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ボーンライフ  作者: ユキ
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クリスの決意

 結果から言おう……



 ルカたちは、全員無事でした。


 て言うか、怪我どころか汚れ一つない状態でピンピンしてます。



 あの後、急ぎボーンシティに戻った俺が見たものは……魔王城の中庭に山のように積まれた襲撃者達と、そこへポイポイと手際良く残りの襲撃者を魔法で投げ積む、ルカの姿だった。


「お帰りクリス! お仕事お疲れ様でした!」


 その姿を見て唖然としていると、俺に気付いたルカが、いつも通り笑顔で迎えてくれる。



「あ、あぁ……ただいま、ルカ。……所で、それは……?」


 反魔王派との命をかけた戦争をお仕事で済ませる辺り、流石元最強の四天王だと思いつつ、今はそれよりも後ろに積まれた襲撃者たちが気になったのでそちらを聞くのを優先した。



「ん? あぁ、この人たち? 何か、みんなでここでクリスたちの帰りを待ってたら、急に襲ってきたから、チャチャっと返り討ちにしたの」


 なんて事なく答えるルカさん。


 チャチャって……。


 でも、そうだった……ルカは進化した事で、魔王にも匹敵する力を持っているんだから、襲撃に気付けば返り討ちにする位余裕だろう……そう、気付けば。



「それは……無事で何よりだよ……でも、どうやって襲撃に気付いたんだ?」


 問題はそこだ。


 いくらルカが強くても、油断している時に意識外から不意打ちされたら殺されていてもおかしくない筈。


 それだけ今回の襲撃者は異質で、危険なのだ。


 現に俺でもあの男の攻撃に全く気付く事が出来なかった。


 ダッチが居なかったらきっと、あのまま命を落としていただろう……。


 だと言うのに……これだけの魔力の無い襲撃者の襲撃を察知して、返り討ちなんて……一体どうやって?



「あぁ〜……確かに魔力を感じなかったから普通なら危ないかもしれないけど……例え魔力がなくても、私にはこの、()()の匂いを嗅ぎ分けられる鼻があるから、関係ないんだ」


「……魔素の匂い?」


「ふふふ、そう! 今は匂いで相手の状態を嗅ぎ分けられるのはもちろん……半径50メートル位までなら、目を瞑っていても魔素の動きだけで周りの状況が手に取るようにわかるようになったんだ」


 何その羨ましい能力……それじゃあ、ルカ程の強さなら今後一切、闇討ちを心配しなくて良いって事じゃないか。



 魔王になって今回の反乱で実感したけど、権力者とは上に行けば行くだけ、自分の意思で何でも決められる『自由』を手に入れられる。


 ……けど、その分多くの人が俺の言動を見て評価し、その評価が彼らの望む『魔王』としての評価を下回れば、途端に今回の反魔王派の人たちのように命を狙ってくるのだ。



 だけど、人の数だけ求める基準それぞれ違う訳で……。


 今後、俺がどれだけ優れた魔王になろうとも、全ての人が望む魔王になる事は、不可能だろう。



 つまり俺は、今後魔王である限り、常に命を狙われる事になると言う事だ。



 そんな俺や、世の中の権力者にとって、ルカの能力は口から手が出る程羨ましい能力な訳で……。



 あの時この力が俺にもあれば……


 俺の代わりに、ダッチが死なせずに済んだのだろう……。



「心配しないで」


「……?」


 そんな自らを責める俺に、ルカは優しく声をかけてきた。



「クリスはとても強い魔王様だよ」



 俺が強い魔王……



 いや、そんな筈はない。


 俺が弱かったから、ダッチは俺を庇い……そして、命を落としてしまったのだから……。



 俺にもっと力があれば……。



「だけど……いくら強い魔王様でも、何でも一人で出来る訳じゃない」


「……」


 俺の考えを読んでそう答えるルカに、何も答える事が出来ない。



「クリスはそのスキルで、他の人より沢山の事を自分一人で出来るかもしれない……でも、それだと出来ない事もあるんだよ?」


「ッ!?」


 確かに……そうだ……。



 いくら俺が1万の自分の分身を作り出せても……それは所詮、俺でしかない。


 いくら数を増やそうと、解決出来ない事は世の中にたくさんある。



「時には過ちや……失敗をする事だってあると思う。


 だけど、クリスには沢山の仲間達がいるんだよ?


 クリスを魔王と慕い……集まった、かけがえのない仲間たちが……



 クリスに出来ない事は、仲間たちに頼ればいいんだよ!」



 仲間に……頼る、か……。


 確かに魔王だからと言って、万能ではない。


 知略ではリンに叶わないし、知識ではミュートが一番だ。


 求心力でトゥライトに叶う者を俺は知らない。


 単純なパワーならアルスに分があるだろし、スピードではジンに勝てそうにない。


 ましてや、魔素を見て感じられる特殊な目と鼻も、俺は持っていない。



 きっとルカは、魔王に本来求められるのは個の力ではなく、そんなそれぞれの分野に長けた彼らをまとめ、共に歩む事だと言いたいんだ。


 ルカの気持ちに気付き、自分の間違いに気付かされ、目が覚めた思いでルカへと視線を向けるが、ルカの言葉はまだ終わっていなかった。



「何より……



 クリスには私がいる!


