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ボーンライフ  作者: ユキ
120/196

真実の愛

 ボーンシティの入り口。



「……何かここ……気味悪いです」


「お前は……本当にバカだな。そりゃ魔族の住む街なんだから、気味悪くて当然だろう!」


「……」


 高層ビル立ち並ぶ路地を、青い髪を右側頭部で結んだ長身のスレンダー美女と、黒髪の青年、小汚い布を頭からかぶって性別のわからない人物の三人が歩いていた。



「うぅ……そうじゃなくてですね……」


「うるさい黙れ! お前は黙って俺に着いてくればいいんだよ! このクズが!」


「キャッ!? うぅ……申し訳ありません」


 そんな中黒髪の青年は、一緒に歩く長身の女性の言葉を否定し、それどころか女性のお尻を足蹴りする。


 もう一人の布を被った人物はそんな青年の暴挙を注意するでもなく、布越しから前方の一点をただ見つめている。


 彼らの中ではこれが普通の事なのだろうか。



「しかし、魔族の街に来たと言うのに、魔族どころか魔物すら出てこないなんて……どうやら情報は正しかったみたいだな」


 青年の言う通り、彼らが歩く街中はいつもの賑わいはどこへやら、この街に住む人の姿どころか街を巡回する骸骨兵の姿すらなく静まり返っていた。


 人の気配がない街中は、日が落ちかけ更に厚い雲で覆われた空模様と合いまって、暗く……とても不気味な雰囲気を醸し出している。



「おっ、どうやらあれみたいだな……お前らついてこい」


 先を行く青年が見つけた物……


 それは高層ビル群を抜けた先、それまでの景色からは不釣り合いな、広大な土地に、いかにもと言わんばかりの装いをした、お城のような巨大な建造物だった。



 青年は迷う事なくその建物の入ると、後ろを歩く布を被った人物も躊躇する事なく後に続き、少し遅れて長身の女性が建物を見上げたあと、ビクビクしながら二人に従った。



 建物の中はやはり人気がなく、それなのに廃墟とは違い、置かれた調度品や家具は綺麗に管理されていて、まるで()()()()()だ。



「……本当に、ここであってるんですか?」


 そんなどこかミスマッチな状況に、長身の女性はビクビクしながら前を歩く青年に尋ねる。



「はぁ? この肌を刺すような邪悪な気配を感じないのかお前は?」


「で、でも……」


 スゥー……。


 二人のやり取りに布を被った人物は一点を指さす。



「ほら見ろ、コイツも気付いたるじゃねぇか! ホント鈍臭ぇな! 行くぞ!」


「うぅ……」


 布を被った人物が指差した方向へ歩き出す青年。


 長身の女性は前を行く二人が先を行にどんどん進んで行ってしまう為、仕方なくその後に続く。

 


 その後何度か階段を上がり今歩いている場所は、壁にかけられた蝋燭だけが辺りを薄らと照らす、長い廊下だった。


 その中を黙って歩く三人は、廊下の突き当たりにある巨大な扉の前に辿り着く。



 先頭に立つ青年は、その巨大な扉に何の躊躇いもなく手を伸ばした。


 すると、まだ青年が触ってもいないのにその巨大な扉はひとりでに開き、その先のまるで闇の中にいるような真っ暗な空間が目に入った。


 後ろに立つ長身の女性は、その光景に怯えたように一歩下がるが、青年と布を被った人物が迷う事なく中へと足を踏み入れた事から、一度躊躇いつつも後に続く。



 ドンッ!


「ひゃぁ!?」


 三人が中へ入ると、後ろで再び扉が勝手に閉まる。


 その音で思わず長身の女性は変な声を上げてしまうが、前の二人はそんな事気にした様子も見せず、扉とは反対の……闇の先へと鋭い視線を向けたままだった。



 ピカッ!!


 天窓から雷の光で一瞬照らされた室内。


 その奥に見えた人影は三つ。



「よく来たな……歓迎するぞ……



 ()()()


 その内の一人から、再び闇に飲まれた室内に響く、威厳のある声が発せられる。


 その声と共に、立派な椅子に座った大きな骸骨が暗闇にボウっと浮かび上がった。



「ハッ、何が歓迎するだ! 勇者である俺に怯え、部下たちだけ前線に出して、自分はこんな後方に閉じこもっている臆病な()()のクセによ!」


 勇者と魔王……現在行われている人族と魔族の最高戦力である二人が、対面した瞬間だった。



「フフフ……そうだな、確かにお前たちにはそう伝わるようにした」


「伝わるようにした? 何言ってんだお前? 負け惜しみは辞めとけよ。現に自分の身可愛さに国民を全員無理やり出兵させたって話通り、この国にはお前ら以外人っこ一人いないじゃねぇか!」


「フフフフ……アハハハハハ!!」


 勇者の言葉に更に笑い出すクリス。


 これには勇者も頭に来たようで、機嫌の悪さを隠そうともせず問いただす。



「チッ! 何がそんなにおかしいって言うんだ!」


「ふぅ……お前たちは、我が魔王軍が誇る参謀の策略にまんまと踊らされたのだ」


「踊らされた……だと?」


「その通り。


 人族軍がドワーフたちとの戦いに惨敗し、国民の国に対する信頼が落ちている情報は得ていた。


 だから初戦を圧倒的な力で勝利する事で、残された国への信頼を地の底に落とし、更に速さを重視した進軍を行う事で焦りを呼び、国民の恐怖を煽る事で、不満を爆発させるようにしむけたのだ。


