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ボーンライフ  作者: ユキ
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両軍対峙

 物音一つしない静けさの支配する獄森を背後に、俺たち魔王軍の目の前には多種多様な魔族の大軍。


 反魔王派の軍、その数およそ4千が今か今かと戦いが始まるのを待ち侘びている。


 数ではこの前の1万の人族軍に劣るが、一人一人が魔族でも強力な力を持つ種族たちだ。


 その分人族と違い我も強く、指揮などまともに聞いてくれない者達ばかりだが、強力な力を持つ事には変わりない。


 突撃命令さえ守ってくれればあとは各々が目の前の敵を蹂躙してくれるのだから、戦略もクソも関係ない。


 戦略など必要とせず、個の力で多を圧倒する……それが魔族本来の戦いだ。


 それも流石に圧倒出来ない程の物量で対抗されれば負けてしまうのだが、今回はそんな強力な力を持つ魔族が4千もいる。


 したがって、数は少なくとも1万の人族軍よりも圧倒的に反魔王派の軍の方が強力なのは疑いようもない事実だろう。



 対してこちらの軍は俺とルカ、ミュートとリンの4人。


 四天王の5人。


 グラスとロザンヌ率いる魔術師たちが20人。


 ニューエルフの里よりアルスの部下が100人。


 ワッフル公国よりアカリたんとヒカルたんの部下改め、お揃いのトゥライトLOVEと書かれた鉢巻とはっぴを着たファンが2百人。


 そしてミルカの四天王入りを知り魔王軍に参加する事になった旧四天王時代の部下であるサキュンバス族の戦士が20人の計347人だ。


 今回の戦いでは相手が強力な魔族と言う事もあり、ボーンシティの人族兵達は出向させずに本来の街の防衛に専念してもらっている。


 仮に人族兵10人がかりで何とか1人の魔族を倒せたとしても、こちらの被害が大きくなり過ぎるからだ。


 何より彼らは魔王の庇護化にある守るべき国民であり、魔王軍ではないから。



 圧倒的な数的不利……。


 しかも相手は前回の人族と違って一体一体が強力な力を持つ魔族たち……。


 だが、こちらには彼らがいる。



 その事を知る魔王軍側は10倍以上の敵を目の前にしても微動だにしない。


 何よりそれぞれが自分たちの対象である四天王たちの力を信じ、また自分たちの力にも自信のある精鋭たちなので当然だろう。


 対して反魔王派の魔族たちもこの数の差を見て馬鹿にしたように笑い、自分たちの勝利を確信している。


 その余裕が命取りだとも知らずに。



 ここで余談だが、ある事実に気付く……。



 ジンって四天王なのに配下の1人もいないんだが……。



 親友の悲しい事実に同情していると、今にも飛び出してきそうな反魔王派の魔族たちの間から、3人の人物が歩出てきた。


 その人物たちを確認すると、悲しいオッサンの事は後回しにして、俺もリンとルカを引き連れ前へと進み出る。



 ルカは慣れない魔力操作であれからしばらく眠り続けたが、目覚めた時には大きな異常もなく、反魔王派が攻めてくるまでの数日間の間に体力も全快したようなので良かった。


 だが、俺のエゴだが元々戦闘には参加させるつもりはなかったので、体調を理由に戦闘には参加しないで欲しいと約束させてある。


 ここにいるのはルカたっての願いで戦闘が始まる直前まで俺の側にいたいとのお願いを聞いたからだ。


 じゃないと私も戦闘に参加すると言って聞かなかったんだもん。



 そうして両軍代表が中央で対面する。



「よう、骸骨兵……どうやら逃げなかったみたいだな」


 真っ先に発言したのはこの騒動を引き起こした敵の総大将……シルバーウルフのランドだ。


 相変わらずの交戦的な態度と、自分が上だと言う自信が滲み出た喋り方だなぁ……正直こう言う奴の相手は面倒だからしたくない。


