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ボーンライフ  作者: ユキ
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託された願い

 突然現れた人族側の手先の男に、俺を庇った事で胸を刺されたダッチ。


 進化して魔力を見えるようになった事で、キリ・キリマイのような実力者でも直前で攻撃に気付く事が出来るし、ビックリしながらもグラスが防ぎに入るのを確認する位の余裕はあったのだが……魔力の漏れが一切ないコイツの接近には全く気付く事が出来なかった。



 クソッ! リンに警戒しろと言っておいて俺が警戒を解くなんて!


 自分を攻める俺を他所に、暗殺に失敗した男は、その原因となったダッチに怒りの矛先を向ける。



「魔王を倒すどころか、その魔王の命を助けるなんて……本当に役に立たない木偶の坊だな!!」


「グハッ!?」


 そう怒鳴りながらダッチの胸に刺した短剣を引き抜き、もう一度突き刺す。


 ダッチの上に跨るその姿は、側から見たら大人と子供程の差があり簡単に抵抗出来そうなものだが、魔力を見えるこの目だからこそわかる。


 あの一撃はダッチの魔核に確実に当て、それでいて壊すのではなく、わざと表面を傷付けて苦しむようにしているのだ。


 あの苦しみは、進化の為に魔核を限界以上に酷使した時と同じ程の苦しみを感じている筈……。



 思い通りに動かない……それどころか暗殺の邪魔までしたダッチに、最大の苦痛と苦しみを与える為の行為……。



 如何にダッチの体が強靭だとしても、魔を司る者の命である魔核を傷付けられる痛みと苦しみは、抵抗するどころか、精神が耐えられるものではない。



 そう判断した俺は、すぐさま助けに入ろうとするが、いち早くその動きに気付いた男は、鋭い視線をこちらに向け、俺の動きを牽制した。


「……一歩でも動けばコイツを殺す」


 そう言って手に持つ短剣に力を入れる素振りを見せる。



「クッ……」


「ふふ……あははは!! マジかコイツ! 敵だった奴の命を心配して手を出せないとか、聞いてはいたが魔王のくせにマジもんのお人好しじゃねぇか! こいつは傑作だ!」


 どこで聞いた情報かは知らないが、半信半疑で行った行為で本当に動けなくなる俺を見て、その魔王らしからぬ行動があまりにも滑稽で、思わずフードが取れるのもお構いなしに笑い出した男。


 そうしてフードが取れ現れたそこには、黒髪のどこでも居そうな平凡な顔の男の顔があった。



 だが、その姿は異様だった。


 声や動きは笑っているのに、顔は一切変化のない無表情と言う、まるで仮面でも付けているような状態だったのだ。


 もしかして、本当に仮面なのか?


 いや、だが、それにしてはリアル過ぎる……。


 その姿に思考を巡らせていると、一通り笑って気が済んだ男が再び喋り出した。



「敵の身を心配して攻撃を躊躇する魔王に、娘の身を案じて言いなりになる鬼……お前らは魔王や魔族として失格だな!」


 それは俺たちを否定する言葉だった。



 今の状況は、確かに男の言う通り魔族からしたら滑稽で魔王失格なのかもしれない……。


 それでも、ダッチとの戦いの中で、俺たちは確かに分かり合う事が出来た。



 ダッチは敵だったが、悪ではない。


 娘を想い、仲間を大切にする……自分よりも他人を大切に出来る、むしろ善人と呼べる人だ。



 それは味方だけでなく、敵であった俺でさえその身を犠牲にして助ける程に……。



 更にはその行動や考えには尊敬すべき所が多くあった。


 そんな相手をみすみす見殺しにするなど……周りが許しても俺自身が許す事は出来ない!



 それが俺であり……。



 俺の思う上に立つ者の姿だからだ!



「……だからなんだ。例えそれが魔王失格なのだろうと……俺は、俺の思う魔王をするだけだ!!」


「ふん、その結果全てを失う事になってもか?」


 決意のこもった俺の答えに、男は鼻で笑ってダッチの胸に刺す短剣に軽く力を入れた。



「グフゥッ!?」


「この通り、お前は目の前の命さえ守れない……そして他の大切な者達も」


 ダッチ程の力を持つ魔族の皮膚を容易に斬り裂き突き刺す短剣……男の持つ短剣は相当な業物のようだ。


 これなら、男の言う通り瞬時に魔核を壊しダッチの命を奪う事も容易だろう。



 助けるどころか下手に近付く事も出来ない……。



 魔王としての力を手に入れても、目の前の命を救う手立てすら俺にはないのだ……。



 自分の無力さに絶望しそうになる。




 ……だが、今はそんな事を考えている場合ではない!



 今の自分に助ける手立てがないのなら……新しい方法を考えるしかないのだから!



 だけど、どうすれば……。



 気付かれないようにスキルで極小の針を作り出し、奴の目に打ち出すか?



 いや、今の俺の技術で瞬時に作れるのは卓球ボール程度が関の山。


 気付かれない程極小の針など作れる技術も無いし、出来ても数十分単位はかかる……。



 なら、いっその事この場を乗り切る新しい魔法を、一から作り出すか?



 魔法はイメージだ。


 強いイメージさえ出来れば、可能だろう。



 だが、今の状況でどんな魔法を作ればいい?



 先程の針を魔法で作り出す?



 いや、使い慣れたスキルでも難しいのに、初めて作る魔法でそんな細かな物の正確なイメージなど不可能だ!



