反魔王派からの書状
「では、反魔王派からの書状を読み上げます」
先程までの不機嫌さは何処へやら、出来る秘書モードのコリアが一枚の紙をその豊満な胸元から取り出し読み上げ始めた。
いや、お約束だろうけど言っておく。
どこから出してんだよッ!!
ちなみにその際横目でアカリたんとヒカルたんに自慢気にチラ見したのを進化して強化された動体視力が見逃さなかった。
アカリたんはともかくヒカルたんは男の子だから自慢にならないんだけどね。
すぐに視線を書状に移したから気付いてないだろうけど、むしろ初々しく顔を赤くしてモジモジしてるよ。
「『我らは此度の新魔王就任を断固として反対する。
栄誉ある我らが魔族の王が魔物風情に務まる訳がないからだ。
ましてや、魔族の下僕である骸骨兵が魔王など以ての外。
よって、正当なる魔族の血筋であるウルフ族が長、ホワイトウルフのランドの名の下に、鬼族の長ダッチと共に、ここに新魔王軍に宣戦布告する。
ウルフ族の長ランド
鬼族の長ダッチ』
だそうです。
同じ書状が各地に配られているのも確認致しました」
「あらあら、犬っコロちゃんが随分調子に乗ってるわね……ホットドックにしてやろうかしら」
「あら、珍しく気が合いますね。ご主人様に対してこの言いよう……万死に値します」
「前からアイツ、自分の分もわきまえずお姉様をものにしようとしてて嫌いだったんだよね……もう殺しちゃおう」
俺の為に怒ってくれるのはありがたいがお三方……笑顔と発言が怖いです。
「どうやら彼らは魔王様をただの骸骨兵と誤解しているようだね」
「ミュートさん。例え誤解だとしても骸骨兵さんたちを下僕などと罵るのは許せません! 私たちの街は骸骨兵さんたちのお陰で回っているのですから!」
「ふ、ふむ……そうであったな。失言だった、すまぬ」
失言に怒りを露わにするコリアに珍しくミュートが恐縮している。
まぁ、それだけコリアやこの街の住民にとって骸骨兵が大事に思われていると言う事なのだから、元骸骨兵としてこんなに嬉しい事はないな。
「皆さんやる気みたいですが……あの鬼族が居るのに本当に戦うんですか?」
「大丈夫だよヒカルたん! アカリたんとヒカルたんはこの俺が守るから!」
「ジンさん……」
キッ!!
見つめ合うジンとヒカルたんに、先程のミュートの失言もあり、再び怒りを露わに見るだけで人を射殺せそうな勢いの睨みを聞かせるコリア。
……関係ないのに見てるこっちが怖いから、これ以上コリアを刺激する発言は止めてくれ。
「ヒカルさん……鬼族の長は進化されてよりお強くなった我らが魔王様が必ず倒してくれるので大丈夫ですよ。……ね、魔王様?」
ちょっ! リン!? その流れで俺に話題をふる!? ……うわッ!? コリアが睨みつけるようにこっち向いたじゃねぇか!
と、とりあえずこれ以上コリアを刺激しないように無難に返しを……。
「あ、あぁ……鬼族の長は俺が倒すから、心配しなくていいぞ」
「……チッ……どいつもこいつもカッコつけて……」
ほらぁぁああ! 何か小さく怨み事言われたじゃないか! こんなん何言ったって同じだもん!
いつもの俺を憧れの眼差しで『魔王様』と見つめてくるコリアよ戻って来てくれぇぇええ!!
「怖がらなくても大丈夫だよ! お姉ちゃんがヒカルの事は絶対守るから!」
何故かこの流れでアカリたんも流れに乗ったァァア!
しかし、そこはアカリたんを守ると宣言していただけあって、ヒカルたんも良しとしなかった。
「ッ!? ちょっと言ってみただけで全然怖くなんかないよ! むしろ僕が鬼族も含めてみんな倒しちゃうんだから!」
アカリたんに対抗する為だろうけど、大層な言葉を言ってのけるヒカルたん。
でも、このメンツの前でそんな事言ったら……。
「あら、それは頼もしいわねぇ。それじゃヒカルくんにランド以外全部任せちゃおうかしら」
「えっ!? あっ、それは……あの……ちょっと……」
案の定、アルスに揚げ足を取られしどろもどろになるヒカルたん。
流石のコリアもその可愛らしい反応にみんなと共に笑っている。
ヒカルたんには悪いが……ナイスだアルス!
