ー41ー チェイサーウルフー1ー
ソラと別れて私達を追ってきていた魔物に向かって疾走する。別れてからほんの少しの時間で相手が視界に入る距離にまで接近した。
鈍く光る銀色の体毛
鋭くとがった凶悪な牙
人間なんて簡単に引き裂けそうな爪
血に濡れたような赤い瞳
直接見たことはないけど依然聞いたことがあるチェイサーウルフの特徴と一致している。以前戦ったワイルドベアの変異個体と同様サイズもかなり大きい。通常の個体の数倍はある。
ただ戦闘をしていたような形跡がない。ソラが言っていたようにレン達を襲っていたのとは別の個体のようだ。
「なんで生息地域でもないのに変異個体が二体も……!!」
おかしい。この辺によくいるハイドッグやラッシュカウなどの変異個体ならまだわかる。生息地域がまるで違うチェイサーウルフの変異個体が出現するなんて、それも二体同時なんて普通じゃない。
「ッッ!!」
真っ向から向き合っていた私の背後に瞬時に回り込み、そのまま嚙み殺そうとしてくる。咄嗟に体を投げ出し回避する。回避しながら牽制で魔法を放って追い打ちを防ぐ。
速い。単純な速度なら私より上だ。近接戦闘なら仕留めるのに手古摺りそうだ。
「とは言っても私にはあまり関係ないけど」
そもそも私の戦い方は接近戦がメインじゃない。接近戦ができないのは話にならないってことで森である程度は仕込まれたけど、私が得意なのは魔法を使った中・遠距離戦。わざわざコイツの土俵に上がることなんてない。
ワイルドベアの時は持ってこないなんてヘマをして、森を出てからは使うまでも無くて今まで出番が無かったけど今回はしっかり持ってきてある。
足に括り付けていた人形に魔力糸を繋げて浮かび上がらせる。
「さて、コイツらがこんなところに出てきた理由を考えるのは後にして、さっさと仕留めてソラを追いかけなきゃ」
私が出した人形を見て警戒していたチェイサーウルフが再度襲い掛かってくる。
「遅い!!」
「ギャン!?」
チェイサーウルフの鼻先に風を収束させて一気に爆発させる。
爆発の衝撃で弾き飛ばされたチェイサーウルフが態勢を整えてこちらを睨み付けてくる。
人形を出した以上、先程の私とは魔法の速度も威力も段違いだ。
「悪いけど、このまま近寄らせないで遠距離から削り殺す」
早くレン達のところに行かないと…… お前と遊んでる時間は無い!!
何度も襲い掛かってこようとするが、その度に風の魔法で阻害する。動きの出だしを邪魔されて怯んだところを土の魔法で攻撃する。
相手も咄嗟に避けようとはするが、全てを避けられてるわけじゃない。土の魔法で地面から大量の槍を打ち出して攻撃する。避けきれなかった攻撃があいつの足に何本も刺さっている。このまま機動力を削いで動きが鈍ったら高火力の魔法で仕留めきる。
「ウォォォン!!」
チェイサーウルフが咆哮する。
このままでは不味いと思ったのか、高密度の魔力を伴った音を指向性を持たせて叩きつけてくる。
「無駄だよ」
風の防壁で音を散らす。
順調に弱ってきている。このまま何もさせずに倒しきる。もう一戦する必要があるんだ、無駄なダメージは負いたくない。もっと弱らせる為に私は再度魔法を発動した。
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レン君達の元に向かってひた走る。
風の抵抗を無くし、踏み込んだ時の力のロスも異能で全て進む力に変える。身体能力そのものも強化して、先程よりも速く走り続ける。
感知したところ大半の反応が弱弱しくなっていた。死んでいないにしてもこの感じだと無事ではないだろう。おそらくチェイサーウルフだろう反応に抵抗している人数もそこまでいなかった。殆どが戦闘不能になっているとみていい。
直接見ていないから魔物の強さははっきりとはわからないが、反応の大きさを考えると一対一ならともかく、他の人を守りながら戦うのはかなり厳しい。
最悪マキナちゃんが追いついて来るまで耐え忍ぶしかないだろう。僕が到着したときにどれだけ動ける人がいるかで変わってきそうだ。
見えてきた! レン君とリンちゃんも無事だ。他には《民衆の盾》が先頭に立って戦っている。周囲には他の護衛依頼を受けた人達が倒れていた。大小の差はあれど皆一様に怪我をしている。放っておくと死んでしまいそうな人も何人かいる。
不味い!! 先頭の一人が弾き飛ばされた!! あの勢いだと復帰できないかもしれない。
チェイサーウルフが勢いそのままにリンちゃんに迫る。避けようとしていたリンちゃんだが疲れからか体勢を崩した。鋭い爪がリンちゃんに振り下ろされる。
駄目だ!! 間に合わない!!
リンちゃんに爪が当たる直前、レン君が庇いその身を大きく切り裂かれた。




