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ボーンライフ  作者: ユキ
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グラスと言う真態

 グラスとの死闘と言う名の訓練を終え、現在俺たちはルカたちを避難させる為にスキルで分体化した魔物の死体に運ばれ街を目指している。


 未だ眠りにつくルカとブツブツ研究者モードで自分の世界に入っているミュート……そして指一本動かせない程魔力を使い果たして寝転んでいる俺を乗せて……。



 先程の訓練……結果から言ったら俺の惨敗だった。


 グラスの鼻っ柱を折るどころか、実力の差をまざまざと見せつけられ、逆にボッキボキに折られてしまった。



 ただ、そのお陰で気付かされた。


 グラスのあの安い挑発は、進化により湧き上がる力で全能感に支配されていた俺の頭を冷やす為にしてくれた事だったんだと。


 それならそれで言ってくれれば良かったのに……。



 今思えばあのままでは進化で湧き上がる力に溺れ、調子に乗ってそのまま鬼族の長に挑んでいたら、簡単に返り討ちにあっていただろう。


 なんてったって、片腕のグラスにさえ全く歯が立たなかったのだから……。


 しかも、魔力量でも進化した事で明らかに俺の方が上の筈だったのに、真正面から打ち合って力負けしてるんだから……。



 進化した事により魔力が見えるようになったからこそわかる。


 グラスは魔力操作にまったく無駄がないのだ。


 だから魔力量で負けていても……例え出力も俺の方が上でも、同じ魔法を使っているのに俺より優れた魔法を打つ事が出来る。


 魔法の威力には自身があったんだけどなぁ……。


 例えるなら、俺のはデカく質量もある泥団子……。


 グラスは小さいが密度の詰まった石だ。


 それだけ魔力操作一個とっても実戦経験に差があると言う事だろう。


 流石に1000年も生きている本物のエルフは違うな……。



 そして、鬼族の長ともなれば同じく実戦経験も豊富な筈。


 ならこのままやっても負けるのは明白だ。



 せっかく命をかけて進化したって言うのに……どうしたもんか……。



 これじゃルカが目覚めた時にガッカリされちゃうな……。



「師匠のスキルって、意思を分割して骸骨を操っているんだよね?」


 グラスにボコられ、現実を突きつけられた事で地面にヘタリ込む俺に突然グラスがそんな質問をしてきた。



「……あぁ、そうだ。分身体は別個体だが、リアルタイムで俺と意思が繋がる俺自身でもある」


 今はそれどころではなかったが、とりあえずその質問に答えると、思いもよらないアドバイスをもらう事となった。



「それなら……スキルを使って100体で戦えば……戦闘経験も100倍なんじゃない?」


「……




 確かにッ!?!?!?」


 そうだ! それなら確かに一気に戦闘経験を上げることが出来る!!


 今の俺に足りない部分を一気にクリア出来るかも知れない、まさに目から鱗の提案である。



 ……いや、でも待てよ。


「それだと……相手も100人必要なんじゃないか?」


「あぁ……うん! それなら大丈夫!」


 俺の疑念に一瞬考え込むが、すぐに自信満々に答えるグラス。


 指をパチンと弾くと、次の瞬間グラスの後ろの地面から草や花、木たちがニョキニョキと生えてきて、それらは人の形を模した。


「100体位なら僕も操作出来るからね!」



 絶句である。


 いやいや……化け物だとは思っていたがまさかここまでとは……。


 俺のスキルの場合、意思を分ける事で分体を操ると言うより一体一体が俺の分身となり独自に判断して動く。


 それに対してグラスが出来ると言ったのは、グラス一人で100体の人形を操ると言う事だ。


 しかも、俺の分体は皆、俺と同等の力を持っているので……力の操作に不慣れとは言え魔王クラスの相手を100体同時に一人の人が100体の操った人形を使って戦うと言うのだ……。



