表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボーンライフ  作者: ユキ
122/196

それぞれの叫び

 美しく壮大なお城を中心に建物が立ち並び、その周りを巨大な城壁と強固な結界に守られた街……。


 ヤマト王国が誇る王都セリーヌ。


 その王都は、過去何度となく魔王軍からの襲撃を受けて来たが、その強固な結界により未だ正面からの魔族の侵攻を許していない。


 もちろん以前のクリスやミルカのように、人族に紛れて衛兵の目を逃れ、結界の干渉しない門から侵入する事も出来るが、それはあくまで平時での話。


 有事に門が閉められた場合、過去、結界を破り街に侵入出来た魔族は存在しない。



 それだけ強力な結界と城壁に守られた街。



 『難攻不落の王都』


 いつしかそんなセリーヌの街は、そう呼ばれるようになっていた。



 そんな王都セリーヌの城壁の前方には、様々な格好をした人々が王国を守るように立ち並んでいる。


 その数……およそ10万。



 人族の存亡をかけた戦い。


 その名の元に、他の街の守備すら犠牲に国中から集められるだけ集めた兵士。


 徴兵として召集された傭兵や冒険者。


 果ては犯罪を犯し収容されていた犯罪者たちも、恩赦を餌に集められ、作られたヤマト王国の歴史でもかつてない程の規模の大軍隊。


 それだけ人族側が、今回の魔王軍の戦力を脅威と感じていると言う事だった。



 そんな大規模な軍隊を指揮するのは、ヤマト王国の現国王……カルパン・ヤマトその人である。



 正直、王として国民からの支持率はあまりよろしくない。


 その理由は、揉み消されはしたが、密かに噂によって広まったミルカたち魔族が国内に侵入し、勇者によって捕えられた事件に始まり……。


 クリスたちが起こした、突如として王都に大量発生し、その殆どが忽然と消えたゾンビ事件と言った、これまで難攻不落でもっとも安全な場所とされて来た王都に魔族や魔物を侵入させた失態。


 そして、ドワーフ王国での大敗や、今回の魔王軍進行からの人族軍の惨敗ぶりと言った、一連の問題の数々が原因である。



 良くも悪くも普通の王様。


 平和な世なら、何の問題もなく政務を真っ当する良き王と表されていた事だろう。



 しかし今は戦時……。


 その平凡な器は、戦乱の世を治めるにはそぐわない。


 そう国民から評された、王だった……。



 しかし、それは彼の公表されている実績についての評価。


 多くの国民は知らない……。


 現勇者を召喚する為に彼が指示した、残虐な行いを……。



 裏では敵となりうる者や、その家族までも暗殺させる、非道な素顔を……。



 娘であるルナーレさえ平気で見捨てる、冷酷さを……。



 そんな彼が、果して平凡な器であるのだろうか?



 それはこの後の戦いで理解する事になるだろう。



 そして……未だ裏で暗躍する教皇もまた、人族の存続を掛けたこの戦いにおいて、何かしらの影響を及ぼす筈だ……。



 果たしてこの戦い、クリスたちの計画通りにことが運ぶのだろうか。



  *****



「……凄い数……だね」


 目の前に広がる数え切れない程の人族たち。


 その圧巻の光景に、僕は思わず隣にいるアカリにそう呟いていた。


「そう……だね」


 どうやらアカリもその光景に圧倒されていたようで、同じく呟くように答える。



 そりゃそうだよね。


 あの、どんな時でも自信満々のアカリだって、目の前の大地を埋め尽くすような数の人族を見たら、緊張するんだ。



 ましてや……僕たちはこれからこの人たちと、命を奪い合う……戦争をするんだ。


 幸いと言うか……僕たちはこれまで、誰かの命をまだ奪った事がない。


 『極力犠牲者を出させないよう』との魔王様の命令を守る為、僕のスキルでは全てを壊してしまうから、ここに来るまでに侵略した街では、相手を脅す為にただ前線に立ち、その身に相手の攻撃を受け、ゴールムの中で攻めるジンさんたちをただ見守っていただけだからだ。


 アカリのスキルもまた、直接の戦闘には向かない為、僕と一緒に安全なゴーレムに乗り、戦うみんなをスキルで支援していた。



 そんな僕たちだけど……これからの戦いではそんな事は言ってられない。


 敵も後がないから、今までのように降伏などせず、最後まで死に物狂いで抵抗してくる筈だ。


 文字通り互いに命を賭けた総力戦となる。


 本気で戦わなくちゃ、こちらがやられてしまうだろう。


 きっとアカリもその事を思い……これから自分が奪うであろう、目の前の沢山の命たちに、怖気付いてしてしまっているんだ……。



 今の僕の気持ちと同じ……。



 そりゃそうだよね! 性格は違っても僕たちは生まれてから今までずっと一緒だった双子……。


「ヒカル……私……



 こんな沢山の人たちの目の前で歌えるなんて、凄く興奮してきちゃった!!」



 あれ〜……。



「どの曲から歌おうかな? やっぱりテンションが上がるいつもの曲? それとも、興奮した気持ちを落ち着かせるあの曲も良いかな……」


 この後の事を思い、怖気付くどころか楽しそうに選曲を考える双子の姉。


 双子って……見た目はそっくりなのに、こんなにも感じ方が違ったんだね……。



「よし! やっぱりここに居る人たちは私たちのライブを初めて観る人たちだから、まずはテーマソングであるいつもの曲で、私たちトゥライトの事を知ってもらおう!」


 でも……。



「それで、ここにいる沢山の人たちにも……私たちのファンになって貰おうね!!」



「……ふふ」


 お陰でいつだって、僕にない新たな可能性をアカリは見せてくれる。



 命を奪うんじゃなくて、心を奪う……。



 僕たちアイドルにしか出来ない事。



 それって凄く……素敵な事だ!!



