進化した魔剣クレット
「……はっ?」
これまで殆ど表情の変わらなかったダッチも、目の前で突然自分の最大の攻撃が跡形も無く消された事で、目を見開き固まった。
そのチャンスを見逃すはずもなく、巨大を生かして数歩で距離を詰めると、振り抜いた状態だったクレットの刃を返し、下段から地面を抉りながらクレットを振り抜く。
直前まで呆けていた為、これで決まるかに思えた攻撃だったが、流石長年最強の一角としてその名が魔族領で知れ渡っていただけあり、すんでの所で我に戻ったダッチは、身を翻してその攻撃を躱した。
しかし、その身に纏う炎鎧は僅かにクレットによって斬られた事によりその姿を消し去る。
「ハァハァ……俺のスキルで生み出した炎柱どころか、本体である『炎鎧』まで消し去るとは……一体何なんだその剣は!?」
俺から離れたダッチは、焦った表情で異常な事象を起こしたクレットについて問いただす。
本来なら答える必要はないが、ダッチのこれまでの行動に好感を抱いていた俺は、敬意を表し答える事にした。
「この剣は魔剣クレット……俺の愛剣で体の一部、そして……ルカの俺への愛の結晶だ!! ……ゴホン、失礼。その能力は、斬った対象の魔素を吸う事が出来る」
「ハッ!? 魔素だと!? 俺の『炎鎧』は魔法ではなくスキルで作ったモノだ!! それが何故魔素を吸われて消えると言うのだ!?」
俺の言葉に納得が行かないダッチはそれまでの強者としての余裕の態度はどこへやら、少し怒り気味に早口で反論してきた。
まぁ、そう思うのもしょうがない……俺だって進化した事で頭に直接理解させられたから何となくわかるだけで、説明しろと言われると難しい。
それだけこの剣の能力はこれまでの常識を覆えす異常なモノなのだ。
「……スキルと魔法はその原理から別物に思えるが、実はその力の元となるモノは一緒だ……すなわち、それこそが魔素。つまり……俺のクレットは魔法だろうとスキルだろうと関係なく吸い、消滅させる事が出来るって事だ」
最後は小難しい理論の説明は諦め、結果だけ強調して答える。
これで誤魔化せたかな?
少し不安になったので、ついでにダメ押しのこの情報を……。
「そしてもう一つ……」
俺は離れたダッチに向かい、クレットを再び振りかぶり……そして振り抜いた。
その瞬間、斬撃に合わせて炎が発生し、地面を溶かしながらダッチへと飛んで行く。
「なっ!? 炎鎧ッ!! グッ……グハァァアア!?」
直前で『炎鎧』を発動して俺の炎の斬撃を塞ごうとしたダッチだったが、俺の放った炎の斬撃の正体を瞬時に見抜いた事で衝撃を受け、反応が遅れて押し負け、その身に攻撃をモロに受けてしまった。
「ハァハァ……この炎の斬撃は……グッ! ハァハァ……俺の『炎鎧』」
俺の放った炎が体を焼かれる中、再び『炎鎧』を発動する事で内から炎を打ち消すダッチ。
しかしそれで精一杯だったようで、『炎鎧』は消え、その体の大怪我で思わず膝をついて荒い息を繰り返す。
能力を説明する為に放った攻撃だったのに、思いの外、大ダメージになってしまった……。
とりあえず平常を装っておこう。
「……そう、俺のクレットは斬った相手の魔素を吸い……そして、このとおり吸ったものを自由に吐き出し、使用する事も出来る!」
「……」
その事実に驚き言葉も出ない様子のダッチ。
二つの意味で何とか誤魔化せたかな?
「ふふふ……わはははは!!」
全身ボロボロのダッチは突然大声で笑い出した。
やっぱり誤魔化しきれなかったか!?
そのまましばらく笑い続けたダッチだったが、ある程度してから落ち着いたのか、ようやくその口を開いた。
「はぁはぁ……いや、済まない、あまりの事に逆に笑えてきてな……しかし、流石ミュートの認めた新魔王だ、まさかここまでとは」
ふぅ……何とか誤魔化し切れたようだ。
しかし、褒めてもらえるのはありがたいが、ダッチと互角以上の戦いが出来ているのは主に魔剣クレットのチートじみた能力のお陰なんだけどね。
マジな話、クレットが無かったら、防御しても骨は溶かされ、攻撃してもたいしたダメージもなく手詰まりで、詰んでいたのは俺の方だった。
つまりは……
ルカは俺の勝利の女神と言う事ですね!!
「認めよう……このままやってもオレはお前……いや、魔王様には勝てない……オレの負けだ」
「へ……?」
随分アッサリ負けを認めるダッチに拍子抜けした俺は、思わず間抜けな声と共に固まってしまった。
「何を呆けている? 勝てないとわかっている相手に戦いを挑むなど愚者のやる事。軍をまとめる将なら、引き際をわきまえているものだろう?」
だって最後の攻撃は狙った訳じゃないし、ねぇ?
