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ボーンライフ  作者: ユキ
121/196

世界の半分を、お前にやろう

『勇者よ



 俺の味方になれ



 もし俺の味方になるのなら……



 世界の半分を、お前にやろう』



「……」


 俺の突然の提案に、先程のルナーレの言葉でそれまでほうけていた勇者の表情がみるみる驚愕の表情に変わり、そして突然何かを理解したように笑い出した。



「ふふ……あははは!! そのネタを知ってるって事はお前……俺と同じ世界からやってきた転移者……いや、その格好からして転生者だな?



 そうか……ふふふふ……そうかそうか……。


 だからか……ルナーレがお前みたいな骸骨兵をご主人様と呼ぶのは……俺と同じだから……ふふふ。



 でも、残念だな!


 この世界の主役である勇者は、この俺だ!!


 そして、主役である俺が、世界の半分なんかで満足する訳ないだろ!!



 この世界の全ては……



 富も名声も女も……



 お前をご主人様と呼ぶルナーレさえも、結局は全て!



 勇者である俺のモノになるんだよッ!!




 そうだ……そうなんだよ……。



 心は思い通りに出来ないだぁ?


 知るかそんな事!!


 この世界は力こそ全てなんだ!!



 心が思い通りに出来ないなら……


 体で思い知らせてやればいい!!



 俺にはその力がある!!



 何てったって、俺は勇者……。



 この世界(ものがたり)の主役なんだからな!!」


 うわぁ……完全にイカれたクソ野郎の発想じゃないか……。


 流石、神態勇者……。


 先程まで言いたい事言って満足していたルナーレの表情も、一瞬でゴミを見る目になっているからね。


 だが、そんな事にも気付かない勇者は、尚も独りよがりなくだらない話を続ける。



「そして、魔王!!


 お前は、人でも……ましてや魔族ですらない魔物だ!


 つまりお前は……



 俺にやられる為に転生して来た……



 モブ野郎って事なんだよ!!


 あははははは!!」



 言いたい事言って、何が面白いのか壊れたように笑い出す勇者。


 全く、これだから自分の都合の良い事しか考えないガキは嫌なんだ。


 そんな奴が世界最強の力を有しているのだから、本当にこの世界はタチが悪い。



 これだけ自分勝手な発想になれるのも、きっとこの世界に召喚されてから今まで、その力によって何でも自分の思い通りになってきたからなのだろう。


 それなのに、ここに来てルナーレに否定されたもんだから、元々アレだった考えが更に壊れて酷くなったと……。


 今の精神状態が先程の笑い方に出ているようだ。



 その時、それまで黙って事の成り行きを後ろで見守っていたあの方が動いた。


「……クリスはモブ野郎でもないし……ましてやアナタみたいな変態にやられたりしないから!!」


 ルカレットである。


 と言うか……何だか、かなり怒ってらっしゃるようです。



「なっ!? へ、変態!? 勇者である俺が、変態だと!? 誰だお前……ッ!?」


 そんなルカの言葉に何故か狼狽える勇者。


 どうやらこれまで散々酷い発言をしておいて、変態の自覚が無かったようだ。



「フッ……あの時私にアレだけ恥ずかしい求愛をしておいて、私の顔を忘れたのか?」


「は? ……ッ!? お、お前は!? あの時の吸血鬼!?」


「ようやく気付いたようだな。そう! 私は元魔王軍四天王ルカレット! そして今は、魔王クリス十六世の妻……ルカレット・十六世だ!」


 俺の姓、十六世だったのぉ!?!?


 不意の衝撃の事実に、勇者よりも俺の方がビックリです。



 勇者はと言うと、どうやら俺の後ろの暗闇に紛れていてルカの正体に気付いてなかったようで、ようやくルカと気付き驚きの声を上げ、更にその名乗り上げで俺とルカの関係性を知り、驚愕の表情で俺たちを交互に見る間抜けな姿を晒している。


「は? お前が、魔王の……妻? ……ッ!? ま、まさかお前! あの時邪魔した骸骨兵か!?」


「……フッ、今頃気付いたようだな、勇者よ」


 本当にコイツは……進化して姿が変わったとは言え、ここまでとは……女性の顔しか覚えてないんだろうな。



「……ふふふ……あははは、こいつは傑作だ!! まさか魔王が転生者で、更にあの時俺にボコボコにされた骸骨兵だったとは! まさか俺に仕返しでもしたかったのか? ……ん? そう言えば、あの時のエルフはどうした?」


 違った……男でも美形なら手を出しかねない神態だった。



「……」


「向こうの戦争でエルフがいるなんて情報はないしな……ハッ! まさか死んだが? ははは、そうかそうか、いやぁ〜この俺の手で殺せなかったのは残念だが、いい気味だぜ!」