「うん! 僕たちトゥライトの歌とパフォーマンスで、敵を全員魅了しちゃおう!!」



「おいおい、俺たちも忘れてもらっちゃ困るぜ」


「あっ! コウキさん! フウカさん!」


 そこへやって来たのは反魔王派として以前は僕たちの敵だった、鬼族の雷神コウキさんと風神フウカさんだ。


 あの戦いで二人は僕たちトゥライトのライブに感動し、専属のギタリストとバックダンサーになりたいと申し出て来た。


 僕たちとしても、コウキさんたちと一つになったあの時のライブは、かつて無い程最高のパフォーマンスをする事が出来たので、願ってもない申し出だと即OKした。


 きっとコウキさんたちがいれば、ここにいる観客の皆さんの心を動かす事だって出来る筈だ!



「よし! やるぞぉぉおお!!」


 先程までの沈んだ気持ちはどこへやら、今はやる気に満ちた気持ちで、戦争の開始を待ち望むのだった。




 急に叫び出すヒカルを離れた場所から見つめる二人の人物。



「ヒカルちゃん、急にどうしちゃったのかしら?」


「ヒカルたんはちょっと思い込みの激しい所があるんだ……でも、そんな所がまた可愛くって……クゥー! あの姿だけで、ご飯3杯はイケるぜ!」


「……ジンちゃんは相変わらずねぇ……でも、そんな抜けた所に魔王様と似た雰囲気を感じて……ジュルリ……そそられるわぁ〜」


 ただの変態……もとい、魔王軍四天王のアルスとジンだ。



「ちょっ!? 止めッ!? くっ付くんじゃねぇ!!」


 興奮したアルスにより抱き付かれるジン。


 そんな二人のものにある人物が訪れる。



「ハハハ、大きな戦いの前だと言うのに、魔王様の四天王は、本当に頼もしい限りだな」


「あら、ミュートちゃんじゃない。久しぶりね」


 元魔王で、今はドラゴンベビーに転生したミュートだ。



「良いから離れろ! たく……しかし、本当に久しぶりだな。ここまでの戦いで見かけなかったけど、今まで何をしてたんだ?」


 アルスとジンの言葉にゆっくりとジンの頭に着地したミュートは、猫のように足で座り心地を整えてからお尻を乗せ落ち着くと、二人の質問に答えた。



「ふむ、これから行う王都への総攻撃の為に、前乗りしてちょっと調べ物をな……それより皆の準備はどうだ?」


「うふ、もちろんバッチリよ! ウチの子たちは人族の屈強な兵士たちと、組んず解れつの絡みが出来るって、今から鼻息荒く興奮してるわ」


「うわぁ……相手させられる人族軍に同情するわぁ……」


 アルスの言葉に心底嫌そうな表情で同情するジン。


 しかし、残念ながらそれは他人事ではなかった。



「あら、あの子たちのターゲットには、あわよくばって感じでジンちゃんも含まれてるわよ?」


「よし!! 先陣は任せておけ!! 敵陣にど真ん中に『一人』で乗り込んでやるぜ!! わかったな

? 『一人で!』 だぞ!! 俺の周りは危険だから、けっして誰も近づけるんじゃねぇ!!」


 やたらと一人を強調するジンだったが、そんな事はこの男? には通用しなかった。



「あら、照れちゃって、相変わらずジンちゃんは可愛いんだから……私も襲っちゃおうかしら」


「もう待てねぇ!! 俺は今からでも出陣する!! 俺は早く逃……敵を倒したいんだ!!」


 駆け出そうとするジンだが、その体は宙に浮き、その場所から逃げる事が出来ない。



「ふむ、頼もしい言葉だが、しばし待ってくれ。魔王様からの伝言で、勇者が作戦通り現れたそうなので、上手くいけば戦わなくて済むかもしれんからな」


 ミュートによる魔法のせいだった。


 だが、ミュートの言葉に希望を見出したジン。



「……それはつまり……化け物共から戦場で狙われずに済む……と言う事か?」


「あら? ジンちゃんが恐れる程の敵が戦場にいるの? それは一度ヤり合ってみたいわね」


 ジンの言葉に的外れな事を呟くアルスに、ミュートは笑いながらジンの疑問に答えた。



「くく……その通り。だが……その為には我らが魔王様が、勇者に勝たなくちゃならない」


「いよっしゃぁぁあああ!! クリスッ!! 勇者なんかぶちのめしてしまえぇぇええ!! そして俺の貞操を守ってくれェェエエ!!」


 届く筈もないのに、そんな事を大声で魔族領のクリスたちがいるであろう方角を向き叫ぶジン。


 この場にクリスが居たらこう思うだろう。


 魔王軍の恥だと。



 ただ、それだけ敵よりも何よりも、ニューエルフと言う存在が彼にとって恐怖だと言うことは、理解してあげて欲しい。


 そりゃアルスやニューエルフたちに散々危ない目に合わされたあげく、ボーンシティに彼らが来るたび、地獄の追いかけっこが勃発してますからね……。


 むしろジンの叫びが本当なら、これまで何度となく彼らに拉致られて、未だ貞操を守れている事に驚きである。


 そんなジンの苦労を上司の鏡こと、ミュートは瞬時に理解し、だが、苦笑いするだけでそっと見守る。


 どうやらミュートにもアルスたちニューエルフはどうにも出来ないようだ。


 哀れジン……これからも貞操は自分て守るしかないようだ。



 そうしてミュートは、それそれ違う理由で叫ぶジンとヒカルと言った若い世代に暖かな視線を送り、魔族領の方角を見る。


 同じく若き世代である魔王様の、無事を祈って……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