 私が出来る事なら何でもクリスの力になるし


 クリスの事は私が支え……守るから!



 私のこの新しい力は……その為に授かったんだと思うの……。



 クリスを支える為に……。



 だから……一人で悩まないで。



 抱え込まないで、私に相談して。



 だって私は……



 クリスの……



 魔王の妻なんだから」




 ハハ……参った。


 助けに来た筈が、襲撃者は既に返り討ちにしていて……その上、自分を責める俺の気持ちを察して、逆に守るとまで言われてしまうとは……。



 魔王として……夫として情け無い



 ……が。



 ルカの言葉に、自分は守られる存在ではなく、魔王の妻として俺の隣に並ぶ存在なのだと言う強い意思が伝わってきて……



 思わず涙が出そうになる。



 骸骨だから出ないけど……。



 今回の戦いで、ルカには戦わせたくないなどと思っていたが、どうやらそれは……俺のエゴだったようだ。



 ダッチの死は、その事を俺に気付かせてくれた。



 俺の隣に立つルカは



 強く……



 美しく……



 そして、誰より俺を愛し……信じてくれる



 頼れる人生の伴侶なのだと。



 そんな俺の気持ちを他所に、自分の気持ちを話し終えたルカは、何かを期待する目でこちらを見上げてくる。


「ありがとう。俺の隣を任せらるのは、ルカだけだ」


 何となく察した俺が、そう言ってルカの頭を撫でてやると、先程の勇ましい態度は何処はやら、子供のようにとても嬉しそうな表情で『えへへ』と喜ぶ。



 しかし、次の瞬間には瞳を潤ませガバッと抱きついてきた。


「無事で……良かった……」



 そうか……さっきはいつも通りの出迎えに、流石だなんて思ったけど……ルカもまた、魔王の妻として、毅然とした態度をとっていただけなんだ……。


「あぁ……ただいま」


 ルカの気持ちに答えるように、優しく抱きしめ返す。



 本当に参った……。



 俺の嫁は頼りになるだけじゃなく……。



 こんなにも可愛いく……。



 愛らしいだから。



 だけど……ルカは守られるだけの観賞用じゃない。



 共に歩み、時には俺たちの敵を自ら打ち倒す、強い女性なのだ。



「ルカに話したい事があるんだ……」


 それに気付いた俺の口は、自然とそう話していた。



 でも……それで良い。



 そんなルカだからこそ、話そう。



 ダッチの願いや想いは、自分一人で引き継ぐつもりだった。


 だが、ミルカを助け出した時と違い、今の俺の立場は正式に魔王として名乗りを上げ、世間的にも魔王として認識される立場……。


 それは人族にも伝わっている筈。



 その状態で魔王自らダッチの娘をヤマト王国の国家宗教であるグリル教から助けだせば……それは即ち、国同士の戦争になる。


 だから……その時俺は魔王を辞して、一人で戦うつもりだった。



 きっと、ルカはそこまで気付いてたんだろうなぁ。



 ルカの言葉で、覚悟を決めた。



 俺は魔王として……みんなを巻き込む。



 これは完全に俺のワガママだ。


 だけど、みんなはきっとわかってくれるだろう。



 ……ジンは文句言って来そうだけどな。



 それでも、きっと……結局最後はアイツも助けてくれるだろう。



 我ながら仲間に恵まれた幸せ者だなぁ。



 だからこそ……その為にはちゃんと、話さなくちゃいけない。



 俺の想いを……。



  *****

 


 ヤマト王国の王都セリーヌ。


 グリル教の本部の教皇の部屋……その部屋の主人である教皇グロービルは、それまで続けていた書類仕事の手を止めると、自分以外誰もいない筈の部屋の中で突然話し出した。



「どうだった?」


 すると、グロービル以外誰もいない筈の部屋の中で、どこから共なくグロービルの言葉に答える声が返ってくる。


「申し訳ございません……鬼族の長ダッチは処分致しましたが、魔王クリス十六世及び、その仲間の処分には失敗致しました……」


「……そうか。まぁ良い暇つぶしにはなったので良いだろう。それで、新たな魔王はどうであった?」


「ハッ! 今回の魔王の強さは確かに脅威ですが……それでも前魔王と同じレベル。それに加えて、敵であるダッチに情けをかけ、あまつさえそのダッチを人質に取られたら動けなくなるような、魔王にはあるまじきお人好し者です。とても教皇様の脅威になるような者ではありません」


「そうか、情報通り平和主義の軟弱者と言う訳か」


 そんな小物なら、すぐに対処出来るだろう。


 このまま放っておいても構わん……か。



 以前として国内は国への不満でガタガタだ。


 小物の魔王の事よりも、今はそちらの回復の方が重要だな。


「ご苦労だった、お前は引き続き元の仕事に戻り、私の指示通り動け」


「ハッ! 教皇様のご命令のままに! また御用の時はいつでもお呼びください!」



 その言葉を最後に、声の主の気配は消えた。


 そうして再び書類仕事へと戻る教皇。


 既に彼の頭には魔王クリスの事など微塵も残っていない。



 だが、教皇はまだ気付いていない。


 自分が命令した暇つぶしによって、自らの命運が大きく変わってしまった事を。

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