 もちろん、そうなるように我々の仲間が情報を広めてな……。



 そして最後に、我々魔王軍が今回の戦いに是が非でも勝つ為、国民の殆どを強制的に出兵させたと噂を流せば、後の無いお前たちは光明を得たとばかりにこう思うだろう……。


 勇者であるお前が手薄になった魔王の街に乗り込み、魔王さえ倒してしまえば、無理やり戦争に参加させられた魔族達は逃げ出し、頭を失った魔王軍は自然と崩壊し、あとは残った雑魚の魔物を倒せば良いだけだ……と。


 そしてお前はまんまとこの街にやってきた。


 

 本当は……お前を誘き寄せる為に流した偽の情報で……



 この街が自体、偽のボーンシティだと言うのに」



 そう、ボーンシティの住民は出兵どころか避難すらしていない。


 この街は勇者を誘き寄せ、俺と勇者が全力で戦う為に作った、精巧な偽のボーンシティなのだ。



「ハッ! だからなんだってんだ。国の信頼が地に落ちようが勇者である俺には関係ない! 更に言えば、お前らの策略だとしてもお陰で邪魔も入る事なくこんな簡単にお前と会えたんだ……俺としては好都合でしかない。何たって、魔王であるお前を倒してしまえば……結局全て、丸く治るんだからな!!」


 ギンッ!!


 その瞬間、勇者の姿は消えたかと思うと、剣を振りかぶった状態でクリスの真上で止まっていた。


「チッ、結界か。だがこんなもん、俺の最強の剣の前では無意味……グッ!?」



 勇者が結界をその手に持つ剣で斬り裂こうとするが、斬られる直前で結界は消えさり勇者の斬撃は空振りに終わり、それどころかすかさず張り直された結界により顔面を強打するハメになった。



「ッ! クソが! ふざけやがって!」


 強打した顔を抑えた状態で仲間達の元へと下がった勇者は吐き捨てるように悪態をつく。



「……あなたの剣の効果は良く知っていますから、わざわざ斬らせるわけないじゃないですか」


 闇の中でそんな声が響くと、壁に設置された蝋燭が入り口の方から順番に奥へと灯る。


 そうして漸く部屋の全貌が確認出来るようになった中、先程の声の主を見た勇者は絶句する。



「お、お前はルナーレ!? 何故ここに……生きていたのか!?」


「えぇ、こちらのご主人様に命を救って頂き、この通りピンピンしております」


 蝋燭の火に照らされ現れた女性……それは、ヤマト王国の第二王女で元勇者の仲間ルナーレ・ヤマトだった。


 勇者はかつての自分の仲間が生きていた事にもだが、それ以上に驚いた事があった。



「ご主人……様? はは……何を言ってるんだルナーレ。ソイツは魔物だぞ? しかも魔族の王ある魔王だ。そんな奴を王女であるお前がご主人様と呼ぶなんて……!? まさか、洗脳……」


「違います! ……私は洗脳などされていませんし、それどころか強要された訳でもありません。


 ただ……真実の愛に気付き、ご主人様をそう呼ぶ()()を知っただけです」


 そう話すルナーレの顔は高揚し、完全に恋する乙女の表情で、それが心の底から言っている真実なのだと誰の目からも明らかにだった。



 しかし、勇者にはその言葉が真実だと理解は出来ても、納得など出来ない。


「真実の愛……だと? 勇者であるこの俺の元から去っておいて……魔物なんかを愛する……



 ふざけるな……



 ふざ、けるなぁぁああ!!


 俺は勇者だぞ!?


 この世界を救い、そして全てを手に入れる男なんだ!!」


 勇者としての歪んだプライドがあったから。



 それは身勝手な男の叫び……。


 しかし、それが世界最高峰の力を持つ勇者の言葉だから、今まで誰もその考えを否定する者はいなかった。



 だが……。


「そう……アナタは確かに勇者として召喚された存在……


 でも、この世界はアナタの思い通りになる、オモチャなんかじゃありません!!



 人の心もそうです!!



 私の心は決して……


 アナタのような力に溺れた愚かな男の、思い通りになど、なりません!!」



 真実の愛に気付き、人を愛する自由を知った彼女には。


 愛する人を失う以外の恐怖など、存在しなかった。



 そして、まさか自分の言葉を否定されるとは思ってもいなかった自己中勇者は、ルナーレの言葉に言葉を失い、金魚のように口をパクパクさせている。



「……ルナーレ、言いたい事は言えたか?」


「はい! お陰様でスッキリ出来ました! ありがとうございますご主人様!」


 その表情を見たルナーレは、満足気にクリスの言葉に答え、その後ろに下がる。



「さて、話が逸れたが、せっかく勇者と魔王が対面したんだ……お約束ぐらいはしとこうじゃないか」


「……ぁぁ……お約束……?」


 クリスの言葉に心ここに在らずと言った状態の勇者。


 しかし、クリスは勇者の精神状態などお構いなしに話を続ける。



「そうだ……古来より、勇者と魔王が出会う時、交わされる問いかけ……


 ごほん。


『勇者よ



 俺の味方になれ



 もし俺の味方になるのなら……



 世界の半分を、お前にやろう』」


 それは、某世界的人気ゲームで話題となった、あの言葉だった。

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