「ヒカルのやる気は有難いが、奴らの最強戦力である鬼族の長は魔王である俺が直々に相手をする。反魔王派にはランドを含めてそれ以外にも厄介な連中が賛同しているようなので、四天王にはそいつらの相手をしてもらう」
「厄介な相手?」
すかさず話題を変えると思惑通りミルカが食いついてくれた。
「それは参謀の私から説明します。今回の反魔王派には鬼族の長『炎神ダッチ』やウルフ族の長『瞬足ランド』以外に厄介な相手として、鬼族の『風神フウカ』と『雷神コウキ』、蟷螂族の『狂人キリ・キリマイ』が上げられます。その他にも強力な力を持つ種族も多数確認されており、苦戦を強いられるでしょう」
「風神フウカに雷神コウキ……炎神ダッチと共にニューエルフの里でもその名の知れた有名な鬼族の英傑ね」
「うん、ドワーフの国でも有名だったよ……でも、狂人キリ・キリマイって人は聞いた事ないわ」
魔族なら誰もが知る鬼族の英傑三人。
その三人が今回の相手と知り、アカリたんだけでなくあのアルスも息を呑む。
そしてそんな中に名を連ねるキリ・キリマイと言う謎の存在に警戒心を露わにした。
「彼は最近魔族領で行われたとある裏武術大会で圧倒的な実力で優勝し、その功績で当時の蟷螂族の長に挑む権利を得て倒した事で蟷螂族の長となったニューフェイスですね。情報によるとかなり残虐な性格で、裏武術大会の対戦相手も前族長も笑いながら最初は全身を薄皮が斬れる程度に……最後は命乞いをする相手の指先から徐々に全身切り刻んで殺したそうです」
その通り名に恥じぬマジもんの狂人だった……。
てか、そんな残虐が許される裏武術大会とか怖すぎだろう。
「そ、そんな人の相手をしなくちゃいけないんですか……?」
ヒカルたんもキリ・キリマイの情報を聞き顔面蒼白で明らかに怯えている。
しかし……。
「向こうの幹部だから、当然こちらも幹部が相手をするのは同然ね。じゃないとこちらの戦力を無駄に失う事になってしまうもの」
「……そっか……僕がやらないと……みんなが殺されちゃうんだね……」
アルスの言葉に上に立つ者としての責務に気付き、自分の言葉を一言一言飲み込むように呟くヒカルたん。
その表情は先程までのオドオドしたものから人族軍との戦い前に見せた決意に満ちた表情へと変わった。
流石あの人族軍との戦いで、みんなを守る為に元四天王であり限界を超えて強化されたサイクロプスのサリーを命懸けで倒しただけある。
仲間を守る為だとわかった途端にこれだ……本当に頼もしい限りだ。
これならどんな相手でも任せて大丈夫だろう。
「それなら僕が「キリ・キリマイは僕が相手するよ」……えっ?」
しかしそんな俺の思いとヒカルたんの決意に満ちた言葉も、グラスの突然の乱入によって打ち消された。
「何となく彼からは僕と同じ気配を感じるんだよねぇ……だから、僕が相手するよ」
狂人と真態の気配って似ているのかな? と、一瞬思ったが、そうじゃなくて……。
「グラスさんなら安心ですね! ではキリ・キリマイの相手はグラスさんよろしくお願い致します」
「えっ……あの……」
「もちろんランドは私がやらせてもらうわ」
「あっ! ズルい! 私もランドをボコボコにしたい!」
「アルスさん、ミルカ、抜け駆けはいけませんよ。……ここは三人で駄犬をこの世から抹消しましょう」
「僕は……」
「あら、流石にたかが犬っコロ一匹に過剰戦力じゃないかしら?」
「お兄様を侮辱して、お姉様に迷惑かけたんだから当然の報いだよ」
「そうですね。万死に値するような事を言ったのです。文字通り過剰戦力で万の死を与えてあげましょう」
「……」
ヒカルたんの話も聞いてあげてぇぇええ!!
涙目でもう見てられないからぁ!!
あれよあれよと進んでいく話に、せっかく覚悟を決めたのに発言の機会も与えられずにとうとう涙目で黙り込むヒカルたん。
アイドルとしてステージ上ではあんなにも注目され輝いているのに、今やその輝きはどこにもない。
「なら、私とヒカルで風神さんと雷神さんの相手します。ねっ! ヒカル!」
「えっ? あっ……うん!」
流石スーパーアイドルアカリたん。
今にも泣き出しそうなヒカルたんをフォローしつつしっかり見せ場になりそうな相手を選んでいる。
ヒカルたんは独り立ちしたいみたいだけど、やっぱりこの二人は一緒が一番だな。
だけど、流石に二人だけで鬼族の英雄二人相手は厳しいのではないだろうか……。
戦力を考え少し不安になる。
しかし、その心配は無用だった。
「二人だけで風神雷神の二人相手は危ないぜ。……俺も一緒に戦おう」
スーパートゥライトオタク、黒騎士ジンが共闘を申し出たのだ。
まぁ、こいつの場合はただトゥライトの二人と一緒にいたいだけだろうけど……相手が相手なだけにジンが一緒に戦ってくれるのはありがたい。
ただ、今までの流れから一瞬コリアも参戦するとか言い出すかと思ったが、流石に鬼族の英傑相手に自分が居ては足手纏いになるとわかっているようで、唇を噛み締めて三人の話を睨むだけで抑えていたので良かった。
「これで決まりですね。
グラスさんは狂人キリ・キリマイの相手を。
アルスさん、ミルカさん、ルナーレさんは瞬足ランドの相手を。
アカリさん、ヒカルさん、ジンさんは風神フウカと雷神コウキの相手を。
そして、炎神ダッチは魔王様が相手をすると言う事で、それ以外の敵は私の方で魔王軍の指揮を取り相手をしますので……皆さんよろしくお願い致します」
「「「おう!」」」
「「「はい!」」」
こうして反魔王派との戦いの準備が着々と進められるのだった。




