誓い
「クリス、お帰りなさい」
魔法の練習を終え平屋の家へ入る直前、何かを思いついた表情をしたと思ったら急に走り出したルカはそのまま先に家に入ってしまった。
どうしたのだろうと思いながらルカに続いて家に入ると、扉の前で俺を待っていたルカはそう笑顔で言い、出迎えてくれた。
「えへへ、せっかくだからお帰りって言いたかったんだ」
何だこの生き物は……可愛いを凝縮したのか!?
「う、うん。ルカ、ただいま」
悶えそうになる気持ちを抑えながらルカの頭を撫でてやる。
「大丈夫? 手が震えてるよ?」
どうやら気持ちを抑えているせいで手が震えていたようだ。
流石にルカが可愛くて震えてたとは変態みたいで言えないので適当に誤魔化す。
「あ、あぁ……魔力が少なくなってるから体の操作が難しくて」
「今日は魔力をいっぱい使ったもんね……そうだ! 直ぐに夕飯作るから、それまでソファで休んでて」
再び何かを思いついた表情でキッチンへと向かうルカ。
気にはなったが嬉しそうなのでそのままにしておけ。
俺も魔力が少なく体が重いのは確かなので、言われた通りソファで休む事にしよう。
キッチンへと向かったルカはエプロンを付けると鼻歌混じりに手際良く何かを作り始め、数十分後、何とも香ばしい匂いと共に出来た料理を持ってルカが戻ってきた。
「今日は魔力いっぱい使って疲れてるから魔力回復に効く、魔うな重だよ」
そう言って持ってきたうな重は、俺のよく知るうなぎの4倍程のサイズの蒲焼が乗ったうな重だった。
「で、デカいね」
「今回使った魔うなぎは、普通のうなぎが魔物化したうなぎなんだけど、魔力を溜め込む性質があって、魔力を溜め込む程大きくなるんだ。この魔うなぎはかなり大きくなってるから、食べれば魔力回復効果も抜群だよ」
先程思いついたのはこれか、確かに今の魔力が少ない体にそれは凄くありがたい。
試しに箸で身を崩してみるが大きさの割に凄く柔らかくホロホロと簡単にほぐす事が出来る。
そのままほぐした身を口に運び一口食べてみると、炭で焼き香ばしい匂いの付いたうなぎ特有の旨みと、これまた甘く香ばしいタレ、そしてアクセントに山椒の風味が混ざり、ホクホクして溶けるような柔らかさの身もあいまってとても美味しい。
「ぐっ!?」
魔うなぎを飲み込んだ瞬間、体から魔力が湧き上がってきてビックリして思わず声が出てしまった。
「凄いでしょ。実はタレにも隠し味で魔力回復の薬草を混ぜてあるから、魔うなぎと合わせて効果倍増なんだよ」
自慢げに胸を張るルカ。
それに応じてゆったりめの部屋着でも隠しきれないその大きな二つの山も自己主張する。
そこに釘付けになる目。と言っても目は無いからその目線はバレてないと思うが……ハッ!? ルカは魔力を見えるなら、普通の人には見えない俺の魔力の目も見えているのか!? いやしかし、目の機能があるだけで、ただの魔力としてしか形をなしてないかもしれないし……。
何にしても気を付ける事にこした事はないだろうと目線を逸らす。
変な事に考えが行ったが、この魔うなぎ重の効果は抜群だ!
元々魔力容量が少ない事もあり、食べ終わる頃には魔力が完全回復した。
「ご馳走様でした。凄く美味しかったし、魔力まで完全回復させるなんてルカの料理は凄いね! ありがとう!」
「お粗末さまでした。ふふふ、こちらこそ綺麗に食べてくれてありがとう。それじゃご飯も食べたし、汗もかいたからお風呂入ろうかな」
ソファから立ち上がりお風呂に向かうルカ。
おっ、そうだった。
お風呂もこの世界に召喚されてから入ってないんだよな。
骸骨だから汗はかかないので臭わないだろうけど、やっぱり汚れは気になる。
それに浴槽に浸かって温かなお湯に浸かり、心まで溶けるようなあの感覚が恋しい。
ルカが入ったら入らせてもらおう。
そんか事を考えているとルカが立ち止まりこちらを振り返って言った。
「クリス、何してるの? 一瞬に行くよ」
……ん? なんと?
