ー76ー 迷宮探索に耽る日々 ー10ー
僕が相手をしていた三体を始末した時にはマキナちゃんは既に戦闘を終えていた。マキナちゃんが先程まで戦っていた場所には氷の魔法で蜂の巣にされた個体や、地面から突き出た鋭い槍に貫かれてモズのはやにえのようになっている個体、頭と胴体が泣き別れしている個体が散らばっていた。
そんな惨状を作り出したマキナちゃんはというと、先程からずっと何かを見つめている。マキナちゃんの視線の先には最後の一体を見上げ、剣を構えているフィルがいた。
「どんな感じ?」
「やっぱりここで生き残ってただけあってかなり強いよ。私が見たのは途中からだけど全く危なげなく戦ってる」
僕もマキナちゃんと一緒に観戦する。フィルが戦っている周囲には既に事切れた二体がいた。一体は頭から一刀両断されていて、もう一体は全身がズタズタに切り裂かれている。
「キキィッ!!」
「逃がすかっ!!」
フィルから逃れようと枝葉の陰に隠れて次々に樹に飛び移り逃走していたエビルエイプだが、フィルが眼前に暴風を巻き起こし逃走を妨害する。
「キャッ!?」
「しっ!!」
その風の強さに思わず足を止めるエビルエイプを追ってフィルが爆発的な勢いで飛び出した。風の魔法を使った高速移動で瞬く間に接近したフィルが、鋭く息を吐き勢いそのままにエビルエイプを逆袈裟に切り上げた。右腰から左肩までを大きく切り裂かれ地面に落下するエビルエイプ。
「ギィッ」
地面に叩きつけられ弱弱しい悲鳴を上げるエビルエイプ。切り裂かれた時点で致命傷だったのだろう、その場で体を動かすもどうしようもできずやがて息絶えた。
「ふぅ」
「お疲れ~」
「怪我は無さそうだね」
全て仕留めて一息つくフィルに近づいてマキナちゃんが緩く労りの言葉を掛けている。僕は最後の一体との戦闘しか見ていなかったが、どうやら怪我もなさそうだ。
「ああ、二人共もう終わっていたんだな」
「フィルも余裕だったじゃん」
「そうでもない、平地ならともかく森の中という相手のホームだと少し手古摺ってしまった」
「休憩は必要かな?」
「特に消耗もしていない、このまま進もう」
フィルも休憩が必要無いようなのでそのままエビルエイプ達がやって来た方向に進んで行く。
エビルエイプ達と最初に遭遇した後も何度か散発的に襲ってきたが、最初程の数では無く一度の襲撃が三体だけだったので大した苦労もせず奥にまで進んで来れた。そうした僕達の眼前には先程まで影も形も無かった物があった。
「これは……」
「はぇ~おっきい」
「凄いな……」
天を貫かんばかりにそびえ立つ巨大な樹。見上げても頂点が全く見えずどこまで伸びているのか全く分からない。その高さに比例するように幹も太く、どれくらいの太さなのか感知しきれない。
「これ程巨大な樹にこの距離に来るまで全く気付かないとは……」
「この森が見えなかったのもこの樹が原因でしょ。ソラは気づけなかったの?」
「全然、森にかかっているのより強い幻術がかかっているみたい。というかなんか下の階層に繋がっていた穴と似た感じがする。あっちが空間の捻じれでわからなかったのに対して、こっちは空間を隠されてわからなかったみたいな」
以前の穴と同じだ、一度認識したからか今後は感知することができそうだ。
「穴? 一体何のことだ?」
「森に来るまでの道中で下の階層に繋がっている穴を見つけたんだ」
「ねえ!! それよりさ、あの穴と同じ感じがしたってことは……」
「うん、もしかしたら上の階層に繋がってるかもしれない」
「私はその穴を知らないのでよくわからないが、期待が持てるということか」
以前の穴と似てるということから遂に上の階層への道を見つけたかもしれないと話す僕達の様子から、あまり事情を把握できていないフィルも期待している。
期待に胸を膨らませながら大木へと近づく僕達に何かが大量に飛来してくる。
「危ないっ!!」
咄嗟に避けて状況を確認すると先程見たのと似たような枝が地面に突き刺さっている。少し違うのは先程とは軒並み太さが違うということだ。
そうして警戒していると感知しきれない上空から大木を伝って巨大なナニカが下りてきた。その巨体に似合わず僕達の前に軽やかに着地する。
見た目は先程から襲ってきたエビルエイプに似ているが、全体的にかなりでかい。単純に巨大化したという感じじゃなく、筋肉が大きく発達していて猿というよりゴリラに近い。エビルエイプの変異個体ではなく似ている別種のようだ。
先程飛んできた枝もコイツが飛ばしてきたようだ。どこからともなく現れた枝を両手で掴み、僕達に向かって大きく威嚇してきた。




