ー73ー 迷宮探索に耽る日々 ー7ー
たき火が火花を散らして燃え盛っている。
男はその場で休憩していたのか、倒れた木に腰掛けていた。両肘を膝に置き、頭は俯き気味でその姿からは疲労感が漂っていた。
僕達が近づく際に出た音に反応したのか、頭を上げこちらに振り返る。僕達を視認した瞬間、まるで一筋の希望を見つけたかのように顔を輝かせて駆け寄ってくる。
なんかこの反応はあまりいい予感がしないぞ。
「ああ!! 遂に人を見つけた。お願いだ、上に行く道を教えてくれないか?」
この言葉に僕達の当てが外れたことを悟った。
「ごめんなさい。僕達も現状遭難中でして」
「そんな…… まだここから出られないのか」
「貴方も遭難中のようですがどれくらいこの階層に?」
「ああ。もうかれこれ十日以上は彷徨っている。幸い食料にできる魔物がいたおかげで飢えてはいない、肉ばかりで栄養は偏っているけど」
「ずっとこの森に?」
「いや、少し前にこの森に迷い込んだんだ。草原を歩いていたはずなんだけど気が付いたらこの森にいた」
「成程、それならこの森についてはまだ探索してないんですね。もしかしたらここに上への手がかりがあるかもしれない」
「そうか、そうだな」
彼は力なく元いた木の上に座り込む。容姿が整っている分、森の中で途方に暮れる様子が一枚の絵画のようだ。
「ねえ」
「ん?」
「私はマキナ。貴方の名前は?」
僕らが話している間黙り込んでいたマキナちゃんが名前を聞いている。そういえばまだ自己紹介もしていなかった。
「私としたことが名を名乗る事を忘れていたとは、私の事はフィルと呼んで欲しい」
「僕はソラと言います。僕達も上の階層への道を探しているんですがもしよかったら一緒に行動しませんか?」
「本当かい? 是非とも頼むよ」
「休憩中のようでしたしもう少し休んだら探索に行きますか?」
「すぐに行こう。そこまで疲れているという訳でもないし。それよりもっと砕けた話し方にしてくれないか」
「え? でも」
「お願いだ、共に上を目指す仲間なんだ。そのような話し方だと距離を取られているようで少し寂しい」
照れくさそうにそっぽを向きながら控えめに言う様子に、見た目からは想像できない子犬のような印象を受けた。
「まあ、そう言うのであれば」
「私達はちょっと理由があって遭難しているんだけど、フィルはなんで道に迷ってるの? 降りてきたなら階段の場所も分かるはずでしょ?」
「それが階段を下りてこの階層に来た訳ではないんだ」
「というと?」
「四階層を探索してる時に威力の高い魔法を使ったら壁が壊れてしまってね。謎の力で壁の穴に吸い込まれたと思ったらこの階層にいたんだ」
どうやら僕達と似たような事が起きてここに流れ着いたらしい。
「それにしても妙なのは他の階層でも同じ位の魔法を使った時は壁が壊れなかったんだ。特に壁が脆くなってる様子もなかったし、そもそも迷宮の壁は破壊できないと聞いたことがある。何故あの時だけ壊れたのか…… もしかしたら同じタイミングで起きた変な揺れのせいかもしれない」
「変な揺れ?」
「魔法を放つ数瞬前に壁に衝撃が走って少し階層が揺れたんだ。感覚的には上方が衝撃の発生源だと思う」
「え゛」
マキナちゃんが変な声を出した。おそらく思い当たることがあったんだろう。四階層の上、つまり三階層が衝撃の発生源。それに壁が壊れたことに関係するような出来事といえばマキナちゃんの魔法だ。必ずしもフィルが壁に吸い込まれた原因とは言い切れないが可能性としては考えられる。
マキナちゃんも同じように考えたのかばつが悪そうにしている。そんな僕達の様子に不審に思ったのかフィルが怪訝そうにしている。
「なんだ? どうした二人共」
「いや、その」
「ごめん、フィル。フィルが遭難したの私のせいだ」
「どういうことだ?」
「私、三階層で変な壁を調べている時に苛立ち混じりに魔法を使って壁を壊したの。その影響でフィルのいたところも壁が壊れたんだと思う」
「ふむ」
マキナちゃんが正直に打ち明けた内容にフィルが考え込む。フィルは巻き込まれただけなのだから怒られても仕方がない。
時間にして数秒も経たないうちにフィルが口を開いた。
「気にするな!!」
「え?」
申し訳なさそうにしているマキナちゃんに向かって眩い笑顔で笑い飛ばす。思っていた反応と違って唖然とするマキナちゃん。僕も正直怒られても仕方がないと思ってた。というかさっきまでと口調が違う。
「あくまで可能性の話で確定ではないんだ。それにわざとという訳でもない、そう不安そうにしなくても怒ったりしないさ」
「ありがとう」
控えめに笑ったマキナちゃんを見て、ほっと一息ついたフィルが立ち上がる。
「さあ、行こうか。ここで立ち止まってても仕方ない。上の階層目指して進むとしよう」
上の階層への手がかりはまだ見つかっていないが共に行動する仲間が増えた、気張って探索しよう。