 先程までの狼狽はどこへやら、自分がかつてボコボコにした格下の相手だと気付くやいなや饒舌になる勇者。


 マジでクズである。


 ルカの煽りも逆効果になっている。



 てか、実際は魔術師たちも同じエルフなのだが……今はお年寄りの姿だったから知らないのだろう。


 あと、見た目は全然違うけど、アルスたちニューエルフも一応エルフだからね……。



 うん……信じられないけど、エルフなんだよ。



 何にしても今の勇者はこちらの話す間すら与えてくれず、自分の都合の良いようにどんどん解釈して行くので放っておこう。



 実際グラスは前回のキリ・キリマイとの戦闘で大怪我をおい、今は本物のボーンシティで静養しているのだから。


 あのグラスに大怪我をおわせる程の実力者だったとは……完全にキリ・キリマイの実力を身余っていた。


 そして、グラスだったからこそその程度で済んだとも言えるので、グラスには感謝しないといけない。


 重症を負いながらも追い返す事には成功したようだが、未だ生きている未知なる強者、キリ・キリマイの動向には今後注意しなくちゃな……。



 話がそれたが、勇者にわざわざこちらの内情を説明する必要もないので、このまま勘違いさせておけばいいだろう。



「何だ、そんなに安心して……グラスが居たら怖かったか?」


「……あん!?」


 と言うのに、わざわざ更に煽るように話を戻すルカさん。


 どうやら、先程俺の悪口を言われたのが相当頭に来たようだ。



 そんなルカの言葉に、先程までの饒舌は消え去り、完全にキレた表情でどこぞのヤンキーみたいにメンチを切ってくる勇者。


 今回の煽りはうまく行ったみたいだけど、だからってこの反応……。


 マジで勇者とは何ぞや……。



「ッ!?」


 ガッ!!


 その時、それまで大人しくしていた勇者の仲間の一人が、突然俺に向かって来て正拳突きを繰り出してきたので咄嗟に椅子に座ったまま受け止めた。



「話が長い!!」


 その際、素早い動きでめくれた布が取れ、その下にどこかで見た事のある女性の顔が現れた。



「コクーン!? どうしてここに!? それに何で勇者と!?」


 女性の顔を見て、驚きの表情でその名を呼ぶルナーレ。


 そうか、どこかで見た事ある顔だと思ったら、以前ルナーレと共に勇者の仲間をしていた女武道家だ。


 ルナーレの話だと、俺を探すとか言って勇者パーティーを抜けた筈だけど、どうしてまた勇者といるんだ?



「それは!」


 バシッ! ビシッ!


「またこの骸骨兵と殺り合いたくて、修行しながら方々探し歩いたけど、結局見つからなくて」


 ドコッ! バキッ!


「でも、途中の街で骸骨兵の姿を変な光る板で見つけて、周りの奴に聞いたらここにいるって言うから向かったけど……結局私一人じゃ辿り着けなかったからだ!」


 喋りながらも攻撃を止めないコクーン。


 その表情はどんどん高揚し、とても楽しそうだ。


 相変わらずのバトルジャンキーである。



「そう言えばアナタ……方向音痴でしたね」


「そうだよ! 悪いか! それで途中で会ったこのアホ勇者がここに行くって言うから、わざわざ頭下げてついて来たんだ!!」


 どうでも良いが、コクーンの言葉に『ア、アホ……勇者?』と勇者がショックを受けてるぞ。


 ホントどうで良いが。



 そしていつまでも攻撃し続けるのをやめて下さい。



 いや、俺は魔王でコクーンは勇者の仲間なのだから、良いのか?


「さあさあさあ! この時をどれだけ待ち望んだか……私はこの為に死ぬ思いで修行してきたんだ! 互いに力の限り極限まで絞り出す、最高の殺し合いをしようぜ!!」



 いや、やらんよ?


 バシッ!!


 その瞬間、それまで激しい攻撃を繰り出していたコクーンと、受け止め受け流す俺の間に、透明な壁が出現してコクーンの攻撃を阻んだ。



「チッ、ルナーレ! 何で邪魔するんだ!」


「悪いですが、ご主人様はこれから勇者と言う社会のゴミを抹殺するお仕事があるので、アナタの相手をしている場合ではないのです」


 勇者に仲間がいるように、俺にも仲間がいるのだ。


 ちなみに社会のゴミと言われ、勇者が更に動揺しているが些細な事だ。



「ナーレ、それだとゴミに失礼じゃない?」


 と思ったら、ここでルカも追い討ちに言ったぁぁああ!!



 ルカの言葉にとうとう勇者は俯き、プルプルと震え出してしまった。


 泣くのか? 泣いちゃうのか?



「……、……しろ」


 ん? なんかブツブツ言ってるな?



「お前ら、いい加減にしろォォオオ!!」


 おっと、遂に勇者がキレたようだ。


 あんだけ精神的に追い込まれた上に、アレじゃねぇ……。


 むしろあの幼稚な勇者がよく耐えた方だ。



 そのまま化け物のような身体能力に任せてルカへと斬りかかる勇者。


 流石のルカでもあの攻撃を避けるのは難しいだろう。


 つまりここからは……



「俺が相手だ……勇者!!」


 ガッ!!


 俺はルカの間に入り、剣を振りかぶる勇者の腕を抑える。



「邪魔だぁぁあああ!!!」


 吠える勇者。


 散々煽られた挙句、キレた勇者が攻撃を仕掛けると言う、何とも間抜け始まりになってしまったが……。


 こうして人族と魔族の代表である勇者と魔王の戦いが始まったのだった。

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