ー81ー 迷宮探索に耽る日々 ー15ー
閉じられている口から覗く長い牙。
しなやかに湾曲している長く太い尾。
今は畳まれているが、広げれば全身を覆い隠してしまうだろう翼。
翠色の鱗が煌めく西洋の話でよく見かけるドラゴンがそこにいた。
直前にあんな話をしていたからだろうか。噂をすれば影がさすとはこのことか。階層主がまさかのドラゴンだった。
「ねえ、フィル。あれって」
「ああ、ウィンドドラゴンだ。まさか遭難した先で見つかるとは思わなかった」
「どうする、やるの?」
「先程ウィズコングと戦闘はしたが手傷を負ったという訳でもない。此処に着くまでにある程度回復して消耗もそれ程でもない、またとない好機だ。今ここで仕掛けたい」
「すっごい魔力をビンビンに感じるんだけど。絶対一筋縄じゃいかないよ」
マキナちゃんの言う通り今までに見たどんな魔物よりも強そうに感じる。既にマキナちゃんは警戒態勢だ。フィルも目的が目の前にある以上何もせず引き返すことはしないだろう、僕も覚悟を決めないと。
「それにしてもまさか中がこうなっているなんて……」
「室内で戦うのも厄介ではあるけれど、好きなように飛び回られたら厄介なんてもんじゃないよ」
「階層主の部屋は主の力が十全に発揮できる形になっていると聞く。翼がある種族の部屋が屋外になっているのもおかしくはないか」
フィルの言う通り階層主の部屋に入ると、先程までいた階層のように空が広がっていた。後ろを確認すれば通り抜けてきた扉があるので撤退することは可能なようだ。
僕達が中に入ってきた時には気づいていたのであろうドラゴンが瞼を開き、縦長の瞳孔をした赤い瞳がこちらを捉えた。
鎌首をもたげ体を起こしたドラゴンは、寝そべっていた時からわかってはいたがかなりの大きさだ。高い位置からこちらを見下ろしたままじっと動かないドラゴンと睨みあいながら時が過ぎる。
「どうやって戦う?」
「マキナの魔法を主力にする。先程のウィズコングの時の魔法を見たところいくらドラゴンとはいえ通用するはずだ。その間ソラにはマキナを守っていて欲しい」
「フィルは?」
「飛ばれるのを防ぐため接近戦を仕掛ける。まともな傷は与えられないだろうが素手のソラよりはマシなはずだ」
ドラゴンから目をそらさずに会話を続けていると不意に大きく口を開いた。
「不味い!! ”竜の息吹” だ!!」
ドラゴンの口内から乱気流の塊が吐き出された。まるで小さな台風のようだ!!
フィルの位置が良くない。回避行動に移ってはいるがあれだと避けきれない!!
フィルを庇うように前に出る。
「 ”天の川” !!」
飛んできた ”竜の息吹” を上空に向かって逸らす。プチデビルの魔法なんかとは規模も威力も比べるべくもないがなんとか逸らしきることができた。内心ヒヤヒヤだったがやっぱりこの技は質量を持たない攻撃には無敵に近い。
「グルルルル……」
ドラゴンは今の一撃で仕留められなかったことに苛立たし気に喉を鳴らしている。上体を持ち上げ翼を大きく開くととてつもない咆哮で威嚇してきた。
「オオオオオオオオッ!!」
咄嗟に念動力で鼓膜を守る。あまりの声量に全身にビリビリと衝撃が走る。マキナちゃんとフィルは耳を抑えてうずくまっている。すぐには行動できそうにないので二人から離れながら、僕に意識を向けさせる為ドラゴンに向けて ”流れ星” を放つ。
「グアアアアアッ!!」
狙い通り僕に意識を向けさせることができた。 ”流れ星” はしっかり通用したようで直撃した箇所の鱗は砕け中から血が流れ出ている。とはいえドラゴンのサイズから考えると大した傷ではない。現に怯む様子も無く僕に向かって突進してきた。
その巨体からは考えられないような俊敏な動きで僕に向かってくるのを、横に大きく飛んで回避しようとするとドラゴンは直前で急停止し体を横に回転させた。
ドラゴンの長い尾が大きくしなりながら鞭のように振るわれる。咄嗟に地を蹴り迫ってくる尾を後方宙返りで避ける。
背中を向けているドラゴンが僕を見失っている隙に後ろ足を連続で殴りつけ衝撃を爆発させる。
「グオアアアアッ!!」
内部から破壊される感覚に悲鳴混じりの咆哮を上げながら後ろ足でストンピングしてくる。踏み付けを回避しながら攻撃した箇所を見ると指があらぬ方向に折れ曲がっている。流石はドラゴンというべきかぐちゃぐちゃになってまともに使えなくなったワイルドベアと違いしっかり形を保っている。とはいえ僕でもしっかりダメージを与えられた。さらに衝撃を蓄積させればもっと大きくダメージを与えられるだろう。
再度隙を窺って攻撃しようと狙っていると翼を大きくはためかせ風を巻き起こした。咄嗟に ”天の川” を使い損ね吹き飛ばされる。空中で態勢を整え地面に轍を残しながら着地する。
僕が距離を取らされている間にドラゴンは今まさに飛び立とうとしていた。




