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ボーンライフ  作者: ユキ
109/196

両軍退治③

「無事それぞれの相手と相対したようだな。残るは俺とグラスの相手だが……」


「ヒャーーハ!! その首もらったぁ!!」


 キンッ!


「させないよ。君の相手は僕さ」


 突然背後から現れた刺客に斬りつけられるが、すんでの所でグラスがその斬撃を受け止め押し返す。


 間一髪である。


 ギリギリまで気付かなかったのでかなりビックリしたが、何とか無様な醜態を晒さずに耐える事が出来た。


 骸骨だから首を飛ばされようが死なないけどビックリはする。


 お陰で無いはずの心臓がバクバクいってる気さえしている程だ。



「おっと! 残念、もう少しだったのになぁ……まぁ、俺は一瞬で殺すより、ジワジワと時間をかけて相手の苦しむ様を見てから殺す方が好きだから別に良いが」


 この異常な性癖に緑色の肌、そして何より特徴的なカマキリの顔。


 コイツが最後の敵の要注意人物、狂人キリ・キリマイか。


 噂通り、単身誰にも気付かれる事なく敵の本陣まで侵入して大将である俺の首を取るすんでの所まで来るその実力は相当なようだ。


 しかもこれだけ敵に囲まれているのにこの余裕……油断しない方が良いな。


 しかしそれは杞憂に終わる。



「気が合うね。僕も……女性はじっくりと攻める派なんだ! あの最後には我慢できずに自分から求める姿が最高に唆るよね!」


 身内にも気を付けなくちゃいけないヤバい奴がいた!


 てか、グラスのは完全に違う意味だよね?



「ほう……お前もなかなかわかっているじゃないか……面白い。良いだろう、邪魔の入らない場所でじっくり語り合おうか」


「望む所だね」


 噛み合ってないのになんか分かり合っちゃった!? 



 二人はそのままこちらの事などお構いなしに、駆けるように獄森へと向かいその姿が見えなくなる。


 命を狙われた筈なのに放ったらかしにされる俺……。



 ……とりあえずは予定通りグラスが相手する事になったから、気にしないでおこう。



 それよりも俺が気にしなくてはいけない相手は奴だ……。



 前方より巨大な魔力を放ちながら戦場を悠々と歩く大鬼が一人。


 大鬼の歩みは真っ直ぐとこちらへ向かい、大鬼が放つ魔力と言う名の圧力が敵も味方も関係なく怖気づかせ距離が開き、戦場にポッカリと動く空間を作りだしている。



「骸骨の魔王よ、他の者はそれぞれ戦いが始まったようだし、オレたちも向こうでやり合おうではないか」


 敵陣の目の前だと言うのに全く動じることなく、マイペースに戦いの申し込みをしてくる大鬼、ダッチ。


 それだけ自らの力に自信があると言う事か……。


 伊達に前魔王ミュートと互角の戦いを繰り広げただけの事はある。



 そんな相手をこれから俺がする……。



 正直言えば、メッチャ怖いです!


 見た目もアレだし、纏う雰囲気が完全に覇王って感じなんだもん怖いに決まってるじゃん!!


 魔王としての力を手にして間のない俺が相手して良い相手じゃないって本能が告げてるから!



 しかし、ここでこの誘いを断れば俺は敵味方関係なく腰抜けと呼ばれ、魔王としての信頼を失う事になるだろう……。


 それでも自分の命が大事なら断るべきだし断りたい……。



 でも、俺は戦う!!


 まぁ、最初から断るなんて選択肢はないしね!



「その申し入れ、受け入れた。……リン、あとは任せたぞ」


 話を聞いた時から敵が俺よりも上位の存在である事は百も承知の事。


 それでも今は、魔王としてこの命をかけて戦わなくちゃいけない時なんだ!



