炎神ダッチ
ん? 何だろ……一瞬背筋がゾワっとする感覚が襲った気がしたが……。
いや、今はそれよりも目の前の相手だ!
間違いなく今まで戦った中でも最強の一人である男……。
鬼族の長ダッチ。
あっ、勇者とか言う次元の違うキチガイは別ね。
アレは、生物として最早可笑しいから。
まさにチートですわ。
進化して更に高みに上がった事で理解出来る規格外の力……。
ほんと良くグラスはあんなの相手してたよ。
俺なんてアイツの気まぐれと進化と言う幸運で生きながらえただけだもん。
あれ? もしかしてグラスって想像しているより強いんじゃ……。
はは! そんな訳ないか!
そんな規格外の化け物がそこら辺に居てたまるかってんだ。
しかもそれが真態とか……神態の勇者だけでもこの世に絶望しそうなのに、二人揃ったら魔族も人族も関係無しに存続の危機だろ。
と、くだらないようだが本気で人類の危機を考えている間に、俺たちは戦場から大分離れて周りに誰もいない場所まで来ていた。
先を歩いていたダッチがその歩みを止めこちらに振り返る。
面と向かって対峙する事で、今まで無秩序に放出されていたダッチの魔力の一部が俺へと向かう。
それだけで、ただの魔族なら膝をついていただろう。
しかし、今の俺にはそんな事で怯みはしない。
そこで今まで無意識に抑えていた魔力を解き放つ。
それはダッチにも劣らない巨大な魔力となり、お互いの漏れ出す魔力が両者の間でぶつかり合い、せめぎ合う。
魔力量は、互角と言った所か……。
ならば、戦闘の行方はお互いの戦闘技術次第。
グラスとの修行でこの体の扱い方にも慣れたし、あとは自分を信じて全力で挑むまでだ!
魔王としての存在をかけた戦いが今、始まろうとしている……。
「戦う前に、何か言い残す事はないか?」
と、いつでも戦えるよう身構えていると、ダッチの方から思いもよらない言葉をかけられた。
魔力が見えないとは言え、両者これだけ強大な魔力を放出していれば俺の強さを肌で感じている筈。
なのに、わざわざ戦う相手に遺言を聞いてくるとは……強者としての余裕なのだろう。
まぁ、先程と違い今回は周りに邪魔者もいない訳だし、せっかくだからその余裕を利用させてもらい、気になっていた事を聞いてみよう。
「アナタはどうして反乱を起こしたんだ?」
「……それはランドを魔王にする為だ」
俺の言葉が遺言ではなく質問だった事で少し考えこむが、律儀に答えてくれるダッチ。
でも、アナタの考えはそうじゃないよな?
「それは他の奴の意見だろう? 俺が聞いているのはダッチ……アナタの考えだ」
「……」
俺の言葉に目を閉じ、黙り込むダッチ。
やはり、答えてくれないか……。
しかし、答えはあまり期待していなかったが、しばらくそうした後目を開けたダッチは、おもむろにその口を開いて答えてくれた。
「……娘を、助ける為だ」
「娘を助ける? ……もしかして誰かに攫われたのか?」
「あぁ……オレの娘は今、グリル教に捕らえられている」
まさかと思って聞いてみれば正解だったようだ、
しかし、グリル教……と言う事は。
「……人族か」
「そうだ……奴らは娘を返す代わりに、オレに骸骨の魔王……お前を倒すよう要求してきた」
娘を人質に同じ魔族同士で戦わせるなんて……相変わらず人族のやり口は汚い……。
「そうか……なら、先程出しゃばってきたフードの男は、人族の手先か?」
「その通りだ……だからお前たちには悪いが、俺はお前をここで倒さなければならない」
娘の命がかかっているんだ……敵の監視があるならそうせざるを得ないな……。
「そう言う事なら仕方ないな……だが、俺も守るべき者達がいる。だから気の毒には思うが、負けてやる訳にはいかないな」
俺の脳裏にはルカや仲間たち、ボーンシティで俺を慕う沢山の住民たちが思い浮かぶ。
ダッチが父親として覚悟を持ってここにいるように、俺も魔王として覚悟を持ってここに立っているのだ。
「あぁ……本気で戦い、それで負けたのなら、娘も納得してくれるだろう」
それを分かっているからこそ、ダッチは俺の言葉を攻める事はせず、ただ受け入れる。
この男は……本当に真っ直ぐだ……。
そんなこの男の弱みを握り、脅す人族に、心の底から湧き上がる怒りを感じる。
だが、今は戦いに集中するしかない……。
お互い状況は違うが、大切な者を守る為の戦いか……。
ダッチの理由に思う所はあるが……俺は俺の大切な者達を守る為、全力で行かせてもらう!
「……本気で行く!!」
ニヤリ。
「こい……骸骨の魔王よ」
その言葉に答えるようにスキルを発動し、連れて来た骸骨兵たちを瞬時に合体させ俺も自らその中に入る。
ワッフル公国でこの技を使って以降、スキルの発動を繰り返し練習し、グラスとの修行も相まってスピードは上がり、瞬時に合体出来るようになったのだ。
そうして出来上がったのは、40mを超える巨大な元の俺の体を模した巨骨兵。
大きさこそ力。
これが今の俺が出せる全力だ!!
対するダッチは、その身に鎧のように離れていても焦げるような暑さを感じる灼熱の炎を纏う。
……熱くないのだろうか?
