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そして。12月も下旬に差し掛かり。
今日は毎月の大切な行事、月命日のお参り。
今年最後だからいつも以上に、一真のお墓を念入りに掃除して……
お線香と花を供えると、バックから一真の吸っていた煙草を取り出した。
トトン、と。
逆さにしたその箱を親柱に打ち付けて、一緒に供えると。
途端、涙が溢れ出す。
ひたすら涙を流しては……
一真を求めて、一真を悼んで、一真に愛をぶつける。
そして後悔の思いで張り裂けそうな胸を抱えながら、ただ茫然と墓碑を眺めた。
どれくらい経っただろうか……
「憧子ちゃん、いつもありがとうね」
毎回その声で呼び戻される。
「……お義母さん」
いつからかそう呼ばせてもらってる、一真のお母さんに場所を譲ると。
その人は新しいお線香を供えて、お墓に手を合わせた。
「寒かったでしょう?
さぁ、うちで一緒にお寿司を食べましょう」
お参りの後は、お仏壇に供えられた一真の大好物のお寿司を、竹宮家で頂く。
お義父さんは仕事でいない時が多く、いつもお義母さんと2人で食べる事が多い。
当たり前のように、そんな毎月を繰り返してたけど……
それは突然に。
「……ねぇ、憧子ちゃん?
あれから3年が経って、今年も終わる事だし……」
嫌な予感がした。
「月命日のお参りは、今回で最後にしましょう?」
瞬間、勢い余って立ち上がる。
「なんでですかっ!なんで急にっ……
っ、母に何か言われたんですねっ!?」
すぐにそう閃いた。
「っ、落ち着いて憧子ちゃん。
違うのよっ?
私がね?お母さんの心配する気持ちがわかるからっ」
「その心配が私を追い詰めてるんですっ!」
「わかってるわっ、わかってるから落ち着きましょう?」
そう肩をさすられて。
我に返った私は、深呼吸をして気持ちを抑えた。
「本当はね?
今日憧子ちゃんがここに来たら連絡をするよう、お母さんに頼まれてたの。
でもね?
憧子ちゃんが先月よりいい雰囲気だったから、そっとしておいた方がいい気がして、連絡しなかったの」
いい雰囲気……
私が?
「お墓参りには来てたみたいだけど、すれ違いだったって伝えておくわね?」
「……ありがとう、ございます」
「でもね、憧子ちゃん。
お母さんはちゃんとあなたの気持ちを考えてるのよ?
本当は先月の月命日に、ここに来るつもりだったみたいなの。
だけど手紙をもらったから、とりあえず見守る事にしたそうよ?」
手紙、ちゃんと伝わってたんだ……
「ただ、悪いと思ってるなら話くらいしてくれてもって、電話をかけ続けてたらしいんだけど。
出てくれないし、家出があまりにも長いからって、今回頼まれる事になったのよ」
そうだったんだ……
でも私はそっとしといて欲しかった。
しかも1か月半であまりにも長いなんて、まだ当分帰る気すらないのに。
「誰もね?あなたを追い詰めたい訳じゃないの。
ただ、前を向かせてあげたいだけなのよ」
「前って……
私は前なんて向けませんっ……
向くつもりなんてありませんっ!」
「でも。
どこかで前を向かないと、一生立ち止まってる訳にはいかないでしょう?
私だって。
あなたがいつまでも、息子のせいで苦しんでる姿を見るのは……辛いわ」
「でも私はっ、一生一真の所にいます……
いたいんです!
お願いしますっ、これからもここに来させて下さいっ!」
必死の思いに、涙が零れる。
「……っ、とにかく。
まずはお正月にでも、お母さんと話してみてね?」
その拒絶は柔らかで……
なのにこの上なく、心を抉った。
ねぇどうしてダメなのっ?
どうしてわかってくれないの!?
どうしよう、どうしようっ……
どうやってその場を後にしたのか。
車の中で泣き崩れて、いつからかまた途方に暮れた。
ハッと我に返ると、時刻はとっくに23時を回ってて。
慌てて帰路についたものの……
帰宅した部屋に、今月忙しい響の姿はまだなくて。
ほっとしたのも束の間。
すぐに、ただいまの声が聞こえた。
「あ、おかえり……
ごめん、まだ夕食、作ってなくて……」
未だ収まりつかない心情と、申し訳ない状況に、戸惑いながら応えると。
泣き腫らした目のせいか、そっと温もりに包まれる。
「全然いいよ?
じゃあなんか買って来るから、何がいい?」
私の髪を優しく撫でて、囁く響。
心がほろっと弛んで、寄りかかる。




