邪魔ならば むしってしまえ 全体毛
「お帰りなさいませ魔王様……その方はまさか!?」
本陣に戻ると、戦場の後片付けを指揮するリンに出迎えられたが、巨骨兵から丁重に下ろされたダッチの亡骸を見て、驚愕の表情で聞いてきた。
「あぁ……反魔王派の総大将、鬼族の長ダッチだ」
「まさか……魔王様が……?」
「いや……ダッチは俺を狙ったグリル教の刺客から俺を守る為に、身代わりになり殺された……」
「敵である魔王様の身代わりに? ……理由はわかりませんが、魔王様の命の恩人なのでしたら、丁重に弔わねばなりませんね」
「……あぁ、頼む」
俺の意図を汲み取ったリンの指示で丁重に運ばれるダッチの亡骸を見送る。
そこでふと、とある光景が目に入った。
「ところで、アレはなんだ?」
魔王軍に陣頭指揮をするリンの向こう側……。
そこには全身ずぶ濡れで至る所が黒焦げ、毛のあるものはその全てがチリチリな、何とも無惨な姿で正座させられている反魔王派の方々……と、何故か同じ格好で正座する、ジンとドワーフたちの姿があった。
特大魔法に巻き込まれたのは知っているから、その無惨な格好はしょうがないけど……何でコイツら一緒に正座させられてんの?
……気になる事は他にもある。
反魔王派の方々やジンたちの、その表情だ。
ダッチの亡骸が運ばれる姿を見た事で、反魔王派はこの戦いに負けたのだと理解し、悲壮感に打ちひしがれているのはわかる……。
だが、それよりも、敵味方関係なくその表情を恐怖に染めているのは、一体何故なんだ?
「彼女たちの話ですと、見せしめ……だそうです」
途端に暗い表情になるリンの言葉。
リンの視線を辿れば、そこには木に結ばれた紐に両手を結ばれ吊るされている……
両足の無いボロボロの状態のランドだったモノと、その前で良い笑顔で立っている見知った三人の姿があった。
言わずも知れた、ランドと戦っていたアルス、ルナーレ、ミルカの三人である。
ランドは魔力で判別しなければ誰だがわからない程ボロボロの状態なのだから、その酷さがお分かり頂けるだろうか。
リンの言葉とランドの姿……そしてそれを見る恐怖に染まった者達の表情を見れば、俺がここに着くまでに何をしていたのか、容易に想像が付いた。
だけど……何をやったらここまで恐れられる訳?
大の大人で魔族でも屈強な戦士たちの集まりである半魔王派の方々が、恐怖のあまり粗相をしたのか、ツンとするあの匂いが立ち込めているのだ。
そんな疑問抱く俺にようやく気付いたルナーレたちは、俺を見つけるなり満面の笑みで駆け寄ってきた。
「お兄様ーーッ!!」「ご主人様……」
ドッ! キュッ!
俺に飛びつくミルカに対して恭しく抱き付くルナーレ。
「お疲れ様、二人とも……「魔王様〜〜ぁ!!」グフッ!?」
そんな二人を抱き止め、労いの言葉を送る俺に、遅れてやってきたアルスはその巨体を考えずにミルカのように飛びついてきた。
毎度の事ながら、その勢いと衝撃に思わず倒れそうになるが、何とか持ち堪えた自分を褒めてやりたい。
「……ア、アルスも、お疲れ様。よくやったな」
「いやぁ〜ん、魔王様に褒められちゃった〜ぁ。嬉しくて発情しちゃいそ〜ぅ!!」
自分の不本意な発言を後悔する。
マジで勘弁して下さい。
「そ、それで……アレは何だ?」
変に話が広がる前に話を晒す事にする。
「アレは調子に乗った駄犬とその部下達、ついでに命令無視して巻き込まれたお馬鹿さんたちに、自分たちの身の程を教えていた所です」
そんな俺の言葉に答えてくれたのは、俺に抱き付き身長の高い俺を見上げながら、キリッとした表情をするルナーレだった。
だが、先程まで俺の肋骨の中に顔を入れてダラシなくニヤけていたのを知っているからね。
その姿は側から見ればいろんな意味でヤバい絵面的だっただろう。
「両足を落とす程度までは許可したが……アレは……」
そんなルナーレに、ランドの慘状を見て苦言を入れる。
えっ? ジンたち? アレは自業自得でしょ。
木に吊るされた状態のランドだったモノ。
その顔は原型をとどめない程変形しているのもそうだが、自慢の体毛なんて全部剃られ……いや、もっと酷いや……皮膚が毛根まで焼かれて生えなくされていた。
すると、なんて事ない表情でアルスが答えてくれた。
「ルナーレが嬉しそうに足を落とした後は、それだけじゃ私たちの気が済まなかったから、魔法で懲らしめようとしたのよぉ。だけど……あの毛のせいで全然効かないじゃない? だ・か・ら……むしってあげたの」
「む……むしる? ……体毛全部を? もしかして……素手でか?」
「そっ! 頭の先からお尻のお毛毛まで……ついでに悪さをするお股の竿も、全部ね」
おっふ……。
その言葉に、恐怖のあまり思わず内股になる。
哀れ、ランド……これからはラン子ちゃんとして生きて行く事になったようだ。
てか、全身毛で覆われている獣人の毛をむしるって、相当じゃないか?
