ー53ー 鎮火
全力を出せば空を飛べるとわかったのはチェイサーウルフと戦った時だ。あの時はレン君達にリソースを使っていたので、戦闘中に飛行はできなかったが感覚で理解できた。
位階が上がって以降、全力を出した事は数える位しかないがその時はおそらく飛べなかった。力の総量自体は変わっていないはずだが、普段から使い続けていたことで習熟度が上がったのかそれとも別の理由かはわからないが今の僕なら飛べるとわかる。
「時間がかかるのは距離があるからなんだろう? 僕がマキナちゃんを上空に連れて行ったらどうだい?」
「それなら多分、間に合うかも」
「ならここで問答しているより行動したほうがいい。時間が勿体ない」
今こうして話している間にも火が広がり続けている。行動するなら早い方がいい。
マキナちゃんも覚悟が決まったのか強い目で僕を見つめてくる。
「わかった。ソラ、お願い」
「うん、行くよ」
バリアを解除しながらマキナちゃんを抱えて全力で飛び上がる。普段と同じように物を動かす要領で自分の体を操作する。
マキナちゃんは僕に抱えられながら魔力を溜め始めている。人形も展開して本気の態勢だ。ただ普段と魔力の感じ方が違う。もしかしたらこれが精霊魔法の魔力なのかも。今までは通常の魔法で事足りていたのでマキナちゃんが精霊魔法を使うのを見たことがない。今回の事が落ち着いたら聞いてみよう。
「ソラ、もうこの辺でいいよ」
「わかった」
マキナちゃんがもう充分だというのでその高度を維持して滞空する。
「お願い皆、力を貸して」
マキナちゃんが何かに呼びかけるようにして人形を経由して魔力を周囲に拡散していく。やはり普段マキナちゃんが魔法を使うときに感じる魔力と、人形から流れていく魔力は別に感じる。上手く表せないが、この世界に漂っている魔素に限りなく近い魔力といったように感じる。精霊というだけあって自然に近しいものなのかもしれない。
さて、別の事に意識を逸らして考えないようにしていたが、バリアを解除している以上やっぱりしんどい。あまり時間がかかると消火が間に合わない以前に、僕が保たないかもしれない。
マキナちゃんが拡散した魔力を呼び水に段々と周囲から精霊らしき魔力が集まってきた。この街を覆いつくすように精霊を集めているのだろう。ただこのペースだとちょっと消火に間に合わないかもしれない。僕は今は滞空しているだけで少し力には余裕があるので何か手伝えないか試してみよう。
マキナちゃんが雨を降らすまでの時間をなるべく短くできるように、普段空気中の水分から水を得るのと同じ要領で周囲から雲を引き寄せる。
「うぐぐぐぐぐ」
「ソラ!?」
余裕があると思っていたが、飛行しながら広範囲から雲を動かすのはかなり骨が折れる。思わず唸り声が出てしまう。僕がやっていることに気づいたのかマキナちゃんが驚きの声を上げる。
「大丈夫、僕の事は気にしないでいいからマキナちゃんも頑張って」
「うん!」
雲がこの近辺に集まってきたからか、精霊らしきものが集まってくる速度も上がった気がする。この分だと間に合いそうだと安心するのも束の間、鼻血が出てきた。僕の体も限界が近いみたいだ。嫌だな、今日だけで随分鼻血を出した気がする。
「よし、準備できた!! ソラ、もういいよ」
マキナちゃんがもう大丈夫だというので雲を集めるのをやめる。
「お願い皆、『癒しの雨よ!!』」
マキナちゃんの合図とともに雨が降り始める。そこまで強い勢いの雨ではないのに、燃え盛っていた炎が不思議と消えていく。雨の魔力に精霊の力を感じる以上、普通の雨ではないのだろう。
また、雨に打たれたことで人々の混乱が治まっていく。『癒しの雨』というだけあって鎮静の効果もあるのかもしれない。
とにかく、街全体の火が消えたのを確認したので、バリアを戻して降りていく。どうやらレン君達の家に被害が出る前に食い止められたみたいだ。
何だ? 降りていく際中に敵意を感じそちらに振り向く。街の端の方で僕達を睨みつけ敵意を隠そうともしないローブを着た男を発見する。
魔物の生息地域にそぐわない変異個体の急な出現といい、放火にしか思えない今回の火災といい嫌な感じがする。マキナちゃんにも伝えてその男を確認してもらう。
僕達が見ていることに気づいたのか男は陰に隠れるように消えていった。
「何? あいつ」
「わからない。でも火災を食い止めた僕達にあからさまに敵意を向けてたし怪しいな。立て続けに妙なことが起きてるし関係してるのかもしれない。あっ、逃げられた」
念のため感知していたが、僕の感知範囲外に出てしまったので足取りを追いきれなかった。とはいえ消耗した今の状態で追いかけるのは得策とは思えない。今日はこのまま休んでまた後日探ってみよう。
「またしばらく油断できないね」
「うん、回復したら少し探ってみる。マキナちゃんも警戒お願い」
怪しい男はいたがとりあえず火事を食い止められて良かったと安堵しながらレン君達の元に降り立った。




