ー86ー 迷宮探索に耽る日々 ー20ー
立ち上る煙、脂の弾ける音、たき火に熱せられたマキナの魔法で作られた薄い石のプレートの上にウィンドドラゴンの肉が並べられていた。
それを取り囲むように座っているソラ達は束の間の休息をとっていた。
「んー、美味しい!!」
肉の味に恍惚として感じ入っているマキナの様子を横目に見ながらソラはフィルに話しかけていた。
「ごめんね、フィル。フィルの意見も聞かずに食事を始めちゃって、早く地上に戻りたかったんじゃない?」
「気にするな、ドラゴンの肉なんてそう食べれる物じゃない。急いではいたが私も食べてみたかったんだ」
いい塩梅に焼けた肉を口に入れるフィル。
「うん、美味い。ほら、ソラが一番頑張ってくれたんだ。食べてくれないと気が引けて私が食べにくい」
「わかった。まずは折角の食事を楽しまなくちゃね」
思い思いに食事を進めてある程度時間が経った頃、程よく腹が満たされてペースが落ち時折肉を口に運ぶといった具合になっていた。
「そういえばソラ、なんで全力出さなかったの?」
「なに、どういうことだ?」
「ちょっと体質の関係で簡単に全力を出せないんだ」
「でもさ、全力で ”流れ星” 使ってたら頭を吹き飛ばして終わりだったんじゃない?」
「う~ん、多分全力でやればそうだったと思うんだけど多分ここじゃ全力で戦えないかな」
「どうして?」
「ほら、階層にもよるけど迷宮内ってそこかしこで魔物が自然発生する位魔素が濃いでしょ、ドラゴンがいる位の深さのここだと特に」
「ああ、そっか」
ソラの事情を知っているマキナは納得したような様子であったが、事情を知らないフィルにとっては全く話についていけてなかった。
「すまない、それがどう影響するんだ? むしろ魔法や異能が使いやすくなると思うんだが」
「僕は魔素に体が拒否反応を起こすんだ。地上程度の濃さでもしばらくしたら体調不良を起こす」
「なに? だがこれまで共に行動してきてそんな様子は見当たらなかったが……」
「それで全力の話に繋がるんだ。異能の力の大半を魔素を防ぐ事に使っているからね、普段は全力を出せない代わりに調子も悪くならないってことさ」
「つまり地上よりもかなりの魔素が充満している迷宮内だとどうなるか分からないということか」
「そう、場合によっては即行動不能になる可能性もあったからね。全力を出すのは本当にどうしようもなくなった最後の手段にしたかったんだ」
「成程な」
「よし、じゃあそろそろ片付けて地上に戻ろうか」
フィルが納得したと判断したソラがその場を立ち上がり促す。途中から話に入っていなかったマキナも立ち上がるが後ろで小山の様になっているウィンドドラゴンの肉をじっと見つめている。
「ねえ、ソラ。この肉凄く美味しかったし持って帰りたいんだけど」
「ええ? そんなこと言ったって僕らじゃそんなに持ち運べないよ、ただでさえ他の素材も持っていくんだし」
「ん? 先程も疑問に思ったが二人共拡張袋を持っていないのか?」
「なにそれ?」
「空間拡張の魔法がかけられた袋だ。二人で迷宮に潜る位だから持っているかと思っていたんだが」
「全然知らなかった。それって皆持ってるの?」
「かなり値が張るからな。そこそこ深く潜れる奴しか持ってはいない。だから所持していない奴らは荷物運び用の人員もいるからそれなりの人数になるんだ」
「知らなかった。フィルが持ってたその袋もそうなの?」
「ああ、とはいえこの巨体だからな。私の袋に入れたとしても殆ど入らないぞ。入ってきた場所に放り捨てたままだったからな、一旦取りに行くか」
フィルが立ち上がり袋を取りに歩き出したので自分達も荷物を回収に行こうとソラとマキナが後ろを歩く。
程なくして荷物を見つけたフィルが落ちていた袋を拾い上げ、口を開いて中を見せる。
「ほら、これが拡張袋だ」
「へー、これがそうなんだ」
「んー? ねえ、ちょっと触ってみてもいいかな?」
「ああ、構わないが……」
首を傾げながら袋の内部をじっと見つめ、内部に手を入れたりと色々確認をしているソラ。
「なにがそんなに気になるの?」
「ん? んー、いや多分これ…… できるかな」
「できるって何が?」
「これと似たような事」
「は?」
ソラが落ちていた大きめの石を拾い上げる。暫しの間それを見つめていると突然石が砂粒程度のサイズまで小さくなった。
「できた」
「え、何それ。どうなってんの?」
「周囲の空間と一緒に圧縮してみた。後は戻したときに影響が出てなければ……」
砂粒程になっていた石が元のサイズに戻る。
「うん、圧縮した影響も無さそうだ。マキナちゃん、これでドラゴン全部持っていけるよ」
「本当? やった」
「異能で魔法を再現したのか。器用な事をするな」
喜ぶマキナと感心するフィルがドラゴンを回収しに向かい程なくして、ドラゴンの姿は影も形も無くなった。