「ハッ! 骸骨兵ですが、こちらは2000程いれば事足りますので、残りは連れて行って下さい」


「……そうか、遠慮なく連れて行く」


 そんな俺の覚悟を理解してか、リンからそんな提案がされた。



 最初の戦闘で減ったとは言え、まだまだ3500以上はいる反魔王派軍に対してこちらもフウカとコウキが暴れたせいで数を減らし4800程の骸骨兵と仲間達。


 今の戦力なら十分敵を制圧出来るだろう。


 しかし半分以下の2000の骸骨兵でとなれば、個人の武力を差し引き戦力的には五分と言ったところになるだろうか。



 しかし、こちらの目的はこの戦闘で相手を殺さず無力化する事にある。


 そう考えると五分では圧倒的に不利。



 だが、リンがそれでも大丈夫だと言っているのだ。



「いってらっしゃいませ魔王様」


 見送るリンに対して全幅の信頼を寄せる俺は、大丈夫か? など聞く事なく、振り返らずに手だけ上げて答える。


 リンが大丈夫と言っているのだから、俺はその言葉を信じるだけだ。



 歩きながらも目の前を先導するダッチに集中する。



 何よりも今はリンの言葉に甘えてでも、自分の力を全力以上に出せる環境を整えなければこの男に勝つ事を叶わないだろう。



 あの闘技場で初めて会った時の魔王ミュートを思わせる巨大な魔力を放つ、大きな背中のこの男には。



  *****



「始まったか!?」


「今両軍がぶつかった所だ」


 ここは獄森から遠く離れたとある魔族の街。


 そこには魔王演説の時同様、広場に大きなモニターが設置され、魔王軍と反魔王派軍との戦闘が映し出されていた。



「凄いぜあの骸骨兵たち! あの強力な力を持つ種族の蜥蜴人族や豚頭族をいとも簡単に倒していくぞ!」


「嘘よね!? あの硬い鱗や厚い脂肪でまともな攻撃を受け付けない筈のアイツらを素手どころかあんな細い骨の拳で倒すなんて……本当に骸骨兵なの……?」


 そこには魔王クリスの分体である骸骨兵が反魔王派軍の強力な魔族達をいとも簡単に地面に沈める姿が映し出されており、モニターを見る魔族たちの度肝をぬいている。


「おいおい、あっちじゃあの素早いウルフ族の攻撃をヒョイヒョイ避けてくぞ!?」


「誰だよ骸骨兵はノロマで脆く、核を壊されない限り死なない事だけが取り柄の弱い魔物だって言ってた奴は!?」



 今回の反魔王派の反乱を予め知った魔王軍が、魔王軍の強さを国民に周知させる為、前回の魔王演説で魔族領の主要な街や村に設置したモニターを使い、戦いの映像を生中継して見せているのだ。


 つまりここでの魔族たちの反応と全く同じ状況が今まさに、魔族領のいたる所で起きていると言う事。



 そしてその効果は確実に現れていた。



 ただの骸骨兵が魔族でも指折りの強さを誇る種族の魔族たちを蹴散らすその姿を見て、魔王軍の……魔王クリス十六世の骸骨兵たちの力を、理解し始めた。



 それだけではない……。


「「「うわぁ!!」」」


 広場に一際大きな歓声が響く。



「マジかよ!? あのイケすかないウルフ族の族長が魔王様のべっぴんな奥方様に殴り飛ばされたぞ! はは、ざまーみろだな!」


「拳を振り抜いたあのお姿……そしてあの凛々しいお顔……何てカッコいいのかしら」


 魔王の妻であるルカレットが反魔王派の総大将であるウルフ族のランドを殴り飛ばした姿は、一部始終……それどころかスローモーションで何度も再生され、その整った容姿もあって人々の心をわしづかみにしたのだ。



「まるで神話に出てくる戦乙女だ……」


「戦乙女様……確かに。魔王様の奥方様は現世に降臨なされた戦乙女様だ! 戦乙女様バンザーイ!!」


「「「戦乙女様バンザーイ!! 魔王様バンザーイ!!」」」


 ここまでルカレットに熱狂的な支持者が増えたのは、ウルフ族があまりにも他の魔族に嫌われていた事も原因だろうが、ウルフ族の族長であるランドを殴り飛ばしたルカのその姿があまりにも凛々しく……そして神々しい程に美しかったからだろう。


 その二つがあいまって一気にルカレット人気が爆上がりし、それに引っ張られるようにルカレットの夫である魔王クリスの人気も上がる。


 この時より魔族達の間でルカレットを戦乙女様と言う愛称が定着したのだった。



 更に……。


「おいおい、あのウルフ族の族長メッチャ怒ってるぞ!」


「ヤバい! 俺らの戦乙女様に殴りかかったぞ!? 誰か止めろ!? うわぁ……あ……あ?」



「……今、凄い見た目のあの人……四天王アルスだっけ? ……思いっきり殴られたわよね? ……何で平然と話してんの?」


 ランドの怒りの一撃を受けて平然としているどころか普通に会話をしている四天王アルスに、映像を見ていた魔族たちは混乱した。



「知らねぇよ……手加減されたとか、じゃないか?」


「なんで敵に手加減するのよ! あっ! もう一発行った! ……え? やっぱり……効いて……ない? そ、それどころかそのまま投げ飛ばしたッ!?」


 アルスの常軌を逸した頑丈さとパワーに魔族たちは度肝を抜かれ……そして恐怖した。



「文字通り……飛んで行ったな……なんだあの化け物は……アイツは本当に……魔族、か?」


「俺、聞いた事があるぞ……四天王の一人であるニューエルフのアルスは、人族だけでなく、魔族や……強力な魔物さえもそのパワーで簡単に蹂躙し()()する化け物だって……」



「「「……」」」


 正確には捕食ではなくもっと恐ろしい事がなされたのだが、それは言わないでおこう。


 しかし、一人の男がもたらしたその情報に、他の者達はみな息を飲み込んだ。



「ま……魔獣……」


 その時、その男の言葉を聞いた一人の少年がそんな単語を呟いた。


「「「ッ!?」」」


「魔獣……アルス……四天王、魔獣アルス!!」


 それはアルスと言う名の化け物が魔族でありながら『魔獣』として魔族領全域に認知された瞬間だった。


 そしてそれはアルスだけではない……。


「何て……何て恐ろしい存在がこの世に存在するんだ……そんな化け物を……魔獣を従える存在である、魔王様って……」



「魔獣の飼い主……」


 そんなアルスを従える、魔王クリス十六世の存在もまた、『魔獣の飼い主』と言う不名誉な異名と共に相対的に恐怖により数段上がって行った。



「「「……」」」



「俺……魔王様に一生着いていく……」


「俺も」「私も!」



 こうして計画とはかなり違う形ではあるが、着々と魔王クリス十六世へ忠誠を誓う魔族が増えていくのだった。

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