 そんな事どう考えても不可能だ。



 普通の人に出来る筈がない。



 そんな考えが頭をよぎったが、グラスは出来ると言った……。


 俺自身も不思議とグラスなら出来ると思えてしまっている。


 だってグラスだもん……。



 最早気にするだけ負けだと考え、準備は出来たから早く来い! と言わんばかりに戦闘体制に入っているグラスに溜め息を吐きつつ、スキルを発動して新たな分体を呼び寄せた。



 そして始まった俺を含めた101体の俺とグラス率いる色鮮やかな植物人形達との戦い。



 もうね……脱帽です。



 俺を含めた分体たちはグラス率いる植物人形たちに良いように弄ばれているのだ。



 ……ほんと、マジでなんなんコイツ。



 もはやボロクソにやられる悔しさなんてどうでも良くなって、ただただその戦闘技術に見惚れてしまっている。


 踊るように戦うってこう言う事を言うのね。



 全く無駄のない動きに魔力の流れ、それでいて優雅さすらある。


 色とりどりの植物人形たちの中を純粋なエルフである整った顔立ちにモデルの様にスラッと伸びた手足のグラスが舞踊る……。


 まさに映画のワンシーンを見ているようだった。



 だけどグラスの本性は真態……。



 神はどうしてこんな生き物を作ってしまったのか……。



 どこかそんなしょうもない事を感じている間にも絶えず激しい戦闘は続き、その余波であたりの地形が変形して行く。


 魔王の戦闘能力で戦っているのだから当然だ。



 大木が折れて倒れ……


 地面はえぐれ……


 魔法で大きな荒地が出来上がる。



 そんな激しい戦いの結果、環境破壊と引き換えに戦闘経験100倍の効果もあって見る見る内に俺の動きも良くなり魔力操作も洗練されていった。


 何より戦闘の極地であるグラスの戦いを目の前で見て体感しているのが大きいだろう。



 魔力を使い果たすギリギリまで行われたその戦いは、最終的に数キロにわたり森から何もないまっさらな大地に変えた頃、あのグラスに一発入れる事で終わりを迎えた。


 なんとかんとかギリギリの一発だ。



 こんなので鬼族の長に勝てるのかはわからない。



 それでもグラスは納得してくれたのか、ニッコリと笑って戦闘の終了を告げてくれた。


 そうして現在俺は分体の魔物の上で指一本動かない状態で寝転んでいるのだ。



 なお、グラスは疲れた様子も見せずにニコニコ顔で近付く魔物を蹴散らしてくれていると言う……。


 マジで、なんなんコイツ……。



 だが、当初の目的である進化も無事に遂げ、更にグラスに一発入れられる程度にはその力を使いこなす事が出来るようになった。


 街のみんなの準備も出来ているようだし、あとは時が来るまで待つのみだ。



 もう少しで街に到着するが……どうやらあっちも動きがあったみたいだな……。



  *****



「お帰りなさい魔王様……無事修行を終えたよう良かったです」


 俺たちがボーンシティに到着すると、知らせを受け一番に出迎えに来てくれたのは少し不機嫌そうなコリアだった。


 あの知らせのせいか?



「コリアか、出迎えご苦労。……どうやら奴らに動きがあったようだな?」


 とりあえず気付かぬフリをして会話を続ける。


「流石魔王様……その通りです。先程、反魔王派と名乗る一団から宣戦布告の書状が届きました。詳しい内容は皆様会議室にお待ちですのでそちらへ」


 街に残しておいた分体を通して既にその情報を得ていた俺は、驚く事なく頷き、未だ眠りにつくルカを乗ってきた分体を人形に変形させ任せるとズカズカと怒りを露わに歩き出すコリアの後に続いた。


 俺……何かしたかな?