俺の心配など他所にその熱量はどんとん上がり、炎の発する光りでまるで電球のように明るく光る。
骸骨兵のこの目じゃなかったらまともに見れないのではないだろうか。
ダッチの準備が出来た事を確認した俺は、その巨大な拳を振り上げ、ダッチに向かい振り下ろす。
轟音を立ててダッチへと向かう拳。
ダッチはその拳に怯む事なく、自らも徐に拳を引き構えると、そのまま突き出した。
突き出した拳より放出される凄まじい勢いの巨大な火柱。
それは振り下ろされる俺の拳とぶつかり勢いを止め、せめぎ合う。
そのまましばらく押し合い均衡を保っていたが、俺の中では焦りが生じていた。
暑さを感じない為痛みはないが、その高温で俺の拳が溶けているのを感じたからだ。
拳を振り下ろす事を諦めた俺は、腕を引きつつ迫る炎柱を避け、そのままの勢いで体を回転させダッチに向かい蹴りつける。
ドンッ!!
「なっ!?」
40メートルの巨大から繰り出した巨大な足による渾身の蹴り……。
あろう事かダッチはその蹴りを、片手で受け止めて見せた。
「ふんっ!!」
俺の足を掴んだままの状態で気合いと共に体に纏う炎の鎧が一際輝くと、ダッチの掴んでいた場所から爆炎が上がり、俺の体はその勢いで吹き飛ばされる。
更にダッチの足元が輝くと爆炎が吹き出し、爆炎を推進力に凄まじい速度で吹き飛ばされる俺へと迫る。
やられてばかりでいられるか!
吹き飛ばされながらも手から魔法で超特大のウォーターボールを作り出した俺は、瞬時に迫るダッチへと撃ち放つ。
ドンッ!!!
凄まじい速度で迫るウォーターボールに自らも向かって行く形になってしまった為、避けきれなかったダッチは、モロにウォーターボールに直撃した。
そして俺の大量の水を含む水弾とダッチの纏う高温の炎がぶつかる事で発生した水蒸気は、一気に堆積を増やす事で爆発に似た現象を起こす。
所謂、『水蒸気爆発』と言う奴だ。
辺りに立ちこめる水蒸気で視界が妨げられる。
地面に着地した俺は、ダッチが水蒸気の中から現れない事を確認してから、先程やられた拳と足を見る。
ダッチにやられた拳は中程まで溶け、足は足首から先が無くなり、溶かされた部分はドロドロのガラスのようになっていた。
骨を溶かす程の高温の炎を操るか……なかなか厄介だな。
だが……。
スキルを発動する事で冷えて固まり出した拳は、一瞬で元通りにし、足は他から骨を補う事で再生する。
溶けた所でこれだけ骨はあるんだ! 元に戻せば良いだけだ。
ボウッ!!!
その時、水蒸気爆発により辺りを煽っていた水蒸気が爆発にも似た音と共に吹き飛ぶと、その中央には無傷のダッチが先程よりもその身に纏う炎をより巨大に、そしてより高温にした状態で立っていた。
「なかなかやるな……今のは流石に驚いた」
アレだけの爆発を驚いたで済ますアナタの頑丈さにこっちは驚いてるけどね。
「しかも、オレの炎を受けて無傷……いや治したのか……どちらにしても、流石魔王。一筋縄では行かない……これはなかなか厄介だな」
「アナタも、流石前魔王ドラミュートと互角の戦いを繰り広げただけはある。あの爆発で無傷とは驚いたぞ」
「なに……俺の『炎鎧』は最強の攻撃力と共に最高の防御力を誇るスキルだからな。あの程度の威力、何ともないさ」
やはりスキルの力か……。
アレだけの高温の炎だ、魔法なら使用者にもダメージがなくては可笑しいからな。
たく……つくづくスキルってのは何でもありだな!
「さて、先程はそちらの攻撃を受けた訳だから、次はこちらから行かせてもらおうか……オレの持てる最高の一撃をな!!」
そう言うと、空手のような構えをとったかと思うと、その拳を俺に向かって突き出したダッチ。
突き出した拳からは先程よりも巨大で……そして馬鹿みたいに高温になった渦を巻く火柱が現れこちらへと向かってきた。
迫る巨大な火柱。
火柱が通った地面はその高温で溶岩のように赤く光り溶けている。
こんなもん、まともに食らったら一瞬で溶解しちまう……。
回復するなら回復出来ないように一瞬で肩を付けるつもりなのだろう……。
単純だが、有効な手段だ。
だが……。
俺は腕を額へと伸ばし、そこに生えているツノを掴み引き抜いた。
現れたのは巨大化した事でそのサイズも巨大になった、俺の愛剣……『魔剣クレット』
とんでもない斬れ味を誇り、その能力は斬った者の魔力を吸う魔剣……。
しかし、それは過去の話。
この愛剣は俺の体の一部だ。
つまり、俺が進化した事でクレットもまた進化し、その能力はより強力なものへと変えた。
進化したクレットを上段に構えた俺。
迫り来る炎柱。
炎柱が目の前まで迫ったタイミングで、構えたクレットを炎柱に向かい振り抜く。
何の抵抗も無かった。
炎だから当たり前かもしれないが、空を斬ったかのように振り抜いたクレット。
そして斬られた炎柱は、目の前で跡形も無く
……消えた。




