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ボーンライフ  作者: ユキ
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ルカの秘策

「ガハッ!?……うぅ……ぐわああぁぁがぁあぐぁぁああ」


 グラスとおじ様により操作された魔素が魔核へと入った瞬間、今まで聞いた事ない程の叫び声を上げて苦しみ出すクリス。


 私は繋いだ手を離さないように強く握り締め、焦る気持ちを抑えつつ、今はクリスの魔核の変化を見逃さないよう細心の注意を払って見守り続ける。



「もう少し抑えてッ!! このままだとクリスの魔核が持たない!! もう少し……そうッ! その量を今はキープして!!」


 クリスの魔核が耐え切れるギリギリのラインを見極め指示を出す。


 あまりにも少ないとこの方法の意味がなくなってしまうし、多過ぎれば魔核が耐え切れずに爆散してしまうからだ。


 しかし、魔素を無理やり入れる事で魔核が複雑に変形し、その都度許容限界も変化して行くので一時も目を離せない。



 シュ……。


 ッ!? この匂い! どこかに亀裂が入った!?



 どこ! ……どこなの!? 早く見つけて修復しないとクリスの魔核が!!



 匂いにより魔核の異変に気付いた私は必死に亀裂の入った場所の特定に努める。



 集中して……私なら出来る……集中……。



 ……見つけた!!



 匂いに集中する事で、脳内に光の道として現れた匂いの道を辿って行くと、何とか亀裂を見つける事が出来た。



 それは小さな小さな亀裂……。


 しかしこのまま放っておけばクリスを死に至らしめるとても危険な亀裂。



 落ち着いて……ここからだよ……。



「フゥー……」


 亀裂を凝視した状態で集中した私は、体の中で練った魔力を口から放出し、そっと亀裂へ吹きかける。


 細かな赤い粒子となった私の魔力は亀裂に触れる。


 すると、スッと私の魔力は亀裂の隙間に入り込み、接着剤のように固まり綺麗に亀裂を塞いでくれた。



 やった! 成功だ!!


 これが私が考えたクリスを死なせない方法……。



 魔力の体外での操作だ。



 本来魔力は体から一定距離離れると飛散してそのまま扱う事は出来ない。


 魔力に精通した者でもせいぜい体の表面数センチが限界である。


 魔力は魔法として行使する事で存在を保つ事が出来るのだ。



 だけど私は吸血女王……。


 血ではなく魔力を吸い、使役する魔力のエキスパートだ。


 例え体から離れた魔力だって操る事が出来る筈……。


 いや、出来る!



 実際にお母様たちから始祖の吸血女王にはそんな力があったって聞いた事があるから。


 だけど、本当に出来るかどうかは賭けだった。


 ここに来るまでいくら練習しても全く出来る気配がなかったからだ……。



 だけど、この土壇場で成功する事が出来た。


 クリスを思う気持ちが体外での魔力操作を可能にしたのだ。



 これでクリスを死なせずにすむ……。



 いや! まだだ!


 魔力を見る事が出来るこの目に、魔力を嗅ぎ分ける事が出来るこの鼻を使って、それが例え魔素だろうと魔核だろうと、全てを見通し……どんな変化も嗅ぎ分ける!


 そして……万が一魔核に異常があれば、魔力を操り直す。


 この力で絶対にクリスを死なせたりしないから!!



 ギュッとクリスの手を握りしめて思いを届けるように願う。



 だから……クリスも頑張って!!


 



 その時苦しそうに蹲っていたクリスがガバッと顔を上げ、私の手を振り払い頭を抑え出した。


「次のステップに入ったんだッ!!」


 その変化にいち早く気付いたおじ様の言葉に、一先ずは魔核爆散の危機は乗り越えたのだと安堵すると共に、次の段階の危機が訪れたのだと理解する。



「……ここまでは過去にもクリアした者は数名いる……しかし、問題はここからだ……未だかつて成功した者が誰も居ない、悪魔の囁きに……」

 


 瘴気による侵食……。



「あぁあアぁぁああぁあガぁああぁぁうぅあぎァァ!!!」


 ドゴンッ!! ドゴンッ!!


 ピキッ!


「クリスッ!!」


 それまで頭を抑えて悶え苦しんでいたクリスだか、次の瞬間にはあろうことか自らの頭を地面に叩きつけ始め、その衝撃で周辺の地面が陥没すると共にクリスの頭蓋骨にも小さなヒビが走った。


 それを見た私はクリスに飛びつき抱き締めると、動かないように両手ごと押さえ込む。


 しかし、完全に動きを抑える事が出来ずにクリスはギシギシと私の腕の中で身じろぎ逃れようとする。


 なんて力なの!? 吸血女王になって魔王と同等の力を手に入れた筈の私の身体倍加を持ってしても抑えきれないなんて!



 するとそんな私たちを他所に、突然おじ様が何かを語り出した。


「……900年前、勇者ススギ様亡き後……魔族領でひたすら開拓に明け暮れた我らは滅亡の危機にあった……未だ魔族として未熟で力が強くなかった我らは、魔物の脅威を完全に抑える事が出来なかったのだ……」



 こんな時にどうしてと疑問に思いそちらを見ると、そこにはクリスを虚な目で見つめるおじ様がいた。


 まるでクリスを通して誰かを思い出しているように……。



「当時は私もまだまだ力の未熟な魔族だった……そんな中、私たちの中でも一番の力と知識を持つ私の兄が、みんなを救う為に理論上は出来るとわかっていても、危険な為、未だかつて誰もやった事のなかったこの方法を試した。……結果は進化には成功したが、理性を失い生きとし生けるもの全てを殺し回る殺戮者の誕生だった……。そうして生まれた存在が、五百年前に賢者サイトウ様によって討ち取られるまで殺戮の限りを尽くした魔物の王だ」


 そう……だったのね。


 みんなを救おうとした偉大なお兄様がそんな事になって、凄く悲しいと思う……。



 出来れば助けてあげたかったよね……。



 でも……。



 今はそれどころじゃないから出来れば助けて欲しい!