アルスの事だから一回に一本二本なんて訳ないだろうし……その大きな手で鷲掴みにしてむしったって事だよね?
ブルル。
邪魔だからと力任せにむしるアルスの姿を想像して、思わず鳥肌が立ったような錯覚に襲われる。
てか、それって皮膚も持っていかれるんじゃないか……?
「それでね、その後また邪魔なのが生えてきたら面倒だから、皮膚を全部焼いてあげたの!」
良い笑顔で残虐な事をサラッと報告してくるミルカさん。
毛の事を言っているのだろうけど、違う事も想像して再び内股になるのは……男の子だもの、しょうがないよね?
しかし流石、一番長く四天王を務めてきただけあり、グロい事にも慣れていらっしゃる。
こっちはさっきのアルスの行為を想像しただけでゲンナリしているのに……。
「もちろん、死なないように回復を随時しながらやって上げたので、大丈夫ですよ」
いや、ルナーレさん……それが一番残酷だからね。
いっそ、殺してあげた方がどれだけ優しかったことか……。
三人によって行われた残虐な行為とその後のランドの人生を思うと、少しだけ同情する。
ルカを侮辱した事は許すつもりはないけどな!
そして、反魔王派の方々と何故か一緒に正座させられているジンたちは、その残虐な行為を目の前で一部始終見せられた、と……。
そりゃあんな表情にもなるよね……男として。
しかし、アルスとミルカは魔族だから兎も角……ルナーレは人族で聖女って呼ばれてたんだぜ?
それがこんな悪魔の所業を平気な顔でやっていたと……。
俺のせいなのか? 俺が服従の契約をしたせいなのか?
アレにそんな効果があるのか知らないけど、途端にルナーレの今後は心配になってきたのと……今後ルナーレたち三人には、絶対に怒らせないようにしよう、と内股の俺は心に固く誓った出来事だった。
「所でお兄様……あの人たちはどうする?」
ビクッ!!!!!
ミルカが無垢な表情で指差す先……正座させられている反魔王派の方々とジンたちは、その言葉で一斉に股間を隠した。
皆が皆怯えた表情でガタガタと震えて……いや、一部高揚した表情の変態が見受けられるが、この世界では最早普通の事なので気にしないでおこう……。
そんな変態以外の股間を隠した男達たちが、一斉に俺に救いを求める眼差しで見てくる。
屈強な男の潤んだ瞳とか、誰得だよ……。
「ご主人様に反乱した愚かな者達ですので、やはりお仕置きが必要だと思います」
助けるべきか悩んでいると、ルナーレの『お仕置き』と言う言葉に、救いを求める眼差しを送っていた大半の魔族が高揚し出した。
ドMである。
「魔王様の命令とあらば、いつでもむしってあげるわよ」
アルスの言葉に、残りわずかのまともだと思われた人々がウホウホ言い出す。
ホモである。
お前ら一瞬の快楽の為に、性別変えるつもりか?
「はぁ……性変換は無し、あとは殺さないように」
「「「ハ〜〜イ」」」
「「「うぉぉぉおおぉぉおお」」」
三人の元気な返事に、歓声を上げる変態たち。
ビュッ!