それに……。
「しかし……この戦いには娘の命がかかっている筈……」
「……確かにそうだ……しかし……だからこそ、オレの私的な事にここまで付き合ってくれている部下たちを、これ以上無意味な戦いに付き合わせる訳にはいかないのだ……。なので、今も戦っている部下達にはオレから降伏するよう話をつけよう」
成程……鬼族の長として、守るべき者は娘だけてはないと言うことか……。
「わかった……降伏を受け入れよう。今回反乱を起こした者達の処遇もなるべく穏便に済ますと約束する」
「助かる……」
こうして総大将同士の決闘は、何とも呆気なく方が付いたのだった。
だから、戦いはここだけではない。
「それではそちらの軍の武装破棄を命じて……」
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
「「!?」」
その時、どこからか轟音と共に凄まじい魔力を感じた。
この魔力量、誰かが戦場ごと破壊する特大魔法を使おうとしているのか!?
焦って魔力の出所を探してみれば、案の定それは両軍が戦っている戦場の方だった。
しかし、どうも思っていたのと様子が違う。
そこには戦場を囲うように、そびえ立つ巨大な壁が突如迫り上がり出現していた。
更に間髪入れず上空に、先程俺が作り出した超特大のウォーターボールが豆粒に見える程巨大な、街がスッポリ余裕で収まるレベルの水の塊が出現し、そのまま壁の中へと落下していったのだ。
ズッゴゴゴゴゴゴゴゴォォオオ………バリバリ!!
壁に囲まれた巨大な空間に大量の水が落下した事で、途端に壁の内側は波打つ巨大なダムのようになる。
外から見ているから圧巻のスケールに驚くだけで済んでいるが……中にいた兵士たちは悲惨な目にあっているだろう。
周りの逃げ場を塞がれ、唯一の脱出口である上空からはダム程はある大量の水が降り注ぎ、濁流となり兵士たちを飲み込み溺れさせ、ダメ押しとばかりに最後に雷が落ちて感電させる……。
最後の雷は内側から発生したように見えたが、何にせよ中の者はたまったもんじゃない。
部下たちの安否の確認の為、今まで最低限にしていた分体との通信を復活させ確認したが、どうやらウチの軍は分体たち骸骨兵と、一部のアホ以外は命令で戦場から下がったので無事だったようだ。
分体の方も水の中だろうが息をしないから平気だし、最後の雷も水の中を伝って飛散したので魔核にはたいしたダメージもなく問題なかったり
そして一部のアホたち……下がるように言われたのにライブに夢中で気付かなかったトゥライトファンとジンたちなのだが……アカリたんがいち早く気付いてスキルで全員強化し、ヒカルのゴーレムで引き上げたから髪がチリチリになる程度でたいしたダメージは無かったようだ。
とりあえず一安心だな。
しかし敵の軍は……。
敵を殺す為の特大魔法で無かった事は良かったが、敵の兵士たちに同情を禁じ得ない。
そしてその責任も……。
これまでの情報から察するに、この常軌を逸した魔法を行使したのも、それを命令した人物も我が魔王軍と言うことになるのだから。
脳裏にいとも簡単にボーンシティを作り上げた十九人のエルフの魔術師たちと、いつも自虐的でアレだがいざとなったら頼りになる参謀の姿が思い浮かぶ。
「なんだ……あれは……あんな規模の魔法の行使など……有り得るのか……」
すみません、ウチの魔術師たちなら可能です。
「ははは……これは部下たちに降伏を勧める必要も無くなったな……完敗だ。魔王クリス様……アナタのお力は良く理解した……その臣下の方々のお力も。……最早オレら反魔王派が魔王様に反乱する理由は無い。なので……出来れば、あの中に捕えられている部下達の命だけは、助けて頂けないだろうか?」
最後はお伺いをたてるように恐る恐ると言った感じでお願いしてくるダッチ。
いや、敵を無力化しろとは言ったけど、あそこまでやれとは言ってないし想像出来ないからね?
何にしても降伏している相手にこんな上から目線で答えるのもあれなので、スキルで巨骨兵から分離した俺はダッチの目の前に降り立ち答えた。
「心配せずとも、反魔王派の兵士たちは我が骸骨兵たちが現在救助に当たっている。……むしろ、穏便に済ますと言った直後にこの対応……タイミングが悪かったとは言え申し訳ない事をした」
「いやいやそんな! 反乱を起こしたのはこちらですので! ……魔王様の寛大な対応、誠にありがとうございます」
初めの態度はどこへやら、部下が捕まって以降恐縮しっぱなしのダッチ。
こっちが素なのか……俺を恐れられているのか……。
どっちもかな?
どちらにせよ、人の良さは隠し得ない。
会った時からそうだが、俺の中のダッチへの好感度が上がっていく。
どっかの駄犬とは大違いだな。
「そろそろ半魔王派の救助も終わるようだし、俺たちも戻ろうか」
そんな事を考えている間に、分体の通信で救助が完了しつつあると知った俺はそう提案する。
俺の提案に頷くダッチと共に、地響きを上げて地面へと戻りつつある巨大な壁へと歩き出しながら、これからの事を考える。
既に他の戦いも終わったようなので、これでようやくこの戦いも全て終わった訳だ!
まだまだ戦後処理が残っているけど、そんな事はとっとと終わらして、早くルカの料理が食べた……「魔王様危ないッ!!」
「ッ!?」
戦いが終わり安心したその瞬間、大声で危険を知らせるダッチの声と共に突き飛ばされた俺。
すぐに受け身をとって立ち上がると俺がそれまで立っていた場所を見る。
するとそこには……
突然現れた例の人族側の手先の男が、倒れたダッチの胸に短剣を突き刺している姿があった。