「……」


「はっ! どうした魔王様! 怖気付いて話も出来ないか!? 見た目は多少変わったみたいだが所詮は骸骨兵だなぁ!」



 俺がめんどくさがっていると、沈黙を怖がっていると勘違いしたランドがこれでもかと調子に乗って煽ってくる。


 これだから嫌なんだ……。



 しかし、ここにアルスやミルカ、ルナーレの3人が居なくて良かった。


 きっと今頃、今の発言で早々に戦闘が勃発してたろうからな。


 現に俺の後ろの方でバキッ! っと大きな音を立てて大木が倒れていったり、何人かの『抑えろ』っと言う叫び声が聞こえて来るんだもん。



 俺は魔族の王である魔王。


 そして今回戦う敵は同じ魔族。


 つまりは俺が守るべき国民だ。


 俺が魔王では納得出来ないと反乱を起こしただけの大事な国民なのだ。


 正直突然こんな骸骨が自分たちの王になったと主張されたら納得出来ない者が出ても仕方がないと思う。


 なので俺たちの今回の目的は反乱を起こした魔族たちを全滅させる事ではなく、俺が自分たちの新たな魔王なのだと認めさせる事にある。


 話し合いをして、和解できるのならそれが一番良いのだ。


 だから、戦闘はあくまでも最後の手段にしたい……。



「ルカよぉ、今なら前回の非礼を土下座して謝れば愛人位にはしてやるぞぉ……だから、いつまでもそんなチンケな骸骨兵なんかを夜の慰め相手にしてないで、俺様と楽しもうぜぇ!」



 コイツ……ぶっ殺すッ!!


 もう話し合いなんて知るか!!


 この調子に乗った鼻っ柱を今すぐぶん殴ってへし折って……。


ドスッ!!


「……ドス?」


 ヒューーーー……ドッゴーーーン!!!


「私の……私のクリスを馬鹿にするなぁぁぁああッ!!!」


「「「……」」」


 俺たちが見守る中、見事な放射線を描いて吹き飛んだランドはそのまま興奮する反魔王派の魔族たちに突撃し、まるでボーリングのピンのように魔族たちを吹き飛ばして行った。


 突然の出来事に一瞬で両軍が静まり返る。


 あぁ……この光景、ワッフル公国の時も見たなぁ……デジャブか?


 先程までランドが立っていた場所を見れば、そこには腕を振り切った状態で怒りを露わに肩で息をするルカの姿。


 どうやらルカに先を越されてしまったようだった。



「ふーっ、ふーっ……あっ! ……ごめんなさいクリス! 犬っころがあまりにもクリスを馬鹿にするから我慢出来なかったの……」


 元々の計画を思い出し慌てて謝るルカ。


 確かに計画に反するが、やっちまったものはしょうがないさ。


 むしろルカがやってなかったら俺がやってたし!



「気にしなくて良いよ。どうせアイツが居たら話し合いにならないだろうし」


 俺の言葉を聞いたらみんなに甘いと言われるだろう。


 でも、しょうがないじゃないか! ルカは何もわるいことはしてないのだから! 


 悪いのは全てあのルカをエロい目で見る変態犬ただ一人!!


 ルカはそんな話し合いの邪魔になる変態犬を排除しただけだ。


 それにこんな事でルカの落ち込む姿なんか見たくないしね。



 交渉役て同席したリンも俺の気持ちがわかっているようで、何も言わずにやれやれと呆れ顔で首を降っている。



「……連れが済まんな」


 その時今まで黙り込んでいたモジャモジャの黒髪の間から2本のツノが生えた赤い皮膚が特徴の男が、殴り飛ばされたランドを気にするでもなく逆に謝罪してきた。



「オレは鬼族が長ダッチ。見た目が変わっているようだが……お前が魔王で間違いないか?」


 敵の最大戦力であるダッチと名乗るこの男……その巨大で鍛え抜かれた肉体はアルスにも引けを取らず、進化して更に大きくなった俺と変わらない大柄な男で、ただ立っているだけで周りを威圧するようなとんでもないオーラを放っている。