いきなりの爆弾発言に理解が追いつかない。
「えっ、そ、それって?」
「決まってるでしょ、一緒にお風呂入ろう」
……!? いやいやいやいや、それはヤバいって!
「あ、え〜と……そ、そう! 夕飯の片付けしてるから先に入っちゃって!」
「え〜、そんなのあとですれば良いし、一緒に入ろうよぉ」
「いやいや、早く綺麗にしないと油汚れはこびり付いたらなかなか落ちないし、炭もちゃんと消火しないと火事になっちゃうから!」
「それなら私も手伝うよ?」
「それはダメだよ! 作ってもらったんだから、ルカはゆっくりお風呂入ってきて!」
「そう? それじゃ、先に入ってくるね」
少し納得してないようだったが、何とかお風呂に行ってくれた。
とりあえずは一緒にお風呂に入るのは避けられたようだ。
でも、これって毎日お風呂に誘われるのだろうか……。
*****
後片付けを済ましてソファに戻る。
「ハァ〜、サッパリした。クリスお風呂空いたよ。バスタオルとクリスの歯ブラシ、あと寝巻きは脱衣所に出しておいたからそれを使って」
ソファで休んでいると、しばらくして風呂上がりのルカが戻ってきてそう俺に声をかけた。
片付けをしている間に気持ちも大分落ち着き、風呂上がりで火照り、白い肌に赤みがついて潤んだ唇やまた水気が残り湿った髪とで色気が増したルカを見てもまだ平常心を保つ事が出来た。
「ありがとう、それじゃお風呂頂きます」
そう返事をした後、ルカに笑顔で見送られながら脱衣所へと向かう。
お風呂上がりのルカの色気も何とか乗り越えたと油断して脱衣所の扉を開けた瞬間、不意打ちでムワ〜とする熱気と共にルカからいつもほのかに香っている良い匂いが俺を包み込む。
それにより今になって直前までルカがそこで生まれたままの姿で入っていたんだと思い知らされる。
不意打ちだったので危なかったが、揺れる理性を何とか抑え、特に脱ぐものもないので脱衣所を通過し、そのまま隣のお風呂場の扉を開けるとその匂いは更に強くなり、鼻から脳へと俺の理性を溶かしていく。
それはまるでルカに抱き締められているのではないかと錯覚するほどだった。
……頭がフワフワしてヤバい。
そんな時だ、浴槽にはられたお湯が目に入る。
ルカが今まで浸かってたお風呂……。
唾は出ない筈なのに生唾を呑み込んだように錯覚する。
先程の事もあり、お風呂場に充満した匂いと相まって容易にルカの入浴姿が想像出来てしまう。
……って、いやいや! これじゃまるで変態じゃないか!!
今理解した!
俺はきっと、生前彼女はおろか、女性自体とあまり付き合いが無かったんだという事が。
じゃないとこんな変態じみた発想になるのはおかしい! むしろそうであってくれ!
俺は決して変態ではない! 変態ではないんだ!!
しょうもない事だが、俺にとっては重要な事だ。
だって、このままじゃグラス様達と同じになってしまうじゃないか!
そんな事を考え心を落ち着かせた俺は、無心で体……と言うか骨を洗い、ルカが入ったお風呂だと考えないようにして浴槽に浸かった。
浴槽に浸かってみると、その暖かさと気持ち良さで先程までの煩悩が溶けていき、やっと平常心を取り戻す事が出来た。
しかし、さっきのも焦ったなぁ。
夕飯が終わり汗かいちゃったからお風呂に入ると言い出したかと思えば、こちらを振り返り『一緒にお風呂入ろう』と誘われ、流石に俺の中の紳士がそれはアカン、と止めるので、揺れる理性を抑えて片付けをするからと断ったが、あわゆくその甘い誘いにのってしまいそうだった。
ルカはグラス様の教育と言うか、エロ心のせいで羞恥心が欠落している。
それでも人前であの妖艶な格好をする事に対してストレスを感じている辺り、羞恥心を理解してないだけで感じてはいる筈だ。
ただ、今まで友達が出来たことが無かったせいで知識が無いのと、ずっと居なかった事による反動もあって、距離感が異様に近く、無意識に感じている羞恥心でさえ俺の前では無くなっているように思える。
なので、これからルカと一緒に住むなら、俺自身が理性をしっかり持たないとダメだと思う。
それをせずにルカの無知を利用して、自分の欲望を満たす行為は絶対にしてはいけない。
そんな事をする奴はゴミ以下だし、ルカの友達を名乗る資格がないからだ。
それにこれから友達としての付き合い方を理解していく中で、もし俺がそんな汚い行為をしていた事を理解してしまったら、幻滅されてしまうだろう。
それだけは絶対にいやだ!
