお、融合する事で増える膨大な魔力を受け入れる容量が、魔核になかったからだ。
そんな中、ダッチの膨大な魔力を託された際、ダッチは他にも俺に置き土産を残してくれた。
それが魔力の圧縮。
ツノに膨大な魔力を溜め込む為に、ダッチがやっていた保存方法だ。
それがツノが体に吸収される際に同時に引き継がれ、使用出来るようになったお陰で、一万の骸骨兵と融合してもなお魔核に余力を残し、その全てを制御出来るようになったのだ。
そうして出来上がったのが、75メートルはある巨大な巨骨兵。
25階建てビルに匹敵する巨大な体は、肉体を持たない骸骨の体でもとんでもない重量があり、その重量に比例し圧倒的な破壊力を秘めたまさに怪獣のような存在となった。
巨体から生み出される何者も寄せ付けない圧倒的なパワー……それさえあれば勇者にだって負けない。
進化するまでの俺は大きさこそ力だと思っていた……。
だが、全ての骸骨兵と融合し、巨大な体を手に入れて気付く。
このままでは勇者に勝てないと……。
確かに圧倒的なパワーは手に入れた。
しかし、その分動きが鈍くなり、グラスとの戦いで見せた目で追えない程の勇者のスピードには、とても敵わないとわかったのだ。
勇者には最強の剣があるから……。
このままではただ細切れにされるだけの、大きな的が出来ただけだ。
勇者の領域に届いていないと理解した俺は、絶望するよりも、ひたすら他の方法を模索し続けた。
このパワーを残しつつ、何とか勇者と戦えるスピードを手に入れる方法はないかと……。
そうして、ある方法に辿り着く。
それが今の、体を圧縮した姿だ。
魔力の圧縮に着目して得た新たな力。
小さくなる事で巨骨兵の時にネックとなっていた圧倒的なスピードを手に入れ、更にパワーの元となる重さはそのまま……圧縮した事で体の密度が上がり、攻撃を一点に集中出来る為むしろ威力跳ね上がっている。
全てはダッチの想いがもたらした必然……。
これこそ勇者に勝つ為に俺が作り上げた最強の姿……
この姿をダッチに敬意を払ってこう名付ける事にした。
『鬼骨王【キコツオウ】』と……。
この姿の唯一の弱点と言ったら、常に魔法で体を浮かしていないとその超重量で床が陥没するくらいだな。
そして、今の俺の姿は……例えるなら組み合わせて作るオモチャのブロックと同じ。
例え最強の剣によって一箇所が壊され、二度と同じ物同士組み合わせる事が出来なくても……他の無限に近いブロックと組み換えれば良い。
勇者の最強の剣の斬撃を受けても元通りになったのはそう言うカラクリだ。
まぁ、勇者にわざわざネタバラシする必要もないから話さないけどね。
「そんな筈ない……そんな筈……勇者の武器である俺の最強の剣が……魔王なんかに叶わない何て……そんな事……あっていい筈がないんだァァアア!!!」
錯乱したようになにやらブツブツと呟いていたと思いきや、突然叫びながら凄まじいスピードで斬りかかってくる勇者。
しかし、錯乱した勇者の攻撃に剣技と呼べるものはなく、ただ感情にまかせて力任せに振るうだけだった。
そんな攻撃なら例えスピードが速かろうが、とんでもない威力を秘めていようが、見えさえすれば容易に避けられるし、次の攻撃も読める。
それなら……。
ザシュッ!!
「カハッ!?」
勇者の胴体に愛剣クレットの横凪の斬撃が命中し、鮮血が宙に舞う。
この通り、反撃だって簡単だ。
散々煽ったのも、この一撃を入れる為。
世界最強の身体能力を持つ勇者には、下手な攻撃では見切られ、避けられてしまう。
精神的に幼い勇者の性格を利用した作戦。
卑怯? ふっ……卑怯と呼ばれるだけで魔族最大の障壁が倒せるなら安いもんです。
しかし、流石は勇者。
アレだけ怒りで我を忘れていたのに、斬撃の直前に後ろに飛び、重症を間逃れている。
すぐに立ち上がり俯きながらもこちらを振り返った勇者の腹部は、既に自らの回復魔法で治療され、綺麗に治っている。
下手な攻撃ならすぐ回復されるよなぁ……本当なら今ので胴体を真っ二つにするつもりだったんだけど。
このレベルの相手だと化け物みたいな回復が出来て当たり前だから、俺の不死のアドバンテージは無いようなものだ。
まったく……つくつぐ面倒な奴だ。
だが、俺の攻撃の本命はそれではない。
「クッ……」
勇者の顔色が良くない。
そりゃそうだろう。
俺の愛剣クレット……またの名を魔剣クレットは、斬った対象の魔素を取り込む。
その能力はあのダッチの巨大な炎柱さえ一瞬で吸収し消し去る程。
つまりその斬撃を受けた勇者は今、魔力の元となる魔素をゴッソリ奪われ、魔力が枯渇している状態なのだ。
骸骨兵のこの体なら死んでいる状態……。
それは生身でも軽視出来ない状態で、魔力枯渇で体調も最悪となる中、魔法や身体強化の元となる魔力が無いので素の身体能力で戦うしかない。
そして化け物じみた回復も出来ないのだから……いくら化け物勇者が相手だろうと、俺の敵ではない!!
勇者の最強の剣がチート武器なら、ルカとの絆で生まれた俺の魔剣クレットもまた……チート武器なんだよ!!
と、普通ならここで勝ちを確信して高笑いでもしていただろう……。
でも、俺は決してそんな油断はしない。
何故ならこの戦争が始まる前に、ミュートとグラスから
勇者の……
勇者たらしめる
ある秘密を聞いていたからだ。
誤字報告してくださった方、ありがとうございます。
拙い文書ですが、今後もよろしくお願い致します。




