ー80ー 迷宮探索に耽る日々 ー14ー
「ここは……?」
石造りの壁や床。フィルが剣を振り回しても全く問題ないくらいの広い廊下。天井付近の壁には壁に掛けられている燭台があり、炎を揺らめかせて廊下を照らしていた。そんな光景がずっと先まで続いており、途中にいくつか横に進める道もあった。
「見た目は迷宮内でよく見るものの一つだな」
「そうなの? 私達洞窟みたいなところしか知らないんだけど」
「随分序盤の階層に居たんだな。ある程度進むとこんな感じの階層も出てくる」
「フィルはここがどの辺の階層か分かる?」
「いや、合間合間に割と見かける内装だから今のままでは分からないな。とりあえず進んでみるとしよう」
広い廊下を進んで行く。こうやって道がある分、前の階層みたいに上層への道を探していつまでも彷徨い続けるといったことは無さそうだ。
「そういえばフィルはなんで迷宮に潜ってるの?」
同じ景色ばかりで飽きてきたのかマキナちゃんがフィルに話しかけている。さっきまで階層の出口を探して切羽詰まってたからそういった話はしてなかった。現状も助かったとは言えないけれど先程の階層を脱出できたことで気が抜けたのかもしれない。
「良質な風属性の魔核が欲しかったんだ。この迷宮に出てくるというウィンドドラゴンからそれを手に入れたくてな」
「え、でもフィル一人でしょ? 流石に無謀じゃない?」
「私もそこまで馬鹿じゃない、一人で挑むつもりはなかったさ。組合で共に戦ってくれる者を探している途中だったんだ」
「そんな簡単に見つかるかなあ。私は見た事ないけどドラゴンってかなり強いんでしょ?」
「ああ、仲間探しがかなり難航していてな。どいつもこいつもそこそこの階層で稼いで贅沢に暮らすだけでいい、危険を冒すのは嫌だという奴ばかりだ。深くまで潜って迷宮を攻略しているチームもいたがそういう奴らは新入りを入れてバランスを崩すのを嫌がるから無理だった」
成程なあ、フィルは僕達と違って迷宮に目的を持ってやって来たみたいだった。
「そういう二人はどうなんだ? 何が目的でこの迷宮に来たんだ?」
「いや、僕達はそういう目的とか無くて……」
「せっかく旅して近くに来たんだからって、観光気分で潜ってたんだ」
「それなのにあんな階層に迷い込んでしまうなんて災難だったな」
「まあ…… 私が原因だし」
「だが目的が無いなら都合がいいな。さっきも言った通り私の目的はウィンドドラゴンの魔核なんだ、手伝って貰えないか? 他の素材に関しては全て二人の好きにしてくれていい」
「手伝うのは別にいいけど…… ウィンドドラゴンか、僕達で勝てるかな?」
「あまり良く知らないからなんとも言えないや」
「歯が立ちそうになかったら逃げるよ?」
「ああ、それでいい。私も勝算が無いなら撤退してもう一度準備を整える」
ドラゴンがどれくらい強いかもわからないし勝てそうになかったら戦ったところでただの犬死だからね。フィルには悪いけどその場合は皆で一時撤退だ。
「フィルは魔核が目的だったんだしある程度調べてきてるの?」
「できる限りは調べた。とはいえそこまで一般に知れ渡っていること以外が分かったわけでもないが」
「というと?」
「とにかく強いということだな。幼竜ならともかく成竜以上となると特殊な武器や技が無いと攻撃が通用しないらしい。魔法に関しては練度によって変わるようだが通常の魔物に比べれば通りが悪いようだ。力も当然尋常じゃないし魔法も使う」
「弱点は?」
「逆鱗とは別に体のどこかに一枚だけ弱点の鱗があるらしい。竜によって生えている場所は違うようだが、それを砕かれるとどんな竜でもショック死するらしい」
「見つけ方とかはないの?」
「わからん。ただ昔高名な魔法使いがその鱗を見抜いて魔法で破壊したことで竜を討伐したという逸話を見た事がある」
結局見てみないことにはなんとも言えないな。この世界に来てからかなり強くなったつもりだけどドラゴンなんてものによっては気軽に天変地異を起こすようなのもいるからなあ。
フィルの頼みを聞きながら進み続けていたが、その間に一度も魔物が姿を現さなかった。
先頭を歩いていたフィルが立ち止まる。その前には大きな扉が閉じられていた。
「なに? この扉」
「これは一定の階層毎に存在する階層主の部屋への扉だ!! 運が良かった。階層主を倒せれば地上に戻れるぞ」
「問題はどれだけ強いかだね」
「どの魔物かわかれば現在位置も分かる。確かめるぞ」
フィルが扉を慎重に開く。その先には翠色に光る鱗をしたドラゴンがゆったりと寝そべり目を閉じていた。