これからもルカの友達でいたいから、ルカの友達として恥じる事がないよう、強い理性を持とうと思う。
俺は人知れず誓いを立てると、お風呂から上がり体を拭いてクリスの準備してくれた寝巻きへと着替えた。
*****
「クリスお帰りー。わぁ〜、クリス似合ってるよ! 可愛い!」
そう言われ、戻って来た俺の姿は、フードにウサミミが付いたフワフワパーカーとフワフワショートパンツといった色が水色な以外ルカとお揃いの部屋着を着た姿だ。
「急いで準備して良かったぁ。これでお揃いだね!」
とても良い笑顔だ。ルカが喜んでくれるなら構わないが……絶対にこの格好で人前には出たくない。世のペアを着ているバカップルの精神力の強さには脱帽だ。
「さて、お布団の準備も出来たし今日は疲れたろうから早く寝よっか」
そう言う部屋には、ルカの大きなベットが一つだけ……。
先程の事でスッカリ忘れていたが、今朝一緒に寝るのは確定していたんだった。
しまった。まだどうやって一緒に寝るのを回避するか考えていない。
そしてその間にルカはベットへと向かいそのままダイブし、うつ伏せで寝転んだ状態で横の俺をベットへと誘う……。
誓いを立てたばかりだけと、早くも俺の理性は飛びそうです。
頑張れ俺!
ちらっとルカを見ると、ショートパンツの部屋着で露わになったスラっとしているが程よく肉付きの良い足をパタパタさせていた。
……ま、負けるな俺! これは誘ってる訳じゃない! ルカはただ友達と一緒に寝るのが嬉しくて足を動かしているだけだ!
再びルカをチラ見すると今度は顔を枕に埋め腰をフリフリしている。その度に揺れる肉付きの良いお尻……。
ちょっとぐらいなら……いやいや! ルカの友達としての誇りを忘れるな俺!
「どうしたの? 早く一緒に寝よ?」
グハッ!? 俺の理性に999のダメージ。
今までの葛藤も虚しく、大ダメージをくらった俺がその余韻で放心状態になっていると、その間に体が勝手にベットへと向かう。
グッ……このまま俺は誘惑に負けてしまうのか……。
そのままベットに寝転がるルカの横まで行き、上からルカを見下ろす形になる。
そこでふと気付く。
昨日マッサージで疲れをとった筈なのに、またルカの筋肉が少し凝っているな。
……そうか、午前中はあれだけ苦手な、人と接する仕事をしたから、必要以上に体に力が入って筋肉を酷使していたのだろう。
「だ、大分疲れてるようだし、マッサージ……しようか?」
「本当に! 実はまた腰と肩が痛くて困ってたんだ! お願いしていい?」
「任せてくれ」
その瞬間、先程までの煩悩はスッと消え、一気に集中する。
やはり俺の前世はマッサージ師か何かだったのだろう。
さっきまで誘惑に負けそうになっていたのが嘘のように、今はルカの体のどこが凝っているか見逃さないように神経に観察しマッサージをしている。
「……ンッ……やっぱり……クリスのマッサージ……アッ……凄く、気持ち……良い……ぁあ……」
どうやら今回もかなり喜んでもらっているようだ。
そしてこの後1時間程マッサージをし、完璧な施術をした満足感でスッキリした俺は、あまりの気持ち良さで途中で寝てしまったルカをベットに残し、一人ソファに寝転がり明日からどうやって誘惑を回避するか考えるのだった。