 会議室には既に魔王軍の主要メンバーであり、今回の為に予め召集しておいた四天王の5人と、魔術師のまとめ役であるロザンヌ、そして参謀のリンとメイド服のルナーレの8人が揃っていた。


 俺が部屋に入室すると一斉に頭を下げる面々。


 その緊張した空気を察してようやく現実に戻ってきたミュートが、グラスの頭の上で『ここは……』なんて可愛い反応をして一瞬場を和ませる。


 うん、やっぱり俺たちに真面目な雰囲気は似合わないよね。



「なんだみんなして緊張した表情して……そんなに俺のイメチェンがカッコよかったか?」


 せっかくグラスが天然で作ってくれた空気なので、みんなにそれが残っているうちに魔王である俺自らおちゃらけて見せる。


 すると普段はアレだが流石は俺と長い付き合いの親友だけあって、真っ先にアイツがその意図を汲み取って乗ってくれた。


 ……いや、アイツの場合天然か。



「ハッ、無駄にデカくなりやがったからみんな萎縮してるんだろ。椅子が子供用みたいになってるじゃねぇか」


 言われて気付く。


 確かに特注で俺用に作らせた大きめの椅子なのに、進化して大きくなったせいで窮屈に感じる。


 なんだか少し恥ずかしい。


 リンが気を利かせて小声で『あとで職人に直させますね』とフォローしたが、それが暗に変だと言っているのと同じなので余計に恥ずかしくなる。



「でもでも、とっても強そうでカッコいいよ!」


「うん! 私もそう思う! ねっ! ヒカル!」


「あっ……は、はい! 僕もそう思います!」


 すかさずミルカが褒めてくれ、アカリたんがヒカルたんと共にその言葉をフォローしてくれる。



 なんて優しい良い子たちだ……。


 骸骨じゃなかったらおじさん泣いてたぞ。


 ヒカルたんは完全に話聞いてなくてアカリたんの話に合わせただけだろうけど……。



 だってさっきからジンの事しか見てないんだもん。



 そこでもう一つの妙な視線に気付く。



 視線の主は俺と共に部屋に入ったコリアだ。


 先程から殺意でもこもっているんじゃないかと思う程の視線でアカリたんとヒカルたんを睨み付けている。



 なるほど……それでコリアは機嫌が悪かったと……。


 いろいろ察した俺はジンを見る。


 しかし当事者であるジンはそんな事に気付く筈もなく、トゥライトと同じ部屋にいると言うだけで明らかに浮かれてウキウキしているから、それがコリアを余計に苛立たせている。


 相変わらずのKYオッサンだ。



 うん……明らかに修羅場になりそうだが……今はこれから大事な戦いが始まると言う時なので……。



 そっとしておこう!



 決してこう言う時女性が放つ圧が怖い訳じゃないんだからね!



 そんな怖気付いた俺を他所に、周りの話は続いていく。


「そうですね、ワイルドな黒とアクセントの情熱的な赤がエロチズムを醸し出して、最高に濡れ……いえ、痺れます」


 コリアたちの事で聞き逃したが、今何言おうとしたのこの子?


 ヤマト王国では聖女と呼ばれたいた筈なのに……ルナーレがなんだかどんどん危ない方向に向かっているように思うのは気のせいだろうか……。



「本当ね……今の逞しい体の魔王様なら、私のこの大きな体がその胸にスッポリ収まって……むしろちょうど良いわね……もしかして私の為に大きくなってくれたのかしら?」


 それは絶対ないです!



 まったく……少しでも場が和めばと思ってみたらこの有様だ。



 だけど、これが俺の仲間たちだからな……。


 いろいろ気にしていた俺がバカみたいだ。


 いつも通り平常運転で、今回の敵もちゃっちゃと倒しますか。



「そろそろ会議を始めようか」


 俺の言葉に途端に先程までの賑やかな雰囲気が一変し、真面目な空気に変わる会議室。


 ほんと……頼もしい連中だよ。


 やる時はやる仲間たちの頼もしさに安心しつつ、反魔王派との戦いに備えた話し合いが始まるのだった。

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