暗躍
時間は少し戻り、魔王演説からすぐのとある場所。
壁にかけられた小さな灯りしかない薄暗い部屋。
そこに3人の人物が集まっていた。
1人は薄暗い部屋でも全身を覆うシルバーの体毛で存在感の薄れないウルフ族の獣人……元四天王のランド。
あと2人の正体はわからないが、1人は大柄で頭に2本のツノが生えた男。
1人はフードを被っていた姿すら見えない、他の2人に比べて小柄な男の3人だ。
「あぁ!? 骸骨兵が魔王だぁ!? ふざけるなッ!!」
その中でランドは先程情報をもたらした小柄な男に怒りを露わに怒鳴りつけた。
「しかも魔物と仲良しこよしなんざどれだけふざけてやがるんだ!! そんな奴が次の魔王だなんて俺様は認めねぇぞ!!」
「残念ながら、既に各地の魔族の多くが新たな魔王に賛同し、魔王の拠点である獄森と呼ばれる場所にあるボーンシティと言う街へ向かっているようだ」
怒るランドにフードを被った小柄な男は宥めるでもなく、追い討ちをかけるように新たな情報を話す。
「ハッ! どうせ力の弱い弱小魔族共だろう!! 誇り高い魔族として力のある魔族はまずそんな話に賛同なんかしねぇよ!」
「そうかもしれないな……しかし、魔王が魔王で居続ける限り、いずれはその者達も考えを変えるかもしれないぞ?」
小柄な男の言葉に先程から怒っているランドの眉がピクリと動く。
「……確かに……俺様と違って力は強くてもバカばかりだからな……簡単に籠絡されてもおかしくない」
「……ならば、その誇り高い魔族として、正しい考えを持った者が導いてやらなくちゃいけいんじゃないか?」
小柄な男の言葉にランドは男をジッと睨み付けるが、ふとその顔は満面の笑顔に変わる。
「確かにその通りだ……魔族の中でも力のあるウルフ族に生まれ、更にはその中でもシルバーウルフと言う希少で特別な存在であるこの俺様……ランド様こそ、魔族を導く魔王に相応しい存在だろう」
ランドは大袈裟な身振り手振りで自らがどれだけ特別な存在か説明する。
それは自らを魔王に相応しい特別な存在だとアピールしているようだった。
その姿を、こうなるように仕向けた小柄な男は特に反応を見せずに座ったままで、この場で唯一まだ喋っていない一際大柄な男は興味なさげに目を瞑り腕を組んでいる。
そんな反応も今の自分の言葉に酔っているランドには全く関係なかった。
「そして、今の骸骨兵なんて言う魔物の分際で魔王を名乗るゴミクズも……そいつを担ぎ上げる魔族たちも全て……いや……あの女は別だなぁ。アイツはあの時この俺をコケにしたんだ……グチャグチャに痛めつけて可愛がってやらなくちゃ気が済まねぇ……グヘヘ……あぁ、そうだ。ルカレット以外の全てのゴミクズ共はこの世界から処分しないといけないなぁ。……お前もそう思うだろう? 魔族でも最強の一角である鬼族の長、ダッチさんよぉ?」
「……そうだな」
ランドの言葉に目を開け小柄な男を一瞥した後、一言だけ答えて再び目を瞑り黙り込むダッチと呼ばれた大柄な男。
とても愛想の良いものではなかったが、それでも自分の言葉にダッチが賛同した事で満足気に頷くランド。
あの傲慢なランドがダッチのその態度を許すどころか喜んでいる事から、それだけ鬼族……いや、ダッチと呼ばれた男は元四天王であるランドも認める男だと言う事なのだろう。
「……及ばせながら、我々もその戦いに協力しよう」
「ハッ! お前から言い出したんだから当然だろう」
打って変わって小柄な男に対してはいつもの傲慢な態度である。
どうやらこの男はランドにとってさほど重要視されていないようだ。
その証拠にこれで話は終わりとばかりに出て行くダッチを追い、絡むように飲みの誘いをしながら出て行くランド。
後には小柄な男が一人取り残された。
しかしその男は対して気にするでもなく、先程と変わらない姿勢のまま1人なにやら呟く。
「バカ共も作戦通り踊ってくれそうだな。……これで教皇様もお喜びになられるだろう」
その言葉と共におもむろに取られたフードの下には、表情の無い黒髪の人族の男が姿を表す。
どうやらこの男の目的は、今の魔王を魔王の座から降ろす事でも、ランドを魔王にする事でもなく、教皇の暇つぶしの為に魔族通しを争わせる事にあったようだ。
その後立ち上がった男だが、次の瞬間には音もなく忽然と姿を消し、その場には誰も居なくなった。
こうして様々な思惑が交わった結果、クリスたちに新たな敵が立ちはだかる事になるのだった。
*****
「それで、具体的にどのくらいヤバいんだ?」
ジンの何気ない言葉に、ルカやミルカ、リンまでも暗い顔になる。
するとグラスがそんなみんなの代わり説明してくれた。
「昔ちょっとした行き違いで魔王軍と鬼族で戦いがあってね……鬼族の長でダッチって男とミュートが三日三晩やり合ったけど、結局決着がつかなかったね」
えっ……それって、そのダッチは全盛期の魔王様と同等の力を持ってるって事?
恐る恐るミュートを見ると、俺の考えを肯定するようにうんうんと可愛らしい仕草で頷いた。
「あの時は行き違いでなく、お前が鬼族の娘に手を出したのが原因だろう。そのせいで魔王軍全体に危険を及ぼしおって」
「いやいや、アレはお互い合意の上だったんだから、でしゃばってくる鬼族共が悪いでしょ。それにエロい服を着て貰っただけで手は出してないし」
グラスの返答に呆れた表情で溜め息を吐くミュート。
相変わらず何やってんだコイツは……。
って、いやいやいやいや!! アホな話をしている場合じゃないから!!