 クソッ! どうすれば……。



「舐めるなぁ!!」


 ボウッ!!


「チッ……」


 解決策を見出せずにいるままこばめいていると、それまで痛みに苦しみ虫の息だったダッチが、再びその身に『炎鎧』を纏い、炎が短剣を伝い男に攻撃を仕掛けた。



 咄嗟に身を引き離れる男。


 だが、既にその身は『炎鎧』の炎に包まれ、高火力によりみるみる内に焼かれていく。



「クッ……油断した……どうやら()()()()もうダメなようだな……だがまぁ、魔王の暗殺には失敗したが、鬼の方はもう助からない……それに他に手も打ってある……一先ずは教皇様もお許し頂けるだろう」


 教皇……そうか、黒幕はグリル教の教皇だったか。



「魔王クリス……いずれまたお前の命を取りにくる……それまでせいぜい……恐怖と絶望に包まれて……過ごすが、良い」


 『炎鎧』により体が燃えているのに苦しむそぶりすら見せずに、歪な光を発する目がこちらをしっかり見たまま、最後にそんな意味深な言葉を残し、燃え崩れる男。


 完全に体が燃え尽き、その身を焦がす炎が消え去る事で、ようやく言葉を発する事はなくなり、完全に沈黙した。



 何だったんだアイツは……それにまるでまだ生きているような口ぶり……。


「ゴホッゴホッ……」


「ッ!? 大丈夫か!?」



 燃え尽きた不気味な男の言葉を考えていると、咳き込む音で振り返る。


 そこには先程発動した『炎鎧』は消え去り、弱々しく地面に倒れるダッチの姿があった。



 急いでダッチの元へ向かえば、仰向けに倒れ、口から血を吐く姿があった。


 先程男が離れ際に、胸に刺していた短剣を魔核へ深く突き刺したのだ。



「ゴホッ……魔王様……ヤツは?」


「だ、大丈夫だ。アナタの炎で原型もとどめずに、死んだ」


 最早体を動かす事すら難しいのだろう、敵の生死を確認するダッチに男の最後を説明する。



「そうですか……魔王様、反乱を起こした身でこんな事を言うのは図々しのですが……魔王様を真の魔王と見込んでお願いします。どうか、オレの代わりに娘を……ノルビを奴等から救い出してくれませんか……」


 まるで自分はもうダメだと言わんばかりの言葉……本来なら叱咤と励ましの言葉でも送っている所だが……俺の目にはダッチに突き刺さる短剣が魔核に致命的な損傷を与え、漏れ出す魔力と共に徐々に崩れ去って行くのが見えた。



 俺の心の中を絶望と無力感が支配する。



 俺が何も出来なかったから……。



 これでは例えグラスでも手の施しようがない……。



 最早ダッチの死は時間の問題だ。



「……わかった。娘の事は、魔王であるこの俺に全て任せておけ」


「助かり……ます」


 俺の言葉に安心しきった表情になるダッチ。


 短い……しかも敵同士としての付き合いでしかない俺たちだが、戦いの中でお互いの強さを認め合い、分かり合えたからこその表情なのだろう。


 しかし、俺はアナタを救う事が出来なかった……。



「……魔王様……最後にどうか、これを……受け取って下さい……」


 そう言って伸ばした手は、頭のツノへと伸び、たいした抵抗もなくそのツノを折った。



「オレたち鬼族にとって……ツノは、力の源……どうかこれを……魔王様のお力に……」


 ダッチを心配させないよう何とか平常心を装って、ダッチの手へと自らの手を伸ばす。


 ダッチはその手に握るツノを差し出した俺の手へと落とした。



 俺の手に落ちたツノは、重さを感じる事もなく、溶けるように俺の手へと吸い込まれていく。


 その瞬間、進化して未だ持て余す程のパワーを感じていたこの体に更なる力が溢れ出した。



 魔王の枠を超え、更なる高みへと至った感覚……。



「そしてもう一本は……娘の、ノルビに……」


 溢れ出す力に酔いしれそうになる俺に、いつの間にかもう一本のツノも折ったダッチの手が伸びる。



 そうだ……今は新たな力の事を考えている時じゃない。


 改めて目の前のダッチと向き合い、そのツノを両手で受け取る。



 不思議な事に、先程と違い今度はそのツノを受け取っても俺の腕に吸い込まれる事はなかった。



 ツノを受け取った俺は、一緒にダッチの想いを受け取ったのだと感じ、深く頷いた。


 それに安心したダッチはニッコリと微笑むと、最後に振り絞るように言葉を紡いだ。



「どうか……ノルビを……お願い……しま……す……」


 その言葉を残して目から正気を失うダッチ。


 見ればダッチの魔核は完全に崩れ去り、魔力も一切感じられなくなっていた。




 開いたままの瞼を閉じさせる。



 最初から最後まで、ただ真っ直ぐに自らの想いを貫いた男……。


 彼のその行いを、俺は尊敬する。



 そっと俯き、心の中でダッチへ祈りを捧げる。



 アナタは俺の命の恩人だ……その恩に報いる為にも、娘の事は俺が絶対に助け出すからな。


 ……だから、安心して天国に行ってくれ。



 最後の言葉を送った俺は巨骨兵にダッチを丁重に持たせ、戦いの終わったみんなの元へと歩き出す。



 その強く握った拳に自らの無力さを抱きながら。



 こうして魔族でも最強の一角である鬼族の長、炎神ダッチとの戦いは、ダッチの死と言う結果で終わったのだった。

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