 前までならその得体の知れないオーラの正体がわからず、ただ威圧されて終わっていた。


 でも、進化してルカと同じく魔力を見る事が出来る今のここ目ならその正体がわかる。


 ダッチはその魔王にも引けを取らないとんでもない保有魔力の一部が常に体から漏れ出ていて、その漂う魔力が漏れ出た一部の魔力だと言うのに、魔力を見たり感じる事の出来ない者にも圧力として感じさせているのだ。


 流石に魔王時代のミュートと互角の戦闘を繰り広げた化け物なだけはあるな……。


 ただ、ランドと違ってその強さをかさにしない常識人のように感じる。


 どうやら争いを好まない平和主義と言うのは本当なようだ。


 これなら話し合いも可能なんじゃないか?



「その通り……俺が魔王クリス十六世だ」


「……そうか……自ら葬る相手だ。覚えておこう」


 あっ……やっぱり戦うのは決定事項なんですね。



「ダッチさん! どうにか戦いを回避する事は出来ませんか? 我々にとっては反魔王派の方々も大切な国民なのです! ですから……無闇に傷付けるような事はしたくありません! そちらも仲間の命を落とすような事はしたくないでしょう? 平和主義で有名な鬼族の長なら私たちの思いがわかる筈です! 我々も最大限の譲歩をする準備が出来ています! 出来れば、穏便に済ませましょう!」


 それでも我らが参謀は諦めずにその熱い想いでダッチに訴えかける。



「……オレは「それは無理な相談です」……ッ」


 一瞬、リンの言葉に気持ちが揺らいだように見えたダッチだったが、それまで存在感どころか漏れ出る魔力すら感じなかった隣のフードを目元まで深く被った小柄な男に阻まれる。


 魔力は生きていれば多少なりとも常に体から漏れ出るモノ……それなのにコイツからはそれが一切ない。


 ……只者ではないな。



「あなたは……」


「私の事はどうでもいいのです……アナタたちは和議をお望みのようですが、私たち反魔王派が望む事はただ一つ……今の偽物の魔王を打ち倒し、高貴な魔族であるランド様を魔王にする事です」


 えっ……コイツマジで言ってるのか?


 漏れ出る魔力の無い小柄な男の言葉を警戒しながら聞いていたが、思わぬ発言にそんな気持ちと吹っ飛ぶ。



 別に俺が魔王になるのを反対するのはわかるがあのランドを魔王に……?


 てっきりランドが一人で言っている事だと思っていただけに、他の人物から出たその言葉に驚きを隠しえない。


 確かに魔族でも強力な力を持つウルフ族として生まれ、更にその中でもホワイトウルフと言う魔法の効かない特殊な個体ではあるランドだが……中身はアレだぞ?



「そんな事は……」


「アナタたちの意見など関係ありません! それでも反論があるのでしたら、どちらが正しいか魔族らしく……力を持って証明して下さい!!!」


「「「ウオオォォオオ」」」

「「「そうだぁぁああ」」」


 それでも何とか小柄な男にとりつごうとするリンだが、小柄な男がその言葉を打ち消すようにどこか演技でもしているような大袈裟な動きと言葉でアピールし、その言葉にボルテージの上がった反魔王派の魔族たちが呼応する。



「クッ……どうやら、話し合いは無駄なようですね……魔王様、仕方ありませんが、これよりは彼の言う通り力を持って魔王様の存在を認めさせるしかないようです」


「……あぁ、ご苦労だった」


「物分かりがよろしいようで何よりです。……では、次はお互い戦場で相まみえましょう」


 嬉しそうな小柄な男の言葉を最後に、踵を返して自軍へと戻るダッチたち。


 俺たちも思い足を動かし自軍へと戻って行く。



「……すまない」


 その際警戒して強化しておいた俺の耳は、ダッチのそんな小さな呟きを聞き逃さなかった。



 ダッチのこの言葉にあの不気味な小柄な男の存在……なんだがこの戦争、きな臭いな。

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