その鬼族の長は全盛期のミュートと同程度の戦闘能力を有しているって事だろ!? どう考えてもヤバいでしょ!?
「……それって今の私たちの戦力で対抗出来るんですか?」
コリアの疑問は至極当然だ。
いくら強力な力を持つ四天王でも、そんな全盛期のミュートと同程度の力を持つ相手では束になっても叶わないだろう……。
魔王を名乗っているとは言っても四天王レベルの強さしかない俺はもちろん、今では転生してレベルが初期化されたミュートも論外だ。
グラスだって勇者との戦いで片腕を失っているから戦闘力は半分近く落ちてるだろうし……。
唯一対抗出来そうなのは進化して魔王と同程度の力を持ったルカくらいだけど……進化してからまともに戦闘経験のないルカにそんな危険な相手と戦わせる訳にはいかない。
と言うか、ルカを守る為に魔王になったのだから俺がそんな事は絶対にさせない!!
でも……それならどうしたら?
「これは……バトル漫画でお馴染みの、修行が必要なんじゃないかな?」
なんだかウキウキしながらアホな事を言ってくるグラス。
「いやいやグラスさん……反乱軍がせっせと反乱の準備を整えているこんな時に、そんな時間ある訳ないだろう?」
ジンのツッコミもごもっともだ。
例え時間があったとしても、そんなすぐに強くなれたら苦労しない。
これまで別に毎日遊んでいた訳ではないのだ。
この眠れない体を利用してみんなが寝静まった後、獄森に一人でおもむき毎日欠かさず魔法の訓練をし、その間襲ってきた魔物を退治し続けていたのだ。
それでも強くなったのなんて微々たるもの。
それを短時間で強くなるなんてそんな都合の良い話があるわけ……。
「アレをやるのか?」
「えっ……あるんですか?」
ミュートの言葉に意表をつかれ思わず聞き返してしまった。
よく見るとルカやアルスも神妙な表情をしている事から、古参の魔族なら知っている方法のようだ。
「ふむ……あるにはあるのですが……
十中八九死にます」
「ちょっ!? 待ってください! これから反乱で戦力が必要って時なのに大事な戦力が死ぬかもしれない修行だなんて何考えてるんですか!? 何よりご主人様は私たち魔王軍の支柱なんですよ!? 戦力として以外でもなくてはならない存在なんですから死なれたら困ります!」
「そうだよそうだよ! お兄様は大事な私たちのお兄様なんだから、死んじゃダメ! お姉様もそう思うよね!?」
「……」
ミュートの思わぬ発言に血相を変えて反論するルナーレとミルカ。
でも、一番に反論してくれると思われたルカは何やら考え込むように黙り込みミルカの問いかけに返事を返さなかった。
ルカが何を考えているかはわからないが、何か重要な事なのだろう。
……決してそんな反応に傷ついてなんかいないんだからね!
……その事はともかく……いや、ぶっちゃけ精神的にはそんな事で済まないんだが……。
ルナーレとミルカの思いは嬉しいが、今のこの状況で強くなる手立てがあるなら俺としては願ったり叶ったりだ。
……例えそれが死ぬ危険があろうとも。
「強くなる方法があるなら、是非やらせてくれ!」
だからこそ、迷う事なく答えた。
「「なっ!? ご主人様!?」お兄様!?」
「ルナーレ、ミルカ、心配してくれるのは嬉しいが俺は魔王だ。魔王として、みんなを守る責務がある」
「でも……死んじゃうかもしれないんだよ?」
今にも消え入りそうな声でミルカは問いかけてきた。
そんなミルカに仲間達も心配した表情でこちらを見つめてくる。
「確かに死にたくはないが……だからと言ってこのまま何もしなければ、反乱軍に勝てる見込みは薄いだろ?
それにもし負ければ俺だけでなく……ここにいるみんなも殺されてしまうじゃないか。
それなら俺は仲間を守るため……命の一つくらいかけてやるよ」
「ご主人様!」
「お兄様!」
「魔王様!」
俺の言葉に感動して抱き付くルナーレとミルカ……そしてアルス。
アルスさん……骨が軋んでいるので少し加減して下さい……。
「大丈夫! クリスは私が死なせないから!!」
その時先程まで何やら考え込んでいたルカがガバッと顔を上げ、力強くそう答えた。
「死なせないって言っても……何か方法があるのかい?」
グラスの疑問ももっともだ。
そんな方法があるならここにいる魔族領でも最高峰の知識人たちが既に言っている筈なのだから。
「ある! ……と、思う……多分……あっ、でも……もしかしたら……ゔぅ……わから、ない」
自分で言っていて自信がなくなってしまったのか、普段の口調に戻り最後は聴き取りにくい程の声量で答えるルカ。
本人も半信半疑の方法なのか……。
まぁ、でも。
「やろう」
「えっ!? で、でも……」
自分の考えに自信がなくなっていた事で、まさか俺が承諾してくれると思わなかったようでルカは驚き言い淀んでいる。
「大丈夫! 俺はルカを信じているから!」
「ッ!? ……うん!! 任せて! 私が必ず成功させてみせるから!!」
しかし俺の言葉に勇気を貰ったルカはそう力強く承諾し俺に抱き付いた。
こうしてみんなの抱き枕状態になった魔王クリスの命をかけた修行が次回行われる事になるのだった。