 ここまで来たら魔素供給はグラスだけで足りる筈。


 その証拠に先程からおじ様の手は止まったままだ。


 何よりさっきからクリスは誰に言うでもなく『コロスコロス』と繰り返して危ない状態なのは明白なのだ。


 過去の事より今を何とかしてッ!!



 しかしそんな私の願いも伝わる事なく、おじ様の語りは続く。


「みんなを救う為にと行った行為が結果的に魔族全体を絶滅の危機にさらした……骸骨兵君……いや、魔王様。あなたも私の兄と同じ道を辿るつもりですか?」



 そう思うなら手伝って!


 と言うか、おじ様の目がなんだか危ない目になってる気がする……もしかして、いつもの新しい魔法に対する発作!?


 私が体外での魔力操作なんか見せたから!?


 本当にそろそろ私も限界だから今はやめてッ!!



「……魔王様」

「いや! 手伝って!!」


「ッ!? おおスマンスマン。つい昔を思い出してしまって自分の世界に入り込んでおった」


 生まれて初めてツッコミをしてしまった……しかもあのおじ様に……。


 でも、今回のはおじ様が悪い。

 昔から新しい魔法とあればところ構わず興奮するんだから、まったく!



「ふむ、手伝うと言ってもこの体では今の魔王様を抑える事など出来んからなぁ……そうだ」


 何か思いついたらしいおじ様の可愛らしい掛け声と共に急に私の体が軽くなり、今まで押し負けていたクリスの力を完全に押さえ込む事が出来るようになった。


「ルナーレの得意な補助魔法なら今の私でもこの通りだ」


 自慢気に言うおじ様のその姿があまりにも可愛く、今度は今にも抱きしめたくなる衝動を抑えるのに必死になる。



『コロスコロスコロスコロス……」


 あっ、いけない。

 今は可愛い欲求よりクリスだ。



「おじ様! クリスを何とか助ける方法はない?」


 こんな時、博識なおじ様なら妙案を出してくれるかもしれない。



「ふむ……瘴気に犯されつつある精神をどうにかすると言ってもなぁ……」


「さっきルカがやってた魔力を操る方法ならいけるんじゃない?」


 すると魔素の操作で手一杯かと思われたグラスからそんな案が出される。


 流石グラス。

 もう魔素の細かな操作にも慣れて来たのね。



「魔力を……ッ!? 確かにそれならいけるかもしれないな!!」


「えっ? どう言う事?」


「魔王様は魔核が核となり存在する骸骨兵だ。だから普通の生き物と違って脳などは存在せず、精神も魔核の中にあると思われる」


「う……うん……」


 よくわからないけど、それが重要な事なの?



「つまり、魔王様の精神は魔力に近い状態なんじゃないかな?」


 グラスの言葉で私にもその意味が理解出来た。



「……ッ!? それって!!」


「そう! 魔力を体外でも自在に操る魔力のエキスパートである吸血女王……ルカになら、クリスを助ける事が出来るんじゃないかな?」


 グラスの提案……それは可能性がとても低い賭けかもしれなかった。



 けど! やってみるは価値は……ある!



「しかし……魔力を体外で自由に操る始祖の能力……ハァハァ……興味が尽きぬな」


 私の新しい力にまた興奮し出すおじ様を他所に、おじ様の補助魔法で出来た余裕を利用し精神を集中する。


 今はクリスの前から抱き付いている状態だ。


 クリスの魔核との距離もほぼゼロ距離……。


 これならまだ不慣れな体外での魔力操作でもさっきのようにやれば出来る筈!



 イメージはクリスの魔核を傷付けないよう優しく包み込むような……それでいて、悪さをする瘴気を弱らせる……そう! フワフワモコモコで汚れを落とす、ボディーソープだ!


 イメージの固まった魔力は私の体から放出されながら形質を変え、泡のようになって私たちを包み込む。


 尚も暴れようとするクリスを抑えるため両手の塞がった私は、その泡状の魔力を自らの身体を使ってクリスに擦り付けいった。



「……んっ……あ……ハァハァ」


 必死に瘴気を落とそうとするあまりあもわず声が漏れてしまっているが、そんな事も気にしている余裕はない。


「クリス……ん……頑張って……ハァハァ……もう少し……だよ」


 私の目には魔核を侵食しようと広がる黒い瘴気が少しずつ治って行くのが見える。



「……」

 

「……なんか……エロくて良いね! でも……あぁ、こんな事なら自分で見た記録する魔法を開発しとくんだった!」


「お前と言う奴はこんな時まで……まったく」


 後ろで何やらグラスとおじ様が話しているが、今はそちらに気を向ける余裕もない。



「クリス……ハァハァ……クリス……一緒に行くって約束したよね(公園に)……だから、こんな所で自分に負けないで! ……これを乗り越えて……一緒に……いこう!」


 私の言葉に答えるように、それまでただ雄叫びを上げ暴れるだけだったクリスは、何かを我慢するように苦しそうにしながらも争い出した。



「ぐうぅぅ……ガハッ……ううぅ……」


「あぁ! クリス! もう少しだよ! もう少しで……一緒に行けるから!!」


 あと少しで黒い瘴気が抜け切る事が出来る……あと少し!



 次の瞬間、魔核を侵食する瘴気が抜け切ると突然クリスの体が輝き出した。

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