その時スキルを使用したのか一瞬で目の前まで移動してきたジンが、モジモジと何か言いたがな表情でこちらを見つめてきた。
「……トゥライトの二人に指名って……出来るかな?」
いい歳したオッサンがモジモジと頬を染めて何を言うのかと思えばコイツは……。
「アルス〜、ジンからご指名だぞ」
「ちょっ!?」
ガシッ!
俺の言葉に瞬時に反応したアルスはジンを羽交締めにするように後ろから抱き上げた。
「アラぁ〜、私を指名だなんて、あの夜を忘れられなかったのかしらぁ? 私には魔王様がいるけど……ジンちゃんなら、しょうがないわねぇ」
「ちがッ!? 俺はトゥライトの二人を!!」
「アラ、あの二人みたいなヒラヒラの衣装がお好みなのね! わかったわ! ジンちゃんの為なら特別に着て、あ・げ・る」
「やめ!? 離せェェェェエエ!! クリス、テメェ!! 覚えたらヨォォォオオ!!」
有無を言わさずアルスに連れて行かれるジンは、そんな言葉を残して反魔王派の中に消えていった。
あばよ……友よ。
はぁ……しかし、マジでこの世界なんなんだよ。
特に力を持っている者程、それに応じて変態率と変態度が増してるんだけど……。
ん? その理論だと魔王を超えた力を手に入れた今の俺が、魔族で一番の変態になる……のか?
いやいやいや!! 今の無しでッ!! 俺はいたってノーマルですッ!! 別にお仕置きされたい願望なんて……。
いや、ルカなら……あり、か?
「魔王様!! 大変です!!」
ビクッ!!
あまりの直視したくない現実に現実逃避したが、更に自分で深みにハマると言う、冷静に考えれば自分でもアホだと思う事を脳内でやっていると、現実に戻すように必死の形相でボーンシティを守護している筈の衛兵が俺の元へ駆けてきた。
「ボーンシティに多数の賊が侵入し、ルカレット様及び、多数の重鎮が襲撃されたようです!!」
「なっ!?」
その言葉に、ダッチの炎によって燃え尽きた男の言葉を思い出す。
『クッ……油断した……どうやらこの体はもうダメなようだな……だがまぁ、魔王の暗殺には失敗したが、鬼の方はもう助からない……それに他に手も打ってある……』
やられた!! あの男の言っていた事はこの事だったか!!
この戦いで、俺の分体は全て戦場や連絡用にこちらに回している。
そうでもしないと、事前の情報ではかなり厳しい戦いになると予想されたからだ。
その為、ボーンシティの守りは戦闘に参加させなかったジンの元部下である、人族の兵士たちと普通の骸骨兵に任せてある。
腕は立つが、それはあくまでも一般人と比べての話。
兵士たちにボーンシティの守護を依頼したのは、敵の襲撃を想定してと言うより、住民の不安を和らげるのが目的なのだ。
本来ならボーンシティに張られた強力な結果があるので、それで十分な足止めが出来、結界に攻撃を加えれば俺たちに伝わるようになっているので、結界が壊れるまでに援護に入れる筈……だった。
それが何の知らせもなく、既に結界内に侵入され、その上襲撃を受けていると言うではないか。
結界は、登録されていない魔力の持ち主を弾く……。
つまり、魔力を持たない者はその対象にならない。
本来生きている生物は全て大小はあれど魔力を持っているものだ。
しかし……もし、ダッチによって燃え尽きた男が魔力を一切漏れ出ていなかったのが、魔核に魔力を有して居なかったとしたら……。
更にそんな特殊な人物が他にも居たとしたら……。
それなら、結界に干渉される事なくボーンシティに侵入する事が可能だろう。
男が死んだ今ではその可能性を立証する事は出来ないが、今はそれどころではない!
どんな方法であれ、今まさにルカの身に危険が降り注いでいるのだ!
焦る気持ちにされるがまま、体に身体強化を最大まで施し、ボーンシティへと走り出す。
「ルカ……みんな……どうか……無事でいてくれ!!」
言いようのない不安を振り払うように、そんな儚い願いを呟くのだった……。




